木の家と一口にいっても、構造が木の家や、外観や内装が木の家などさまざまな種類があります。また木材の種類によっても特徴が異なります。この記事では、実例とともに木の家を建てるためのポイントについて、みゆう設計室代表で一級建築士の中川由紀子さんに話を聞きました。
木には、木の持つ独特なぬくもりや木目、構造材としての加工のしやすさや断熱性など、さまざまなメリットがあります。ただし、一口に「木の家」といっても、構造が木の家、外観・外装が木の家、内装が木の家、と大まかに3つのケースがあります。
構造が木の家は、いわゆる「木造」と呼ばれる住宅です。
構造が木の家には、木造軸組工法の家、2×4(ツーバイフォー)に代表される木造枠組壁工法の家、ログハウスなどがあります。
木造軸組工法は基礎に土台を乗せた上に木の柱と梁(はり)を組み合わせ、筋交い(すじかい)などを用いた耐力壁で揺れに対抗する工法です。
木造枠組壁工法は、一般的にはツーバイフォー工法とも言われる工法で、2×4インチなどの角材の枠をつくってパネルにして組み立て、4面の耐力壁と床、天井の6面体構造で揺れに対抗する工法です。
一般的に丸太を積み重ねた壁によって構成される建物を指します。
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外観・外装が木の家というものもあります。外壁を木の板張りにすることで、外観から木の風合いを楽しむことができます。
この場合は、必ずしも木造とは限りません。家の構造は鉄骨造やRC造でも、外観の一部に木を使用しているケースもあります。
床や壁、天井など、内装にも木はよく用いられます。内装で用いられる木材には、天然木を加工した「無垢(むく)材」と、合板などの表面に天然木を薄くスライスしたものを貼り付けた「突板(つきいた)」があります。そのほか、表面には木材は使用しておらず、一見すると木に見えるシート張りなどもあります。
無垢材はすべてが天然の木でできており、木目の美しさや味のある色調などの特徴が挙げられます。また、肌触りがやわらかいもの、高級感があるものなど、樹種によってさまざまな個性があります。突板と違い、すべてが木なので、表面だけはがれてしまうようなことはありません。一方で、湿度の変化で収縮することがある、樹種によっては傷付きやすいといったデメリットもあります。
天然木を薄くスライスしたものを合板などの表面に貼った突板は、同じ樹種の無垢材に比べて一般的に安価です。さらに、無垢材に比べ収縮や反りなどの変形が少なく、扱いやすいといった特徴があります。一方で、長期間の使用状況によっては表面の化粧板がはがれ、基材の合板が見えてしまうこともあります。
樹脂フィルムやプラスチックの一種であるオレフィン、紙などのシートを合板などに貼ったものです。本物の木ではないので風合いに欠けますが、安価なうえ、無垢材や突板と比べて木目をそろえやすいというメリットもあります。
木の家を建てたいと思ったとき、どこへ頼めばよいのでしょうか。
一般的に注文住宅の依頼先として、設計事務所、工務店、ハウスメーカーなどがありますが、個々の依頼先ごとに得意な工法やデザインテイストが異なるので、事前に確認が必要です。
設計事務所は、自由な設計力やアイデアが魅力です。工務店は地域密着型で、木造軸組工法を得意とする工務店も多くあります。また、一部の大手ハウスメーカーでも構造が木の家を手掛けており、各ハウスメーカーが独自の名称を付けてシリーズ展開しているケースがあります。各工法・構造の特徴については、各社のホームページなどをチェックしてください。
・積水ハウス:「シャーウッド構法」を採用
・住友林業:「BF(ビッグフレーム)構法」を採用
・ミサワホーム:「センチュリーモノコック」を採用
・三井ホーム:「プレミアム・モノコック構法」を採用
・一条工務店:「ツインモノコック構造」を採用
構造が木の家について、木造軸組工法やツーバイフォーなどの木造枠組壁工法を得意とする依頼先は比較的多いのですが、ログハウスを得意とするところは少ないため、事前の確認は必須です。また、どこに依頼する場合でも、事前に事例写真などを見て、自分の希望や好みに合ったところを選ぶといいでしょう。
木材は木の種類(樹種)によっても見た目の風合いや肌触りなど、特徴が異なります。
構造・工法によっても、よく使われる木材は異なります。
木造軸組工法の柱には杉やヒノキ、梁には米松(ベイマツ)などが使われますが、無垢材だけでなく構造用集成材もよく使われます。
ヒノキ
高い強度や耐久性を持ち、土台や柱などの構造用部材として非常に優れた樹種です。価格は杉よりも高い傾向にあります。
米松
たわみに強く、梁に適した樹種です。加工がしやすく、狂い(変形)も少ないのが特徴です。
SPF材が多く用いられています。SPFというのは、スプルース(Spruce、米トウヒ)、パイン(Pine、マツ類)、ファー(Fir、モミ類)などの常緑針葉樹の総称です。
床フローリングをはじめ、内装に使用される木材は多様です。ここでは内装材で人気の樹種について紹介します。
