不整形地とは、正方形又は長方形ではない土地のことです。不整形地にはメリットとデメリットの両面があり、地価が低く抑えられる傾向がある一方で、建築や施工が難航する恐れもあります。
上手に不整形地を活用するには、どうすればいいのでしょうか? 弁護士の児玉譲さんと建房の設計士である大川淳さんに話を聞きました。
不整形地という言葉は、一般的には聞き慣れないかもしれません。しかし家を建てる時に不整形地も視野に入れて土地探しをすることができれば、選択肢が広がります。不整形地とはどんな土地なのでしょうか。
建築基準法や都市計画法などでの規定もなく、法的に定義されたものはありません。一般的に「整形地」とは、正方形や長方形など敷地として形状を整えた土地を指し、「不整形地」は、そうした整形をしていない土地を指します。
旗竿地とは、道路に接している出入り口部分が狭く、そこから細長い道を経て奥まった土地を指します。竿と旗のような形状から旗竿地と呼ばれます。
旗竿地は周囲を他の住宅に囲まれていることが多いため、天窓や高窓を使った採光の工夫と、プライバシーの確保が重要です。
また旗竿地の竿にあたる部分、道路接している出入り口の道幅は必ず確認しましょう。後に詳しく説明するように法律や条例で定める道幅以下の場合は新しく家を建てることはできません。また家へと続く道の幅が狭く、建築時に重機やトラックが公道から入ってこられないと、建築費用がかさんでしまう場合もあります。
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整形地といわれる四角い土地に比べて、三角形や台形の土地はデッドスペースが生まれやすい土地です。土地のある場所や、変形地の一辺の長さによって、住宅の建てやすさや土地の評価も違ってきます。
傾斜地は高低差がある土地のことです。家が建つ場所そのものに傾斜がついている場合と、宅地の前後に傾斜した土地が広がっている場合があります。
傾斜の度合いが急なものは崖地と呼ばれます。建築基準法施行条例では「地表面が水平面に対し30度を超える角度をなす土地」と定義されています。
法律の規定に沿った道路に接していない宅地を無道路地といいます。道路に接していないため道路へ出入りができないので、道路に接した他者の土地の通行許可を得ている状態です。
ただ建築基準法では道路に接道してない土地は、基本的に再建築できませんので家を建てる前提でこうした無道路地を購入するケースはほとんどないと言えるでしょう。
児玉さんによると、不整形地でよく法律問題になる土地は、旗竿地(路地上敷地とも言われます)と傾斜地だと言います。
「建物を建てるには、各自治体に建築確認申請を行わなければなりません。この申請を許可されて初めて建物を建てられるようになるのですが、建築基準法で定められた規定を満たしていないと、建築基準関係規定への不適合の通知処分がなされ、建築確認申請が通りません。つまり、建物が建てられないということになります」(児玉さん)
まず、旗竿地で問題になりやすいのは「接道義務」です。建築基準法に基づく接道義務(第43条1項)として建築物の敷地は、道路に2m以上接しなければならないという規制があります。また建築基準法上「道路」とは、幅員4m以上のものを指します。さらに、地方自治体の条例によって、旗竿部分の長さと幅が規制されたり建築の階層が制限されたりと建築基準法よりも厳しい基準が設けられていることもあり、旗竿地の購入を検討する際は注意が必要です。
同様に崖地については、建築基準法で「建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合においては、擁壁(ようへき)の設置その他安全上の適当な措置を講じなければならない」という規制(第19条4項)があります。
規制の内容は各自治体の条例によって異なりますが、例えば東京都建築安全条例では斜度30度を超える崖地について、建築制限があります(第6条)。高さ2mを超える崖の場合、崖の下端からの水平距離が崖の高さの2倍以内のところに建築物を建築することへの規制があるのです。
