価格も立地も、魅力的な物件が多い中古マンション。
とはいえ、売るにしろ買うにしろ「何となく不安」があるのも事実。
そこで、考えられる不安要素をすべて払拭できるよう不動産のプロに、中古マンションのあれこれを教えていただきました。
メリット、デメリット、注意すべき点を理解した上で賢くお得に中古マンションを売買しましょう。
中古マンションの魅力は何といっても割安感。新築からどれぐらい経てばお買い得な価格になるのでしょうか?個人向け不動産コンサルティング会社を経営する長嶋修さんに、中古マンションのあれこれについて教えていただきました。
「中古マンションの価格は一般的に、新築でなくなった瞬間から当初の建物価格の2割ほど安くなるといわれています。つまり、6000万円の新築マンションが、土地と建物の価格がそれぞれ3000万円だとすると、600万円安くなって5400万円になるイメージ。その後は徐々に値下がりし、築20年で下げ止まるといわれています。首都圏、関西圏の都心部では、2018年あたりから『築5年以内の築浅マンションの価格が新築とほぼ変わらない』という状況が続いています。新築マンションの供給が減ったことで、その分の需要が築浅中古に向かったようです。こういった特殊な事情で相場が変わることもあるので、市場の動向にも注目しておきたいですね」(長嶋さん)
築20年というのは、どういった根拠で出てくる数字なのでしょうか?
「あくまでも市場の平均値です。『20年経てば建物の価値がなくなって土地代だけになる』というわけではありません。不動産の評価は、土地代と建物代をグロスで考えて『これくらいで売れるだろう』と値段がつけられます。その結果が平均して『20年で下げ止まっている』ということ。土地価格よりは高い金額になる場合がほとんどです。ただ、どんなマンションでも20年経てば安くなる、というわけではありません。例えば人気の物件なら築20年を過ぎても下がりにくいですし、人気がないマンションや管理状態が悪ければ、築浅でも安くなります」(長嶋さん)
築20年以降に値段が下がりにくくなるということは、その時が『お値打ち』ということでしょうか?
「どんなものも『価格が落ち切ったところで買う』のが一番お買い得なので、20年がひとつの基準にはなるでしょう。ただ、リーマンショック以降、中古マンションの人気が高まっているため、値下がり率も低くなっています。
その理由として、
ひとつには新築マンションの供給が減っているために、その需要が中古マンションに向かっている、ということがあります。
また、中古マンションをリフォームやリノベーションすることが受け入れられるようになったこと。
そして、住宅ローンが利用しやすくなったことが挙げられます。
今は新築マンションだけに絞り込んで家探しする人はほぼいません。『いい物件なら新築でも中古でもいい』という買い方がされるようになってきたのです」(長嶋さん)
新築マンションの供給が少ない状況が続く限り、中古マンションの人気は今後も続く可能性が高そうです。また、底値になった築20年のマンションなら、購入後に売却することになっても値崩れの可能性が低いので、安心して買えそうですね。
中古マンションは値段が大きな魅力ではありますが、安く買えても長く住めないようでは元も子もありません。「鉄筋コンクリートの寿命は100年」とも聞きます。例えば築20年のマンションを買った場合、あと何年住み続けられるのでしょうか?
