すべての空間がワンフロアに収まり、毎日の生活において上下移動の必要がない「平屋」。バリアフリーや生活動線の良さ、家族とのコミュニケーションがとりやすいなど今、世代を問わず、平屋への注目度が高まっています。そこで、建築・購入する前に知っておきたい平屋のメリット・デメリットと、デメリットを解消するための設計の工夫について、建築士の望月新さんに教えて頂きました。
平屋とは、階段がなく、1階部分のみの建物のことです。平屋といえば、昔ながらの日本家屋をイメージする人がいるかもしれませんが、近ごろはデザインや間取りにこだわった家が増えたこともあり、あえて平屋を選択する人も増えているようです。
では、暮らしにおける平屋のメリットには、どのような点があるのでしょうか。
「平屋には階段がないので、フラットなバリアフリーの家を実現できます。建て替えやリフォーム相談のために年配の方のご自宅を訪ねると、階段の上り下りが億劫だし危ないので、最近は2階の部屋は使わず、物置部屋となっているなどのお話を聞くことがあります。年齢を重ねた方はフラットな家の方が暮らしやすいですし、バリアフリーにすれば転落やつまずきを防ぎやすいため、暮らしの安全性にも繋がります」(望月建築アトリエ 望月新さん。以下同)
平屋は、平行移動だけで家事や生活ができるので、効率のよい動線計画が立てやすくなります。
「間取りにもよりますが、洗濯や掃除、片付けなどの家事動線は2階建てと比べると上下移動も不要となり、より効率的になります。また、水まわりや部屋ごとの距離が近い間取りにすれば、生活動線もコンパクトにできるでしょう。
ただ、気をつけたいのが玄関の位置です。玄関を家の隅に設けると、反対側にある部屋への廊下が長くなるので注意が必要です。玄関をできるだけ家の中心に設ければ、どの部屋にもスムーズに行ける動線の間取りになります」
生活がワンフロアで完結する平屋は、家族と顔を合わせる機会が増えるため、お互いの様子がよくわかるようになります。
「玄関の近くに階段があると、子どもが帰宅後に2階の個室に直行してしまう、個室で過ごす時間が長くて様子がわからないというケースがあります。その点、平屋はすべての部屋がワンフロアにあるので、自然と顔を合わせやすく様子もわかります。顔を合わせると会話が増えるので、コミュニケーションも取りやすくなるでしょう」
すべての空間が地面に近い平屋は、屋外に出やすく、窓から外の景色や緑を取り込めば自然を身近に感じられる住まいになります。テラスを設けてお茶や食事を楽しんだり、芝生を植えて子どもやペットが走り回れるようにすると、さらに屋外で過ごす時間を楽しめるでしょう。
「地震や火災などの緊急時には掃き出し窓から外に出られるので、いざというときに安心です。特に車椅子で生活する方にとって、日々の暮らしに安心感が持てるようになります」
ここまで、暮らしにおける平屋のメリットを紹介しましたが、次からはプランニング上のメリットについてご紹介します。
まず、平屋は1階部分に2階の重さがかからないため、建物の構造が安定します。耐震性は高まりますし、柱や壁が少ない広々とした空間や大きな開口部をつくりやすくなります。
2階がない平屋は、屋根の下にあたる小屋裏を活用しやすくなります。勾配(角度)のある屋根をかければ、勾配天井にして開放感を演出したり、小屋裏空間をつくり収納やベッドスペースに活用できます。
「私が平屋を設計するときには、勾配屋根にして天井を高くし、開放感のある居室をつくることが多いです。さらに、屋根は南側の軒を深く取って、夏の熱い日差しが室内に入りにくく、冬の穏やかな日差しを取り込めるようにしています。日本の昔の家は、屋根を大きくして軒を深くすることが多かったのですが、そうすることで屋根が建物や暮らしを守っていたのです」
家は建築・購入した後にもメンテナンス費用がかかります。建物の美観や耐候性を保つためには、屋根や外壁の定期的な点検や修繕が必要になりますが、平屋の場合、大掛かりな足場を組まなくても外壁を塗装でき、屋根の修理をすることもできます。
「キッチンや浴室などに通じる給排水管は、詰まりや老朽化などにより水が漏れることがあります。これらの空間を2階に配した場合、水漏れが発生すると1階の天井と2階の床の点検や修繕が必要になりとても大変ですが、平屋は1階のみの作業で済むのでメンテナンスもシンプルになります」
・バリアフリーを実現できる
・効率よい動線をつくりやすい
・家族の様子がわかり、コミュニケーションが取りやすい
・屋外に出やすいので、自然を身近に感じられる
・構造が安定し、大空間や大きな開口をつくれる
・2階がないため、小屋裏を活用できる
・メンテナンス費用を抑えやすい
暮らしやプランニング上のメリットが多い平屋ですが、一方でデメリットもあります。
一番のデメリットとして挙げられるのが、同じ延床面積の家を建てる場合、2階建てよりも広い敷地が必要になる点です。
