横浜港と公園を抱いて立つ30階建てのツインタワー
横浜港に面して広がる横浜みなとみらい21地区。1980年代にスタートした再開発により、横浜ランドマークタワーや横浜赤レンガ倉庫をはじめ横浜のシンボルが顔をそろえる人気エリアに発展している。
この地区にタワーマンションができたのは2000年代になってから。2003年竣工のM.M.TOWERSを皮切りに分譲が相次ぎ、多数のタワーマンションが立ち並んでいる。
訪問先は「ブリリアグランデみなとみらい」。2007年に竣工した地上30階建てのツインタワーマンションである。
寄り添うように立つ2棟は、横浜港に面した棟がオーシャンフロントタワー、広々とした高島中央公園に面しているのがパークフロントタワー。住民の間ではオーシャン棟、パーク棟と呼ばれている。エントランスはそれぞれ独立しているものの2層吹抜けのロビーでつながり、建物内で行き来できる構造がユニークだ。
タワーマンションといえば充実した共用施設が魅力だが、このマンションもしかりだ。オーシャンフロントタワーには横浜港とベイエリアの街並みが一望できるビューラウンジ、読書が楽しめるライブラリーコーナー、パークフロントタワーにはキッチン付きのパーティーラウンジなど実に多彩。2棟それぞれ29階に屋外空間のスカイガーデンも設えられている。
住民の力を活かして幅広いイベントや講演会を開催
こうした共用施設を利用して活動をしているのが、住民有志によって立ち上げられた「ブリリアみらいコミュニティ」だ。
設立したのは2017年。管理組合はマンションに住む全世帯の加入が法律で義務付けられているが、「ブリリアみらいコミュニティ」は加入自由の任意団体だ。とはいえ、サークルとは異なり、全世帯を対象に毎月さまざまなイベントや講演などを企画し、マンションのコミュニティづくりを推進している。
活動の中心を担う会長の松本道雄さんに、まずは活動の様子から聞かせてもらった。
「イベントや講座は夏休みラジオ体操、七夕サロンといった子ども向けの企画から、エンディングノートの書き方など高齢者の方に向けた企画までいろいろです。555世帯もあると何かに秀でた方がいて、例えば、物理学を専門とする大学の名誉教授に宇宙と原子力というテーマで講演をしてもらったこともありますし、歌舞伎に詳しい方に動画を観ながら演目の解説をしてもらって、その後、一緒に観劇に行ったこともあります」
多彩なプログラムのなかで、定番化している人気イベントが食事サロンだ。参加者はエプロンをつけてパーティーラウンジに集合。ワイワイとみんなでつくってみんなで味わう楽しい企画だ。
「子ども食堂を開いている知人から『みんなでつくるプロセスが楽しい』と聞いて発案しました。普段は1人で食事をしている高齢の方にも好評ですね。テーマは毎回替わり、中国出身の方の指導で皮から水餃子をつくったり、料理教室の先生をされている方にクリスマス料理を教えてもらったり。ご夫婦で参加された方から『今度は男だけでやろうよ』という声が挙がって男の食事サロンも立ち上げました」
こうしたイベントや講座に加えて、今年から「ブリリアみらい ネイバーズ・サポートプログラム」もスタートしている。
ネイバーズとは英語でご近所さんという意味。電球の交換や掃除・買い物の手伝い、スマホの使い方など生活のちょっとした困りごとをマンション住民がサポートする取り組みだ。
「依頼者とサポーターのマッチングはLINEのトークルームで行います。お互いに気を使わないで済むよう30分600円の利用料を設定して、サポートしてくれた方にお支払いします。今後はこのトークルームを不用品の交換や災害時の情報共有などにも役立てていきたいと考えているんです」
防災体制の整備から立ち上がったコミュニティづくり
「ブリリアみらいコミュニティ」は会員制の組織ではあるものの、イベントや講演会などは居住者なら誰でも参加大歓迎。参加費がかかるものもあるが、1回数百円程度に抑えられている。
「任意団体なので管理組合からの補助はなく、行政の助成金と会員からの年会費が活動資金です。年会費は1世帯当たり1000円で、会員になるとイベントの参加費が半額になる特典をつけています。もちろん、運営側に回ってイベントの企画することもできますよ」
会員数は現在94世帯で、加入率にすると約17%。少ないと思うかもしれないが、2017年の立ち上げ当初は40世帯・約7%だったというから倍以上に増えたことになる。地道な活動が徐々に浸透し、評価されているのだろう。
そこで気になるのはこの団体を立ち上げた理由だ。
管理組合の理事ですら自分から手を挙げる人は少ないのに、なぜわざわざ手間のかかることを始めたのだろう。
