子どものころ、おばあちゃんの家にあった縁側。そこで夏にはスイカを食べたり、冬には日向ぼっこをしたり。マイホームを建てるときは、縁側が欲しいと考える人もいるかもしれません。そんな縁側の魅力について、また設置するときに注意すべき点などを、建築家の三澤文子さんに聞いてみました。家の縁側とはそもそもどんなもの?必要なの?種類や、ウッドデッキとの違い、庭との関係なども解説します。
昔の日本家屋には必ずといっていいほど、縁側がありました。けれど、最近の特に都市部の家ではなかなか見かけなくなりました。
「縁側とは、和室と外部との間にある板張りの空間のことをさします。簡単に表現すると、和室に入る前室のようなもの。和室という居室に対してのバッファーゾーン(緩衝地帯)でした。建物の中と外の境目に存在する、ゆとりのスペースとも言い換えられるでしょう」(三澤さん、以下同)
「例えば、近所の人が訪ねてきたとき、縁側でお茶を飲む光景を思い浮かべませんか。家の中に入るわけではないので、ごくごく気軽に日常的な会話が楽しめる。縁側は接客、コミュニケーション空間にもなるのです」
そんな縁側には2つの種類があります。広縁と濡縁です。
「板張りの縁側が内部空間ならば『広縁』、外部空間であれば『濡縁』と呼びます。それを分けるのは、いわゆる雨戸やガラス戸ということになりますね。つまり、雨戸(いまどきだとシャッター)の内側にあるか、外側にあるか。内部の広縁は廊下を兼ねるケースもあります。外部ならば雨に当たり濡れるので、濡縁というわけです」
じつは、この縁側があることで、家の中にいながらにして外の景色や空気感を楽しめ、季節を感じることができる。先人の知恵が凝縮された空間といえるのです。
縁側は心地よい空間というだけでなく、快適な暮らしのための役割もきちんと果たしています。
「縁側はそもそも和室に関連した空間でしたが、最近は住宅に和室をあまりつくらなくなってきたこともあり、これまでとは違う意図で縁側空間をつくるようになってきました。リビングに面して広縁をつくることで、夏には直射日光が入るのを防ぎ、冬には暖かな日だまりをつくります。また外部につくる濡縁も同様で、大きなひさしをつくり雨があたらないようにすれば、夏は日よけの役割を果たします」
縁側には夏の暑さや冬の寒さをコントロールするという機能が期待でき、1年を通して室内を快適に保つことができます。特に今年は記録的な猛暑には悩まされた人が多いと思いますが、縁側があれば風が通り抜け、暑さを和らげることができます。そうしたメリットは、今どきの家づくりにも十分活かせることでしょう。
「さらに濡縁を現代風にアレンジしたものが、ウッドデッキといえるかもしれません。濡縁とウッドデッキに明確な定義の違いはありませんが、家の中と外を円滑につなぐという意味では共通している部分も多くあります」
ウッドデッキは小さな子どもにとっては格好の遊び場になりますし、子どもだけでなく、大人にとっても、季節の良い時には、バーベキューなど、外での食事も楽しめたり、気分転換に身体を動かしたりと、気持ちのいいスペースになってくれるはずです。
では実際、縁側のある家をつくりたいと考えたとき、どんなことから始めたらよいのでしょうか。
なぜ縁側が欲しいのか、どう活用したいのかを家族で話し合いましょう。それが明確なほど、建築士が希望に沿ったプランを図面に落としこみやすくなり、より希望に沿った縁側が実現するからです。
基本的には、縁側から見える景色を考えてみましょう。庭や植栽など季節を通して楽しめ、心が癒やされる景色があれば、縁側の効果は十分得られるでしょう。
このとき注意すべきは、プライバシーや防犯上の問題。
「外部の道路からの目線を遮る仕掛けや侵入されにくい工夫などが必要です。縁側にばかり目が行くあまり、この点がおろそかにならないようにしたいですね。そのためにも縁側を取り入れた家づくりは、建築士や専門家に相談するべきでしょう」
その上で、かたちにとらわれない自由な発想で、ご自分たち家族のライフスタイルに合わせた縁側を考えてみてください。きっと家づくりが楽しくなって、毎日の暮らしも充実したものになるでしょう」
機能的にも優れ、心を癒やしてくれるプラスαの空間、縁側。いまどきの住宅事情からすると、広めの土地が必要など難しい面もあるものの、夢をふくらませてみる価値はありそうですね。