ホテル仕様のマンションはインテリアデザインの巨匠が設計
東京都心のなかでも開発が著しい湾岸エリア。特に臨海副都心の一角をなす有明エリアは訪れる度に景色が変わり、利便性も飛躍的に向上している。交通インフラではゆりかもめとりんかい線の2路線が利用できるうえ、バス便も発達。東京五輪に向けたスポーツ施設とともに、商業施設や飲食店も増加している。
とりわけ話題をさらったのは、今年6月にオープンした「有明ガーデン」だ。200店舗以上のテナントが入る商業施設は湾岸エリア最大級。約8000人収容の劇場や天然温泉の温浴施設なども開業して暮らしの楽しみも広がっている。
マンション開発も活況だ。分譲中の物件を含めると、現在7つのタワーマンションが立ち並んでいる。今後も多くの人口増加が見込まれる、まさに注目のエリアなのである。
そのなかで、今回、訪ねたのは「ブリリアマーレ有明タワー&ガーデン(以下、ブリリアマーレ有明)」。有明テニスの森公園の目の前に立つタワーマンションである。
この物件は特筆すべきことが目白押しだ。その一つは、デザイン性の高さと共用施設の充実度。タワーマンションの謳い文句には“ホテルライク”という言葉がしばしば使われるが、このマンションが目指したのはホテルそのものの高揚感だという。設計にあたったのは空間設計会社「SUPER POTATO」の故・杉本貴志氏。「グランドハイアット」「シャングリ・ラ」「ウェスティン」など各国のラグジュアリーホテルを手がけた世界的なインテリアデザイナーだ。きらびやかな作品群のなかで、唯一のレジデンスがブリリアマーレ有明なのである。
確かに建物はエントランスからすでに異彩を放っている。オートロックのドアをくぐると現れたのはエスカレーター。空間を包み込むように幾何学模様の光の天蓋が張り巡らされている。ここを上がった2階がレセプションのあるロビーだ。洗練されたアプローチはまさしくホテル。帰宅するたびに気分が上がりそうだ。
しかし、驚くのはまだ早かった。
「このマンションの真骨頂は33階、最上階にあります」と語るのは管理組合理事長の藤田裕之さん。
「THE33」と名付けられたこのフロアは共用施設専用。
「最上階に住戸をつくれば高値で売れるのでしょうが、あえて共用施設にしているところが贅沢ですよね」
設けられた共用施設も一般のマンションとは一線を画す。天窓から光が差し込む広々としたプール、ベイエリアの眺望が楽しめるスパ、本格的なマシーンをそろえたアスレチックジム、フェイシャルエステが受けられるセラピールームなど。住戸からこの階に上がるだけでリフレッシュでき、体調も整う。これをアーバンリゾートというのだろう。
最上階にはバーラウンジも設けられている。これもまた本格的だ。
「お昼には肉・魚料理、ピザ、パスタ、和定食などが週替わりで用意され、夜は夜景を眺めながら食事とお酒を楽しめる。食事を済ませたら、エレベーターで降りるだけで自宅なので、ゆったり楽しめます」と藤田さん。マンション内のラウンジで食事を提供するケースは少なく、あってもここまで充実しているところはそうないだろう。
4つのゲストルームは住民が別荘として愛用
共用フロアにある4つのゲストルームもまた自慢だ。重厚感のあるヨーロピアン、白を基調にしたシンプルモダン、畳敷きの和風などインテリアスタイルは4室それぞれ異なり、155㎡もの広々とした部屋まで用意されている。
「ゲストルームって親や友人が泊まりに来たときに使いますよね。でも、うちのマンションでは居住者が別荘感覚で宿泊する。だから呼び名も『オーナーズスイート』。シェアするスイートルームなんです。家族の誕生日などに宿泊すると特別感があって子どもも喜びます」と話すのは理事で修繕・設備分科会メンバーの北古賀英一さん。
香川県産の天然石、庵治石を使った露天風呂付きの一室もあり、「温泉旅館に泊まるよりも遥かに快適です」(北古賀さん)。マンション内にいながら旅気分が味わえるそうだ。
ラグジュアリーホテルそのものの共用施設に惚れ込み、購入を決めた住民は多いという。北古賀さんはその一人だ。自身もインテリアデザイナーであり、巨匠・杉本氏の仕事に憧憬を抱いていたという。
「このマンションに投入されたのは、『SUPER POTATO』の王道というべきデザイン。例えば、露天風呂の庵治石はホテルにも多用されていますし、バーラウンジのレンガや木の意匠のように自然素材を使うのも『SUPER POTATO』らしさ。歳月を経ても古びない、普遍的な美しさと心地よさがあるんです」
修繕のカルテをつくり、竣工時の理想形を堅持
こうしたデザインを含めたマンションの価値を守るため、管理組合ではこれまでに数々の施策を取り入れている。
その1つが“マンションカルテ”だ。竣工から12年経つと設備やインテリアなどに劣化が生じるのはいたしかたないこと。その修繕を行う際、詳細な履歴をファイリングして残しているのだという。
