「新しい生活様式」が求められる中、トレーラーハウスが注目を集めています。「トレーラーハウスってキャンピングカーでしょ?」と思われる人もいるでしょうが、実はテレワークのための個室として、あるいは子ども部屋などさまざまな用途、使い方が増えているのです。トレーラーハウスを自宅に備えるにはどうすればいいのか、ライフラインの設置や税金は?日本トレーラーハウス協会の大原代表理事と、トレーラーハウスビルダーの青山さんに教えてもらいました。
トレーラーハウスとは、車でけん引できる家のこと。広大な国土のアメリカでは「モーターホーム」とも呼ばれ、キャンプや旅行での拠点としてよく使われています。そのためアメリカの車のホームページを見ると、車のサイズやエンジンのパワーなどとともに、必ず「この車は5tまでけん引できる」などけん引能力が記載されているほどです。全長6mを超えるピックアップトラックで、10m超のトレーラーハウスをけん引して大陸を横断する、なんていうのもアメリカではよくある話です。
国土が広く、使わない時は10m超のトレーラーハウスでも自宅に置けて、旅行の際はけん引しても道幅が広いから悠々曲がれるアメリカではポピュラーな存在ですが、国土も道幅も狭い日本ではなかなかそうは行きません。
「日本では、法的にはトレーラーハウスは自動車であるというのが基本的な考え方です。しかし全てのトレーラーハウスが自動車かといえば、一概には言えない状況です」と日本トレーラーハウス協会の大原代表理事。「『道路運送車両の保安基準(※)』の第2条には、日本の道路を走ることのできる車両のサイズや重量などの上限が決められています。またこの法律により、自動車には車検を受けることが義務付けられています(大原さん)」
※道路運送車両の保安基準とは、自動車や原動機付自転車、軽車両などに関する安全や構造など、さまざまな基準を定めている法律
トレーラーハウスもこの『道路運送車両の保安基準』に則るべき自動車(非けん引自動車)にあたります。その基準はさまざまありますが、一例としてサイズを挙げれば「車幅2500mm未満、車高3800mm未満、車長12000mm未満」となります。
しかし、現状では上記サイズを超えるトレーラーハウスもあります。その場合はどうすればいいのでしょうか。「『道路運送車両の保安基準』で自動車として認められていないトレーラーハウスに関しては、長らく何も決められていなかったのです(大原さん)」
実はこうした「道路運送車両の保安基準」で定める車両“以外”のトレーラーハウスについての法整備を、国に働きかけているのが日本トレーラーハウス協会です。きっかけは東日本大震災。多くの住宅が流され、トレーラーハウスも「被災者生活再建支援制度」による再建のための家の建設・購入の対象となりました。「しかし『道路運送車両の保安基準』で自動車として認められていないトレーラーハウスは、道路を走ることができず、東北へ向かうことができませんでした」
そこで同協会は国と交渉を重ね、「平成24年(2012年)12月27日に『トレーラーハウスの運搬に係わる制度改定』が施行されたのです」。これにより、自動車として認められていないトレーラーハウスが道路を走る場合、運輸局に「基準緩和の認定」を申請し、認定を受けたのち2カ月間のみ通行できるようになりました。
車両総重量750kgを超える車両(トレーラーハウスを含む)を牽引する場合、牽引免許が必要になります。牽引免許を取得するには牽引する車の種類に応じて普通免許や中型免許等が必要になります。トレーラーハウスを牽引する場合、免許を取るか、免許を持つ業者に依頼することになります。
750kg未満のトレーラーハウスであれば、牽引免許は必要ありません。
トレーラーハウスは、基本的に移動が可能な場所であればどこでも置くことが可能です。建築物ではないので、市街化調整区域にも置くことができます。
ただし注意が必要なのが、設置場所までの道路幅です。建築物と違い「随時かつ任意に移動できる」ものがトレーラーハウスであるため、設置場所までの道路を通行できないようなトレーラーハウスは設置することができません。
