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普段はなかなか意識することがないかもしれませんが、私たちが暮らすマンションなどの集合住宅も、誰かが考えデザインしたものです。
直接住まい手の要望を取り入れながら設計できる個人住宅とは異なり、多くの場合、誰が住むかわからない状態で設計される集合住宅。設計者はどんな思いを込めて、デザインを決めていくのでしょうか? 集合住宅を手掛けた建築家にその思いを伺うシリーズ企画をお送りします。
今回お話を伺ったのは、建築家の三家大地さん。三家さんは45世帯ほどが入居する大規模な集合住宅や、オーナー住戸が付属する長屋型の集合住宅、単身世帯のみが入居するシェアハウスなど、さまざまな種類の集合住宅を設計してきました。
都心の集合住宅だけでなく、戸建住宅の設計も多数手掛けられている三家さんに、集合住宅をデザインする際に重視していることをお聞きしました。

──三家さんが建築を設計する上で大切にしていることを教えてください。
三家大地さん(以下、三家):建築がその場所にどのように立つのか、その建ち方をとても重視しています。特に住宅を設計する場合はそれがすごく重要ですね。「建築の建ち方」が、そこに住む人の街に対する振る舞いを代弁することになるんです。
──「建ち方」とは、具体的にはどのようなことでしょう。
三家:例えば、私が設計した「二子アパートメント」(川崎市)や「上馬アパートメント」(世田谷区)が立っているのは、住宅に挟まれた細い路地が続く先の敷地です。こうした路地空間は、伝統的に路地を共有する家同士の交流の場所となっています。そんな路地と住宅の関係性をそのまま集合住宅の共有通路として引き込むようにデザインしました。
集合住宅が路地を介して周りの住宅とつながることで、その区画が一体化するだろうし、そのつながりが街全体に広がっていくといいなと。その街に住む人たちがそれぞれの住宅の中で閉じてしまうのではなく、皆で一つの街に住む感覚をもてるように設計しています。


──建物の物理的なあり方が、周りを取り巻く抽象的な関係性をつくっていくわけですね。
三家:「建物がどう建つか」によって周りの人たちの距離の取り方が変わってきます。中に入っても良い場所なのか、だめな場所なのか、その意思表示を建物自体が施主に代わって担うわけです。私は敷地境界の内側に閉じるよりも、「広がり」があったほうが住む人や街が「豊かさ」を享受できると考えています。そこに住む人がどこまで「自分の領域」を広く捉えて生きていけるか。「広がり」をいかに建築によって生み出していくのかを、常に意識しています。
──「上馬アパートメント」は、個人の建築家が手掛けるものとしてはかなり大きな規模の集合住宅ですね。ほかの集合住宅の設計と違う点はありましたか。
三家:施主さんからの特別な注文はなく、こちらからいろいろ提案できる状況でした。上馬アパートメントの設計では、「どういう人たちが集まる場所にするか」というのも設計者である私に委ねられていました。20m2くらいの部屋をたくさんつくれば単身の人たちが住むことになるだろうし、40m2くらいだと若い夫婦が中心になるでしょう。その集まり方が一様だったり、どこかの層に集中すると広がりがなく、貧しい場所になってしまうので、できるだけ多様な集合体にしようと工夫しました。

──なるほど。一般的には事業企画の段階でターゲットが決まっていて、建築家がかかわれる機会は多くはないと思います。結果、どのように設計されたのですか?
三家:子育て世帯がいたり、若い単身者がいたり、ゆくゆくは高齢者も住むことを考え、20m2から60m2くらいの間で、さまざまな大きさの部屋をそろえました。
また同じような間取りを積み上げてしまうと趣味嗜好(しこう)が似通った人が集まるので、それも避けたいと思って。基本的にすべての住戸の間取りを違うかたちにしようと設計したので、そこは一番苦労しましたね。
──多様性を担保する取り組みは各分野で実践されていますが、建築では、このようなアプローチが可能なんですね。
三家:上馬アパートメントでは住宅だけでなく、お店も入居させる設計にしました。規模が大きいので、お店や事務所があるかないかで環境が全然違ってきます。実際、事務所がたくさん入っていて、ネイルサロンやエステもあるので単調ではないにぎわいが生まれています。
住むためだけでなくいろんな目的で建物を使う人たちがいる状況が、昔の路地にあったような雰囲気を出してくれると期待しています。一般的な集合住宅では、平日は誰もいなくなるのが普通です。事務所やお店があることで、日中も人の行き来が結構生まれています。そこに広い住戸に住む子育て世代世帯から子どもの声も聞こえてきて、それだけで活気が全然違うと感じますね。

──すごく共感します。建築家としてお仕事をされる中で、そのようなお考えに至ったのですか?
三家:いろんな人が集まるほうが楽しいと考えるようになったのは、過去の体験からですね。思い返してみると、小学校が一番楽しかったなぁと思うんです。中学校に上がると中学受験をした子たちが抜けていって、高校になるとさらに同じような学力同士で集められて、大学はその延長。小学校には家が近いというだけでいろんな人が集められて、とんでもない悪さをする子どもがいたり、すごく頭の良い人もいたり、世の中にはいろんな人がいるんだな、と感じる経験でした。
そんな経験から、似たような人たちが集まることには抵抗を感じますし、均質な集団はまとまりとしてもいびつだと思います。建築を設計する時、空間だけでなく、どういう集まりをつくるか、また多様性のある集まりにいかにアクセスできるようにするのか、を重視して設計したいですね。
──上馬アパートメントを設計する上ではどのような工夫をされましたか?
三家:共用廊下から直接アプローチできる専有バルコニーをいくつも設けました。バルコニーに出てくるモノや住人のアクティビティーからそこに住む人の人となりや暮らしが見えてきて、住人同士のつながりが生まれるきっかけになります。建物内部の通路と建物の前にある路地が連続するようにデザインしているのは、冒頭に申し上げた、路地空間を介して周りとつながる感覚をつくるための工夫です。

