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所在地:神奈川県平塚市
竣工年:1983年
総戸数:131戸
竣工から36年経つ「平塚ガーデンホームズ」は、“自然との共生”という言葉がふさわしいマンションだ。
東を見ると、そこ広がるのは花水川ののどかな眺め。花水川とは神奈川県中西部を流れる金目川の下流についた愛称だ。釣り糸を垂らせば、アユ、ハゼ、ウナギなどが上がり、土手の桜並木は花見の名所としても知られている。
南に控えるのは、湘南のシンボルである相模湾だ。“平塚砂丘の夕映え”は平塚八景の一つ。海岸を散歩したり、ランニングしたり、もちろん、サーフィンや海水浴も満喫できる。
そして、西に目を転じれば、高麗山(こまやま)の勇姿を拝むことができる。「21世紀に残したい日本の自然100選」にも選ばれた名山であり、山頂一帯は高麗山公園として整備されている。


三方を川、海、山に囲まれた自然環境だけでも目を見張るものがあるが、マンションに足を踏み入れてさらに驚いた。森のなかに建てられた瀟洒(しょうしゃ)なレジデンスとでもいおうか。約1万m2の細長い敷地には2つの住棟が向かい合わせに立ち、その周りを数え切れないほどの樹木や草花が埋め尽くしている。クスノキ、ケヤキ、エノキなどの高木もあれば、ヤマボウシやエゴノキといった中低木もあり、紫陽花、水仙、バラなどの花も四季折々に咲き誇る。小鳥の囀りを耳にしながら石畳のアプローチを歩くと、日常のせわしなさが一気に吹き飛んでいく。



そんな緑溢れる空間をより豊かにしているのが水のせせらぎだ。管理室の前には鯉が泳ぐ池があり、小川のような水路もつくられている。
「池や水路に流れているのは井戸水です。敷地内には4つの井戸が掘ってあり、そのうち2つから1日約10tの水を汲み上げています。最近は少し減ってきましたが、サワガニも棲みついているんですよ」
そう教えてくれたのは、竣工時からこのマンションで暮らす管理組合理事長の稲葉さんだ。

緑の仕掛けは、各住戸を行き来する階段にもちりばめられていた。
「このマンションはエレベーターがなく、住戸までは外階段を使うのですが、途中にさまざまな空中庭園がつくられているんです」
そう話す理事長の案内で、早速、階段を上がってみると、ひょっこりと緑の空間が出現。階によって緑の見え方が変わるのが楽しく、おのずと足取りも軽くなる。ちなみに、階段は段差が低くステップが広いので、お年寄りでもラクに上り下りしているそうだ。

加えて、奥行き2.4mもの広いバルコニーでは植物を育てる住人も多く、それもまた目を楽しませる。どこに視線を向けても緑がある環境は、うらやましいのひと言だ。


「都心まで電車で1時間半程度なので通勤は十分可能ですが、竣工当初は別荘として所有する人が多かったんですよ」
と理事長。確かに、敷地の内外にこれだけの自然があれば、リゾートマンションと名乗っても違和感はないだろう。
マンションを設計したのは、SUM建築研究所(現:サムデザイン)の井出共治氏。「里山を残しつつ、そこに溶け込むマンション」を手がけてきた井出氏の設計は、長い歳月を経て植栽が成長したときに本当の意味での完成形となる。
この物件もしかりだ。今ある圧倒的な緑は、植物の成長の証であり、それは設計者の想いを受け継ぐ住人たちが大切に守り育ててきたものだ。
その主体となるのが、理事会と、約20名の住人ボランティアで構成される庭園委員会である。
委員会発足のきっかけは植栽からのSOSだった。竣工から20年ほどが経ったころ、木々が弱って枯れてしまったり、強風で倒木したりという事態に見舞われたのだという。
委員長の近藤さんは当時のことをこう振り返る。
「もともとここは土壌が痩せていて、植物が育ちやすい環境ではありませんでした。加えて、そのころ、依頼していた心ない造園業者によって多くの木がバッサリと切られてしまい、そのダメージから根がすっかり弱ってしまっていたんです。そこで、植栽の管理の方法を見直そうという話が持ち上がり、住人主導で進めていくために庭園委員会が組織されたんです」

