バリアフリー住宅の間取りや補助金・助成金、トイレ、浴室、玄関など場所別のポイントを紹介

最終更新日 2025年06月18日
バリアフリー住宅の間取りや補助金・助成金、トイレ、浴室、玄関など場所別のポイントを紹介

高齢者や障がいのある人が生活しやすいバリアフリー住宅。近年は幼児や妊婦など誰にとっても暮らしやすいユニバーサルデザイン住宅にするために、家を建てるときにはバリアフリーにしたいと考える人も多いようです。今回は、バリアフリー住宅を建てるときに、玄関やトイレ、浴室などについて押さえておくべきポイントを車椅子の建築士である阿部建設の阿部一雄さんに伺いました。バリアフリー住宅を建てるときに使える補助金や助成金も、あわせて紹介します。

バリアフリー住宅の定義とは?

建築基準法などの法律による「バリアフリー住宅」の明確な定義はありません。一般的には高齢者や障がいのある人などが暮らすうえで支障となる、段差などの「バリアー(=障壁)」をできるだけ取り除き、生活しやすいような設備やシステムを整えた住宅を指します。

「私たちは、バリアフリー住宅を『家族みんなが安心して暮らせる場所』と考えています。これまでのバリアフリー住宅は、高齢者や障がいのある人にとっての暮らしやすさを追求するものでした。しかしそれでは一緒に暮らす家族に潜在的な不満が生じる恐れがあります。

これからのバリアフリー住宅は、家族みんなの幸せや快適さをも同時にかなえるものであるべきで、その先にあるのがユニバーサルデザイン住宅であると考えます」(阿部さん/以下同)

車椅子の高齢者を押す少年
バリアフリー住宅は「家族みんなが安心して暮らせる場所」(画像/PIXTA)

[玄関]快適なバリアフリー住宅にするポイント

高齢者や障がいのある人だけでなく、一緒に暮らす家族みんなの快適性も実現するために、部屋別にできる工夫を紹介していきます。

なお将来に備えてバリアフリー住宅を計画するときには、車椅子での生活を想定して進めます。車椅子の幅は手動のもので63cm以下、電動タイプで70cm以下とされているため、こちらを念頭に置いておきましょう。

玄関扉は引き戸にする

「玄関扉は、車椅子でも開きやすく出入りが容易な引き戸が望ましいでしょう。すでに手の力が弱い、あるいは不自由な人がいる場合はリモコンキーなどで自動開閉するものを選ぶのがおすすめです」

上がり框(かまち)は低くし手すりと椅子を設置する

「上がり框(かまち)はフラットまたは高齢者や障がいのある人の状態にあわせて高さを調整します。手すりを設置するのにあわせ、靴を脱いだり履いたりするときに腰掛けられる椅子も用意しましょう。椅子はフラフラしないよう、しっかりと固定させます。

なお、すでに車椅子を利用している人がいる場合は、通常の玄関と車椅子用の玄関を別々で設けるのも方法の一つです。上がり框はある程度の高さがあったほうが、ほかの家族には使いやすいためです」

照明や収納の工夫

「玄関の照明は人感センサーにしておくと、電気をつけるという動作がなくなり便利です。また車椅子を快適に使うためには、玄関に靴が散乱しないように十分な収納を設けるなどの工夫も必要です」

[トイレ]快適なバリアフリー住宅にするポイント

トイレの扉とトイレ本体は平行になるようにする

「トイレの扉は、便器に横からアプローチできるようにしましょう。トイレの正面に扉があると、使う人は体を180度回転させなければいけませんが、トイレに横からアプローチできればその必要がありません」

便器の横に扉があるトイレと正面に扉があるトイレ
扉の位置によってトイレの使い勝手は大きく異なる(イラスト/村林タカノブ)

トイレの広さは間取りとあわせて検討する

トイレには手すりを設け、さらに介助者が一緒に入れる広さ(幅120cm以上×奥行き160cm以上)にすることが望ましいとされています。

「とはいえ広くするにはそれだけ面積が必要で、コストがかかってしまいます。そのため引き戸を大きく開けるように設計し、前の廊下を活用するのも方法の一つです。

足の不自由な人が転倒したときには、むしろ狭いほうが壁で体を支えられるため、床で頭を打つ心配を減らせます。設計で工夫できるのであれば、必ずしも広いトイレ空間の確保が必要と考えなくてもよいでしょう」

照明は点灯時間を長くする

「トイレの照明も操作にかかる動作を減らし、不安定な姿勢になるのを防ぐために、人感センサータイプをおすすめします。トイレを使っている間に照明が落ちてしまうことがないように、点灯する時間を長く設定しておくとよいでしょう」

