注文住宅を建てるときや建売住宅を購入するとき、木造と鉄骨の違いがわからなかったり、わが家にはどちらがいいのだろう?と迷ったりする人は多いかもしれません。そこで今回は、一戸建ての木造と鉄骨の主な種類と特徴、選ぶ際のポイントなどについて、一級建築士の長澤さんに伺いました。
「木造」「鉄骨」という建築用語を、ハウスメーカーのカタログや建売住宅の物件情報で目にしたことはあるでしょう。この2つは、建物の主な構造体(骨組み)で使用された“素材”のことで、木を使って造られていると「木造」、鉄を使って造られていると「鉄骨造」となります。
住宅の工法とは、構造体(骨組み)を建てる方法のことです。例えば、木造住宅の工法には、主に3つの種類があります。
基礎に土台を乗せて柱を立て、梁などの水平な材を渡して骨組みをつくり、壁には筋かいという斜めの材を入れて補強し、構造体を造る工法。「在来工法」とも呼ばれる。
断面サイズが2×4インチの角材で枠をつくり、枠に合板を打ち付けてパネル化したものを壁、床、天井に使い、六つの面で構造体を造る工法。「枠組壁工法」とも呼ばれる。
柱と梁からできた構造体の接合部を、金物などを用いて強く接合することで強靭な枠(フレーム)を形成する工法。「木造ラーメン構造」とも呼ばれる。
鉄骨造の住宅の工法も、主に3つの種類があります。いずれも、Steel(鉄)の頭文字をとって「S造」とも呼ばれます。
厚さ6mm以上の鉄骨を用いて構造体を造る工法。大規模なビルやマンションなどに採用されるケースが多い。
厚さ6mm未満の鉄骨を用いて構造体を造る工法。小規模なビルや住宅に採用されるケースが多い。
柱と梁を厚さ6mm以上の重量鉄骨で構成し、その接合部を強く接合した工法。中規模なビルや住宅に採用されるケースが多い。
注文住宅を検討していると、「プレハブ工法」という言葉を耳にすることがあります。
「プレハブとは、プレファブリケーション(Pre-fabrication)の略称で、建築現場で組み建てる前に、工場で部材の生産や加工をすることを意味します。つまり、プレハブ住宅とは、構造体を工場で生産・加工し、現場で組み立てられた住宅のことです。
プレハブ住宅をプレハブ工法と表記することがありますが、“プレハブ”は構造体を建てる方法ではないので、プレハブ住宅と表記する方がよいと思います。ちなみに、プレハブ住宅は、構造体に用いられた素材により「木質系」や「鉄骨系」などに分類されます」(ポーラスターデザイン一級建築士事務所 長澤徹さん。以下同)
つまり、住宅における木造/鉄骨造を細かく分類すると、『一般工法』では木造軸組工法や軽量鉄骨などに、『プレハブ住宅』では木質系や鉄骨系などになるのです。
木造 | 鉄骨造 | |
---|---|---|
一般工法 | 木造軸工法 枠組壁工法(ツーバイフォー工法など) 木質ラーメン構造 |
軽量鉄骨造 重量鉄骨造 鉄骨ラーメン造 |
プレハブ住宅 | 木質系 | 鉄骨系 ユニット系 |
木造か鉄骨かを選ぶ際に気になるのは、それぞれのメリット・デメリットです。鉄骨の方が地震に強く木造は弱そう、木造は暖かみがあるけど鉄骨は寒い家になりそうなど、さまざまなイメージを持っているかもしれませんが、実際、住宅性能面に差はあるのでしょうか。
「住宅性能には耐震性、耐久性、断熱性、気密性、防音性などがありますが、大手ハウスメーカーで建てる住宅なら、木造と鉄骨造による性能差はほとんどないと考えてよいでしょう。
大手ハウスメーカーは、住宅性能の向上のために自社で研究施設や工場を持ち、新たな部材の開発や性能実験を重ねています。また、高い住宅性能を実現するには施工精度も必要なので、自社専属の工事職人を抱え、研修制度を充実させています。
これらの企業努力により、大手ハウスメーカーの提供する住宅は、木造/鉄骨に関わらず、住宅性能表示制度(※)の等級が最高値を満たす商品が主流なので、性能の差はほぼないのです」
