バルコニーの目前に飛んで来る野鳥の姿に癒やされる
約4万9000㎡、東京ドームひとつがすっぽり収まる敷地面積に、住宅棟が計11棟、総戸数1036戸、住人は約3000人。もはやひとつのまちと言っていいスケールだ。
これだけの大規模マンションとなると、一般的には大きな倉庫や工場などの跡地に建てられることが多いのだが、東京テラスが立つのは、第一種・第二種中高層住居専用地域。つまり、竣工前には、倉庫、工場などとは違うものがあったのだ。
何が建っていたのか? 答えは、大学の校舎。ここには、1965年から2002年までの37年間、青山学院大学理工学部の世田谷キャンパスがあった。敷地の周りには第一種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域が広がっており、マンション、アパート、一戸建て、保育園、こども園、小・中・高等学校などが立ち並ぶ。
住人の交流を促す活動を行っているTCC(東京テラス・コミュニティ・クラブ。詳しい活動は後述)に所属している小野上(おのがみ)さんは、偶然にも、東京テラスが建つ前ここにあった青山学院大学の卒業生だ。
「ただ、私は理工学部ではなかったので、キャンパスは渋谷のほうでした。学生時代、理工学部キャンパスに来たこともあったので、東京テラスの情報を知ったときは隔世の感がありましたね。いま、学生時代もここにあったイチョウに囲まれて暮していることに縁を感じます」
防災自治会(こちらも詳しい活動は後述)で副会長を務める宇都宮さんも、購入前に最も気に入ったポイントは、植栽の豊かさだった。
「パンフレットを見て、敷地内の緑の豊富さに期待しました。暮し始めてからは緑の近さもさることながら、わが家のバルコニーの前の樹木に飛んでくる鳥の姿を見る楽しみも生まれました。
京王線の千歳烏山、小田急線の千歳船橋はいずれも歩くと10数分かかりますが、両駅に向かうバスのバス停がマンション正門の目の前にありとても便利。入居当初はバスの便は少なかったと記憶していますが、いまは増便されてほぼ4~5分間隔で発着するので、時刻表をチェックして出る必要はありません。ほとんど山手線や地下鉄みたいな感覚で使えます」
大規模マンションやオフィスビルの竣工後、利用者の大幅増に対応して、バス事業者がマンション、オフィスの近くを通る路線の増便を決断するケースがある。東京テラスもまさにそのパターンなのだろう。
前期の理事長を務めた藤林さんは、子育てがしやすそうな環境に魅力を感じて東京テラスの購入を決めた。
「子どもが生まれてから、住んでいた桜上水の賃貸マンションが手狭になりまして、そろそろ分譲マンションを買おうということになったんです。最初は通勤に便利な駅近を探していました。東京テラスは京王線千歳烏山にはバス便なら5分くらいですが、歩くと約10数分なので候補に入れていなかったのですが、改めて周辺の住環境をチェックしてみると、子育てには最適な環境だと気が付きました。小学校・中学校はほぼお隣で、それ以外はほとんどがマンション、一戸建てです。竣工時に購入したほかの住人には、似たような家族構成、同じような動機で購入したファミリーも多く、子どもを介してすぐに知り合いになれました」
敷地内の植栽写真を収めた『花図鑑』が住人の愛着を育む
防災士の資格取得を活かし、東京テラスの防災活動をサポートしている雨宮さんは、このマンションならではの“距離感”が気に入っていると話す。
「会社員時代、年間およそ100日は出張で家を留守にしていたので、かつては住環境というものにはあまり関心がありませんでした。東京テラスの情報を見つけてきて、ほとんど一目惚れしたのは妻で、自分は正直温度が低かったですね。
でもいまでは、このマンションの落ち着いた暮しに本当に満足しています。その理由が“適度な距離感”であると気づきました。小田急線の祖師ヶ谷大蔵駅前、京王線千歳烏山駅へはいずれも約1kmの距離。駅前にはにぎやかな商店街があり、便利なのですが、マンションまで戻ってくると鬱蒼とした森に入った感覚でとても静か。昼間は近くの小中学校から子どもたちの元気な声が聞こえてきますが、夜は水を打ったような静けさに包まれます」
防災自治会に所属する浴田(えきだ)さんも、豊富な樹々、植栽に囲まれた暮しを楽しんでいる。
「ざっと約90種、およそ2万本の植栽に囲まれた暮しは、本当に森の中に住んでいるような感覚です。これらの植栽を維持するためには、年間およそ1000万円はかかります。と聞くと莫大な金額なのですが、1世帯平均では年1万円以下、月にならせば1000円未満で済む。それで年中、これだけの植栽とともに暮せるのですから、スケールメリットを感じますね。ちなみに私の実家は一戸建てで、庭木の管理には年間で1万円をはるかに上回るコストや時間がかかる。東京テラスはその点本当に恵まれていると思います」
