四方を運河に囲まれた都心立地の水と緑のアイランド
オフィスビルが立ち並ぶJR山手線田町駅から歩くこと数分。渚橋に差し掛かるとビジネス街の気ぜわしさがすっと消えて、ゆったりした空気が流れ始めた。
運河にぷかぷかと停泊する小型船。悠々と走る跨座式のモノレール。遊歩道を颯爽とランニングする人たち。のどかな景色を眺めつつ橋を渡れば、その先に広がるのが芝浦アイランドだ。
ウォーターフロントのマンションは工場や倉庫の跡地などを活用するため大規模プロジェクトになるケースが多いが、そのなかでも芝浦アイランドの誕生はことさらインパクトが大きかった。
約6万㎡もの広大な開発地があるのは、四方を運河に囲まれた島状の土地。都心にありながら、都心の喧騒から隔絶された水と緑のアイランド── そんなふれこみもあってモデルルームには購入希望者が殺到し、高倍率の抽選になった住戸も多かったという。ちなみに、広告には当時、人気絶頂だったSMAPを起用。インパクトの大きさに拍車をかけた。
落ち着いた暮らしがかなうアイランド最南端のタワー
そんな芝浦アイランドに立つのは、分譲2棟と賃貸2棟の計4棟のタワーマンション。これらのなかで、いち早く入居が始まったのが2006年12月竣工のケープタワーだ。位置するのは、南北に長い“島”の最南端。渚橋からはさらに5分ほど歩くと、地上48階建てのタワーが姿を現した。
このケープタワー、トライスター型と呼ばれる独特のフォルムが特徴だ。トライスターとは三ツ星のこと。中心から三方向に建物が伸び、真上から見るとまさに三ツ星のような形をしているのだ。住居用のタワーの採用例としてはこの物件が日本で2例目。そう聞けば、希少性が分かるだろう。
エントランスに入ると、管理組合理事長の明田英俊さんが出迎えくれた。明田さんは竣工から3年目に購入をした途中入居組。そこでまずは一人の居住者として、購入の決め手について訊ねてみた。
「見学に来ていいなと思ったのは静かなところですね。ケープタワーは芝浦アイランドのなかでも奥まった位置にあるので、駅からは遠くなるものの、一段と落ち着いた雰囲気があるのです。もう一つの決め手は共用施設。子どもがいるのでパーティールームやバーベキューガーデンがあるのはうれしいですね。庭もきれいですから、ラウンジに腰掛けてぼーっと外を眺めていると癒やされるんです」
共用施設にはほかにコンビニ、キッズルーム、自習室、ミーティングルーム、などもあるが、いずれも1階につくられているので使い勝手もよいとのこと。気分を変えたいときは37階へ。この階には眺望が楽しめるホテルライクなラウンジがあり、傍らにはゲストルーム4室も完備されている。
こうした数々の共用施設を適切に管理するべく、管理組合には共用施設委員会とルール改善員会が組織されている。両委員会では住人の声を聞きながら、現状に即した共用施設のあり方や使い方などを随時検討しているという。
「現在、議題にあがっていることの一つは子ども用自転車の置き場です。ここ数年で子どもの数が増えたため、キャパシティを超えてしまい100人ほどのウェイティングが出ている状況です。キッズの駐輪場を新設するか、新設するならどこにつくり、利用料はいくらにするかといったことを両委員会と理事会で話し合っているところです」
ちなみに、大人の自転車については、マンション独自の無料の電動サイクルレンタルサービスがあるのに加えて、敷地の外に港区の電動サイクルシェアのポートも設置されている。そのため自転車は持たず、買い物や通勤など必要に応じてレンタルする人も多く、課題は子ども用転車置き場に絞られているそうだ。
仲間づくりができる「ケープサロン」は5年前に発足
このほか、共用施設委員会では利用率の低い共用施設の見直しを検討したり、ルール改善委員会ではゴミ出しの方法、喫煙マナーの呼びかけをしたりと活発に活動が行われている。
「集合住宅なので生活にルールは不可欠ですが、住人のみなさんはとても協力的ですね。お互いに助け合って、気持ちよく楽しく生活しようという意識を持つ方が多いためでしょう。このマンションでは挨拶を交わすのはもちろん、エレベーターを乗り降りするときに小さいお子さんまで『失礼します』と自然に口にするんです。引越してきたときとても驚きました」(明田さん)
お互いに助け合おうという住人の意識の高さを象徴するのが、自主的に立ち上げられた「ケープサロン」の活動だろう。午前中の2時間ほどミーティングルームなどに集まっておしゃべりするだけの日もあれば、折り紙やスカーフの巻き方など得意なことを教え合う日もある。自由参加のため、ぶらっと気軽に顔を出せるのが魅力だ。
この活動がスタートしたのは2015年。「マンション内に友達がほしい」という高齢の居住者の声がコンシェルジュに届いたのをきっかけに、当時、管理組合の理事を務めていた平田渥美さんが中心となって交流の場を開くようになったのだという。当初は8人ほどの小さな集まりだったが、今では15人前後が毎週月曜日と木曜日に集合し、他の曜日も何人かで集まって話に花を咲かせているそうだ。
「このサロンを通じて、マンション内に友達ができたと言う声を耳にします。メンバーの方にとってほっと和める居場所になっていて、『最近、顔を見ないけれど、どうしているのかな』というような見守り活動のようなものにも発展しているとメンバーの方からお聞きしました」(明田さん)