「例えばソファの張り替えをしたとき、最初の生地の端切れを残しています。そうすると、別の生地を使う場合にも常に大元のデザインに立ち返って選ぶことができる。私たちにとって竣工時のマンションが理想形。修繕する際にはできる限り、元の状態に復元して維持していきたいと考えているんです」(北古賀さん)
居住者のデザインに対する思い入れはひとかたならないものがあり、改修する場合にも安易にはできないと北古賀さんは言う。
「エレベーターホールの壁を塗り替える際、白い壁は殺風景だという意見が挙がりました。そこで『SUPER POTATO』に相談をしながら、単色の白塗装だったところをジョリパットという素材を使ってデザインを損ねない形でアップグレードを行いました。壁に無闇に張り紙をしないのもそのため。細かい部分にまでこだわることが、このマンションの価値につながると思っています」
一方、ソフト面については変えるべき点は大胆に変えるのが管理組合のスタンスだ。
象徴的なのは、プールやスパの利用方式。竣工時にはその都度、利用料の精算が必要だったが、年間フリーパス制度を導入。稼働率は劇的に向上した。
バーラウンジの営業形態も見直しがなされ、メニュー数を増やしたり、毎月フェアを行ったりと飽きない工夫がされている。さらに、テラス席についても飲食可にしてバーラウンジの料理を持ち出せるよう管理規約を改めたところ、やはり利用者が増加。毎年8月にはビアガーデンが催され大盛況だという。
「管理は毎年住民にアンケートをとって方向性を模索しています。そこで挙がった意見は理事会で協議した上で必要であれば積極的に取り入れる。新しいことに挑戦していこうというのが管理組合の基本姿勢です。昨年は管理組合を東京都のまちづくり団体として登録。これによりマンションの前にある公開空地でのイベントの実施が可能になりました。子どもたち同士や住民間のコミュニケーションを活性化するため、BMXのアスリートを招いたデモンストレーションや体験会、飼い主の会によるドッグランイベントを新たに開催しました。また、例年の防災訓練では、『有事の際に住民同士が助けあえるように』との趣旨でバーベキュー大会を催します。自分の居住するフロアと近しい人同士が、同じ焼き場で顔を見て、会話ができるような工夫がなされています」(藤田さん)
理事会役員は全員立候補。ビジョンを掲げて運営
守るべきところは守り、攻めるべきところは攻める。メリハリのある管理組合の活動は、外部からも高く評価されている。
もちろん、活動が活発であれば理事の仕事もその分増える。自分から手を挙げる人は少ないのかと思いきや、驚くことにここ数年、輪番での選出はゼロ。任期切れの理事の募集枠を上回る立候補者がおり、毎回、抽選になるという。
「理事に立候補するのは熱い想いがある人ばかり。それぞれこだわりのポイントが違うため、毎年30ぐらいの議案が挙がります。そのなかで採用されるのは5〜6案程度。このマンションにとって本当に必要かどうかを精査しながら実行しています」(藤田さん)
実行するか否かの指針になるのが「クレド(Credo)」だ。
住まいに対する価値観は住民によってさまざま。静寂を重視する人、子どもに優しいことを第一とする人、ペットとの共生を大切に思う人、なかには価格に価値を見出す人もいるだろう。そうした異なる価値観のなかで、マンションにとって本当に必要なことを見極めるための大黒柱となるのがこのクレドだ。迷ったときここに立ち返ると、おのずと答えが見えてくると藤田さんは言う。
「理事は任期2年で顔ぶれが替わりますが、クレドがあることで意思の通貫ができます。もちろん、理事だけでなく、管理会社の担当者、33階の共用施設のスタッフ、コンシェルジュ、清掃員など、マンションの運営に携わるすべての人たちがクレドを基盤に行動すれば、みんなが同じ方向を向くことができるんです」
クレドに刻まれたビジョンは「非日常が日常であるために」。このマンションのあるべき姿はこの一言に集約されているのだという。
有明地区のマンションの連携でより暮らしやすい街へ
最後に、地域活動にも触れておこう。6年前、このマンションをはじめ有明エリアの6つのタワーマンションによって「有明マンション連合自治会」が立ち上げられている。開発が加速するなか、住民の思いをできるだけ反映させたいとの考えから発足した団体だ。
その活動によって、有明スポーツセンター2階の屋外スペースに遊具を配した遊び場が新設されたほか、現在、整備が進む有明親水海浜公園についても自治会が要望を提出している。また、生活の足となるバスやゆりかもめの便数も自治会の働きかけで増便されたそうだ。
「有明ガーデンのオープンも地域の明るい話題です。開業にあたっては地域住民と事業主との意見交換会が開かれ、生活に根付く店舗を充実させてほしいと意見しました。それが通ったのかどうかは分かりませんが、結果的にファミリーユースのテナントが多く生活がとても便利になりました」
自治会では5年前から「有明まつり」を主催。模擬店や盆踊りなどの催しがあり、ブリリアマーレ有明ではいも煮の屋台を出すのが恒例だ。マンションの垣根を超えた住民たちのパワーは、有明をさらに暮らしやすい街へと発展させていくはずだ。