親世帯と子世帯が同じ家に住む二世帯住宅では、お互いのライフスタイルや価値観の違いなどでさまざまなトラブルも起こり得る。そうしたすれ違いを未然に防ぎ、二世帯で住むメリットを最大限に活かすにはどんな間取りや家の形が望ましいのか。建築家の佐川旭さんに教えてもらった。
親と子とでは30歳前後の年齢差があり、世代の差によるライフスタイルや価値観の違いは大きいと、佐川さんは指摘する。「特に東京オリンピックのころを境に価値観が多様化したと思います。今の40歳前後の世代とその親の世代では大きな開きがあり、二世帯住宅でもその違いを考慮すべきです」
二世帯住宅の間取りは、大きく分けて3タイプに分類できるという。「完全にスペースを分離させた『独立タイプ』、玄関や浴室などだけ共用する『共用タイプ』、それに多くの生活空間を共用する『同居タイプ』の3つです」(佐川さん)。それぞれのメリット・デメリットを考慮して間取りを決めよう。
玄関が2つあり、内部も世帯ごとに分離されている「独立タイプ」
左右に分けるタイプと上下に分けるタイプがある。「上下に分けたほうが階段スペースが1カ所で済むので建築コストを抑えられます。内部の仕切りに扉を設けて行き来できるようにするケースも」(佐川さん)
(イラスト)玄関が2つあり、二世帯が左右に完全に分離された間取りの例。二世帯とも階段があり、2階の居室スペースも親世帯と子世帯とで分けられる。苗字が異なる場合でも、表札をそれぞれに設置できて来客時などは都合がよい。
メリット
・プライバシーが保たれる
・各世帯の独立感が強まる
・内部で行き来することもできる
デメリット
・左右独立型は敷地に余裕が必要
・お互いに疎遠になりがち
・建築コストが高めになる
「共用タイプ」では公共性の高い玄関や、利用時間が限られる浴室など一部のみ共用とし、キッチンやリビングなどは分離させる
「独立タイプに比べて間取りを効率よくまとめられるので、さほど広くない敷地でも建てることが可能です」(佐川さん)
(イラスト)玄関と浴室を共用としている例。プライバシーを保てるよう、親世帯の居室は1階、子世帯の居室は2階に集中させている。親世帯にはミニキッチンを付けているが、必要に応じて子世帯のキッチンも利用できる構造に。
メリット
・ほどよいプライバシーが保たれる
・親子世帯が気軽に集まれる
・建築コストを抑えられる
デメリット
・浴室など利用時間が重なりがち
・玄関が共用なので人を招くときなどやや気が引ける
・共用スペースの配置などで間取りが制約される
個室を除き、ほぼすべてのスペースを共用するのが「同居タイプ」
プライバシーが確保しにくくなるので、書斎を設けるなど「一人になれる居場所があると暮らしやすくなります」(佐川さん)。来客時にお茶などが沸かせるようミニキッチンを設けるのも有効だ。
(イラスト)1階部分には親世帯の居室と、共用スペースであるLDK、水回りを配置。子世帯の居室はすべて2階に設けている。居室以外は共用スペースとなるが、居室を1階と2階に分けたことでプライバシーをある程度は確保できる。
メリット
・敷地が狭くても建てられる
・建築コストが安上がり
・お互いの様子が分かりやすい
デメリット
・プライバシーを確保しにくい
・音が聞こえやすい
・各世帯の独立感がほとんどない
共用タイプもしくは同居タイプの一種で、3階建てのうちワンフロアを共用スペースとする形
個室のある階を分けることで、お互いのプライバシーが比較的保ちやすくなる。「ただし階段の昇り降りが多くなるので、手すりを設けるなど高齢者への配慮が必要です」(佐川さん)
メリット
・狭い敷地に適している
・プライバシーが比較的保たれる
・お互いの様子が分かりやすい
デメリット
・階段が多くなる
・上下階の音に注意
・共用部分の利用が重なりがち
新しい二世帯住宅の姿ペットや記念樹が家族の絆を深める場合もある
二世帯住宅で世帯間のトラブルがあると、お互いに疎遠になりがちな場合も多い。
そこで最近では、ペットや記念樹などを介して家族の絆を深めるケースも増えているという。「庭の記念樹が見える場所に集まって、二世帯で食事などをとれるスペースを設けたり、ペット用の空間を確保しておくと人間関係が円滑になる場合もあります」(佐川さん)
二世帯住宅ではお互いのプライバシーを尊重するあまり、ほとんど行き来をせず関係が疎遠になってしまうケースもあるという。「親子世帯が一緒に楽しく暮らし、協力して子育てしたり、安心感を高めるという本来の意義を忘れないように、ほどよい距離感が保てる間取りや住まいづくりが大切です」と佐川さんはアドバイスしてくれた。そのためにも理想的な住まいのあり方について、親子で事前に話し合うことが望ましいだろう。