クルミ科クルミ属の落葉広葉樹。チーク、マホガニーと並ぶ世界の三大銘木の一つといわれている高級な木材です。落ち着いた深みのある色合いで、重厚感のある空間に合います。反りやねじれなどの変形が少なく、加工に適しています。
ブナ科、コナラ属の落葉性広葉樹で、日本ではナラと言われます。産地や種類によって色調や木目が若干異なります。飽きのこない色味でとても人気があります。乾燥材は丈夫で耐水性や耐久性が高いという特徴がありますが、加工がやや難しい面もあります。
硬くて強度があり、虫害にも強く、耐久性が高いのが特徴です。木肌が美しく、経年とともに色に深みが増して、最終的に飴色に変わります。古くから高級家具や高級なインテリアの内装材に使われてきました。
常緑針葉樹で、日本では昔から、構造材としても仕上げ材としてもよく使われてきた樹種です。比較的柔らかく、空気を多く含むので触れた時に温かみを感じます。木の中心部と周辺の色に違いがあり、木目がはっきりしているのが特徴です。比較的安価なので、無垢材で使いやすい木材です。
木製羽目板などの外壁材としてよく使われる樹種には、レッドシダーや杉、ヒノキなど、またイペやウリンなどの屋外に適した熱帯産木材があります。
主に北米産のヒノキ科ネズコ属の針葉樹。腐りにくくて、虫害に強いので外壁材やウッドデッキなど風雨にさらされる場所で広く使われています。軽くて加工性も良く、比較的安価です。
マレーシアやインドネシアなどの熱帯地域で産出される広葉樹。イペ、ジャラ、セランガンバトゥ、ウリンなどがあります。硬くて目が詰まっており、重いのが特徴。硬いので加工が難しいですが、耐候性があるため、塗装などがあまり必要ありません。
木の家には、さまざまなメリットがあります。どのようなメリットがあるのか、代表的なものを紹介します。
木は、コンクリートや鉄などと比べて、熱伝導率が低く、熱が伝わりにくいという特徴があります。
「木材は、木目が美しく、ぬくもりや風合いが感じられます。また、杉などの空気を含みやすい樹種だと、肌触りがやわらかく、体感的にもぬくもりを感じることができます」(中川さん、以下同)
樹種により加工性は異なりますが、一般的に切ったり、繋ぎ合わせたり、組み立てたりといった加工がしやすい点もメリットです。
木造の場合は木材を手運びで搬入するなどの対応が可能で、狭小地でも建てやすいというメリットがあります。
構造が木の家は、鉄筋コンクリート造や鉄骨造と比較して、一般的に建築コストは安価に抑えられます。
木の家にはさまざまなメリットがある一方、デメリットもあります。どのようなデメリットがあるのでしょうか?
シロアリは木を好むので、構造が木の家についてはシロアリ対策が必要です。ただ、新築の場合はシロアリ対策されているのが前提なので、あまり心配する必要はありません。枠材などの木材の中に虫が巣くっているケースもあります。
また、樹種や生活環境によっては木自体にカビが生える場合があります。湿気の多い場所で木を使う場合は適した樹種の木を使い、木にカビが生えてしまうことのないように十分な換気や湿気対策を取ると良いでしょう。
構造が木の家については、最近は工場でプレカットされた木材を現場で組み立てる方式が多いため、職人の加工技術に大きな差は出ません。しかし、内外装や家具などが木の家の場合、職人の技術によって仕上がりの良さに差が出ます。
「木は反ったり、湿度や温度によって膨張したり収縮したりします。特に無垢材を使う場合は、その木の特性を理解した上で、その木の特性に合った使い方をします」
外部であれば、雨風や紫外線の影響を受けるので、定期的に塗装し直すなど樹種に合わせたメンテナンスが必要です。
内装に関しても、経年によって日射による焼けや、日常使用によって傷が付いたり、汚れたりするので、定期的にオイルやワックスを塗り直すなどのメンテナンスが必要になります。メンテナンスの周期は、どこに、どんな樹種の木を使用するかによって異なりますので、建築士や建築会社の担当者に確認しておくといいでしょう。
また、木のメンテナンスが面倒な場合は、木目調のサイディングや壁紙、シート張りのフローリングを使うといった、見た目が「木の家風」の家をつくるという割り切り方もあります。
内装が木の家の場合、木はインテリアの重要な要素なります。内装が木の家をおしゃれにつくるにはどうすればいいのか、ポイントを紹介します。
「一番のポイントは、木を使い過ぎないことです。木を多用しすぎると野暮ったく感じることもあります。おしゃれにしたい場合は、木の素材感を活かしたいところが引き立つように、木以外の素材をバランスよく取り入れることが大事です」
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「木の木目や節は住む人の好みによります。木の節が好きな方も、節が少ない木目でモダンな印象にしたい人もいますので、事前に建築士や建築会社の担当者に相談するといいでしょう。
また、同じ樹種でも木目が揃ったほうが美しく見えるので、家具の扉材などは木目が揃うように製作してもらいます」