──専有部分であるバルコニーと、共用廊下とのつながりがとても開放的ですね。各住戸にはこのバルコニー以外にも玄関があるのでしょうか?
三家:いえ、玄関はつくらずにバルコニーが住戸への出入口になっています。

──それは大胆な計画ですね。実際に使われている様子を見る機会はありますか?
三家:私自身も事務所としてここの一室を使っています。住民の8割くらいが登録しているLINEグループがあって、コロナ禍以前はよく住人同士で飲んだり、新しく入居した人の家に遊びに行っていました。そういう場に顔を出すと設計時の意図が実現されていることが実感できます。
──これまでのお仕事を通じて、集合住宅に対して感じている可能性や課題などはありますか?
三家:同じ世代の人たちをターゲットとする大規模な開発は、社会的なインフラに与える負荷が大きいと感じています。ある一定期間、多くの人が同時に子育てをしたりすると、小学校や保育園に与える負荷が一気に集中しますよね。20年もしたら一斉に小学校から子どもがいなくなるなど、街全体として無理が生じるように思います。
小学校は規模も大きくなかなかほかの用途として使うのは難しいですが、規模の小さい保育園だったら可能ですよね。新しく集合住宅を開発するなら、そこに保育園もつくっておいて、子どもが少ない時期には違う用途で使えるように設計しておくとか、工夫できることはたくさんあると思います。
──設計者が実践できることとしては、どのようなことが考えられますか?
三家:敷地の中だけを考えずに、もっと敷地の外も含めた建築のつくり方を考えていくと、可能性が広がっていくのではないでしょうか。規模が大きい建物が周囲に与える負荷を自覚して、少しでも街にとって良いことが起こせないか、考える視点をもつと良いと思います。
小さなことでも良いんです。例えば「二子アパートメント」では、通風や採光の面で周辺に建つ住宅に負荷が生じないように配置を考えていきました。必要な居住面積に対応して2階建てと3階建ての建物に分けて、できるだけ隣地の庭に影が落ちないように、また通風を遮らないように全体を配置しています。
また施主さんがその土地に以前から住む、近所付き合いもある方だったので、施主さんの住居を道路側に配置して、ご近所さんとのコミュニケーションが取れるようにしています。「上馬アパートメント」でも取り入れた、路地空間と建物内部の共用廊下を連続させたデザインも、周囲との関係から導かれたものです。

1室4畳半の部屋が点在するシェアハウス、「15 Rooms」(世田谷区)でも、周囲への影響を考慮しています。

敷地境界ギリギリまで隣の建物が迫っている環境だったので、ずらっと15戸の個室の窓を並べてしまうと、隣に住む人にとっても嫌だろうなと考えました。そこで45度の角度を付けて個室を配置することで、隣と正対せず少し距離を取れるようにしています。

小規模なものや、戸建住宅であっても、施主の趣味で好きなようにデザインして良いわけではありません。周囲への影響を考慮するのは、どのような建築でも変わりませんね。

──三家さんは、地方を中心に戸建住宅も設計されていますね。地方と東京、一戸建てと集合住宅、どちらも設計の経験がある中で、東京に住むこと、東京の集合住宅をどのように捉えていますか。
三家:東京は本当に土地が高いです(笑)。限られた人しか住めなくなってきている現状は、寂しいことだと思います。一方で住む街としてはものすごく魅力的です。いろんな人が24時間活動し続けていて、活気や活力を感じるし、自分まで元気になる街だと思います。
東京は厳しい条件での設計が求められますが、そんな中でも集合住宅にはまだ可能性があるかもしれません。
建築を建てる際は、行政が定める建物の規模に応じた制限を守らなくてはなりません。敷地境界線から一定の距離を設けることや、建ぺい率の上限が定められているのですが、規模が大きくなるほど要求される空地も大きくなるので、建物の規模と比例するように生活空間に余白が生まれやすくなります。都心であっても集合住宅なら、設計次第で豊かな環境をつくることができる。その点は戸建て住宅とは違うところだと思います。
──これから東京で集合住宅を探す人には、希望のもてるお話です。
三家:建築家としては、いろいろな人に開かれた状態をいかにしてつくっていけるかを考えていきたいです。人がイキイキと暮らしていると感じる街は、そこに住む人の趣味や個性が建物の外側ににじみ出ています。都心になってくるとプライバシーやセキュリティーの関係で、そういったゆるさのある生活が難しくなってしまいますが、建築はそこを助けることができる。住む人の趣味嗜好(しこう)が表に出てくることでいろいろな広がりを生むことは、これまでの仕事を通じて感じてきたことです。そういった広がりから、つながりのきっかけをつくり出せるようなデザインをこれからも考えていきたいと思っています。
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1979年奈良県生まれ。2003年大阪芸術大学芸術学部建築学科を卒業した翌年、西沢大良建築設計事務所に勤務。2012年に独立し、三家大地建築設計事務所を設立。2016年から武蔵野美術大学、2018年から日本工業大学で非常勤講師として教壇に立っている。
公式サイト:三家大地建築設計事務所
この記事は2022年2月15日に公開された記事を転載したものです。掲載内容は取材当時の情報です。細心の注意を払って情報を掲載していますが、当該情報について内容の正確性・最新性・信頼性・合法性等につきましては保証できかねますので、ご自身の責任で本ページをご利用ください。
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