住宅ローンの返済中に、年収が減ったり失業したりで家計が苦しくなり、返済が滞ってしまったらどうなるのだろう。住宅ローンの破綻を防ぐ方法はあるのだろうか。ファイナンシャルプランナーの岡嶋宏明さんのアドバイスも交えながら解説していこう。
自己破産をした人のうち、住宅ローンが原因の人はどれくらいいるのだろう。日本弁護士連合会の2014年の調査によると、破産した人のうち、原因に「住宅購入」を挙げた人は2008年の調査以降増加傾向にあり、2014年は16.05%(1997年調査以降の最大値)となっている。
自己破産の原因となる借り入れや原因はひとつではない。住宅購入を挙げた人の中には、無理な住宅ローンを組んだことが原因の人もいるだろうが、なかには、失業や給料の減少、教育資金などが重なって思いがけず破綻してしまった人も含まれるだろう。
負債原因 | 人数比 |
---|---|
生活苦・低所得 | 60.24% |
保証債務 | 22.42% |
事業資金 | 21.37% |
病気・医療費 | 20.73% |
失業・転職 | 19.84% |
負債の返済(保証以外) | 17.18% |
住宅購入 | 16.05 % |
給料の減少 | 13.47% |
生活用品の購入 | 11.21% |
教育資金 | 7.82 % |
※「2014年破産事件及び個人再生事件記録調査」(日本弁護士連合会)
※全国の各弁護士会を通じて各地方裁判所で破産事件と個人再生事件の確定記録を調査。調査対象は2013年6月1日~11月30日までに申し立てがなされたものから無作為に抽出。破産事件の有効データ数は1240件
多くの住宅ローンでは、返済が滞った場合、契約者に代わってローンを返済する保証会社の保証を受けられることが借入要件になっている。返済ができなくなり、何の対策もとらずに返済分の引き落としができない状態を続けていると、図のような段階を経て、保証会社がローンを借りた人に代わって一括返済することになる(代位弁済という)。
金融機関から催促されることはなくなるが、返済する相手が金融機関から保証会社に移っただけで債務がなくなったわけではない。保証会社に一括返済できなければ、住宅は競売にかけられ、せっかく手に入れた家には住めなくなってしまうのだ。このような住宅ローン破綻を防ぎ、家を失わないようにするためにはどうすればいいのだろう。
返済が苦しくなった場合や延滞してしまった場合、金融機関がどんな対応をとるかはケースバイケース。同じ金融機関でも、住宅ローンを借りている人の事情や金融機関とのつきあいの実績によっても違ってくる。とはいえ、重要なのは
「できるだけ早く金融機関に相談をすること」(岡嶋さん、以下同)だという。
金融機関の窓口で相談することで、返済条件の変更などの対策をとってもらえることもある。病気や失業で一時的に返済が難しくなっているが回復、就業することで家計の改善が予想できたり、将来的に年収アップが見込まれたりなどの場合は、返済期間を延ばすことで毎月の返済額を減らしたり、一定期間の返済額を減らしたりという相談にのってもらえる可能性がある。
「金融機関には行きにくいという人は、全国銀行協会が運営する相談室のカウンセリングサービスを利用するのもひとつの方法です。専門のカウンセラーに無料で相談ができ、希望すれば銀行につないでくれたり、債務整理が必要なら法テラスなどの機関の紹介をしてくれたりします」
全国銀行協会は、国内のほとんどの銀行が加盟している組織。カウンセリングサービスを行っているのは東京と大阪の相談室だが、東京では電話での相談も受け付けているそうだ。
「ここ数年、対応がきめ細かくなっているのが【フラット35】を手がけている住宅金融支援機構です。幾度か延滞すると、『返済のことで、お困りではありませんか?』という内容の、相談をうながすような手紙が送られてくる場合も多いようです。返済で困った際に、引き続き返済が継続できるよう返済方法の変更メニューが用意されており、各地の住宅金融支援機構の支店だけでなく、返済中の金融機関でも相談を受け付けています」
【フラット35】の返済方法の主な変更メニューは下の表の3つ。毎月の返済額を減らしたり、ボーナス返済の割合を見直すものだ。「返済特例」は返済期間が延びることで、利息分が増えるため総返済額が増加する。「中ゆとり」は返済額を減らした期間が終了すると毎月返済額がアップするという注意点はあるが、返済が苦しい時期の毎月の返済額が減らせるメリットは大きい。返済方法変更のための条件など、詳細はホームページでも公開されている。
返済特例 | 返済期間の延長などを行って毎月の返済額を減らすことができる |
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中ゆとり | 一定期間、返済額を減らして返済することができる |
ボーナス返済の見直し | ボーナス返済が負担になっている場合は、ボーナス返済月の変更やボーナス返済と毎月分の内訳変更、ボーナス返済の取りやめができる |
住宅ローン破綻で家を失うことを防ぐ方法はほかにもある。
例えば「貸す」という方法。マイホームを貸したい人の支援を行っている「移住・住み替え支援機構」では、住宅ローンの返済が一時的に苦しくなった人のために「再起支援借上げ制度」を用意している。これは、住宅ローンの返済が厳しくなった人が両親の家などに転居して、マイホームを一時的に賃貸住宅にして、家賃収入をローン返済に充てる制度だ。
「金融機関の住宅ローンの場合は金融機関の合意が必要になるなど、いくつかの条件があります。【フラット35】の場合は得られる賃貸収入に合わせて、毎月の返済額の変更が可能になるなど柔軟な対応をしてもらいやすい制度です」
3年ごとの定期借家契約なので、家計の状況が改善すれば3年後には我が家に戻ることも可能だ。
そのほか、借金を大幅に減額する「個人再生手続」で家を残す方法もあるが、利用するための要件が厳しく、裁判所を通すこともあり時間や手間、費用がかかるなどのデメリットがある。
住宅ローン破綻を防ぐためのさまざまな対策を紹介してきたが、何より大切なのは、途中で返済が苦しくなるような無理な借り入れをしないということだ。
家を買うときには「自分はいくら借りられるのだろう。いくらまでの家なら買えるのだろう」と考えてしまいがち。しかし、いくら借りられるかではなく、いくらなら返せるのかを軸に資金計画を立てなければ、返済が苦しくなる可能性がある。
無理なく返していける金額を出すときに目安になるのは現在の家賃だ。毎月の返済額とランニングコスト(マンションなら修繕積立金や管理費、一戸建てなら将来かかるメンテナンス費で1万~2万円程度)を合計した金額が現在の家賃以下なら、今と同レベルの生活水準を保てそうだ。
毎月の返済額を出したら下の表で借入額を確認してみよう。
住宅ローンの返済中には子どもの教育費や、車の買い替え、古くなった住宅設備の交換など、まとまったお金が必要な時期がやってくる。
「返済スタートから完済まで、いつどんな出費が予想されるかをまとめたライフイベント表をつくることをおすすめします。また、金利が上昇して住宅ローンの返済額が上昇したときに対処できるか、突然の病気に備えるための保険設計は万全かを確認しておきましょう」
せっかく購入した家を手放さないためには、住宅ローンは無理のない金額で借りることが第一。そして、万が一返済が苦しくなった場合にはどんな対策をとればいいかを知っておくことも大切だ。
●取材協力
岡嶋宏明さん
エフピークリエイト代表。1級ファイナンシャルプランニング技術士、CFP。資産運用や生命保険、損害保険の相談業務のほか、北海道金融広報アドバイザーとして学校や地域での金融に関する講演活動も行う