「土地を購入する際の重要事項説明書に『対象土地は東京都の崖条例第6条の適用を受ける場合があります』と記載があるだけの場合で売主や仲介業者の説明義務違反が認められた判例があります。土地を購入した後に崖条例に適応するための追加費用がかかることが判明して、そうした説明の不十分さのためにトラブルになることは少なくないようですね」(児玉さん)
崖地の規制は複雑で自治体ごとの差が大きいので把握しづらいものです。しっかりと調べてから土地の購入をしましょう。
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不整形地に家を建てるうえでのメリットとデメリットはどのようなものなのでしょうか。法律的な観点と、家を建てる建築家の観点から、検討してみましょう。
不整形地の最大のメリットは、同じ面積の整形地と比べると、購入価格を低く抑えられることです。不整形地は後述するデメリットで紹介する法律上の制限も多く、利用しづらいことから、価値が低く需要が少ないと評価されるためです。
不整形地はうまく利用すれば個性がある魅力的な住宅が建てられます。事例を後で紹介しますが、設計の工夫次第で不整形地でしか建てられない住まいを建てられる可能性もあります。
メリットの一方で、不整形地の中には法律上の規制がある土地もあるため、注意が必要です。不整形地の購入を考える前にデメリットも押さえておきましょう。
上の崖地の例で紹介したように、法律上の制限がある場合、不整形地で建物を建てられるようにするために、建築基準法に適合するための工事が必要になる場合があります。
例えば傾斜地を平坦な土地にするためには、土を切り出す「切土」や土を盛る「盛土」などがありますが、その場合にはあわせて地盤改良工事が必要になることも。また、斜面の崩落を防ぐためには擁壁の設置も必要になり、それらの費用を合わせると数百万~1000万円以上になることもあります。
さらに上で説明したように、地方自治体によって条例で定められている内容もあります。
「例えば岡山県では傾斜面の性質を調査する地質検査ボーリング調査(地盤調査)をしなければならないので、その分費用がかかります。一方で建物が建つ部分が平地ならば、特別建築や設計でお金がかかることはないのです。特に岡山県は基準が厳しいので、その基準に適合していれば安全性も問題ありません」(大川さん)
ボーリング調査は穴を掘って地盤の状況などを調べる調査で、およそ10万円程度の費用がかかるそうです。各地の条例に適合させるための費用がかかることは留意しておきましょう。
一方、接道に問題のある旗竿地に建物を建てたい場合には、隣接地を購入して接道を確保するという方法もありますが、現実的にはタイミングよく隣接地が売られることは少なく、その土地の購入費用もかかります。
「法的な規制をクリアする路地部分の道幅があっても、工事の際に物が搬入できずに余計な費用がかかってしまうことがあります。あまりにも道幅がギリギリだとご自身の車が通れない場合もあるので、接道や路地部分の道幅などをしっかり確認しましょう」(大川さん)
また、変形地を活かした建築は個性的で人目を引きますが、規格外だけに資材費がかかることもあるそうです。
「斜めの建物などで材料の加工に金額がかかるということがあります。普通は建築の材料は91cmのピッチと規格で決まっています。そこに例えば30cmだけの壁があったら、60cmは切って捨ててしまう。そういう無駄はありますね」(大川さん)
建物が建てづらい立地であるということは、住む人にとって住みづらい、活用しづらい土地だといえるかもしれません。
旗竿地の場合は、道路側に他の人の建物が建っていることが多く、採光や通風が得にくい、住宅が密集しているため窓が開けづらいなどの不便が考えられます。
また変形地の場合は、建物の形状によって活用しづらい空きスペースが屋内外ともに生じる可能性があるため、そうしたスペースを上手に活用する工夫が必要になるでしょう。
不整形地のメリットを活かしつつデメリットを回避するには、どうしたらいいのでしょうか。大川さんに具体的な事例を紹介してもらいながら不整形地を活かして家を建てるポイントを聞きました。
旗竿地でよく課題といわれる採光についてですが、住宅が密集した場所にある旗竿地であっても、建築的な工夫でデメリットを回避できるケースは多いと言います。
