コロナ禍で在宅時間が長くなったこともあり、自宅で「観葉植物」を楽しむことに関心を持つ人が増えているようです。しかし興味はあっても、マンションで暮らしていると日当たりやスペースなどの都合もあって「うちで植物を育てるのは難しいかも」と感じている人は少なくないかもしれません。もしくは過去に枯らしてしまった経験から、何となく手が出しづらい、ということもあるでしょう。
レンタル撮影スタジオを運営するSHINPEIさんは、都内のマンションで100を超える植物とともに暮らしています。部屋には森のような空間が広がり、さまざまな形、大きさの植物がありながら雑多な雰囲気にならず、古いマンションに合わせてコーディネートしたというレトロなインテリアと絶妙にマッチしています。
今回はそんなSHINPEIさんに、ご自身の部屋のこだわりと、意外と簡単なマンションで植物を飾る際のポイントなどについて伺いました。
生きたインテリアとして、植物を楽しんでみる
──すごい数の植物ですね。しかも、ただ数が多いだけではなく、しっかりインテリアとなじんでいます。
SHINPEI:僕は植物も好きですが、それ以前にインテリアが好きなんです。どちらかというと、植物は「インテリアを構成する要素の一つ」という考え方ですね。だから、部屋をつくるときも先に家具の配置を決めてから、植物をどこに飾るか考えていきます。
植物ありきで考えてしまうと、人間が暮らしにくくなってしまう。あくまで、人の暮らしやすさを優先した家具の配置、生活の動線を重視して、空いた部分を植物で埋めています。
──これだけの植物があるから、てっきり「自分は二の次。植物優先」という感じなのかと思っていました。でも、確かにそれってすごく大事なポイントですね。
SHINPEI:そう、これだけの量があるので、植物のスペシャリストみたいに思われがちなんですけど、僕は植物自体にめちゃくちゃ詳しいわけじゃないんです。もともとはインテリアが好きで、植物も“生きたインテリア”という感覚で捉えていました。
それで、気に入ったものをどんどん飾っていくうち、こんなことになってしまったという(笑)。でも、最初はそれくらいライトな感覚で始めてみるのもいいと思いますよ。
──SHINPEIさんの部屋には至るところに植物が飾られていますが、特に窓辺やベランダ近辺に集中しています。やはり、大きな窓やベランダがあるマンションのほうが植物を飾りやすいのでしょうか?
SHINPEI:もちろん、日当たりの良い場所に飾るのはセオリーの一つですが、大きな窓やベランダがないからといって植物を育てられないわけではありません。日陰を好む植物もたくさんありますし、その植物にとって心地よい環境であれば問題ないと思います。
──極端に劣悪な環境でなければ、過度に神経質になる必要はないのでしょうか?
SHINPEI:植物にもよりますが、基本的にはそうですね。
もちろん、生育期にはベランダに出してあげたり、風通しの良い場所に移動させてあげたり、愛情を注ぐにこしたことはありません。ちなみに、僕はたまに玄関の扉と部屋の奥の窓を全開にしています。すると、部屋の中に風が通り抜け、植物にとっても人間にとっても心地いいんですよ。
飾りたい場所を決めてから、そこに合う植物を選ぶ
──部屋に植物をかっこよく飾るポイントを教えていただきたいのですが、SHINPEIさんが意識していること、あるいはルールのようなものはありますか?