豊富な植栽は、別のカタチのマンション内コミュニケーションをもたらしたという。防災自治会会長・佐伯さんの話を聞いてみた。
「東京テラスの敷地内外で咲いている花や植栽の写真を、ここにお住まいのアマチュアカメラマンさんが撮りためていて、その出来が素晴らしいものですから、マンションの管理会社と、竣工以来、植栽メンテナンスをお願いしている造園業者の両社にも協力を仰ぎ、『花図鑑』と題したリーフレットを制作してフロントに置き、希望者に配りました。また昨年と一昨年の秋まつりに、カフェラウンジの壁を使って写真展を開き、住人の皆さんに見ていただきましたがそれがとても好評で、花図鑑の第二弾を出したいと考えているところです」
大イチョウの恵みをきっかけに交流の輪が広がった
広大な敷地と豊かな植栽は、確かにほかにない財産だ。しかし、これに依存せず、住人がより快適で安心できる暮しの実現に向けて努力を続けている点こそが、東京テラスの真骨頂といえる。
まずは住人の交流促進だ。先述したTCCで活動する本田さんに聞いた。
「イベント、行事の内容は本当に多彩です。普段は比較的高齢の方が10数人参加され、毎日行っているラジオ体操は、夏休みにはマンション内に暮す子どもたちも参加して80人近くの規模になります。ほかにも、高齢者を主な対象にした茶話会、高齢者セミナー、既存のプランを参考にしてオリジナルのルートをつくる高齢者向け日帰りバス旅行企画、クリスマスツリーの飾りつけ、マンション中庭のクリスマスイルミネーションの装飾、正月の餅つき大会など。幅広い年代の皆さんに楽しんでいただいています」
そして、年間のメインイベントといえるのが「秋まつり」だ。その発端のエピソードが微笑ましい。
「マンションのシンボルツリー的な存在の大イチョウの並木は、毎年秋の黄葉が実に見事だったのですが、一方、臭いが問題となっていました。そこで、一部の住人が落ちたギンナンの実を拾い、洗って皮をむいて干し、ほかの住人におすそ分けしたり、ギンナンご飯にして提供したりしたことが始まりだったと聞いています」(本田さん)
秋まつりは、今ではハロウィンパーティーも兼ねた一大イベントに発展したそうだ。ギンナンご飯を東京テラスの“名物メニュー”として末永く続けられれば、マンションに対する住人の愛着はさらに増していくだろう。
防災意識を向上させる「自衛消防隊」で安心な暮しを
次は、防災・減災への備えである。それを担うのが「防災自治会」だ。マンションでは珍しい、防災に特化した自治会である。会長の佐伯さんに聞いた。
「この地域の避難所であるマンション隣の世田谷区立千歳中学校のキャパシティでは、東京テラスに暮している約3000人はとても入り切りません。したがって、災害発生後はマンションにとどまる在宅避難が基本になります」
防災自治会は、自宅に非常用の食料や飲み物、簡易トイレ、水などを備蓄しておき、自助・共助をしながら在宅避難を続けられるよう、常に住人に呼び掛けている。定期的に発行している「東京テラスあんしん通信」も住人の防災意識向上を後押ししてきた。また、防災自治会が機能していることで、行政や消防署とのコミュニケーションが綿密になり、防災関連情報が入手しやすくなっている等のメリットもあるそうだ。
さらにマンション独自の防災の取り組みに「自衛消防隊」という組織がある。
「約3000人が暮すマンションを45班に分け、各班にリーダー2人を配置した、小さな単位での共助組織です。リーダー1人だと、曜日・時間帯によってマンションにいない場合も考えられるため、バックアップとして2人体制を敷きました。火事や地震が発生したら、リーダーが班員の安否確認をして、マンションの災害対策本部に報告するのが主な役割です。年に1度、防災士の講義を聞き、有事の際の対応を学ぶことになっています」
リーダーの任期は1年で輪番制。自衛消防隊の仕組みができたのは2012年なので、計算上は2024年くらいまでに全世帯がリーダーを経験することになる。マンションの防災・減災力を底上げしているのは間違いないだろう。
実は、先述したTCCがつくられた当初の目的も防災だった。あらかじめ近隣で顔の見える関係ができていれば、万が一の災害発生時に何かと心強いはずだと、住人が自然と顔見知りになれるイベント、行事などを始めるようになったそうだ。
かつて理事長を務めた福留さんが満足そうに話す。
「私は会社員時代、転勤が多かったため、日本のあちこちに暮しました。でも、リタイアしてからは、ここで緑に囲まれて、快適に、安全・安心に暮しています。理想的な“終の棲家”ですね」
※2021年のイベント開催は新型コロナウイルス感染症対策のため上記の通りではありません。今後の開催は未定です