「土地には建築基準法により用途地域が定められています。用途地域では、敷地に対してどのぐらいの広さの家を建ててよいのかを建ぺい率で表していますが、例えば建ぺい率が50%の場合、平屋は土地の半分までしか家を建てられないことになります」
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同じ延床面積の平屋と総2階の建物を比べた場合、平屋は屋根と基礎の面積が2階建ての倍になるため、その分の工事費がアップして坪単価が高くなることがあります。
「坪単価に含まれる工事費のうち、基礎工事と屋根工事は平屋の方が高くなります。平屋の場合は大きな足場を組まなくて済み、2階のトイレや洗面台などの住宅設備が不要なため、その分の費用が抑えられるケースもありますが、坪単価にすると2階建てより少し高くなるケースが多いように思います」
敷地の周辺環境によっては、日差しや風が家の中まで届きにくくなりがちです。
「光や風が十分に入る間取りにするには、家の形をコの字型やロの字型にして中庭を設ける、庭面向きのL字型にするという方法もあります。また、平屋は採光のよい南側に部屋を設け、北側に廊下や水まわりを配する間取りが多いのですが、北側にも複数の窓を忘れずに設けましょう。そうすれば北側も日中は明るいですし、家の中を風が通り抜けやすくなります」
1階のみの平屋は、道路や隣家からの視線が届きやすく、暮らしのプライバシーが守りにくい面があります。間取りをつくるときは、敷地周辺の人や車の往来状況を把握したうえで窓の位置やサイズを決めましょう。
さらに、敷地のどこに家を建てるのかを考える「配置計画」も重要になります。例えば、道路側に建物を配して庭は外から見えないようにする、建物で囲んだ内側に庭を設けるなどの計画なら、庭や庭に面する開口部から室内が見えにくくなります。
平屋に限りませんが、1階部分の窓が多いと屋外への出入口が増えるため、防犯面に配慮する必要があります。
「家のまわりに、踏むと音が出る砂利を敷いたり、人感センサー付きライトを設置するとよいかもしれません。不審者は近隣住民や通行人の目が気になるので、家を高い塀で囲んだりせず、敷地内の様子がわかりやすいようなオープンな外構にするのもよいでしょう」
・広い敷地が必要になる
・建物の坪単価が高くなることも
・日当たりや通風が悪くなるケースも
・プライバシーの確保が難しい
・防犯面での配慮が必要
注文住宅で平屋を建てる場合、設計の工夫次第でデメリットを解消することができます。ここからは、2つの実例でご紹介しましょう。
1つめは、ある程度の広さを確保しつつ、家の中心まで光や風が届く平屋を建てるために、建物をコの字型にして中庭をつくった実例です。庭に芝生を植えたことで、子どもやペットが安心して走りまわれるスペースになり、隣接する道路からも中庭の様子が見えにくいのでプライバシーの面も安心できます。
もう1つは、家の形を平屋で多く見られる長方形ではなく、少しだけ曲げたくの字型の間取りにした実例です。敷地の道路側に建物を配し、その内側に庭を設けることで通行人の視線が遮られるため、プライバシーが確保できる間取りになりました。くの字型にすると建物が細長くなりやすく、玄関の位置によっては生活動線が長くなってしまいますが、玄関を家の中心に設けて生活動線を短くしています。
平屋について詳しくはこちら
平屋の間取りが知りたい!平屋でおしゃれに住みたい!人のための、坪数別&LD別間取りモデル
メリット4でもご紹介したように、平屋は屋外に出やすいため、自然を楽しみやすい住まいといえます。
「平屋をご希望される方の多くは家庭菜園やガーデニングが趣味だったり、テラスをつくってBBQなどの食事を屋外で楽しみたいとお話されます。
屋外は特に何もしなくても気持ち良さを感じられる場所ですし、少し過ごすだけで気分転換にもなりますよね。シンボルツリーを植えたり、ガーデニングや家庭菜園をすると、花や紅葉を眺めたり野菜の収穫ができるようになり、自然を通じた心豊かな暮らしを楽しめます。きっと家族との会話も弾むようになるでしょう。
庭に植栽や芝生を張ると、芝刈りや落葉掃除などのメンテナンスは大変になりますが、それが楽しめる方は、自然との暮らしを楽しみやすい平屋をオススメします」
マンション、2階建て、3階建てなど、どのような住宅にもメリット・デメリットはあります。平屋の建築・購入を検討している人は、まずは平屋のメリットとデメリットを理解しておくことが大切です。そのうえで、自分たちが希望する間取りやライフスタイルが実現できるかをポイントにして、平屋の建築・購入を選択するとよいでしょう。
平屋のメリットはバリアフリーの間取りと効率よい動線がつくれること、屋外に出やすく自然を感じる生活が楽しめることなど
平屋のデメリットは、広い敷地が必要なことや坪単価が高くなりがちなことなど
平屋のメリット/デメリットを理解したうえで、希望の間取りやライフスタイルが実現できるかを重視して選択したい