SHINPEI:いくつかありますが、まずは植物を買ってから置き場所を決めるのではなく、置く場所を決めてからショップに行くこと。僕の場合、「部屋のこのスペースが空いているから、何か飾りたいな」と思ったときにお店へ行き、その場所に合いそうな植物を探すようにしています。そのほうが、インテリアになじみやすい気がしますね。
たまに、一目惚れした植物を衝動買いしてしまうこともあるのですが、そうすると置き場所に困ることが多いです。
──確かに、お店で見るのと自分の部屋で見るのとでは、植物の印象も違いますよね。お店ではバッチリ決まっていたのに、部屋に置いてみたらマッチしないことって結構ありそうです。
SHINPEI:あとは、部屋の中で植物を飾るコーナーをいくつか決め、そこに数種類の植物をぎゅっとまとめて「島」をつくることも意識しています。
SHINPEI:「島」をつくるときには、はじめにシンボルツリー的な比較的背が高く大きめの植物を置き、それを軸に周りをダウンサイジングした植物で固めていくと、バランスよくまとめやすいです。シンボルツリーは大き過ぎても飾りにくいので、部屋の天井高の3分の2くらいを上限に。
その周囲に飾る植物はスツールを使って高さを変えたり、ワイヤーバスケットを使ったりすると、立体的に見えてオススメです。
あとは、葉の形や色味が異なる植物をいくつか混ぜたりして、バリエーションをつけるのもいいですね。ただ、ここはあまり計算せず、自分の感覚のまま飾るのがいいと思います。
それから、ベランダがある場合は、ベランダ部分だけでなくその開口部周りも植物で飾ってあげるといいですよ。植物のレイヤーができるので、鬱蒼(うっそう)とした森のような雰囲気が出ます。
──天井や窓辺からハンギング(吊るす)して飾るときのポイントはありますか?
SHINPEI:当たり前ですけど、生活の邪魔になる場所には吊るさない、ということですね。
僕の場合は、リビングのローテーブルの上にある照明の配線器具にダクトレールを付け、シンプルなランプと一緒に「ビカクシダ」を吊るしています。
存在感のある植物なので、上から吊るすと部屋の“ジャングル感”が増すんです。
──ちなみに、鉢については何かこだわりがありますか?
SHINPEI:一番好きなのはシンプルな「素焼き」のものですね。あまりゴテゴテした鉢だと、植物が映えないので。
大きな植物やベースとなる植物の鉢はベーシックな素焼きを選び、たまにアクセントとして変わったデザインのもの、工芸品のような表情のあるものなんかを入れるようにしています。
初心者にオススメ、丈夫で育てやすい4つの植物
──初心者が最初に育てるなら、どんな植物がオススメでしょうか?
SHINPEI:先ほども言ったように僕は決して植物自体に詳しいわけではないのですが、5年間いろんな植物を育ててきた中で感じた「丈夫でオススメしやすい植物」を4つ挙げたいと思います。
まずは「フィカス」。別名“ゴムの木”です。フィカスの中にもいくつかの種類があるのですが、どれも丈夫で育てやすいですよ。水枯れにも強く、見た目もかわいい植物です。葉の形が種類によって異なるので、自分の好みのものを選んで問題ないと思います。
次に、フィロデンドロンという植物の「シルバーメタル」という品種。その名の通り、シルバーとブルーがかった葉っぱが特徴的です。さほど光がない場所に置いても問題ないですし、僕が育ててきた中では最強クラスの丈夫さかもしれない。
3つ目は多肉植物から、ユーフォルビアの「大雲閣」ですね。まるで彫刻のような存在感があって、単体でポンと置いても絵になります。空間にアクセントをつけたいときに、一つあるといいと思いますよ。ちなみに、僕はキッチンの横に置いています。水は月に1度あげるくらいで十分です。
4つ目は、先ほどもお話しした「ビカクシダ」。ハンギングして飾るのがオススメですね。これ一つだけでも、ものすごく存在感がありますよ。
こういうハンギング系は、水やりのタイミングが分かりやすいんですよ。持ってみて軽くなっていればあげればいいので。僕はシンクに持っていって、底穴からこぼれるくらいの気持ちでジャバジャバあげています。
──とりあえず、この4つがあれば、かなり部屋の雰囲気が変わりそうですね。
SHINPEI:変わると思います。フィカスをシンボルツリーにして、シルバーメタルは棚の上に。大雲閣はどこか目立つ場所に単体で飾り、ビカクシダを上から吊るす。それぞれ特徴があってバリエーションも出るし、バランス的にもちょうどいいんじゃないでしょうか。
──まずはこのあたりから入り、無理のない範囲で少しずつ増やしていけばいいでしょうか。
SHINPEI:そうですね。僕の場合もまずは育てやすいものから入り、徐々にいろんな植物を増やしていきました。正直、枯らしてしまったことも何度もありますが、そうした失敗を経て少しずつ学んだんです。
今では初めて出会う植物でも、葉っぱを見れば何となくの傾向は分かるようになりました。「この葉っぱの感じはアレに近いから、こうやって育てればいいな」と。見た目や系統が似ているものは、育て方の傾向も似てくるのでイメージしやすいですね。
──ちなみに、お店で植物を選ぶ際のポイントはありますか?