[浴室]快適なバリアフリー住宅にするポイント

浴槽の底と洗い場の高さをできるだけ近づける

浴槽の深さは、対象者の状態にあわせて設定します。もし現時点で対象者がおらず、老後に備えておきたい場合には、40cm程度にしておくのが一般的です。

「むしろ注意すべきなのは、浴槽と洗い場の段差です。浴槽と洗い場の段差が高いと、またぐ動作が大きくなりバランスをとるのが難しくなります。手すりを取り付けるのはもちろん、浴槽の底と洗い場の高さをできるだけ近づけましょう」

浴槽と洗い場の段差による使い勝手の違い
浴槽の深さだけでなく、洗い場との段差のバランスにも注意が必要(イラスト/村林タカノブ)

滑りにくく割れにくい素材を選ぶ

転倒を防ぐために、浴室の床は滑りにくい素材を選びます。扉についても、引き戸にしたうえで転倒してぶつかったときでも割れにくい素材にしておくと安心です。

その他の工夫

「浴室の広さについても、トイレと同様に介助者が一緒に入れる広さにできるのであれば、そのほうが望ましいでしょう。またバリアフリー目的ではありませんが、ヒートショックを予防するために、断熱や空調設備を備えておくことをおすすめします」

[洗面所]快適なバリアフリー住宅にするポイント

洗面所は車椅子用と立って使う用を分けると便利

車椅子での利用を想定するなら、足元に空間が設けられ、高さが低く設定された専用の洗面台を選びましょう。

「ただし車椅子にあわせて洗面台の高さを決めると、立って使う家族が使いづらくなってしまいます。そのため余裕があるなら、車椅子用と立って使う用を並べて設置する、1階は車椅子用、2階は立って使う用の洗面所にするなど、分けることを検討しましょう。

1カ所しか設けられない場合は、家族も椅子に座って使うようにする、手動で高さを調整できる洗面台を設置するなど工夫するとよいでしょう」

洗面スペースは広く、ボウルは大きめのものを選ぶ

車椅子を想定する場合、洗面台の横幅は75cm以上のもので、車椅子でアプローチしやすいように側面が斜めにカットされているものや、シンク下に足が入るものを選ぶとよいでしょう。

「洗面所では介助機器を外して置くことも多いので、広い洗面台を据える、もしくは台などを置ける広さを確保したいところです。また介助機器を洗うために、洗面ボウルは大きめのものを選びます。ただし洗面ボウルが深すぎると使いにくくなる点には注意が必要です。基本的には車椅子用の洗面台を選べば、初めからそういった配慮がなされています」

車椅子で使いやすい洗面台
洗面台の下がオープンになり、さらに側面が斜めにカットされていると使いやすい(イラスト/村林タカノブ)

[リビング・ダイニング]快適なバリアフリー住宅にするポイント

高さを調整できるテーブルを選ぶ

家族が集まって過ごす時間が長いリビングやダイニングでは、身体の状態にあわせて高さを調整できるテーブルを選ぶのがおすすめです。家族の誰もが快適に使えるような、人数や広さに応じて組み合わせたり移動したりできるタイプもあるので検討しましょう。

リビング・ダイニングに限った床暖房よりも全館空調を検討する

「リビング・ダイニングは床暖房を入れることが多いのですが、廊下やトイレに行ったときの急激な温度差によるヒートショックが心配です。そのため局所的な床暖房ではなく、1階全室の床暖房や、全館空調(家中の空調を一括で管理し一定に保つシステム)の導入を検討しましょう。

その際は、あわせて家全体の断熱性や気密性を高める工夫も必要です。私たちは『温熱のバリアフリー』と呼んでいますが、室内温度を快適に保つことは家族みんなが暮らしやすい家にするためにも大切です」

[キッチン]快適なバリアフリー住宅にするポイント

キッチンの高さは「誰が使うか」を考えて決める

「キッチンは、車椅子を想定すると70cmが使いやすい高さとされています。一方、一般的に使いやすい高さは85cmです。そのためキッチンの高さは『誰が使うのか』をよく検討して決める必要があります。

近い将来車椅子での利用が予想される場合は70cmのキッチンを入れておき、それまで調理中は椅子を使うのも方法の一つです。しかし単に将来に備えておきたいという理由であるなら、あらかじめ低いキッチンを入れてしまうよりは、実際に必要になったときにキッチンそのものを入れ替えるほうが現実的だと思います」

