花小金井は利便性と自然環境が融合
西武新宿駅から西武新宿線の急行に乗って30分足らず。初めて降り立った花小金井駅は、想像していた以上に都心に近くて驚いた。東京の郊外に位置しながらも都心へのアクセスの良さで人気のエリアというのも頷ける。
旧・西武鉄道村山線時代から数えると開業90年余の古い駅だが、駅前は再開発によって一新。駅北口には「サンバフェスティバル」などのイベントが催される広場があり、バスターミナルも整備されている。再開発では電線の地中化と道路の拡幅もされたそうで、新興住宅地を思わせるゆったり整った街並みが印象的だ。
そんな花小金井の特色といえば、筆頭に挙がるのが豊かな自然だろう。そもそも花小金井という名称は、この駅を最寄りとする玉川上水両岸の小金井桜にちなんだもの。駅の開業は昭和2(1927)年というから、古くからお花見の名所だったというわけだ。現在はやはり桜の名所として知られる東京都立小金井公園の玄関口としても有名だが、それ以外にも大小さまざまな公園が点在している。
駅のすぐ近くから延びる「小平グリーンロード(以下、グリーンロード)」も象徴的だ。この道は小平市をぐるりと一周する約21kmの遊歩道。玉川上水、野火止用水、狭山・境緑道、都立小金井公園を結び、どこを切り取っても緑、緑、緑……。平成27(2015)年には「新日本歩く道紀行100選 水辺の道」に認定されている。
この日の目的地は、花小金井駅から小平駅へと向かう狭山・境緑道沿いにある「ルネ花小金井」。生い茂った樹木が生み出す緑のアーチの下をテクテク歩くと、トレッキングしているような気分になる。途中には広大な畑が出現し、野菜の無人販売所も点在。ついさっきまで新宿の雑踏のなかにいたことが信じられないほど、のどかな風景が広がっている。
共用施設にも植栽の緑をふんだんに取り込む
緑を満喫しながらのんびりと歩くこと15分ほど、目指す先の「ルネ花小金井」が見えてきた。南北に広がる敷地の面積は約1万2000㎡。その広さを活かし、8階建ての建物が翼を広げるかのようにゆったりと建っている。
メインエントランスにまわると、まず目に飛び込んできたのは緑のゲートだ。道路からエントランスまで30mに及ぶアプローチをカツラなどの草木が彩っている。なんだかグリーロードの続きみたいだ。
聞けば、マンションが立つ敷地はかつて造園業者が所有。カツラの木はもともとこの土地に生えていたものを植え替えたそうだ。この道を通ると家に帰ってきたという気がしてほっと落ち着くという住民は多く、マンションのシンボルとして親しまれている。
緑のゲートの横には提供公園もあり、スケボーに似たキャスターボードで遊ぶ子どもたちがいたり、バドミントンをする親子がいたり。 「マンションの目の前だから、子どもだけで遊んでいても安心。集団登校のときの集合場所にもなっているんですよ」
こう教えてくれたのはルネ花小金井管理組合の8期理事長、Sさんだ。竣工時からこのマンションに暮らすSさんは、同管理組合初の女性理事長。わんぱく盛りの男の子2人の子育てと自身の仕事をしながら理事長職を務めたそうだ。
そのSさんの案内でまずはマンションの共用施設を見学させてもらった。 入り口で住民を出迎えるのは、エレガントなエントランスラウンジ。ガラス張りの空間からも溢れる緑が満喫できる。
「共用棟があるのは、このメインエントランスの反対側です」 というSさんに続いて長い共用廊下を歩いていくと、ここもまた草木が植えられて、いつもどこかしらに緑がある印象だ。
「そうなんです。ふと見ると目線の先に緑が点々とあって癒やされますね。共用廊下の脇の木に鳥が巣をつくっていたこともあるんですよ」
えっ、マンション内に鳥の巣が?! 聞いたことのない話だが、それだけ安らげる場所ということなのだろう。
「ふれあいホール」と名付けられた共用棟1階のコミュニティスペースも、やはり窓一面、緑に覆われている。マンションの敷地を彩る植栽は約50種類にも及ぶそうだ。
「四季折々に景色が変わるので見飽きないですね。春にはヤマザクラがピンクの花をつけてきれいですし、ふれあいホール前に植えられたスギの木は、12月になるとクリスマスの飾りつけもします。緑が多いと雨の日も愉しい。草木の葉に落ちる雨音がとても心地いいんです」
夕焼けの美しさに目を止めたり、雨上がりの空を見上げたりと、このマンションで暮らし始めてから自然のうつろいにも敏感になったというSさん。周りに高い建物がなく空が広いからこそだろう。
