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住宅の省エネ化が話題の昨今、一定の断熱基準を満たした住宅の購入・新築には、さまざまな優遇制度が用意されています。高断熱の家にしたいなら「断熱はまず窓から」と言われていることをご存じですか。なぜ窓なのか、どうすれば断熱性能を高められるのか。窓をつくっているYKK APの広報室・浅見周司さんに教えてもらいました。断熱リフォームを考えている人だけでなく、これから家を建てる人も必見です。
地球温暖化が進み、猛暑ではなく「酷暑」が頻繁に発生するようになった日本。その中で快適に暮らすためには家の断熱性を高める必要があります。しかし(詳しくは後述しますが)日本は断熱性においては実は後進国と言っていいほど、これまで家の断熱性を重要視していませんでした。
家の断熱性、ひいては家の快適性を高めるためには、窓を変えることが最も有効な方法です。なぜなら断熱材の入っている壁と比べて窓は、これまで断熱性が低く、室内の夏の暑さや冬の寒さの最大の要因でした。YKK APによると、従来の複層ガラス・アルミフレームの窓の場合、夏は74%の熱が入り込み、冬は50%の熱が逃げています。
最近は断熱性の高い窓=断熱窓がたくさんあります。こうした断熱窓に変えるだけで、夏も涼しく冬も暖かい家に変えることができます。

窓の断熱性を上げるために「カーテン」や「断熱シート」「断熱ボード(パネル)」などを利用する人もいるようです。しかし厚い生地のカーテンを使ったとしても、カーテンと窓との間の隙間の空気が夏なら温められ、冬なら冷やされ、その空気が室内に流れ込んでしまうので、断熱窓ほど効果はありません。
また断熱シートを窓に張っても、断熱性能を示す熱貫流率(下記で説明します)を比べればわかると思いますが、断熱窓ほどの断熱効果はありません。またフレーム部分はそのままなので、そこから熱が出入りしてしまいます。その割に遮光するために色が少しついていたりしますから、窓から見える景色も変わります。
断熱ボードは、窓に隙間なく張ることで断熱性能を高めますが、隙間なく張るほどに「外の景色を楽しむ」ことはできなくなり、また「空気を入れ換える」ことも難しくなります。
断熱窓なら外の景色を従来通り楽しめて、開ければ換気もでき、しかも閉めてしまえば家の中を快適にしてくれます。
冬用の断熱シートや断熱ボードは、部屋の熱を逃がさないようにして断熱効果を上げる製品なので、夏用として利用する際は、日光を遮断するアルミ素材や不織布のタイプにする必要があります。製品によっては、夏冬兼用の断熱シートも販売されていますので調べてみるとよいでしょう。
また、窓ガラスが凹凸のある型板ガラスの場合、通常の断熱シートは接着できないので、専用の断熱シートを使用しなければなりません。窓ガラスが防火仕様の網入りガラスや断熱仕様のLow-E複層ガラスの場合は、断熱シートや断熱ボードなどを使用するとガラスが割れてしまうこともあります。このように断熱シートや断熱ボードは季節や窓ガラスのタイプによって使用できないものや効果が期待できないものもあるので注意が必要です。
断熱窓に変えれば、室内の温度を一定に保ちやすくなります。そのためエアコンの稼働が減り、結果的に冷暖房費を節約することができます。窓だけでなく、もう1つの開口部である玄関ドアも一緒に交換するとさらに効果的です。
下記表のように、例えば東京都なら「複層ガラス・アルミフレームの窓+一般的な玄関ドア」から「高断熱ガラス・樹脂フレームの窓+高断熱玄関ドア」に変えると年間1万9900円、盛岡市なら4万3000円節約することができます。
| 商品名 | 冷暖房費の合計 | 節約金額 |
|---|---|---|
| アルミPG+ヴェナートD4 | 13万500円 | |
| アルミ樹脂複合PG+ヴェナートD3 | 11万3700円 | 1万6800円(約13%減) |
| APW.330+ヴェナートD2 | 9万4800円 | 3万5700円(約27%減) |
| APW.430+イノベストD50 | 8万7500円 | 4万3000円(約33%減) |
| 商品名 | 冷暖房費の合計 | 節約金額 |
|---|---|---|
| アルミPG+ヴェナートD4 | 6万6900円 | |
| アルミ樹脂複合PG+ヴェナートD3 | 5万9600円 | 7300円(約11%減) |
| APW.330+ヴェナートD2 | 5万500円 | 1万6400円(約24%減) |
| APW.430+イノベストD50 | 4万7000円 | 1万9900円(約30%減) |
| 商品名 | 冷暖房費の合計 | 節約金額 |
|---|---|---|
| アルミPG+ヴェナートD4 | 6万5400円 | |
| アルミ樹脂複合PG+ヴェナートD3 | 5万9800円 | 5600円(約9%減) |
| APW.330+ヴェナートD2 | 5万900円 | 1万4500円(約22%減) |
| APW.430+イノベストD50 | 4万8700円 | 1万6700円(約26%減) |
ヒートショックとは急激な温度の変化で体がダメージを受けること。例えば暖かいリビングから出て寒い脱衣場で裸になると血管が縮んで血圧が上昇します。そのまま暖かいお風呂に入ると今度は血管が広がって急に血圧が下がります。こうした血圧の変動は心臓に負担をかけ、心筋梗塞や脳卒中を引き起こすことがあります。
また結露とは、暖かくて水蒸気を含んだ空気が冷やされることで、水蒸気が窓などに水滴として付着することです。グラスに冷えたビールを注ぐと水滴が付着するのと同じ原理です。特に冬になると、暖かい室内と寒い室外との温度差によって生じます。結露はカビやダニの発生源にもなります。
断熱窓に変えると家の中の温度を一定に保ちやすくなりますから、ヒートショックや結露の発生を抑えることができます。
従来日本で最も普及してきた窓は「1枚ガラス+アルミフレーム」の窓です。これよりも断熱性能が高い窓を「断熱窓」と呼びます。窓の断熱性能を高めるというと「複層ガラスにする」などガラス部分のみ想像しがちですが、「フレーム部分の断熱性能も重要です。なぜならガラス部分の断熱性能が高まっても、フレームの断熱性能が低ければ、そこから熱が出入りしてしまうからです」(YKK AP 浅見さん。以下同)。自宅の窓を見てみれば、フレームの面積が意外と占めていることがわかるでしょう。
窓の断熱性能を示す指標に「熱貫流率」があります。熱の伝わりやすさを示す言葉で、U値という表記がされ、「W/(m2・K)」という単位で表します。この数値が小さいほど熱が伝わりにくい、つまり断熱性能が高くなります。