財務省が発表している、減価償却資産の耐用年数等に関する省令によると、マンションの耐用年数は47年。また 、「マンションの竣工年から建て替え物件が竣工するまでの期間」を“建て替えられたマンションの寿命”と見なすと、平均寿命は33.4年になる、というデータもあります(2014年 東京カンテイ)。
「それはあくまでも『すでに壊されたり建て替えられたマンションの平均築年数』。人間で考えると、元気に生き残った人が計算されていない平均寿命ということになります。それは本当の平均寿命ではありませんよね。実際に、築40年以上経っても活躍しているマンションはたくさんありますし、国土交通省でも『鉄筋コンクリート造の物理的寿命は117年と推定』すると発表しています(2013年 国土交通省「RC造(コンクリート)の寿命に係る既往の研究例」)。人によっては、120年、150年もつという人もいます。もちろんそれは、工事に手抜かりがなく、欠陥もなく、点検や管理がきちんと行われていて始めて得られる寿命。その場合は最低でも100年もつといわれています」(長嶋さん)
日本国内でマンションが本格的に供給され始めたのは戦後です。ヨーロッパのように、築100年を超えるようなマンションが現役で使われている実績はまだありません。本当の寿命がわかるのはこれからです。
国土交通省によると、2020年現在、築40年超のマンションが91.8万戸存在し、10年後には約2.3倍、20年後には約4.2倍の384.5万戸と急増していくそうです。そのため、今年度からは、「マンションストック長寿命化等モデル事業」という、マンションの寿命を長くする取り組みの支援が始められました。適正な維持管理や、長寿命化のための改修や建替えを、国を挙げて促していこうとするものです。
それ以前から、「住宅ストック化活用型社会」=「いい家を建てて長く住み続けよう」という動きがすでに始まっています。国の後押しを受けることで、マンションの寿命は今後さらに長くなっていきそうです。
「もともとコンクリートという素材は、新築のときが一番弱く、50年かけてゆっくり強くなり、また50年かけて弱くなっていく、という性質を持っています。つまり、コンクリート自体は50年後が一番強い状態だということ。また、例えばマンションのタイルの上にコーティングを施すことで、寿命をさらに60年延ばす、といった新しい技術や工法が次々と生まれています。今すでに築年数が経ったマンションでも、こういった技術で寿命を延ばしていける可能性がある、ということです」(長嶋さん)
コンクリートでできた建物(躯体)は長持ちしたとして、それ以外の部分も100年持つのでしょうか。
「一番大きな問題は『配管』です。1970年代に建てられた築50年超のマンションは、排水管が下の階の天井裏を通っているケースが多く見られます。排水管を交換・移設しようとすると、下の部屋の方に協力してもらう必要が出てきます。下の部屋の天井をはがして、排水管を取り替えさせてもらうのは、実際にはかなり厳しいです。その場合は、自分の住戸の床を一段高くして、その中に新しく給水管を設置するケースが多いようです。もちろん、そうなると天井高は低くなります。また、床のコンクリートに配管が埋め込まれている場合は、コンクリートをはがして交換することになります。その場合は、配管の寿命がマンションの寿命になりかねません。竣工時にどんな工事が行われていて、どのように修繕されてきたかは知っておきたいですね」(長嶋さん)
配管のメンテナンスができるかどうかで、マンションの寿命が大きく違ってくるようです。配管に限らず、マンションが建てられた年代によって主流の施工方法が違うため、チェックしておきたい点は異なります。下の年代別チェックリストも参考にしてみてください。
〇時代背景と特徴
・新耐震基準施工前
〇注意すべき点
・耐震改修や補強工事などがなされているか
・エアコンのスリーブがあるか
・給排水管はどこにあるか
・音の伝わりやすさに問題はないか
・スラブ厚はどれくらいあるか(13~15cm程が中心)
〇時代背景と特徴
・1981新耐震基準制定
・バブル経済を背景にした投資用マンションが登場
・リノベーションしやすくなる
〇注意すべき点
・給排水管はどこにあるか
・断熱材などが使われた物件かどうか
・音の伝わりやすさに問題はないか
・壁や床が薄い、修繕積立金や管理費等の設定が極端に低いなど、この時代の投資、投機用マンションに多い問題点がないか
〇時代背景と特徴
・アウトフレーム工法が登場
・1999年「住宅品質確保促進法」制定、「住宅性能表示制度」スタート
・バリアフリー仕様が増える
・耐震技術が発達
〇注意すべき点
・部屋数を確保するために、一部屋が小さくなっていないか
・天井高に不足がないか(階高がまだ2700~2800mm程が中心)
・スラブ厚はどれくらいあるか(二重床、二重天井になっているか)
・アウトフレーム工法、制振や免震構造が採用されているか
〇時代背景と特徴
・2003年建築基準法改正
・大規模開発・超高層タワーマンションが増える
・ボイドスラブの普及
〇注意すべき点
・梁で囲まれた面積が大きくなるボイドスラブで振動が大きくなり、音が響きやすくなっていないか
・スラブ厚はどれくらいあるか(18~20cm程が中心)
・配管が鉄管から樹脂管に、給湯管は銅管になっているか
耐震基準とは、建築物が最低限度の耐震能力を持っていることを保証する基準のことです。建築基準法によって定められているもので、大幅な改正が行われたのが1981年6月。建築業界などではこの改正以前の基準を「旧耐震基準」、以降の基準を「新耐震基準」と呼んで区別しています。旧耐震基準の中にも新耐震基準のマンション以上に丈夫に建てられたマンションもありますが、新耐震基準のマンションであれば、基本的な耐震性が高く設定されているという安心感があります。
また、マンションの建設には時間がかかるため、1981年6月後に竣工したマンションでも旧耐震基準のものがあるので、この辺りに建てられたマンションは特にどちらで建てられているかを確認しておきましょう。
100年もつと言われる鉄筋コンクリート造なのに、40年ほどで廃墟のようになっているビルやマンションも存在します。「ホントにそんなに長持ちする?」と不安になる気持ちも……。長寿命のマンションと、そうでないマンションの違いはどこにあるのでしょうか?