同様に、自宅の庭に置く場合、道路から庭へトレーラーハウスが出入りできないとトレーラーハウスを設置することができません。
「随時かつ任意に移動できるか」を判断するのは誰かと言うと、各自治体の建築主事(建築確認申請を審査する担当者)が判断します。自動車として扱う場合は「道路運送車両の保安基準」という法律ですが、置いた場合は「建築基準法」が判断基準になります。
トレーラーハウスなどの車両の建築基準法上の取り扱いについては、平成25年(2013年)に日本建築行政会議が発行する基準総則の「車両を利用した工作物」の欄に定められました。ここには、例えば給排水やガス、電気などの設備配線や配管が簡単に取り外せないものは、建築物として取り扱うとしています。しかし、都市計画法ではトレーラーハウスについては触れられていません。
そのため多くの自治体ではトレーラーハウスを「車両」として扱うか「建築物」とするか苦慮しているのが実情です。
そこで最近では日本トレーラーハウス協会に協力を仰ぐ自治体が増えています。同協会が認めるトレーラーハウスであれば「随時かつ任意に移動できる」車だろう、というわけです。トレーラーハウスの健全な普及を目指す同協会では独自の厳しい基準を設け、設置検査を行っています。
ちなみに同協会ではトレーラーハウスを置く場合、事務所や子ども部屋等の利用はOKでも、住民票の所在地にする住居としての利用はNGとしています。
トレーラーハウスには電気・ガス・水道といったライフラインを接続することができます。ただしトレーラーハウスが車両か建築物かの判断基準の一つに、こうしたライフラインの配線や配管などが「工具を要さずに取り外すことが可能」かどうかがあります。
日本トレーラーハウス協会では、工具を使わなくても簡単に脱着できる給排水管の接続部品を紹介しています。こういった部品を使うことで、家のように過ごすことができ、簡単に移動もできるようになります。
車台と呼ばれる上にどんな“ハウス”を備えるかによって、価格はさまざま。例えば内張がベニアで、他に何もなく、移動オフィスとして使うようなトレーラーハウスであれば400万~500万円ですが、キッチンやバス、トイレ等を備えるなら800万円前後はみたほうがいいでしょう。さらに断熱性能を高めたり、コダワリの壁材や床材などを使用すれば1000万円を超えても不思議ではありません。
このように、トレーラーハウスは注文住宅と同様、こだわるほどに価格が高くなります。
自治体にトレーラーハウスを車検付きの車として認められれば、もちろん固定資産税等は不要です。代わりに通常の車と同様、自動車取得税や自動車重量税、自動車税が必要になります。
自動車取得税はトレーラーハウスを購入した際に支払う税金です。自動車重量税は重量に応じて、車検時に支払う税金です。自動車税は毎年1回支払います。これらの税額については購入したトレーラーハウスの金額やサイズ等によって異なります。
一方で、サイズが大きいなど「車両ではないけれど『基準緩和』を申請すれば道路を走れるトレーラーハウス」の場合、現在のところ税金に関する法律等がなく、グレーゾーンになっています。一刻も早い法整備が望まれています。
先述のようにトレーラーハウスは下記の二種類に分けられます。
・法律上、自動車として認められているトレーラーハウス
・自動車ではないけれど「基準緩和」を申請すれば道路を走れるトレーラーハウス
いずれも、地面に置いても「随時かつ任意に移動できる」と認められれば、「車輪を有する移動型住宅で、原動機(エンジンなど)を備えず牽引車により牽引される」トレーラーハウスであり、自動車であって建築物ではないことになります。また両者の違いの1つは、サイズの基準(車幅2500mm・車高3800mm・車長12000mm)を超えるかどうかがあります。
なお「随時かつ任意に移動できる」かどうかを判断するのは誰かと言うと、各自治体の建築主事(建築確認申請を審査する担当者)が判断します。上記では「道路運送車両の保安基準」という法律の話でしたが、置いて継続的に利用する場合は「建築基準法」が判断基準になります。
