建築家に聞く、1000万円台で家を建てる方法

最終更新日 2022年09月08日
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注文住宅を建てた人に聞いてみた。完成までの楽しかったこと、大変だったことは?

建築家に設計を依頼して家づくりをする──ワクワクする試みだけれど、ちょっと気後れするし、費用もかかりそう。そんな不安を抱いているあなたに、建築家と建てる家とはどんな家なのか、どう希望を伝えればよいのか、費用はどのぐらいかかるのかなど、アトリエ・天工人(テクト)の山下保博さんにうかがってみた。

デザインだけでなく、素材まで生み出すという試み

──アトリエ・天工人では、素材にしてもデザインにしても実にさまざまな住宅を手がけていますね。
山下:スタイルをもたないのが僕のスタイル(笑)だと思っています。なぜかといえば、建築ってクライアントも違えば、敷地も違う。環境も違えば、建てる国さえ違うかもしれない。クライアントのどんな条件でもクリアし、より豊かな空間を提供するのが建築家の仕事だと思っていますので、スタイルには全くこだわっていません。

──「Project1000」という比較的コストの安い住宅もつくっていますね。
山下:阪神・淡路大震災の復興を契機に「1000万円台での家づくり」を目標に、建築家と施工会社のチーム制による住宅建築を全国規模で展開できるプロデュースの「Project1000」を1997年につくりました。そこからの依頼として、年間で6~7棟が「Project1000」、3~4棟が「アトリエ・天工人の住宅」、住宅以外の仕事が5~6物件動いています。

──2つの仕事があるわけですね。「アトリエ・天工人の住宅」というのはどんな家づくりなんですか?
山下:「Project1000」が木造在来工法に限定しているのに対し、「アトリエ・天工人の住宅」は木造以外の構造体で、素材から構造までを新しく開発することもあります。例えば今、鹿児島県のシラス(桜島の火砕流堆積物)を混ぜたコンクリートでできた環境型の住宅が、恵比寿で完成しつつあります。

迷惑なゴミとなっている火砕流堆積物を、高耐久でエコな次世代のコンクリートにしようと2012年から続けてきたプロジェクトです。同じように、今度は愛知県の瀬戸で瀬戸物をつくる土から出る廃材の「キラ」を使って、コンクリートかブロックかタイルかまだ分かりませんが、有用な建築材料をつくろうというプロジェクトを進めています。

ほかにも世界で最初にガラスブロックを構造体とした住宅や鉄板でつくったカラーボックスを構造にした住宅、日本で最初に土を構造体にした住宅など、これまでいろいろな試みをしてきましたが、そういったこだわりをもたれる方に対する一品生産の家づくりです。

2011年竣工の日本で初めての「土を構造体とした家」。400mmx250mmx100mmの土ブロック約2500個を手作業で作成し、積み上げて外壁を施工している(撮影:傍島利浩)
2011年竣工の日本で初めての「土を構造体とした家」。400mmx250mmx100mmの土ブロック約2500個を手作業で作成し、積み上げて外壁を施工している(撮影:傍島利浩)
2014年竣工の名古屋の住宅「胡桃の舎」。室内の胡桃材だけでなく、瀬戸市で産出される硅砂を使った左官外壁を採用。伝統的な素材・技術と現代のライフスタイルの融合を試みた
2014年竣工の名古屋の住宅「胡桃の舎」。室内の胡桃材だけでなく、瀬戸市で産出される硅砂を使った左官外壁を採用。伝統的な素材・技術と現代のライフスタイルの融合を試みた(撮影:傍島利浩)

──デザインだけでなく、素材まで新たに生み出そうとしているわけですね。
山下:はい、素材が好きなんです(笑)。好きな理由のひとつは、僕が奄美大島という多様性のある自然が多い場所で生まれたこと。もうひとつは、物事の根っこにある本質的なものが好きということです。例えば、鉄とガラスとコンクリートがここまで一般化したからこそ、モダニズムという建築様式が生まれたと思います。様式ありきではなく、素材という根っこの変化が建築様式を大きく変えたのではないかと思っており、素材はそれだけの力があるということですね。

建て主の要望はどんな流れで建築に活かされるのか

──クライアントの年齢層はどのあたりですか?
山下:割合的に多い年代は30歳半ばから40歳後半で、最近は年輩の60歳前後の方もいらっしゃいます。第一次取得層と第二の人生層ですね。

──クライアントが訪れて、まず最初にどのようなやりとりがあるのですか?
山下:分かりやすいので「Project1000」で説明します。プロデュースの紹介でクライアントがいらっしゃったとします。最初に行うことは、敷地の条件とクライアントの個人的な情報(勤務先や趣味など)のヒアリングをします。次に、要望のヒアリングですね。ためしにやってみましょう。

敷地の条件とクライアントの個人的な情報(勤務先や趣味など)のヒアリング

といった感じで1時間~1時間半ぐらい聞いていきます。そして面積計算をして施工床面積が出たら、坪単価を掛けて全体の建築のコストや経費を算出します。僕らは今まで200棟以上の実績があるので、要望に合わせた坪単価が出せるんですね。