では断熱性能の高いガラスとはどんなものなのでしょうか。「代表的なのは複層(2枚)ガラスやトリプル(3枚)ガラスです。ガラスとガラスの間に乾燥した空気またはガスを封じ込めています。さらにガラスの表面に熱を伝えにくくする処理(Low-E皮膜処理)を施します」
Low-E皮膜処理が施されたガラスを「Low-E複層ガラス」「Low-Eトリプルガラス」と呼びます。ちなみにLow-Eガラスを設置する位置で断熱と遮熱のどちらを優先するかが決まります。例えば複層ガラスの場合、室内側のガラスのLow-Eガラスを設置する「断熱タイプ」、室外側のガラスに設置すると「遮熱タイプ」になります。
「他にも、ガラスとガラスの間の距離を一定に保ち、封入した乾燥空気やガスが漏れないようにするため、ガラスの四方辺縁で接着されるスペーサーというパーツの素材にもアルミや樹脂等があり、断熱性能が変わります。
さらに先述したようにフレームの断熱性も重要です。最も断熱性能が高いのは樹脂フレーム、次にアルミと樹脂を使ったアルミ樹脂複合フレーム、最後にアルミフレームとなります」
これらをまとめると、下記のようになります。

| 断熱性機能 | 高←→低 | ||
|---|---|---|---|
| ガラス | Low-Eトリプルガラス | Low-E複層ガラス | 1枚ガラス |
| フレーム | 樹脂 | アルミ+樹脂 | アルミ |
| 封入する気体 | 真空 | アルゴンガス | 乾燥空気 |
| スペーサー | 樹脂 | アルミ | |
| 1 | 2 | 3 | |
|---|---|---|---|
| ガラス | Low-E複層ガラス | Low-E複層ガラス | Low-E複層ガラス |
| フレーム | 樹脂 | 樹脂 | 樹脂 |
| 封入する気体 | アルゴンガス | アルゴンガス | 真空 |
| スペーサー | アルミ | 樹脂 | 樹脂 |
| 熱貫流率(W/(m2・K) | 1.37 | 1.31 | 0.99 |
このように同じ商品でも構成部品の組み合わせ方にバリエーションがあり、採用する側の目的や地域、予算に応じて選びやすくなっています。
ではどれだけの断熱性能があれば快適に過ごせるのでしょうか。住宅の断熱性能の最低基準として、まずは、「省エネルギー基準」をクリアする性能は必要でしょう。「性能基準」では窓だけの熱貫流率の指標となる数値はありませんが、「仕様基準」では開口部比率(※)に条件を付けて窓の断熱性能を規定する考え方はあります。例えば東京23区(6地域)で開口部比率を0.08以上0.11未満にするのであれば4.65W/(m2・K)、極寒地の北海道(1~2地域)で開口部比率を0.07以上0.09未満にするのであれば2.33W/(m2・K)といった熱貫流率の窓でクリアすることはできます。
※「開口部比率」とは開口部の面積の合計を屋根(天井)、外壁、開口部、床などの面積の合計で除した割合
ただし、これはあくまでも省エネルギー基準をクリアするという意味で「快適性」はまた別の問題です。
この省エネルギー基準をもとに示されている熱貫流率の最低基準値ですが、実は世界と比べると下記のように基準が低いと言わざるをえない状況です。


