マンションを購入すると支払うことになる修繕積立金。管理費とはどう違い、相場はいくらくらいなのでしょうか。「賃貸マンションで暮らしていた頃はなかったのに」と負担に感じる人もいるかもしれません。でも、修繕積立金はマンションを所有している人にとって、とても大切なもの。この記事では、修繕積立金は何に使われるのか、将来の値上げは必ずされるものなのかなどを解説します。さくら事務所のマンション管理コンサルタント、土屋輝之さんに話を聞きました。
分譲マンションは、それが新築でも中古でも、購入後は定期的に支払いが必要なお金が発生します。ローンを借りて購入したならローン返済額、そのほか、管理費、修繕積立金、固定資産税・都市計画税、駐車場代、駐輪場代、物件によっては専用庭やルーフバルコニー使用料など。このうち、今回解説するのが、「修繕積立金」で、毎月支払うことになります。
マンションの修繕積立金は、定期的に行われる大規模修繕工事など建物や設備の修繕費用に充てられます。
マンションの外壁や屋上、エントランスなどの建物本体や、オートロックやエレベーターなどの設備は、マンションの所有者全員が権利を持っている共用部分。修繕や更新に必要な費用は所有者全員で負担をします。必要な費用はマンションの規模や設備のグレードによって異なりますが、数千万円以上の大きな金額。大規模修繕直前にお金を集めると、一度に支払う金額が大きくなりますから、毎月少しずつ集めて積み立てていく方法が取られます。
修繕積立金は、マンションを所有している区分所有者が管理組合に支払い、管理組合が積み立てています。
管理会社から委託された収納代行会社を通して、口座振替で管理費と一緒に引き落とされるケースが多いため、管理会社に支払っていると誤解されることがありますが、支払い先はあくまでも、区分所有者による組織である管理組合です。
管理費も修繕積立金と同様に、毎月支払うお金です。ただし、使い道が異なります。管理費は、管理員の人件費や清掃費用、設備の点検など、マンションの共用部分の日常的な維持管理にかかる費用に充てられています。
修繕積立金はいくらなのかはマンションの築年数や共用設備の規模、グレードなどによって違いますし、同じマンションでも専有面積が大きい住戸ほど負担する割合は大きくなります。そのため、修繕積立金の金額は選ぶ物件によって異なります。とはいえ、購入後に「毎月こんなに払うなんて!」と慌てることのないよう、おおよその相場感はつかんでおきましょう。
国土交通省が5年ごとに調査・公表している「マンション総合調査」の令和5年度(2023年度)の調査結果によると、1住戸当たりの修繕積立金の平均額は1万3054円(駐車場使用料などからの充当費を除く場合)。前回の調査(平成30年度 マンション総合調査)では、1万1243円でしたから、この5年間で平均額は上昇していることがわかります。
形態別 | ||
---|---|---|
戸当たりの修繕積立金の平均額 | 単棟型マンション | 団地型マンション |
1万3054円 | 1万3041円 | 1万2923円 |
マンションの規模(住戸数)によって、毎月払う修繕積立金の金額は影響されるのでしょうか。
「小規模マンションの修繕積立金は、中規模マンションや大規模マンションに比較して割高になる傾向があります。これは、大規模修繕工事の費用の中に、マンションの規模と比例しないものがあるためです。例えば、エントランスに使用されている自動ドアのモーターを交換する場合、30万円のモーターを100戸で負担する場合と、30戸で負担する場合では、1戸当たりの負担額は小規模な30戸のマンションの方が大きくなります。このような割高なコストが積み重なることで、小規模マンションの大規模修繕費は割高になり、それをまかなうための修繕積立金額も高くなるのです」(土屋さん、以下同)
下は、マンションの総戸数規模別に修繕積立金の月額平均をまとめた表です。確かに、住戸数の少ない30戸以下の修繕積立金額の平均額は高い傾向にあるのがわかります。
総戸数規模別 | m2当たり | 戸当たり |
---|---|---|
20戸以下 | 221円 | 1万6023円 |
21~30戸 | 217円 | 1万5080円 |
31~50戸 | 188円 | 1万3801円 |
51~75戸 | 166円 | 1万2225円 |
76~100戸 | 176円 | 1万2499円 |
101~150戸 | 189円 | 1万3196円 |
151~200戸 | 170円 | 1万2722円 |
201~300戸 | 201円 | 1万2870円 |
301~500戸 | 182円 | 1万2516円 |
501戸以上 | 197円 | 1万4686円 |
階数による相場を見てみても、20階建て以上のタワーマンション(タワマン)よりも小規模な物件が多いと推測できる3階建以下や4~5階建のマンションは、修繕積立金の平均額が高めになっています。
一方、豪華な共用設備や共用施設のイメージがあるタワーマンションですが、突出して高い金額になっているわけではありません。修繕積立金は、共用設備・共用施設などの内容や住戸数によってさまざまな金額が設定されるからです。
階建別 | m2当たり | 戸当たり |
---|---|---|
全体 | 183円 | 1万3300円 |
3階建以下 | 216円 | 1万4231円 |
4~5階建 | 203円 | 1万3864円 |
6~10階建 | 190円 | 1万3637円 |
11~19階建 | 169円 | 1万2626円 |
20階建以上 | 182円 | 1万3834円 |
新築分譲マンションは売り出される時点で、すでに毎月の修繕積立金や管理費が決まっています。いったい、誰が何を根拠に金額を出しているのでしょうか?