「Project1000」の場合、2階建てで64万円ぐらいです。あとは外構にいくら、必要であれば地盤改良にいくら、登記や確認申請料がいくら、僕らの設計料と交通費がいくらと計算していって、あなたの家はこのようなプログラムで、この値段になりますというのが出ます。それでOKであれば、次は2カ月後に3パターンの図面と模型でプレゼンテーションをします。

──3パターンもプレゼンしてもらえるんですか?
山下:ええ、それも設計料に含まれています。ただ、もしキャンセルされるのであれば、プレゼン代として5万円いただきますし、図面と模型は返してもらいます。

──5万円でいいんですか?
山下:私たちとお会いしてプレゼンテーションに進む方は90%以上の確率で契約に進むので5万円で構わないんです。ここまでが2~3回目の打ち合わせです。次の回で設計契約を行います。契約後に再度基本設計の打ち合わせを2~3回行う間に、クライアントとスタッフが一緒に材料や設備のショールームを回って、64万円の坪単価に見合う標準仕様はこれですと説明します。そこで違うものを要望されるのであれば、差額を提示します。

──それは安心ですね。
山下:「Project1000」をひきうけてくれる工務店は東京近郊で5社ありますが、彼らとの坪単価の想定打ち合わせというのを年に1回やっているので、金額のブレが少ないのです。それ以上にクライアントに安心なのは、良い質の住宅がブレないで獲得できるということじゃないでしょうか。

2014年竣工「Project1000の家」。敷地約73m2、延床面積約62m2。視線が長手方向に抜ける1階のLDK、高い舟底天井によってつながる2階寝室、広めのバルコニーなど、体感できる空間の伸びやかさが確保されている(撮影:傍島利浩)
2014年竣工「Project1000の家」。敷地約73m2、延床面積約62m2。視線が長手方向に抜ける1階のLDK、高い舟底天井によってつながる2階寝室、広めのバルコニーなど、体感できる空間の伸びやかさが確保されている(撮影:傍島利浩)
2011年竣工。「Project1000」で建てた料理研究家の妻とその夫のための家。キッチンには高窓から光が降り注ぎ、横にはパントリーがあるなど、料理を創作し,楽しむための工夫が随所に見られる
2011年竣工。「Project1000」で建てた料理研究家の妻とその夫のための家。キッチンには高窓から光が降り注ぎ、横にはパントリーがあるなど、料理を創作し,楽しむための工夫が随所に見られる

次の時代までをデザインするのが建築家の仕事

──比較的コストの安い「Project1000」で建てたい、デザインや素材にこだわった「アトリエ・天工人の住宅」で建てたいというのは誰が決めるんですか?
山下:ほとんどのクライアントが自分で決めてきますね。ただ、こだわりのある家を建てたいというのでヒアリングしてみると、それはどう考えても「Project1000」のほうが向いているし、お買い得ですと(笑)いうのはあります。その逆もありで、年に1組ずつぐらい「Project1000」から「アトリエ・天工人の住宅」に移る人もいます。

──「アトリエ・天工人の住宅」の坪単価は違うんですか?
山下:RC造だったら坪単価90万円から120万円ぐらい。鉄骨造ならそれより5万から10万安いぐらいじゃないでしょうか。設計料はホームページでオープンにしていますが、10~18%ぐらいですね。

──クライアントの皆さんは、明確なイメージを持っていらっしゃる方が多いですか?
山下:7割ぐらいは自分で決めてきていますね。最低でも何かリストは持っているし、好きな建築の写真が載った雑誌を持ってきたりしますね。僕が何でもOKと言っているので(笑)。誰のものであろうが、昔のものであろうが。

例えば安藤忠雄さんの本を持ってきて、こんなのを建てたいといわれてもOKです(笑)。構造体が、土の住宅のような特別なものであれば、慎重にクライアントと話し合い、進めるようにしています。無理やりにクライアントを説得するようなことはしないですね。その人が一緒になってリスクを共有できる人と分かったときに、初めてクライアントになっていただくことに決めています。

──山下さんにとって、住宅建築の仕事って何でしょうか?
山下:30年後、50年後も家族が楽しく暮らせる家を設計したいと思っています。ですから、クライアントの具体的な希望はできる限り満足できるように設計します。そして、その要望をもっと膨らませた気持ちの良い空間であったり、その家族が時間と共に変化しても対応できるような空間であったり、家族間の関係性がうまく行くような家を提案します。住宅は、人と人との関係をつくる器なのですから、心を込めてつくりたいと思っています。

建築家 山下保博

●取材協力
建築家 山下保博

1960年鹿児島県奄美大島生まれ。86年芝浦工業大学大学院修了。
91年山下海建築研究所設立。95年事務所名をアトリエ・天工人(テクト)に改称。2013年より九州大学客員教授。2004年第11回空間デザイン・コンペティション作品部門金賞に始まり直近の2014年JIA建築賞日本建築家協会賞まで受賞多数

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取材・文/絹谷 廣子(PLUS ONE)
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