里山にそびえる“段々御殿”は、天上の暮らし

パヒルサイドテラス平山城址の外観

物件名:
ヒルサイドテラス平山城址
所在地:
東京都 八王子市
竣工年:
1991年
総戸数:
42戸

「斜面の魔術師」がつくった里山の自然に溶け込むマンション

「山の上に、要塞のような豪邸が…」 このマンションを初めて訪れた人は、例外なく建てられた環境に驚くだろう。 筆者もそのひとりだ。

場所は八王子市に広がる北向き斜面の多摩丘陵。背後と左右を原生林に囲まれた、里山のようなロケーションだ。そこに、7戸×6棟、計42戸がひな壇状に並ぶ。

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ヒルサイドテラス平山城址を上空から見た様子 (写真提供:サムデザイン)

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1階にある木製の住居配置図。7戸×6棟、計42戸が並ぶ

設計を手掛けたのは、斜面開発を得意とした建築家で「斜面の魔術師」の異名もあった株式会社サムデザインの井出共治氏。
井出氏の真骨頂は「里山を残しつつ、そこに溶け込むマンション」をつくり、成長する自然と建築物を調和させていくことだった。このヒルサイドテラス平山城址も、その考えを体現した「作品」といえる。

お話をうかがった住人の方は、リゾートのような暮らしと誇らしげに語ってくれた。

「(住人)私の家はいちばん端の住宅棟にあるので、浴室の窓からは隣接する森がよく見えます。ここに暮らし始めて十数年ですが、いまもまるで山の中の一軒家で入浴しているような気分になれますよ。特に雪が積もったときの眺めはあり得ない美しさです」(以下コメント同じ)

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山間部のリゾートホテルのような浴室からの眺め

エレベーターがなくても味わいたい風景と暮らし

段々の最上部からの眺めが極上というので、住人の方に案内してもらうことに。

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階段下から見上げる。木々のトンネルが美しい。が、終わりが見えない…。

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トンネルの中からの様子。ようやく最上部が見えてきた。

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上層階付近から振り返ると、木々と景色のコラボレーションが生まれていた。

最上部にのぼり、八王子が一望できる景色に息を呑む。と同時に、はぁはぁと筆者の隠せない息切れ。
実はこのマンションにはエレベーターが存在しないため、全住人は外出のたびに階段を上り下りしなければならない。当然、上の階になるほど負荷は高くなる。

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最上部からの眺め。屋上を植栽が覆い、自然と一体化していることがわかる。(にしてもかなり登った…)

正直きつくないですか? と息を整えつつ、住人に伺ってみた 。

「でも、エレベーターがないことはここを買う前から皆さん織り込み済みです。むしろ運動習慣が身につき、健康になったという方が大半だと思います」

と、ケロリと語る住人。息も乱さず話は続く。

「住み始めたころ『自分は毎日どのくらいの距離を上下しているのか』がふと気になって概算してみたんです。すると、最寄駅の平山城址公園駅から自宅の間を1年間行き来した場合、エベレストを3回半も登るという結果が出て驚きました。
ちなみに、ここに住んでいる小学生は足腰が強いからか、皆かけっこが速い!という評判も聞いたことがあります(笑)」

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住居内からの景色もすばらしい(写真提供:サムデザイン)

雲海も見える絶景ルーフテラスでの楽しみはBBQが定番

住宅に目を転じると、驚かされるのが一戸当たりの広さだ。

各戸の専有面積は190 ㎡超で基本的には4LDK。そこに約60 ㎡のルーフテラス、玄関前アルコーブ、トランクルームなどが付き、実質的な合計スペースは400 ㎡超になるという。
6列並ぶ住宅棟と住宅棟の間は幅約10m の歩道、パティオで隔てられ、プライバシーが守られている。住人はマンションでありながら、広大な一戸建てのような感覚で暮らせるのだ。

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住宅棟と住宅棟の間は、階段か、パティオ(写真)で隔てられ、独立性が高い

リビングに面したルーフテラスに立ってみると、遮蔽物もないため、街並みや河川、緑地、さらにその背後の奥多摩の山並みまで、大パノラマがびっくりするほどきれいに見えた。

「特に絶景なのは、秋から春先の雨上がり後に気温が上昇した午前中の景色。その条件が整ったとき、雲海が見えるんです。自宅に居ながらにして非常に幻想的な雰囲気に浸ることができますよ」

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各住戸でテラスに椅子やパラソルを置いて楽しんでいる。

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日没時など、幻想的な瞬間が日常的に訪れる(写真提供:サムデザイン)

立地、植栽、広さ、絶景。驚きの連続だ。
こんな家に、どんな人が、どんなふうに暮らしているのだろうか。住人管理組合の理事長さんに伺ってみた。

「(理事長)日本にあまりないタイプの広いマンションなので外国人居住者も多いですね。住宅棟が離れており、なおかつ、上下の住戸も遠いため、通常のマンションなら禁止されているルーフテラスでのBBQは管理規約でOKになっています。住民同士でもよくBBQを楽しんでいて、それをきっかけに近所付き合いが定着していますね。あ、ただし、騒音や火事のリスクがあるので打ち上げ花火は厳禁です(笑)」

住人のこだわり、自己負担をいとわず修繕に励む共用部分のルーフテラス

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リビングの延長にひろがるテラス

住人の暮らしへの想いが伝わる、印象的なエピソードを伺った。
このマンションでは、4年前に大規模修繕を実施。その前段階として、特に傷んでいてコストがかかりそうなルーフテラスについて、管理組合はユニークな取り組みを行ったそうだ。

「(理事長)各住戸に預託金として80万円渡し、その範囲内でルーフテラスを修繕するようにお願いしたんです。仮に80万円以上の金額になったら自己負担としました」

すると、なかには80万円の範囲でおさめず、総額200万円近くかけて修繕した住人もいたという。その場合、自己負担金は百数十万円にものぼる。本来、ルーフテラスは共用部分であり、修繕費は、住人が毎月支払っている修繕積立金が原資となり、住民負担はないはずだ。

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夜のルーフテラス (写真提供:サムデザイン)

「ある程度自己負担してでも、テラスの状態をもっと改善したいと考える住民が多いのが、このマンションの特徴なんです。そこで80万円の預託金のプランを住民総会で提案し、賛同を得てこの取り組みが実現しました」

住人がいかにルーフテラスを大切にしているかを示す、ヒルサイドテラス平山城址ならではのエピソード。ルーフテラスは法律上共用部分だが、住人が愛情を注ぐ、大切な場所なのだ。

住宅開発には不向きとされる北向き斜面。でも独創的な設計や、住人の考え方でマンションライフは豊かになる。その可能性に気づかされる、そんな稀なマンションだった。

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年月とともに、より里山と一体化していくに違いない

構成・取材・文/保倉勝巳 撮影/中垣美沙

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