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新築や中古マンションが買えるのか、買えないのか、購入を検討するうえで関心事となるのが、希望するエリアのマンション価格です。長期的な視点での資産価値や、金利を踏まえた資金計画も重要な要素といえます。
そこで本記事では、2024年前半の1都3県における新築・中古マンションの市場動向を解説したうえで、価格の変動や金利、購入のタイミングなど2024年後半から2030年に向けた市場予測を分析します。
不動産経済研究所で分譲マンションの調査業務に携わる松田忠司さんに、データや表面上の現象だけでは読み解けない、新築・中古マンション市場の現況と今後についてお聞きしました。

2024年7月における首都圏の新築マンションの売出価格は、7847万円(前年同月比21.1%減)、中古マンションの売出価格は5049万円(前年同月比10.7%増)でした。
では、2024年1月~6月に、1都3県の新築・中古マンションの価格はどのように推移していたのでしょうか?まずは、データで確認してみましょう。
2024年1月~6月の首都圏における新築マンション供給戸数は、13.7%減少し9066戸でした。上半期としては、コロナ禍による緊急事態宣言の影響が大きかった2020年以来、4年ぶり2回目の1万戸割れです。東京23区と埼玉県で約30%減少したことが大きな要因となりました。
| 供給戸数 | 平均価格 | |
|---|---|---|
| 首都圏 | 9066戸 (△13.7%) |
7677万円 (△13.5%) |
| 東京23区 | 3319戸 (△32.3%) |
1億855万円 (△16.3%) |
| 東京都下 | 877戸 (5.2%) |
5704万円 (1.7%) |
| 神奈川県 | 2162戸 (10.6%) |
6188万円 (7.7%) |
| 埼玉県 | 891戸 (△31.2%) |
5161万円 (2.8%) |
| 千葉県 | 1817戸 (19.8%) |
5831万円 (22.3%) |
出典:不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向 2024年上半期(1~6月)」
平均価格は、東京23区が16.3%下落したこともあり、首都圏全体では7677万円でした。しかし、東京23区は平均価格が2年連続で1億円を突破しています。
では、これらのデータからどのようなことが読み解けるのか、松田さんに詳細をお聞きしました。
「首都圏の平均価格が、前年同月比で約13%減少したことについて、東京23区が影響しているのは事実です。しかし、これは2023年上半期に三田エリアの三田ガーデンヒルズや浜松町のワールドタワーレジデンスなど、高額マンションの供給があった反動が原因でしょう。特殊な要因による落ち込みだと見ています」(松田さん)
たしかに、2023年1月~6月の東京23区における新築マンションの市場動向では、平均価格が1億,2962万円、前年同月比で60.2%と大幅に上昇していました。
出典:不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向 2023年上半期(1~6月)」
さらに、東京23区の供給戸数の減少は、2023年に新築マンションが積極的に供給され、継続して販売される物件が少ないことや、2023年6月~2024年3月の着工数が用地取得の難しさと相まって減っていることなどが、大きな要因となっているそうです。
「一方で、東京23区以外で平均価格が増加しているのは、人件費や資材費など建設コストの上昇と、用地取得費の高騰によるものです。この傾向は首都圏全体で今後も続いていくと考えています」(松田さん)
働き方改革関連法の一つ「時間外労働の上限規制」の猶予期間が2024年4月に終了したことで、建設業の「2024年問題」といわれる人材確保や人件費の問題は避けられない状況のため、コストと工期に大きな影響を与えそうです。
2024年4月~6月の首都圏における中古マンションの市場動向を確認すると、神奈川県の成約件数が前年同期比でわずかに減少している以外は、1都3県で前年同期比が伸びていることがわかりました。
| 成約件数 | 成約平米単価 | |
|---|---|---|
| 東京都区部(23区) | 4301件 (10.1%) |
114.82万円 (8.3%) |
| 東京都多摩 | 865件 (7.3%) |
54.04万円 (6.6%) |
| 神奈川県 | 2082件 (△0.7%) |
59.22万円 (8.7%) |
| 埼玉県 | 1023件 (8.5%) |
42.44万円 (3.0%) |
| 千葉県 | 1084件 (3.2%) |
40.28万円 (8.2%) |
東京都区部(23区)は、成約件数が前年同期比で2桁増、首都圏全体に占める比率は46.0%です。
成約平米単価は46四半期連続で前年同期を上回っており、中古マンションの購入戸数、価格は、上昇傾向が続くと思われます。
「中古マンションは、新築マンションの価格上昇の影響を受けるほか、良質な住戸の品薄感があります。特に、東京23区は誰も手放さないのではと感じるほど品薄なので、価格が一段上がる可能性はあるかもしれません。
そのほかのエリアの動向は読みにくい状況ですが、ニーズに合わない物件の在庫が積み上がると価格は頭打ちになることも想定されます。
ただ、売出価格(登録価格)より成約価格(取引価格)のほうが高いため、質の良い中古マンションが出てくれば、短期間で売れる状態がしばらく続くと思われます」(松田さん)
全体的に首都圏はマンションの品薄が続いており、条件の良い物件は短期間で売買が行われています。
マンションの価格がいつ下落するのかに関する予想は難しいため、気に入った物件が見つかった場合は、早めの決断が大事となります。
出典:東日本不動産流通機構(東日本レインズ)「季報 Market Watch サマリーレポート 2024年4~6月期」

