土地探しや一戸建ての建築を進める際に、「セットバック」という言葉を目にすることがあるかもしれません。このセットバックについて十分に理解せずに「要セットバック」の土地を購入してしまうと、計画していた家づくりが思い通りに進まない可能性があります。
そこで今回は、セットバックに関する基本的な知識や注意点、購入しても問題がないかどうかといった、事前に知っておきたい情報をご紹介します。これから土地探しや一戸建ての建築を計画している方は、ぜひ参考にしてみてください。
セットバックとは、土地と前面道路の境界線を土地側に後退させ、前面道路の幅を広げることを指します。まずは、セットバックの基礎知識について解説していきましょう。
「建築基準法では、家を建てるための土地には接道義務があり、4m幅以上(地域によっては6m幅以上)の道路に2m以上接していなければなりません。行政としては『防災』について考えると、消防車が入れるような道路が整った街づくりをしたいと考えます。
ところが、自動車が一般的ではなかった昔は、1間(※1)(約1.8m)あるいは2間(約3.6m)といった昔の基準で整備された道路があり、現在でもたくさん見かけられます。
行政は道路を4m確保したいところですが、現在住んでいる人にいきなり『道路分の土地を明け渡して建て替えてください』というのは難しいので、『いずれ建て替えるときに土地を後退(セットバック)して建ててください』とお願いすることになります。こういった道路を専門的には『2項道路(建築基準法42条2項道路)(※2)』とか『みなし道路』と呼んでいます。そして現状幅4mを確保していない道路に面している土地は『要セットバック』と表記されることになります」(明海大学 不動産学部 教授 中村喜久夫さん(以下同))
※1:1間=6尺=約1.8182m
※2:幅員が4m未満の道路であっても建築基準法の施行日(昭和25年11月23日)または都市計画区域への編入日時点ですでに建築物が立ち並んでいたものは、特定行政庁の指定に基づき、敷地のセットバックにより将来的に4mの幅員を確保することを前提に、建築基準法上の道路として認められている。原則として幅員1.8m以上
「セットバックは向かい合う土地の状況によって大きく2つのケースに分けられます。まず、道路の向かい側が宅地の場合は道路の中心線からそれぞれが水平線で2mセットバックすることになります。 例えば、道幅が3mであれば、中心線から境界線までの距離が1.5mなので、お互いに0.5m下げることになります」
ただし、道幅を測るときに反対側の建物がすでにセットバックしているかどうかも確かめる必要があります。
というのもすでに境界線を下げているかどうかで、道路の中心線の位置が異なる場合(※農村地域では稀にある)があります。中心線はわかりづらいこともあるため、役所の建築指導課、道路管理課などに確認しておくことが大切です。
もう1つは、道路の向かい側が崖、川、線路等のとき、セットバックの条件が異なってきます。このような場合は向かい側の境界線を動かすことはできないので、建物のある側だけで4mの道幅を確保することになります。例えば、下の図のように道幅が3mならば、境界線を1m下げなければなりませんので頭に入れておきましょう。
なお、上記2ケース以外で、都道府県や市区町村で道路台帳を備えているところでは道路台帳付図の指定幅でセットバックがなされます。
「接道している道路が建築基準法で認められた道路であれば、公道でも私道でも家は建てられます。セットバックの要件も同じです。しかし、セットバック後の管理主体(国、都道府県、市区町村)や税金が異なる場合があります」
セットバックの土地を購入する場合、気を付けなくてはならないポイントもあります。事前に注意点を把握しておかないと、購入後に後悔してしまう可能性もあるため、気を付けるポイントも知っておきましょう。
「もちろん建て替えはできます。ただ建て替えるときには、セットバックした後の敷地に合わせた家を建てることになります。建蔽率(建ぺい率)や容積率もセットバック後の敷地で計算するので、自分の希望の広さや形状の建物が建てられるどうかを確認する必要があります。購入してから後悔することのないように不動産会社や建築士に確認してもらいましょう。
たまに『再建築不可』(※3)という物件を見かけますが、これは道路への接道の幅が2m未満のものやそもそも建築基準法の道路に接していない物件のことです」
※3:建築基準法上、現在ある建物を壊して新たな建築ができない物件のこと。前面道路が建築基準法上の道路ではなく、接道が2m未満などの場合
「セットバックを拒否することはできません。新たに家を建てる際に必要な建築確認がおりないので、セットバックをせずに、新築や建て替えをすることは不可能です。また、セットバックした敷地面積に建物を建てることになりますので、セットバック後の有効面積をしっかり調べておく必要があります」
まず、不動産会社や建築士に相談し、役所の建築指導課などの担当者に2項道路かどうかを確認してもらいましょう。
【確認事項】
・その土地の前面道路が4mあるかどうか
・その土地が接する道路が建築基準法上の道路かどうか
なかには、道路敷地として利用している状態でも、登記上はセットバックされていない場合があります。念のため、登記内容も確認するようにしましょう。
「例えば、中古住宅を購入して再建築せずにリフォーム程度でそのまま住むのであれば、現状のままでも問題がありませんが、新たにセットバックをして家を建てた場合のセットバック部分は『道路』とみなされるので、通常駐車場として利用することはできません。
もちろん塀やフェンスもセットバック後の敷地の中に収める必要があります。再建築時には自分の敷地が狭くなってしまうので損をするような気がするかも知れませんが、災害などが起こったときを想定して4mの道路の確保は必要になります」