「旗竿地ならではの閉塞感を解消する手立てとして、吹き抜けや中庭を作ることはおすすめです。採光の面でも効果的ですし、中庭であれば道路から見えないメリットを活かしたプライベートな雰囲気を楽しめます」(大川さん)
変形地は角の部分がロスになりがちですが、あえてその角を活かして遊び心のあるスペースにすると土地の形状が映える、個性的な建物になります。
「事例の三角の家は、一番狭くなっている角の部分を吹き抜けにしてあります。吹き抜けにしつつ梁を渡してあるので、後々吹き抜け部分に部屋を作ることも可能です」(大川さん)
大川さんによると、「各地の条例に則っていれば、崖地に建築することは難しいことではない」と言います。
「下の事例は崖地とはいっても建築面は平らでしたので、整地の費用は特にかかりませんでした。崖地のメリットはなんといっても眺望の良さなので、景色を取り込む窓の多い家になりました」(大川さん)
崖地といっても、崖の上なのか、家を建てる土地も斜めになっている中腹なのか、それとも崖の下なのか、搬入できる道はあるのかなどで建築にかかる費用は変わります。しかし崖を活かせば眺望の良い家を安価に建てられる場合もあります。
スーモカウンターにて、不整形地を活用した家を建てた先輩たちの事例を紹介します。先輩たちが、どんな点にこだわり、どんな住まいを実現したのか、実例を参考に学んでいきましょう。
旗竿地ながら路地状部分が幅3mと広く、車2台分が駐車できる点が魅力だった土地。住宅密集地でも「日当たりのいい明るい家」にしたいと考え、1階のLDKの南側に吹き抜けの階段を設けました。路地状部分の道幅が広いことは採光にも有利です。2階の大きな窓から家中に光が行き渡る住まいになりました。
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都心の旗竿地でも吹抜けの階段で明るく。空間ごとに壁紙を変えた個性的な住まいに
夫婦と大学生の息子が暮らすNさん宅。建設会社の担当者に「ここなら面白い家を建てられますよ」と言われたことが決め手になり、三角形の土地に、それぞれのこだわりが詰まったマイホームを建てました。新居に住んでからは、夫が仕事仲間を、息子がアルバイト友達を招くようになったと言います。
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夫が仕事仲間を、息子がバイト友達を招くようになった三角形の家
予算内で希望に合う土地がなかなか見つからなかったKさん。建築会社に土地から探してほしいこと、平屋を建てたいことを伝えたところ、予算内で平屋が建てられる広さの旗竿地を紹介してもらいました。旗竿地であっても、土地が約120坪と十分な広さがあったので、中庭をつくって明るさを確保。広い面積を確保しながら、価格を抑えられたことは、旗竿地ならではの活用事例です。
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中庭を囲んで一周できる動線が快適な暮らしをかなえた平屋の住まい
結婚を機に同居を始めたOさん夫婦は、建築会社が提案してくれた土地の中から、子どもが生まれたときの学校までの距離も考え、静かな環境の五角形の土地を選びました。五角形の敷地をいっぱいに使わず、あえてゆとりを持たせて角の多い個性的な形の家を建築。使用しない部分は今後庭として育てていくつもりだそうです。
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ステンドグラスに玄関のタイル。4匹の猫たちと静かに暮らせる“ガウディっぽい”家
不整形地は整形地に比べて安価で購入できることが多く、上手に活用すれば個性的で満足のいく家が建てられます。ただし、法的な規制がある場合もあり、整形地よりは確認事項が多いことも確かです。不整形地のメリットやデメリットを把握して土地購入の選択肢を広げましょう。
法的な制約や不整形地補正など、デメリットになる条件を事前に知り検討する
不整形地は活用しにくいというバイアスにとらわれず土地の個性を見極める
土地の個性を活かした設計を考える