「築年数以上に寿命に大きな影響を与えるのが、『どんな管理が行われているか』。例えば、建てた後そのまま放置していると、どんなに頑丈な鉄筋コンクリート造の建物でも、50年でボロボロになってしまいます。マンションは、管理組合がしっかり運営されていて、修繕計画が予定通り行われているかどうかで、寿命が大きく違ってくるのです。中古マンションを購入するときは、『修繕積立金がきちんと貯まっているか』『修繕計画が適切に予定され、実際に行われているか』『何かあったときにこまめに修繕されているか』を確認しておきましょう。管理組合が保管している議事録を見れば把握できるはずです」(長嶋さん)
そのマンションに全く関係のない人間が、そのような大切な書類を気軽に見せてもらえるものなのでしょうか?
「アメリカでは、マンション管理にかかわるあらゆる書類を見せてもらい、『納得した』というサインをした上で中古マンションを購入します。しかし残念ながら日本では、所有者以外への議事録の開示は義務付けされていません。開示しているのは、ごくごく少数派。『見せてほしい』といっても渋られるケースがほとんどです。そういうときは『修繕積立金の額』で判断しましょう。
修繕積立金の適正な金額は、m2当たり200円といわれます。専有面積が70m2のマンションなら1万4000円が目安。この金額がしっかり集められていれば、15年ごとの大規模修繕時にお金が不足することはまずありません。マンションの寿命を守ることができるはずです。しかし、例えばこのマンションの修繕積立金が1万円になっていると、毎月4000円のマイナスになり、15年間では一戸当たり72万円が不足することになります。100戸のマンションなら7200万円の不足。「お金がないからきちん修繕できない=寿命を守れない」可能性がでてくるのです。新築時には少しでも買い手が付きやすいように、修繕積立金を低めに設定して販売するマンションもあります。その場合は修繕工事の際に不足分を追加で徴収されることになります。ホームページをつくって情報を公開しているマンションなども出てきているので、そういったマンションなら安心ですね」(長嶋さん)
内見時に、管理の良し悪しを確認する方法はないでしょうか。
「いきなり部屋に入らないで、外まわりから見ていきましょう。タイルが剥がれたり浮いたりしているのに放置しているマンションは要注意。築10年を過ぎると、3~5%のタイルはそのような状態になってくるものも多いので、どう対応されているか確認してみましょう。管理人に『これはいつ修繕される予定ですか』と聞いてみてもいいかもしれません。また、そもそもエントランスが散らかっているようなマンションは問題外。何年も前の掲示物がそのままになっていたり、駐輪場が整頓されていなかったりすれば、推して知るべしです。管理状態が適正かどうかわかりにくいときは、私たちのようなホームインスペクターに頼ってみることもオススメします」
マンションの寿命を左右する条件が、建物の品質や管理以外に何かあるでしょうか。
「どんな人が住んでいるか、住んでいないか、ですね。土地や建物を所有する人が亡くなって、相続時に登記されないまま空室になり放置されるとどうなるでしょう?まず、管理費や修繕積立金が徴収できなくなります。そして、管理が不十分になって劣化が進んだり、管理組合が運営されにくくなる、といった問題が出てきます。居住者の年齢層が高くなるほど、この問題も発生しやすくなります。管理費や修繕積立金はきちんと払われるとしても、例えば今70歳の人が大規模な修理や建替えが必要になったときに、新たに大金を出したいと思うでしょうか?定期的に若年層が入ってきて居住者が入れ替わるような、駅近の人気物件ならあまり心配はないかもしれませんが、郊外のバス便マンションなどでは特にこういった問題が起こりやすくなります。マンションは共同住宅です。自分の部屋だけ長生きさせることはできないのです」(長嶋さん)
新築マンションに比べて、「お金を借りにくい」「手続きが煩雑」などといった問題はあるでしょうか?