セットバックにかかる費用は基本的に自己負担となりますが、自治体によっては補助制度が設けられています。補助の金額や要件はさまざまなので、居住している自治体に確認しましょう。
セットバックにかかる費用は、セットバックに伴いかかる土地境界調査、現状利用と登記内容と合致させる費用、アスファルト舗装・道路整備費用に分けられます。
セットバックの条件や内容と現状利用とが登記内容と整合しており、土地の形状や現地の境界付記の工作物を計測して作成した図面(現況測量)で市区町村が認める場合は、土地の広さや作業量にもよりますが約10万~20万円がおよその目安となります。
一方で、セットバックのラインと登記内容が不一致の場合は、土地境界確定測量を実施した上でセットバック部分の分筆登記をして、セットバックのラインと登記内容を合わせることが必要となります。測量費用と登記費用が約70~100万円ほどかかる場合があります。ここにセットバックした土地の道路使用ができる状態にするアスファルト舗装などの道路整備費用が1m2当たり3,000~8,000円ほど加算されるのです。
※道路の状況により道路整備費用は変わりますので見積もりを取り事前に確認しましょう
「自分の土地が道路とみなされるならば、買い上げてほしい」という気持ちになりますが、資産価値のない土地になるため、多くの場合で 寄付(無償提供)となります。また、隣家などに無償提供を申し出たとしても、利用制限を受ける土地であるため断られるケースも多いようです。
なお、セットバックした土地を自治体に寄付する場合にも「境界確定測量」と「セットバック部分の分筆登記」が必要となります。セットバックに伴う測量費は土地の面積や作業量、土地の場所などによって大きく異なり、例えば都市部ではなく地方であった場合は測量費が高額になることもあるので注意しましょう。また、市区町村に寄付する場合は上記に加えて、寄付契約と寄付契約に伴う所有権の移転も必要になります。
ただし、市区町村によっては道路指定・管理がなされており、道路台帳付図などの道路管理図面があるような地域においては、一定要件を満たしている場合に費用の一部を補助してもらえる場合があります。
セットバックする場合、調査費用や舗装費用などがかかる場合があります。その費用を行政が負担してくれるのか、自治体によっては補助の制度がありますので、不動産会社や建築会社に調査してもらいましょう。
街づくり計画を推進したいエリアであれば行政も積極的ですが、予算がなかったり、道路整備を特に急いでいなかったりする場合は自己負担となる可能性もあります。
セットバックして自分の土地を提供したのだから、固定資産税は払いたくないという気持ちになるのは当然でしょう。セットバック部分の固定資産税は『道路』となるので固定資産税を払う必要はなくなります。
しかし自動的に免除になるわけではありません。というのも、セットバックのすべての情報を市町村が把握しているわけではありません。そのため、非課税の適用を受けるには、非課税の申告をしなければなりません。固定資産税は市町村税ですので、市役所や区役所に相談することが大切です。特に地価が高い土地の税金はこれからずっと支払っていくことを考えると、大変な額になる可能性があります。
非課税の適用を受けるには、土地の謄本やセットバック部分の面積がわかる地積測量図、その他、役所が指定する書類を用意して申告しましょう。
いずれにしても、住まいを購入する際に接道の問題は大切です。セットバックすることにより、土地や建物にどのような影響が出るのか、事前によく調べて土地や物件探しをするようにしましょう。
セットバックは各自治体で補助制度が用意されているものの、基本的には自己負担となるため購入を躊躇う方も少なくありません。また、デメリットを考えると一般的には避けたほうが無難でしょう。しかし、セットバックが必要な物件でも購入を検討してもよいケースはあります。具体的にどのようなケースだと、購入を検討してもよいのでしょうか?
セットバックが必要な物件は、同じエリアの他の物件と比べて価格が低めに設定されることが多いです。これは、セットバック分の土地が実際の有効面積から差し引かれているためで、価格がその有効面積に基づいて計算されている可能性があります。また、場合によってはセットバック後の面積を考慮しても、坪単価が相場より安くなり、よりお得に購入できることがあります。
土地価格が高騰しているエリアで予算を抑えたい場合、セットバックが必要な物件を検討するのも1つの手です。ただし、セットバックに伴う施工費用は原則購入者の負担となるため、これらの費用を含めても相場よりお得かどうかを確認することが重要です。
セットバックには、土地が狭くなり、その分建物のサイズが小さくなるというデメリットがあります。せっかく理想の家づくりを計画していたのに、セットバックが必要な土地を購入してしまったことで敷地が狭くなり、予定していた間取りを変更せざるを得ない状況になる可能性もあるでしょう。
ただし、元々の土地が広く、セットバック後でも十分な敷地面積が確保できる場合は、問題なく理想の家づくりを進めることができます。また、敷地が多少狭くなったとしても、生活に支障がなく、さらに理想的な立地条件であれば、後悔しにくいでしょう。
セットバックが必要な物件は、通常、2項道路に面しています。もし建て替えを考えていないのであれば、セットバックを行わずにそのまま住み続けることができます。そのため、建て替えや売却の予定がなければ、セットバックによるデメリットを受けることは少ないでしょう。
ただし、防災上の理由でセットバックが推奨される場合もあります。その際は、リフォームやメンテナンスで防災性能を向上させることも可能ですが、家族の安全を重視するのであれば、セットバックを実施するか、別の物件を検討することをおすすめします。