「当初の管理費や、修繕積立金、修繕積立金額の根拠となる長期修繕計画、管理規約などは、マンション分譲会社と管理を委託される管理会社、販売会社、施工会社などが集まるプロジェクトによって設定されます。
しかし、引き渡し後は区分所有者によって運営される管理組合が、その後の長期修繕計画や修繕積立金額などを決めるということです。例えば以前は、大規模修繕は10年周期とされていましたが、12年周期に延び、最近では16~18年周期が主流になりつつあります。12年周期で大規模修繕工事をすると60年目に5回目を実施することになりますが、18年周期だと60年目にはまだ実施回数は3回。工事費2回分が安くなり、必要な修繕積立金の算出の仕方も変わってきます」
マンションの大規模修繕や修繕に関わるお金についてもっと詳しく
→マンションの大規模修繕や改修に関する費用・期間・注意したいトラブルなどを解説
→修繕積立基金とは?金額の相場や修繕積立金との違いなどを解説
分譲マンションの修繕積立金の集め方は主に2種類。
一つは「段階増額積立方式」、もう一つは「均等積立方式」です。
段階増額積立方式
毎月の修繕積立金額が段階的に上がる徴収方式。建物や設備の修繕や更新費用があまりかからない新築当初は少ない金額を設定していますが、将来的に増えていく工事費をまかなうために徐々に値上がりが行われます。つまり、築年数が経つほど修繕積立金は高くなっているため、中古で購入すると新築で購入した場合よりも修繕積立金が高い、ということがあるのです(ただし、中古で購入すると修繕積立基金の支払いがない点はメリットです)。
均等積立方式
長期修繕計画に基づいて、今後数十年間で必要になる修繕費用を出し、毎月の負担が均等になるように修繕積立金の金額を決めるのが均等積立方式です。
国土交通省の「令和5年度 マンション総合調査」を見ると、分譲当時の修繕積立金は、平成11年(1999年)完成のマンションまでは均等積立方式が多いのですが、平成12年(2000年)以降に完成したマンションは段階増額積立方式の割合が多く、令和2年以降の完成のマンションでは約8割が、だんだん値上げされる段階増額積立方式となっています。
だんだんと値上がりしていく階段増額積立方式の場合、修繕積立金は将来、いくらになるのでしょうか? 具体的な金額は物件や専有面積によって異なりますが、ここでは、東京都内にある実際のマンションを例に見てみましょう。
下の表は東京都内の新築マンション、専有面積約53m2の修繕積立金の月額です。当初5年間は6390円と低く抑えられていますが6年目からは一気に約2倍の1万2260円に。その後も、5年に1度ずつ増額になり、築26年には2万1320円になる予定です。
築からの年数 | 修繕積立金の金額(月額) |
---|---|
1~5年目 | 6390円 |
6~10年目 | 1万2260円 |
11~15年目 | 1万8650円 |
16~20年目 | 2万250円 |
21~25年目 | 2万780円 |
26~30年目 | 2万1320円 |
ただし、これは直近の長期修繕計画に基づいた必要な費用から算出した金額。定期的に見直される長期修繕計画で、大規模修繕工事の周期が変更になれば、今後の値上がりはゆるやかになるかもしれませんし、修繕工事の人件費や建築資材費、設備機器の価格などが高騰すれば、徴収される金額は予定を上回るかもしれません。
修繕積立金が値上がりしたことで、家計を圧迫し、支払いが苦しくなるケースがあるでしょう。では、修繕積立金を払えなくなった場合、どうすればいいのでしょうか。
「購入後、修繕積立金などが値上がりすることを前提にした生涯設計をどう立てていくか、ということなのですが、マンションを購入した年齢や、何年返済の住宅ローンを組んだのか、退職年齢や、退職後の収入など、さまざまな要素が絡むため、答えを出すのがとても難しい問題です。
一つ考えておきたいのは、定年退職後、そのマンションに住み続けるのかどうか。年金や退職後の収入でまかなえるのか。まかなえない場合は売却して、ランニングコストの安い家に住み替える方法があります。そしてもう一つ、マンションを売却して得た資金で、そのマンションに家賃を払って住み続けるリースバックを利用する方法もあります。都心の条件の良いマンションなら持ち家を担保にしてお金を借りるリバースモーゲージが利用できる場合もあります」
どのような方法が我が家にとって最適か、ファイナンシャルプランナーなど専門家に相談してみるのもいいでしょう。
マンションの修繕積立金値上げについてもっと詳しく
→マンションの修繕積立金の見直しの進め方
→マンションの修繕積立金の相場
修繕積立金が不足すると適切な修繕を行うことができず、建物の劣化が進むなどの問題が生じるケースがあります。では、修繕積立金はいくらあればいいのでしょうか?
「必要な金額はマンションによって異なります。具体的な金額を目安としてお伝えすることはできませんが、長期修繕計画を確認すると、現時点でいくら貯まっていなければいけないかはわかります。その金額を上回る修繕積立金残高があれば、計画通りに積み立てられているということがわかります」
「中古マンションを購入する場合は、不動産仲介会社に依頼して、直近3年間の管理組合総会の議案書、議事録、長期修繕計画書を取り寄せると、管理組合の活動の様子がわかります。売買契約の前に、ご自身で修繕積立金の滞納の有無、滞納率、残高などを確認するか、一定以上の知見をもつマンション管理のコンサルタントに管理組合の運営状況をチェックしてもらうといいでしょう。当社でもマンションの管理状況を専門家が確認する『マンション管理インスペクション』というサービスを行っています」
中古マンションを購入する場合も、現在のマンションに住み続ける場合も、修繕積立金が貯まっていない!という事態を防ぐために、購入前の確認や、管理組合の活動への参加が大切です。
毎月支払う修繕積立金は大規模修繕工事の費用に充てられる
修繕積立金額は分譲当初は安く、段階的に値上がりする段階増額積立方式が多い
定期的に見直される長期修繕計画に基づいて修繕積立金額を決めるのは管理組合の判断
長期修繕計画を確認すると、現時点での必要な修繕積立金残高がわかる