※住宅性能表示制度:住宅品質確保促進法(品確法)に基づき、住宅性能を専門機関が評価して表示する制度。性能の高さは等級で表され、数値が高いほど性能が高い。新築住宅は以下の10分野が評価される。
1:地震などに対する強さ(構造の安定)
2:火災に対する安全性(火災時の安全)
3:柱や土台などの耐久性(劣化の軽減)
4:配管の清掃や取り替えのしやすさ、更新対策(維持管理・更新への配慮)
5:省エネルギー対策(温熱環境・エネルギー消費量)
6:シックハウス対策・換気(空気環境)
7:窓の面積(光・視環境)
8:遮音対策(音環境)
9:高齢者や障害者への配慮(高齢者等への配慮)
10:防犯対策(防犯)
<参考情報>
住宅性能評価・表示協会
住宅性能と同様、間取りの自由度も、大手ハウスメーカーで建てる住宅なら木造/鉄骨による差はほとんどないと長澤さんはお話されます。
「ひと昔前までは、鉄骨の方がより広い空間をつくれたり、壁や柱の位置を自由に決められたりすることができました。しかし、現在は積層材(※)や集成材(※)など強度を高めた加工木材を構造体に利用することで、木造も鉄骨と同じぐらい自由に間取りをつくれるようになっています」
※積層材:薄くスライスした板を、繊維方向が互い違いに直交するように複数枚重ね、貼りあわせて一枚にした木材
※集成材:節や割れなどを取り除いて製材した板や小角材を、繊維方向をそろえて接着した木材
工務店や中小ハウスメーカーを建築依頼先として選び、一般工法で家を建てる場合、敷地条件や予算などのケースに応じて木造/鉄骨を検討した方がよいかもしれません。その一例を下記に紹介しましょう。
地盤に負荷をかけないためにも、構造体がより軽い木造がベター。しかし、鉄骨でも軽量鉄骨造ならさほど重くないので選択できる。
鉄骨は建築現場での加工が難しく、一邸ごとに工場で加工するため、コストが高くなりやすい。一方、木は建築現場で加工できるため、コストを抑えやすい。
防火地域や準防火地域では、住宅の耐火性を高めた建物にする必要がある。近年までは、3階建て以上や100m2を超える建物は木造では建築できず、鉄筋コンクリート造や鉄骨造が主流となっていたが、法改正により、木造でも耐火構造にすれば3階建て以上や100m2を超える建物が可能になった。
鉄筋コンクリート造や鉄骨造よりも重量が軽く、コストも抑えやすい木造が加わったことにより、防火地域や準防火地域での選択肢のバリエーションが増えた。
「大手ハウスメーカーに依頼する場合、木造/鉄骨にこだわりすぎる必要は無いと思います。
大手ハウスメーカーは、自社商品をアピールするためにカタログなどで性能を詳しく説明しているので、比較して迷うこともあるでしょう。しかし、前述したように、大手ハウスメーカーの主な商品は住宅性能表示制度の最も高い等級を満たしているため、木造/鉄骨による差はほぼないと言えます。
したがって、木が持つ柔らかなイメージが好きなら木造を、鉄の頑丈そうな質感が好みなら鉄骨造など、自分の好みやイメージで選んでも問題ありません」
【構造・工法別 主な大手ハウスメーカー】
●木造:住友林業、三井ホーム、セキスイハイム、積水ハウス、ミサワホーム、ヤマダホームズ など
●鉄骨造:積水ハウス、 ダイワハウス、ミサワホーム、旭化成ホームズ、トヨタホーム、 パナソニックホームズ、セキスイハイム など
一方、工務店や中小ハウスメーカーで建てる場合、前述したように、敷地条件や予算などのケースに応じて木造/鉄骨を検討するとよいでしょう。
ただ、設計・施工や部材選定などの工夫により、選択の余地は広がります。最初から「絶対に木造」「鉄骨でないとダメ」などと決めずに、家づくりの際にはできるだけ多く情報を集め、気になるハウスメーカーや建築会社に相談することをおすすめします。
木造と鉄骨の違いは、家の構造体に使用されている素材が違うこと
大手ハウスメーカーで建てる場合、木造/鉄骨による住宅性能や間取りの自由度の差はほとんどない
工務店や中小ハウスメーカーで建てる場合、敷地条件や予算などのケースを踏まえて検討したい