同時に、造園業者の見直しも遂行された。新たに植栽の管理を託されたのは、空師である「佐野森業」の佐野大介さんだ。空師とは、高木に登って木の剪定をする職業。全国でも30人ほどしかいないという、その空師の1人である佐野さんは、神社、保育園、商業施設などの植栽の剪定を任されるスペシャリストだ。
理事会と委員会がオーダーしたのは、人間の都合ではなく自然に寄り添った植栽の管理。イメージとしては雑木林のような環境づくりだ。それは自身のポリシーにも合致していたと佐野さんはいう。
「僕が心がけているのは、木の声を聞きながらできるだけ自然のままに剪定をすること。木漏れ日が差し込み、そよ風が通るような心地いい環境をつくれば、人間にも、その下にいるすべての生き物にとっても暮らしやすいんです」

事実、佐野さんに依頼してからは、木々が生き生きと息を吹き返し、緑の輝きも増したという。鳥や虫の鳴き声が喧しく聞こえてくるのも、まさにそうした管理の賜物といえるだろう。
もう一つ、このマンションで特筆すべきは伐採した木を循環させる取り組みだ。通常は廃棄してしまう幹や枝を細かいチップにして土に還す。すると土壌が肥えて樹木が丈夫に育ち、同時に雑草を抑えることもできる。こうした取り組みをしているマンションは非常に珍しいそうだ。

もちろん、このマンションの魅力は緑だけにとどまらない。
目を引くのは住居棟の配置だ。4~6階建ての建物がそれぞれ独立しながら階段によって雁行型に連結し、横に長い1つの棟を構成している。
1号棟と2号棟の間には渡り廊下のようなスペースがあり、唯一の共用施設である集会室がここに置かれているのもユニークだ。




住戸の広さは100m2前後が中心。間取りは23タイプとバラエティに富み、どの住戸も窓が大きく取られているため、たっぷりと光が差し込んで周囲の緑をリビングから満喫できる。
では、実際、マンションの住み心地はどうなのだろう。理事長の稲葉さんと庭園委員会委員長の近藤さんに、一住人としての感想を伺ってみた。
「そもそも僕がこのマンションを選んだのは、自然の中で子育てしたいと思ったから。その子どもたちが巣立った現在は妻と2人暮らしですが、緑に囲まれたのどかな生活を満喫しています。私は海岸までウォーキングしたり、妻は周囲の自然の景色を絵にしたり。わが家は窓から高麗山が見晴らせるのですが、季節や天候で山の景色はさまざまに変わって見飽きることがありません」(理事長)
「外出先から帰ってきたとき、木々の緑が見えるとほっとしますね。バルコニーで植物を育てている人は多いですが、うちの場合は少しだけ。外に緑が見えるからそれでいいかなって(笑)。家にいながらリゾート気分が味わえるから、連休があってもわざわざ遠くまで旅行しようという気にならないんです」(委員長)




理事長によれば、植栽の管理を佐野さんに一任しているのと同じように、他の部分についても信頼できる業者に任せていく方針が打ち出されているという。
「例えば、石畳ならこの業者、階段はこの業者というように固定して、同じやり方で保全していけば、このマンションならではの価値は先々も維持していける。いわば専門性の高いホームドクターをつけるようなイメージです」
現在、居住者の顔ぶれは半分ほどが入れ替わり、幼い子どものいるファミリー世帯が増えているというが、そんな第二世代の子どもたちにとっても、緑あふれるマンションはふるさとの景色として心に刻まれていくことだろう。

※物件の状況によって、空室情報がない場合もございます。
この記事は2019年9月12日に公開された記事を転載したものです。掲載内容は取材当時の情報です。細心の注意を払って情報を掲載していますが、当該情報について内容の正確性・最新性・信頼性・合法性等につきましては保証できかねますので、ご自身の責任で本ページをご利用ください。
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