利用者にあわせて適切な箇所に空間を確保する

「車椅子での利用を想定してキッチンを入れるときには、適切な箇所に空間を設けて使いやすくしましょう。空間を設ける場所は、シンク下、コンロの下など人によって希望が違うので、実際に使う人にあわせます」

バリアフリー用のキッチンで料理をする高齢者
キッチンはシンク下やコンロ下など使う人の希望にあわせて空間を設けよう(画像/PIXTA)

[廊下]快適なバリアフリー住宅にするポイント

廊下幅は手すりも含めて検討する

「車椅子を想定しての廊下幅は、90cmあるとよいとされています。ただし手すりを取り付けて狭くなってしまわないよう、手すりの出っ張り分も含めて適切な幅を検討しましょう」

手すりが取り付けられた廊下
廊下の幅は手すりの出っ張りを除き90cm以上確保できるよう設計が必要(イラスト/村林タカノブ)

腰壁やコーナーの補強を検討する

「車椅子を使うと、壁やコーナーにぶつかって傷みやすくなります。あらかじめ腰壁を備えたり、コーナーを補強しておいたりするとよいでしょう」

腰壁と手すりが取り付けられた廊下
廊下はあらかじめ腰壁やコーナーの補強を施しておくと傷むのを防ぎやすい(画像/PIXTA)

バリアフリー住宅をハウスメーカーや工務店で建てる際の間取りのポイント

ここからはバリアフリー住宅を新築する際に、のちのちの後悔を防ぐために押さえておきたい間取りや家づくりのポイントを紹介します。

動線を整理して間取りを考える

バリアフリー住宅では、寝室とトイレ、浴室などの水まわりをできるだけ近づけ、動線を短くすることを検討します。

「距離を近づけることも必要ですが、直角に曲がるところをなるべく少なくし、直線移動できる動線を考えることも重要です。例えば夜トイレに行くときにどのようなルートが考えられるのかなど、家族の動線を整理してから間取りを検討するとよいでしょう」

バリアフリー住宅の良い間取り例
バリアフリー住宅の悪い間取り例
動線はできるだけ直線で移動できるよう設計するとよい(イラスト/村林タカノブ)

平屋が理想だが2階建て以上にするなら設計段階から工夫する

バリアフリー住宅は、上下移動がない平屋にするのが理想的です。もし2階建て以上にする場合でも、水まわりは1階にまとめておくと、将来車椅子になったときでも1階だけで生活を完結できます。2階への移動が発生する場合は、リフトやホームエレベーターの設置を検討しましょう。

「現時点でホームエレベーターが必要ない場合には、後付けできるよう、1階と2階にそれぞれ180×180cm程度の空間を設けておき、納戸などにしておくとよいでしょう」

建築費用について、一般の平屋とバリアフリーの平屋の価格差は基本的にはありません。しかし、ご利用される方の状態によっては特別な機器を入れることもありケースバイケースとなります。

ホームエレベーターに乗る高齢女性
2階への移動があるならホームエレベーターを設置できるスペースを確保しておこう(画像/PIXTA)

できるだけ廊下を設けない設計にする

移動を楽にするためには、できるだけ廊下を設けず空間を細かく区切らない設計にすることもポイントです。

「私たちがバリアフリー住宅を設計するときにも、ほぼ廊下は設けません。玄関から直接リビングに入り、そこから各部屋にアクセスするような間取りにしています」

必要以上のバリアフリーを施さない

「バリアフリー住宅にするからといって、すべてをフラットにするなど過度なバリアフリーは不要です。例えば普段使わないような部屋までフラットにする必要はないでしょう。手すりにしても『せっかくだから』とあちこちに取り付けてしまうと、かえって使いにくかったり本人の自立を阻害したりすることにもなりかねません。

玄関アプローチを低くする、廊下の幅は広くしておく、引き戸にしておくなど、後からバリアフリー対応するのが難しい部分については新築時に対応しておき、リフォームで対応できる部分については将来の身体の変化を予測したうえで備えておけばよいでしょう」

災害時のエネルギーの確保を考えておく

「バリアフリー住宅を考えるときには、災害時にどのようにエネルギーを確保するかを考えておくことも重要です。大きな災害が起こったときでも、酸素吸入をしている人や特殊なトイレが必要な人は自宅で過ごさざるを得ないケースが少なくありません。そのため災害に強い家づくりをするのはもちろんのこと、あわせて太陽光発電を備えておくなど、エネルギーを確保できる仕組みを考えておく必要があるのです」

太陽光発電が備えられた平屋
バリアフリー住宅は、災害に強く万一のときにエネルギーを確保できることも重要(画像/PIXTA)

理想のバリアフリー住宅を実現した事例を紹介!