マンションの価格は社会情勢によって大きく変化します。
では、具体的にどのような要素が影響を与えるのか、価格を判断するときの材料として押さえておきましょう。
まずは、新築マンションの価格変動にかかわる要素を3つ解説します。
マンションを建設するための用地取得が容易であれば、価格に大きな影響はありません。しかし、エリアによってはまとまった用地がなく、希少性が高まることで価格が高騰する可能性があります。
「新築マンションの価格上昇は、用地取得費の高騰が一因です。用地の取得が難しくなると、着工数や供給戸数に影響を与え、価格にも反映されます。
用地の争奪戦が激しい時期もあり、2024年3月まで東京都内の着工数は下落傾向でしたが、4月以降は少しずつ伸びているので、まもなく解消されると思われます」(松田さん)
日本では、マンション建設に必要な鉄鋼材や木材などの多くを輸入に頼っています。輸入製品は為替の影響を受けやすく、円安になることでマンションの価格に影響を与えます。
「為替の影響もあり、建築資材の上昇は首都圏全体で起こっています。しかし、金利が上がることで円高方向に振れれば、建築コストを多少抑えられる可能性もあります。
建築コストの高値が変わることはないと思いますが、さまざまな要素を複合的にとらえることも大切です」(松田さん)
マンション価格の高騰の要因として、人手不足による人件費の上昇も挙げられます。ICT技術やロボット技術の導入により作業効率を上げる事例もありますが、課題解決は難しいのが現実です。
「人件費は10年ぐらい上がり続けていますが、2024年4月から導入された建設業の残業規制や、週休2日制の導入、物価高などの影響で、さらなる上昇が見込まれています。
また、人材不足は工期にも影響を及し、予定より工期が延びることも起きてています」(松田さん)
中古マンションの価格は、下記の要素を基にして大きく変動します。
築年数については、新築でなくなった瞬間から2割ほど価格が下がり、築20年で底値になるといわれています。ただし、立地条件や建物全体の管理状態が良ければ、高値がつくこともあるため、複合的に考える必要があります。
では、中古のマンション価格は今後どのように推移していくのでしょうか?
「首都圏では、すべての地域で売出価格より成約価格が高くなっています。これは良質な中古マンションが売れているためです。
首都圏では1995年~2000年に新築マンションが年間8万戸ほど供給されましたが、これらがしっかりリフォームされた状態で出てくる可能性があるので、成約価格の高値が維持された中古マンション市場が拡大することも考えられます」(松田さん)
新築・中古マンションに共通する価格変動にかかわる要素を2つ解説します。
2024年前半は日銀の金融政策の変更を受けて、住宅ローン金利がわずかに上昇傾向となりましたが、2024年9月の固定金利については一部で引き下げも行われています。
金利は、景気や物価、為替などの経済状況や金融政策により変動するため、資金計画を考えるうえでも注視が必要です。
「金利の先高感や上昇により、マンションの購入が鈍化するという見方がありますが、そうとは限りません。
例えば、2024年1月~6月の近畿圏における新築マンションの市場動向では、金利が上がっても販売戸数は前年同期比で5.5%増を示しています。
今後、金利はある程度の上昇を見込んでいますが、想定を超える利上げは当面ないだろうと考えています」(松田さん)
出典:不動産経済研究所「近畿圏 新築分譲マンション市場動向 2024年上半期(1~6月)」
2024年上半期の首都圏における新築マンションの供給戸数や、中古マンションの成約件数では、東京23区の首都圏全体に占める割合が圧倒的な比率を示しています。
一都集中による価格の高騰は今後も続きそうでしょうか?
「人口流入の問題も大事ですが、マンションの価格に関しては、どのような世帯や属性層が購入しているかに着目しています。
おもなマンションの購入層の特徴として、世帯収入が1000万円を超える共働き世帯や、富裕層の手前にいる20代~30代のアッパーマス層の増加が挙げられます。
こうした人たちの存在が要因になっている東京23区のマンション人気や需要は、今後も高い水準を維持して価格に反映されると思います。
また、東京23区のマンション価格の高騰を受けて、都心のすぐ近くでありながら価格をある程度抑えられる、千葉県の市川市や浦安市などの隣接エリアのニーズが高まっています」(松田さん)