SHINPEI:迷ったら、素直にお店の人に相談してみるのがいいと思います。僕の場合は「ここに行けば間違いない」というお店が3つあって、練馬区の「オザキフラワーパーク」、南青山の「SOLSO PARK」、二子玉川の「PROTOLEAF」。それぞれ特徴があり、品揃えも異なります。このどこかに行けば、おそらく好みに合うものが見つかると思いますよ。
ただ、お店で買うときは植物の「サイズ感」に注意してください。お店に展示されているときはちょうどいいサイズに見えても、部屋に置くと意外と大きかったりするので。できれば、メジャーを持ってお店に行くといいと思います。
植物は「自分の生活の状態」を示すバロメーターでもある
──これだけの数の植物があると、水やりだけでも相当な時間がかかりそうです。手入れをサボりがちになったりはしませんか?
SHINPEI:僕の場合は逆に、これだけの数があるからこそサボれなくなるんですよ。一つだけだと水やりを忘れたり、異変を見逃したりしてしまうこともあると思うのですが、これだけの植物に囲まれていると常にプレッシャーをかけられているような状態なんです(笑)。忘れようにも忘れないし、水やりもすでに生活の一部になっているので苦ではありません。
毎日の水やりが面倒という人も、せめて霧吹きだけは欠かさず行うといいと思います。霧吹きをすることで、植物の状態を毎日チェックできます。そこで葉っぱがしなっとしていれば水をやる。手遅れになる前に異変に気付くこともできるので、とにかく毎日観察することが大事だと思います。
──水やりを習慣づけるための工夫みたいなものはありますか?
SHINPEI:僕の場合は、ジョウロではなく2リットルのペットボトルを使っているのですが、水やりが終わったら必ず、翌日分の水を補充しています。そうすると、次の日もそのまま水やりに移行できる。これが、また水をくむところからスタートだと、ほんの少し億劫(おっくう)になると思うんですよね。
ちょっとしたことですが、連続してアクションしやすいルールを作るというか、水やりのリズムが途切れないようルーティーン化するのは、けっこう大事なポイントですね。
──そうやって毎日気にかけてあげることで、さらに愛着も湧いてきそうです。
SHINPEI:そう思います。ただ、愛着を持っていても、やはりたまには枯らしてしまうこともあります。そういうときって、大抵は仕事が立て込んでいたり、生活のリズムが乱れている時なんです。
でもそう考えると、「植物のためにも自分の生活リズムをしっかりキープしよう」という気持ちになります。逆に言えば、植物の状態は自分の生活や心身の状態のバロメーターになるといえるかもしれませんね。
──なるほど。それでは最後にあらためて、インテリアとしての植物の魅力を教えてください。
SHINPEI:植物の魅力は、成長によって姿が大きく変わることです。その成長によって、部屋の景色もどんどん変化していきます。また、飾る場所の光の当たり方によっても葉っぱの伸びる方向が変わったりして、成長が一様じゃないのも面白いところです。
「こう伸びたか。じゃあ今度はこっちに飾ってみよう」とか、「次はこの家具と合わせてみよう」とか、植物の成長によってその都度レイアウトを考えたりするのも、すごく楽しいんですよ。
お話を伺った人:SHINPEI(しんぺい)
都内のマンションで100種類以上の植物と暮らしながら、ハウススタジオ「PLEASE GREEN」「TINY MOUNTAIN」(いずれも三軒茶屋)を運営。また、観葉植物を使ったインテリアスタイリングや育て方、おすすめの音楽、プロダクトなどについてブログで発信している。
Instagram:@shin_pei
Twitter:@shinteriortokyo
ブログ:SHINTERIOR.TOKYO
取材・執筆:榎並紀行(やじろべえ) 編集:はてな編集部