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木の色も樹種によって明るい色、暗い色とさまざまです。好みの色や家全体のテイストに合わせて樹種を選ぶようにするといいでしょう。
「暗めで高級感のある色味にしたい場合はウォールナットやチーク、明るい色味にしたい場合はメープルなどを選ぶことがあります。
内装に木を使う場合は、色だけではなく質感や木の特性、床や壁・家具・扉など使う場所に合わせた全体のバランスも考慮して選ぶ必要があります」
木は他のさまざまな素材と組み合わせた時の相性が良い素材です。
「金属、コンクリートやタイルなどと組み合わせてもよく合います。例えば、木とステンレスを組み合わせた場合、ステンレスのクールな印象と、木の温かみがバランスよく融合して、程良いスタイリッシュな雰囲気を演出することができます。素材の組み合わせは、家全体のテイストに合わせて検討すると良いでしょう」
どのような木の家が、どれくらいの価格で建てられるのか、間取りと実例を紹介します。
実家が木造建築だったことから、木造の平屋で耐震性に信頼が置ける家を希望したFさん。天井に梁を出したいという夫のアイデアも取り入れて、リビングからヒノキの白木の見せ梁が楽しめる平屋が完成しました。
土地面積 | 約434m2 |
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延床面積 | 約115m2 |
建築費 | 2400万円 |
間取り | 3LDK+ロフト |
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構造にもヒノキの無垢材を使うなど、自然素材にこだわった建築会社に住まいづくりを依頼したSさん夫妻。内装はもちろん、外装の一部も板張りにして、自然が感じられるデザインを演出しました。
土地面積 | 約148m2 |
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延床面積 | 約119m2 |
建築費 | 2400万円 |
間取り | 2LDK+畳コーナー+書斎 |
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自分たちの好みにあったデザイン性の高い家を求めていたOさん夫妻。自由度の高い依頼先と出会い、おしゃれな新居が完成。リビングの床は、波打つような加工が施されたシックな色味の無垢フローリング。味のある雰囲気がお気に入りです。
土地面積 | 約87.59m2 |
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延床面積 | 約99.5m2 |
建築費 | 1000万円台 |
間取り | 3LDK |
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家づくりにあたり、耐震性にこだわりのあったBさん。木造でも耐震等級3が取れて、予算内でちょっとおしゃれなプランを提案してくれた会社と家づくりを進めました。内装にもこだわり、玄関にはタイルの壁材を使用。木のフローリングとの相性もバッチリです。
土地面積 | 約119m2 |
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延床面積 | 約124m2 |
建築費 | 1900万円 |
間取り | 5LDK |
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→買い物ついでに相談を重ね、スーモカウンターと安心の家づくり
二世帯住宅を建てることだけを決めていたNさん夫妻。当初は漠然と鉄骨構造がいいと思っていましたが、木造でも3階建てが建てられるほどの強度があると知り、方針転換。木造建築に定評がある会社に建築を依頼して、思い描いた理想の二世帯住宅が完成しました。
土地面積 | 約146m2 |
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延床面積 | 約126m2 |
建築費 | 3000万円 |
間取り | 2LLDDKK+小屋裏収納 |
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→実家の建て替えか新しい土地で注文住宅かを迷い、理想の建築会社で新居を完成
「これまで紹介してきた通り、木の家はメリットも多く、日本人には馴染みがあり、とても落ち着きます。気温や温度の変化によって反りや膨張・収縮が起こるというような性質もあるので、それぞれの樹種の特性を理解した上で利用することが大事です。経年変化やメンテナンスも、木の家の個性として楽しんでほしいですね」
木の家には、構造が木の家、外観・外装が木の家、内装が木の家がある
木の家で使われる木材は、樹種によって特徴が異なる
木の家をおしゃれにつくるには、木をバランスよく使うこと