松本さんによれば、きっかけは東日本大震災。防災体制の整備が管理組合の火急の課題になった。平時からの住民交流はいざというときに支え合う力になると考えていた松本さんは、発足した防災委員会の委員長に就いてコミュニティを含む5つの柱で災害時行動マニュアルを策定したのだという。
「ただ、コミュニティというのは漠然として、マニュアルに落とし込むことができなかったんです。そこで防災とは切り離す形でコミュニティ部会をつくったのですが、管理組合は公平性を重視するのでイベント一つ開くにも制約が多い。だったら管理組合から独立した任意団体として活動していこうと部会のメンバーで話し合って決めました。当初は僕らの活動に否定的な意見もあったのですが、最近は『みらいコミュニティのような団体なら共用施設を使ってもいい』と言ってもらえるようになりました。3年間の活動で住民のみなさんの信頼が得られたと実感しています」
今後は自治会として地域コミュニティにも貢献
取材した2月の時点で、「ブリリアみらいコミュニティ」は一つの目標を掲げていた。それは自治会への移行だ。
防災を考えるとき、近隣のマンションとの連携や地域一丸となった取り組みは不可欠になる。行政に要望を出す場合も、マンション単独より地域で声を挙げたほうが届きやすいだろう。
「この地域では、3年前に5つのマンションによる『みなとみらいマンション連合会』が立ち上げられ、分科会として『みなとみらいマンション防災・減災協議会』も発足しています。自治会として承認されれば、そうしたマンション外の活動にも積極的に参加していける。ただし、自治会になったからといって、加入率17%の団体がこのマンションの代表というわけにはいきません。委員の推薦や住民としての意思決定をするときは管理組合に承認してもらい、我々は対外的な窓口としての役割を請け負う。そうやって管理組合とうまく連携していけたらと思っています」
もちろん、コミュニティ以外にも地域が一つになるメリットは多い。例えば、地域の課題として挙がっているのが、災害時の防災拠点がないこと。行政に掛け合ってもつくるのは難しいとの回答だったという。
「これはあくまでも僕の頭の中だけにある話ですが、広いスペースがあり災害用地下給水タンクが設置されている高島中央公園にカフェを併設した地域のコミュニティ拠点を誘致して、災害時はそれを防災拠点として機能させたらどうかと。みんなが使う公園であれば、認知度も高く人々も集まりやすい。住民と企業とでWin-Winの関係をつくりながら、地域のコミュニティと防災力を上げていく。そういう提案を地域が一体となってしていければ、もっともっと魅力的な街になっていくと思います」
聞けば、松本さんは公園で近隣住民のコミュニティを育む「高島中央公園愛護会」の会長、「認定NPO法人市民セクターよこはま」の副理事長、「NPO 法人横浜プランナーズネットワーク」のまちづくりコーディネーター、「横浜市公園公民連携推進委員会」の委員などいくつもの組織で幅広く活動をしている。そのなかで得た知見や人脈は、マンションや地域のコミュニティづくりに大いに役立っているそうだ。
「実は、このマンションに入居するまで地域活動にはまったく関心がなかったんです。契機になったのは隣に高島中央公園があったことですね。ここは新設された公園で、防犯面から目隠しとなる低木がなく彩りが乏しく、子育て世代が住むことを想定していないので遊具も少ない。マンションのすぐ隣にある公園を住民目線で楽しめる場所に変えていきたいと、「高島中央公園ガーデニングクラブ(高島中央公園愛護会の前身)」としてヨコハマ市民まち普請事業の助成を受けて、花壇、砂場、藤棚などを整備しました。花壇づくりや園路の舗装などを子どもたちも交えて近隣の人たちの手で行ったのですが、それがとても楽しかった。マンションや地域にはこういうコミュニティが必要だと感じて、管理組合や地域の活動に関わるようになったんです」
「マンションの購入で人生が大きく変わりました」という松本さん。では、ボランティアでマンションや地域で活動するモチベーションはどこにあるのか。
「自分1人ではできないことでも、誰かと協力すれば実現できるところですね。1+1が3にも5にもなる。笑顔で参加している姿を見たり、顔を合わせたときに「いつもありがとう」と声を掛けてもらったり、普段の仕事とは違う喜びや楽しみが得られるんです。それにマンションや地域がよりよくなれば、自分自身の暮らしの満足度も高まりますよね」
そんな話を聞いてからおよそ2カ月後、管理組合及びブリリアみらいコミュニティの総会で自治会設立に関する議案が承認され、横浜市への届け出を行ったという朗報が届いた。
現在はすでに自治会として、新たな一歩を踏み出している。
これからも住民の想いを受け止めながら、マンション、そしてみなとみらいにコミュニティの大きな輪を広げていくはずだ。