ここからは、実際に注文住宅で理想のバリアフリー環境を実現した先輩たちの住まいを3つ紹介します。

【case1】将来親と同居することを考えバリアフリーに!土間がおしゃれな平屋

夫婦互いの親の今後や、自分たちが高齢になったときのことを考え、平屋で生活したいと考えたTさん夫妻。将来的な親との同居の可能性を考え、全室段差のないバリアフリーにし、ドアも勝手口以外は引き戸にしました。浴室は広めにとり、トイレも車椅子で入れるサイズに設計。互いの両親はまだ元気ですが、いざとなればいつでも同居できる理想の家を実現しました。

車椅子で入れる広々としたトイレ
車椅子でも入れるサイズの広いトイレは壁紙で遊び心をプラス(写真/アラキシン)

この事例について詳しくはこちら
「わが家に帰ってきたな」とホッとする、土間のある平屋

【case2】車椅子の子どもの生活と自分たちの将来を見据えて建てたバリアフリー住宅

筋肉に障がいのある長男がより快適に暮らせるよう、夫の実家の隣にある土地に家を建てることにしたAさん。長男が車椅子を使うことだけでなく、自分たちの将来も考えバリアフリーの平屋プランを選びました。車椅子での移動がスムーズにできるよう、家の中の扉はすべて引き戸に。浴室は開口部が大きく広がるよう3枚引き戸にしたので、車椅子での乗り入れも可能です。

入口が大きく開く浴室
明るく広々した浴室への入口は、広く開くよう3枚引き戸を採用した(写真/和田真典)

バリアフリー住宅の新築にかかる費用を抑えたい!使える補助金・助成金・減税制度

住宅の新築に際しては、さまざまな補助金や助成金が用意されています。対象となる条件など詳細については公式サイトでチェックしましょう。(※掲載しているのは2024年3月時点の情報です)

新築住宅で使える「補助金・助成金制度」

制度名 補助・助成限度額 申込期間
ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)補助金 ZEH:55万円/戸~
ZEH+:100万円/戸~
2023年度は終了、2024年度の公募日程は未定
LCCM住宅整備推進事業 140万円/戸 2023年度は終了、2024年度の公募日程は未定

上記は高水準の省エネ性能と太陽光発電システムなどを併せ持つ新築住宅の購入・新築に対して、国が提供している補助金・助成金制度ですが、各自治体が独自で用意している場合もあります。例えば東京都では「東京ゼロエミ住宅導入促進事業」を展開し、30万円~210万円/戸(太陽光発電設備等を設置すると追加補助あり)を助成しています。注文住宅を新築する自治体で同様の制度がないか、確認してみるとよいでしょう。

「補助金や助成金はそれぞれ条件によって限度額が変わったり、組み合わせられるもの、併用できないものがあったりするなど複雑です。最終的にどれを利用するとよいのかを判断するためにも、検討する場合は設計者や施工者に必ず相談・確認しましょう」

新築住宅が対象となる「減税制度」

制度 内容 対象期間
住宅ローン減税 毎年の住宅ローン残高の0.7%を所得税から控除(住宅性能や入居年度により借入限度額の上限あり) 2025年末までに入居してから最大で13年間
固定資産税の減税 新築後3年間税額の2分の1が減税される 2026年3月31日まで

減税制度が適用されるにはそれぞれ要件があるため、実際に適用されるかどうかは税務署や各自治体に確認しましょう。

バリアフリー住宅は「家族みんなが暮らしやすい」ことが重要

改めて阿部さんに、バリアフリー住宅を建てるときのポイントを伺いました。

「バリアフリー住宅を考えるときには、高齢者や障がいのある人の快適性ばかりを追求すると、ほかの家族が使いにくい家になりかねません。そうすると介助する方は不満を感じ、介助される方は申し訳なさを感じ、互いを思い合っているのになぜか苦しくなってしまう恐れがあります。それでは幸せな暮らしとはいえなくなるため、互いの心のバリアーをなくせるような『家族みんなが使いやすい』間取りや設えを考えることが必要です。

そのためには、バリアフリーに対する理解と知識があり、将来を見通して家を設計できるハウスメーカーや工務店に依頼することが重要です。『心のバリアフリー』を含めた家づくりができる施工者を、ぜひ見つけてください」

まとめ

バリアフリー住宅は「家族みんなが安心して暮らせる場所」と心得る

本人が快適になるだけでなく、家族の不満がでない家づくりを意識する

必要以上のバリアフリーを施さないことも大切

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取材・文/佐藤カイ(りんかく) イラスト/村林タカノブ
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