2024年前半の新築マンションに関して、松田さんから「東京23区の特殊な要因で首都圏の供給戸数や平均価格が下がった」というお話がありました。
では、2024年後半からの価格はどうなるのか、今後の展望をエリア別にお聞きしました。
「価格の予想は難しいですが、東京都全体でマンション価格の上昇トレンドは変わらないと思います。城西エリアと城南エリアの人気に陰りはありませんが、城北エリアと城東エリアにも注目が集まっています。
赤羽(北区)や北千住(足立区)が人気の街となり、十条(北区)の再開発が始まると利便性の高さが再認識され、価格も上がってきています。ただし、城西・城南エリアとの価格差は今後も保たれると思います」(松田さん)
「人気の横浜市は、みなとみらい周辺の大規模な開発が一巡して、安定した価格上昇を続けています。2031年の開業を目指しているテーマパーク「KAMISEYA PARK(仮称)」にともなった周辺の開発にも注目しています。
また、JRと東急線が相互乗り入れしている相鉄線沿線は、以前からの人気エリアですが、価格の上げ幅が大きくなりました」(松田さん)
「新都心周辺の再開発が終わり、浦和美園エリアのマンション開発もしばらくないので、浦和などの人気エリアでは価格上昇が続くと思います。
新しい動きとしては、蕨駅西口の再開発事業が始動しているので、東京23区の城北エリアで探している方々が検討することはあり得ます。同じ目線でいえば、利便性が高い川口駅周辺にも注目したいですね」(松田さん)
「浦安市や千葉市で、規模の大きいマンションが供給され価格を押し上げていて、全体的に上昇基調を示しています。八千代・北習志野エリアでは、価格を少し抑えた物件もあります。
今後は、市川や船橋でタワーマンションやコンパクトマンションの計画が進められているので、東京23区から視野を広げた方々の注目エリアになると思います」(松田さん)

ここまで首都圏の新築・中古マンションの価格について、上昇傾向が続く分析がなされましたが、2024年後半以降でマンション価格が下落する可能性はあるのでしょうか。
仮に下落するとしたら、どのような要因が考えられるかまとめました。
可能性はあります。
ただし、経済状況はさまざまな要因に左右されるため、確実とはいえません。
「マンションが販売不振になれば、値下げをして売り切る動きが起こる可能性はあります。
ただし、1都3県の新築マンションは建設コストが高く、デベロッパーは利便性の高い駅周辺建設することから、供給戸数も限定的なので、価格の下落は現状では想定できません。」(松田さん)
日銀の金融政策の変更で住宅ローンの金利が上昇すれば、購入意欲が減退して買い控えが起こり、マンション価格が下降傾向に向かう可能性はあります。
ただし、金利が徐々に上がる可能性があるとしても、急激な金利の引き上げは行われないのが一般的です。
「ある程度の金利上昇は見込んでおくべきですが、想定を超えるような利上げが行われる可能性はないだろうと思っています。
2024年前半は、東京23区で新築マンションの価格が下がり、金利が少し上昇したことを受けて、一部では“バブルの崩壊じゃないか”という見方が出ましたが、現実はそうした状況にはありません」(松田さん)
政府は、2050年までに温室効果ガスの実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を宣言し、中間目標として、2030年度に温室効果ガスを2013年度比で46%削減することを目指しています。
これを受けて、新築マンションではより高い省エネ性能が求められ、エネルギー消費量を大幅に削減する「ZEH-M(ゼッチマンション)」水準のマンションの建設が増加しています。2030年に向けて、マンション市場に変化は起こるのでしょうか?
「現時点で新築マンションのZEH-M水準への対応は義務化されていませんが、大手のデベロッパーが建設している新築マンションの多くは、ZEH-M水準のマンションです。
すでに価格にも反映されているので、今後義務化されても大きな価格変動は起こらないと思います。
なお、ZEH-M水準は、断熱性能等級5以上の性能が必要ですが、最近ではその基準を上回る断熱性能等級6のマンションが登場しています。
これはデベロッパーごとでマンションの差別化が難しいことから、断熱性能に加えて省エネ設備や再生可能エネルギーの活用などで、良質なマンションであることをアピールする材料にもなっていますね」(松田さん)

これまでのお話では、2024年後半以降、マンション価格が下落する可能性はあまり考えられないとのことでした。では、購入すべきタイミングはいつなのか、松田さんにお聞きしました。
「価格の相場を読む自信があれば、下落のタイミングで購入するのが良いと思います。
ただ、私たち専門家でも、翌年のマンション価格の予測はできません。
もし、下落するまで待つ時間があるのなら“これだ!”という物件が出てきたときに、相場には関係なく購入するのが良いと思います。
また、ライフステージによって優先順位は変わるので、エリアを広げるなど、条件を緩和して再検討してみるのも良いと思います。そして、どこかのタイミングで自分にとって良い物件が見つかったときは動いてみることですね」(松田さん)
2024年前半、首都圏の新築マンションは、供給・価格ともに減少
2024年前半、首都圏の中古マンション価格は上昇傾向が続いた
人件費や資材費の高騰で、首都圏の新築マンション価格は高値が続く
2024年後半、東京23区の城北・城東エリア、東京に近い千葉・埼玉エリアに注目
マンション価格の下落の可能性は低い
ZEH-M水準のマンションが増加。省エネ対策が他社との差別化につながるため
マンション購入のタイミングは、優先順位の上位が満たされたとき
不動産経済研究所 調査部門部門長・上席主任研究員。一貫して分譲マンション市場の調査業務に携わり、毎年春には調査部門から「全国マンション市場動向」を刊行している。