当初は「ケープシニアサロン」という名称だったが、世代を問わずに集まれる場にしたいと「ケープサロン」に変更したところ、若い世代の参加も増えたとか。このような場がマンション内にあることは、子育て中の人たちにとっても心強いはずだ。
自治会の活躍で広がるコミュニティ。島祭りは一大名物
ケープタワーから芝浦アイランドというエリア全体に視点を移すとさらに多彩な魅力が加わる。
「芝浦アイランドにはスーパー、医療機関、スポーツジムなど生活に必要な施設が整備されていて、とにかく便利ですし、安心感も高いですね」と明田さん。
一方で、再開発計画に織り込まれていた緑や水が彩る穏やかな環境も実現されている。芝生の広場があるプラタナス公園は住民の憩いの場となり、子どもたちが元気に走り回る姿を目にできる。“島”の全周約1.6kmに整備された遊歩道では、潮風を浴びながらのんびり散歩するもよし、ランニングをするもよし。明田さんもこの遊歩道を走ってひと汗かくのを習慣にしているそうだ。
さらに、芝浦アイランドの大きな武器といえるのが、住民同士の結束力だろう。その核となっているのが芝浦アイランド自治会だ。この自治会は分譲2棟の各管理組合と、賃貸2棟を運営管理する三井不動産投資顧問で構成され、束ねるのは計3837戸、1万人以上。全国の自治会でも最大級の規模だという。
「自治会が設立されたのは2009年。分譲棟の理事や住民の有志役員13名を中心に、イベント、美化防犯、防災、マーケティングという4つの委員会に分かれて活動をしています」
こう話すのは、同自治会の会長、伊藤温男さんだ。
例えば、イベント委員会が企画・運営するのは「芝浦アイランド島祭り」。毎年秋に開催される、島をあげての一大イベントだ。会場となるプラタナス公園にはメインステージが特設されて、フラダンスや子どもカラオケ大会などが繰り広げられるほか、地元の飲食店や自治会による屋台が出店。子どもにはお菓子の詰め合わせも無料配布される。
「11回目を迎えて地域のお祭りとしてすっかり浸透しました。特にお子さんはお菓子の配布を楽しみにしているようで、今回は600セットが瞬く間になくなりました」(伊藤さん)
一方、美化防犯委員会では2カ月に1回、クリーンコミュニティを実施している。「親子での参加も多く、毎回200人以上の方が参加されます。マイ・トングを持参する人もいるのですよ」と教えてくれたのは、前自治会長で、美化防犯委員長である自治会役員の栗山由美さんだ。日曜日の午前中、1時間ほど地域のゴミ拾いをした後には、地元のお店のパンと飲み物でひと息入れ、住民同士の交流をはかるのが習わしだ。
「クリーンコミュニティは街の美化とともに、住民同士のコミュニティの醸成も大きな目的。その点は、島祭りも同じです。アイランド内にも知り合いが増えれば暮らしやすくなって、防犯面の安心感も高まります。地震などの災害時には、コミュニティが大きな力になると思いますね」(栗山さん)
災害時の対策については、防災委員会を中心に自治会独自の防災計画が作成されているのも画期的だ。
「自治会で行うのは各タワー敷地外の救援です。例えば、水道が何日も止まっている場合に給水車を依頼したり、橋が壊れて通行ができない場合には復旧の要請をしたりといったことは、自治会が窓口になって行政に連絡をします。つまり、災害が起こった後、速やかに日常生活に戻れるようにしていくのが自治会の役割。パイプづくりのために、地域の防災協議会には欠かさず出席しているんですよ」
もちろん、防災計画はタワーそれぞれでも立てられている。例えばケープタワーでは防災委員会を中心に住人の意識が高まるよう防災訓練を工夫。一方で、タワーの全フロアに防災倉庫を設けて、防災マニュアル、連絡用トランシーバー、補助としての水や食料などを備蓄している。こうした取り組みに加えて、芝浦アイランド全体の防災計画まで考えられているとなれば、安心感は増すばかりだ。
伊藤さんによれば、有事以外にも自治会が窓口となって住民のニーズを行政に伝えているという。実際、買い物の施設が足りないという声を自治会から行政にあげたところ、月1回、全国連携マルシェがプラタナス公園で開かれるようになったそうだ。
さらに、近隣町会との交流も自治会が架け橋として活躍している。聞けば、島祭りもクリーンコミュニティも近隣住民の参加は大歓迎。一方、毎月2回行われる芝浦3・4丁目町会主催の防犯パトロールに多くの役員・住民が欠かさずに参加したり、3・4丁目町会の定例会に出席するようにもなったという。
「1万人以上ものマンション住人が一気に引越してくるわけですから、近隣のみなさんには相当な不安や警戒心があったと思います。そのなかで地域として一つになれるようコツコツと交流を重ねた結果、とてもよい関係を築くことができました」(伊藤さん)
芝浦アイランドという街が開かれて13年。「住みやすい街」「憧れの街」として高い人気を誇る理由が伊藤さんと栗山さんの話からよく理解できた。
さて、最後に今一度、ケープタワーに話を戻そう。管理組合のなかに、共用施設、ルール改善、防災という委員会が組織されていることはご紹介したとおりだが、もう一つ、立ち上げられているのが大規模修繕委員会だ。竣工から13年、ほかの3棟に先駆けて2020年には最初の大規模修繕に入る。
修繕に先立っては全戸にアンケートを実施。住人の要望を丁寧に拾い上げながら、工事車両の出入りが住人の妨げにならいよう配慮するなど、きめ細かな計画が練られている。その予算は十数億円。
無事に大規模修繕を終えたとき、アイランドにそびえる三ツ星型のタワーはより一層輝きを放つことだろう。