共用棟にはほかにもさまざまな共用施設が取りそろえられている。
例えば、2階にあるゲストルームの「ふれあいヴィラ」は、旅館のような畳の小上がり付き。春には満開の桜をゆったり寝転びながら眺められるそうだ。さらに、同じフロアには「ふれあいスパ」もあり、1世帯あたり毎月1000円で温泉気分が味わえるというから羨ましい。
「利用している方はかなりいますね。うちは2人とも男の子なのでお父さんと一緒によく入りに行っています。湯船に浸かってのんびりおしゃべりするのが楽しみという方も多く、年代を超えた交流が生まれる場になっています」
良好なコミュニティによって管理組合の活動も円滑に
こうした多彩な共用施設の後押しもあってコミュニティは良好だという。
「このマンションには竣工時からシェアサイクルが用意されていたのですが、利用頻度が高くもともとあった自転車が壊れてしまった。その代わりに、と寄付してくださる方がたくさんいたおかげで今も継続できています」
イベントは少ないそうだが、そのなかで続いているのが毎年8月にエントランスで開催する『打ち水大作戦』だ。子ども用のプールで遊んだり、キャラクターに扮した大人が的になって水鉄砲で遊んだり。今年は新型コロナの影響で開催できなかったものの、例年、大勢の子どもたちが集まってにぎやかだという。
「管理組合の活動も円滑に進んでいると思います。例えば、駐車場からマンション内への動線に段差があって車椅子やベビーカーでは入りにくかった。そこをスロープにしてバリアフリーにするという提案もスムーズに実現できました。駐車場や建物などの修繕に関しても、的確に修繕をしながらいかに費用を抑えるかを慎重に検討しました」
加えて、もう一つ、Sさんが理事長だったときの一大仕事になったのがゴミの分別だ。Sさんによれば、小平市はゴミの分別のルールが細かくて分かりづらいという。
「例えば、お弁当のケースはきれいに洗ったらプラスチック製容器包装としてリサイクルされますが、汚れたままだと燃やせるゴミに出さないとならない。しかも、プラスチック製容器包装のゴミに間違って綿棒1本でも紛れ込んだら収集してもらえないんです。管理員さんが毎回苦労されていたので、管理組合としてもチラシをつくり、1戸1戸まわってルールの徹底を呼びかけました」
豊かな自然の中で子どもものびのびと成長
理事長を経験してマンションに対する愛着が深まったというSさんだが、母親の目線でも「このマンションに暮らしてよかった」と思うことが多いそうだ。 「一つは、小学校まではグリーンロードを通って行けることですね。車が通る道を歩かずに済むので、登下校中の事故の心配がないんです」
もう一つは、都心に近いながらも豊かな自然があるという点だ。
「マンションからすぐのところに『たけのこ公園』という大きな公園があって、予約をすればバーベキューができる。わざわざ遠方まででかけなくても、キャンプ気分が味わえるんですね。キャンプ好きの友達家族とよく行くのですが、子どもたちはいつも泥だらけになって遊んでいます。家に戻ればシャワーを浴びられるから、私も『まぁ、いいか』と(笑)」
マンションから徒歩3分の「小平ふるさと村」もお気に入りのスポットだ。江戸・明治期の古民家や郵便局舎などを移築・復元した施設では、輪投げ、コマ回し、竹馬などの昔遊びが体験できるコーナーが用意されている。入場は無料なので、休日にぶらっと家族で出かけるとか。
「夏には虫アミと虫カゴを持って、朝早くからお父さんと一緒にカブトムシを捕まえに出かける子どももいるようです。カブトムシのいる木がマンションの近くにあるらしくて。自然が豊かな証拠ですよね」
子どもたちがのびのびと成長していける環境を含め、このマンションに暮らす満足感があるとSさんはいう。
もちろん、Sさん同様、豊かな自然環境を求めてこのマンションに入居した家族は多く、居住者の半数ほどが子育て世代だという。
「マンション内に友達がたくさんいて、放課後は友達がうちに遊びに来たり、誰かの家に行ったり。そんな子どもたちを、ここに暮らすおじいちゃん・おばあちゃん世代の方がニコニコと見守ってくれる。のんびりとした土地の空気が、そのままマンションにも入り込んできている感じです」
そんな穏やかな暮らしが生まれたのは、周囲の環境と呼応する緑豊かなマンションゆえだろう。自然のなかで子どもをのびのび育てたいなら田舎暮らしが思い浮かぶが、都心から30分のマンションでもそれが実現できることを実感した。