キャンピングカーは、車内にベッドやキッチン、トイレ等を取り付けた車のことを指します。トレーラーハウスは「原動機を備えず牽引車により牽引」しますが、キャンピングカーはエンジン等を備えていて、牽引車がなくても移動できます。
またキャンピングカーは車に取り付けたバッテリーの電気を使い、備えたタンクの水を使います。排水も車内のタンクなどに貯めておき、後で処理する必要があります。この辺は外部のインフラと接続するトレーラーハウスと違う点です。またトレーラーハウスを牽引するには牽引免許が必要ですが、キャンピングカーは車両総重量3.5t未満、乗車定員10人以下であれば普通免許で運転できます。
3.5t以上は準中型免許、7.5t以上は中型免許、11t以上は大型免許が必要になりますが、たいていのキャンピングカーは3.5t未満です。
タイニーハウスとはtiny(とても小さい)な家、小さな家を指す言葉として使われています。小屋も同様に小さな建物です。小屋やタイニーハウスは「建築物」となります。そのため建築確認が必要になります。
一方、トレーラーハウスは「自動車」のため、建築確認は不要です。ただし先述のように「建築物ではない」と認定される必要があります。
市街化調整区域では小屋やタイニーハウス、プレハブ、物置など「建築物」を設置することができませんが、トレーラーハウスは建築物ではなく、「随時かつ任意に移動できる」自動車のため設置できます。
現在のトレーラーハウスの利用方法は、子ども部屋から事務所まで多岐に渡っています。ここではいくつかの活用例を見てみましょう。
設置された場所は市街化調整区域のため、家を建てることはできませんが、海を目の前にした絶好のロケーションです。土地の所有者はここにトレーラーハウスを置き、別荘にすることにしました。断熱性などのスペックも高いため、暑い日も寒い日も快適に過ごせるそうです。簡単に取り外しできるウッドデッキも備えました。
新型コロナ以前は昼時ともなれば行列が絶えない人気のイタリアンレストラン。20席ほどあるのですが、あまりにも行列ができるので、せっかく訪れてくれたお客さまが諦めて帰ってしまうことも多かったそうです。そこで従来は駐車場として活用していた場所に、別店舗としてお店をオープンすることに。ただし市街化調整区域だったため、トレーラーハウスを活用することを選びました。
トレーラーハウスは住宅性能の高いものを選ぶと快適に過ごせます。「例えば断熱性能。トレーラーハウスでも高断熱なら、冷暖房の効きがよく経済的です。また家と同じ設備を用意ですれば、自宅のように過ごすことができます」と青山徹社長。
子ども部屋や仕事部屋にトレーラーハウスを検討しているなら、こうした住宅としてのスペックにも注意を払ったほうがいいでしょう。
また、最近はハザードマップで浸水被害が想定されるエリアからも依頼を受けるようになったと言います。「トレーラーハウスは地面から約1m床が高いため、万一床下浸水くらいの水害が起こっても、影響を受けにくいんです」。そういった、従来気づかなかった魅力もトレーラーハウスにはあるようです。
そのほか自然災害時の仮設住宅やホテルとしても活用されています。一般的な仮設住宅とくらべ、設置すればすぐ使えるなど即効性があり、撤去時の廃棄物がほとんど発生しないなどのメリットがあります。それが長じて、最近ではインバウンド需要向けのホテル運営にも活用されています。
いずれにせよ、その室内を見れば子ども部屋から仕事部屋など、トレーラーハウスも住宅と同様の室内空間に仕上げることが可能だとわかります。
あまりよく理解せずに大丈夫だろうと安易に置いた後に、自治体から撤去を命じられたケースも実際にあります。
自治体に相談すれば解決するかといえば、自治体もトレーラーハウスの扱いに苦慮しているところが多いのが現状のようです。トレーラーハウスを購入して設置したいのであれば、まずは日本トレーラーハウス協会に加盟している企業に相談することから始めてみてはいかがでしょうか。
トレーラーハウスは基本的には自動車として区分され、建築物ではない
随時かつ任意に移動できない場合、車両ではなく建築物に認定されるため注意が必要
トレーラーハウスが車両かどうかは、各自治体の判断による