「昔と違って、今は『中古マンションだからローンを利用しにくい』といった問題は全くありません。問題は、新築か中古か、ということではなく、エリアや広さです。中古マンションに限らず、例えば『水害の可能性が高いエリアに建つマンションには貸出期間を短くしたり、金利を高くする』といった、個体ごとの差別化が今後はもっと進みます。水害の可能性が高いと損害保険の掛け金が2~3倍になったりするので、そこも気をつけておきたいですね」(長嶋さん)
担保となる物件の良し悪しについて見極めが必要なのは、新築マンションも中古マンションも同じ。マンション代とリフォーム代を一本化できるようになったこともあり、ローンを利用する上では中古マンションだからといって不利な点はなさそうですね。
住宅ローンを組んで中古マンションを購入すると、年末のローン残高に応じた控除額が、10年間にわたって所得税から控除されます。1年当たりの控除額はローン残高の0.7%で、残高の上限は2000万円。つまり最高で14万円の控除が受けられます。これが入居の年から10年間にわたって続くという、マイホーム購入者にとってとてもうれしい制度です。しかし、同じように住宅ローンを利用していても、購入する物件によっては控除されない場合があります。後から知ってがっかりしないように、購入時には以下の要件に当てはまるかどうか、確認しておきましょう。
専有面積50m2以上(そのうち1/2以上を自分で居住するために用いること)
耐震基準適合証明書を取得していること
買う時には安くしてほしいけれど、売る時には少しでも高くしたいもの。売主個人として何かできることはあるでしょうか?
「見た目の印象はとても大事です。居住中に内見してもらう場合、例えばアメリカでは要らない荷物はトランクルームに預けるなどして見映え良くする努力をします。商品として売り出すための演出を『ホームステージング』といいます。日本でも、プロによるインテリアコーディネートを行った上で売り出す仲介会社もあります。実際に、40万円の費用をかけてきれいにした結果、売値が300万円上がったケースもあります。生活感のあるものは隠して、おしゃれな絵画や照明器具をそろえたり、最も印象を左右する水まわりだけでもプロに頼んでピカピカにしてもらったり。費用対効果を考えた上で、工夫してみてはどうでしょうか」(長嶋さん)
リノベーション物件以外は、何かと修繕が必要になるイメージのある中古マンション。解体してみないとわからない部分もありますが、「リフォーム代にどれくらいかかるか」は、購入前に把握しておきたいものです。
リフォーム代の目安はこちらから
中古マンション/中古一戸建て×リフォーム リフォームの費用相場と築年数別の目安額
また、入居時には使えた設備、例えば給湯器のような設備の寿命が入居後数年でくる可能性もあります。後から思いがけない費用が発生して家計に支障が出ることのないよう、資金計画にはゆとりを持っておきましょう。
また、マンションの修繕工事費用が足りないときには、区分所有者全員から追加の費用として数十万~数百万円の費用が徴収されることがあります。その際には居住年数は考慮されないので、「工事がいつ行われたか」「修繕積立金は十分用意されているか」について確認しておきましょう。
中古マンションには、実際にどんな管理が行われているか、どんな人たちが住んでいるかを確かめてから購入できる、という強みがあります。すでに大規模修繕を終えた築古マンションほど、そういった点がわかりやすいはず。ますます拡大・充実していく中古マンションも選択肢の一つとして考えてみませんか?
平均的に築20年で底値になるので、安く買うなら築20年超物件が狙い目
マンションの寿命は本来100年超。ただし、本来の品質以上に管理が左右する
住宅ローンは利用しやすくなったが、ローン控除は使えない場合がある
買うなら管理と住民を見て、売るなら見映えを良くして