「このように、日本では北海道で使用できる2.33W/(m2・K)の窓でさえ、欧米のほとんどの国では性能が低いとされ、使用できません」
では日本の冬の気温は海外と比べて高いのでしょうか? 実際はむしろ逆です。例えば2020年12月のドイツ・ベルリンの平均気温は3.5℃でしたが、北海道・網走の同時期の平均気温は-3.6℃でした。にもかかわらず、ベルリンより窓の断熱基準が低いのです。こうしたことから、冒頭で述べたように、残念ながら日本はまだ窓の断熱性能においては「後進国」であると言わざるを得ないというわけです。
これは湿度の高い日本の夏を快適に過ごすために、昔から開放的な家づくりを行ってきたことが一因にあります。窓や扉を閉め切るのではなく、開放して風を採り入れるという考え方は、吉田兼好の『徒然草』にも「家のつくりやうは、夏をむねとすべし」と記載されているほど。柱と柱の間に備える障子を開けると開放的な空間が生まれる、というのは欧米の石造りの家にはない、日本家屋の特徴の一つです。
しかし徒然草が書かれた約700年前と比べて、日本の気候は随分と変わりました。「できれば欧米なみの1.3W/(m2・K)以下の窓を選んでいただければ、よほど寒い地域でない限り、快適に過ごせると思います」
実際、欧米なみの断熱基準を独自に設定して、基準をクリアした住宅を建てた場合に優遇制度を設けている鳥取県や山形県などの自治体もあります。快適な暮らしは、誰かに指示されて与えられるものではなく自ら求めるべき、と言えるでしょう。
鳥取県や山形県の取り組みについて詳しくはこちら
●「日本の省エネ基準では健康的に過ごせない」!? 山形と鳥取が断熱性能に力を入れる理由
一戸建ての場合、既存の窓を断熱窓に交換することは簡単です。構造上問題なければ窓のサイズや位置さえ変えることもできます。つまり自由に断熱窓を選ぶことが可能です。
一方マンションの窓は共用部分のため、区分所有者が勝手にリフォームすることができません。各戸で窓を自由に変えてしまうと外観が変わってしまい、ひいては建物自体の資産価値が下がるからです。そのため理事会に申請して許可を得ることが必要でしたが、申請が降りるまで時間がかかりがちでした。
また、いざ工事をしようにも従来は建物の外側からの工事が必要だったので、足場を組む必要があり、この費用も障害でした。管理組合が窓を含む共用部分を大規模修繕する場合も、足場の費用がネックになるようで、YKK APの「分譲マンションの困りごと調査」によれば大規模修繕時に窓を交換したケースは約7%に留まったそうです。
しかし平成28年(2016年)3月に国土交通省から「マンションの管理の適正化に関する指針」が公示され、「マンション標準管理規約」が改訂されました。これにより区分所有者は、あらかじめ理事長に申請して書面による承認を受けることにより、当該工事を当該区分所有者の責任と負担において実施することができるようになりました。つまり、区分所有者は住戸の窓のリフォームを、自身の責任と負担において行うことができるのです。
こうした事情を背景に、足場を組まずに内側からリフォームできる断熱窓がいくつか登場しています。「YKK APでは室内から施工できるため足場が不要なマンション戸別改修用カバー工法窓『マドリモ 断熱窓 マンション用』を用意しました。従来の窓枠を活かして外に身を乗り出しての作業がなく取り替えられるため、室内側から施工することができます。施工時間は、現場の状況にもよりますが、半日もあれば取り替えられます」
また従来からある窓に内窓として断熱窓を加える方法なら、施工時間の目安は60分です。
これらの窓は、もちろん一戸建てのリフォームにも使用できます。リフォーム費用と施工時間の目安は以下のとおりです。

| 大 幅 160~190cm 高さ 190~220cm |
中 幅 160~190cm 高さ 90~110cm |
小 幅 70~80cm 高さ 90~110cm |
施工時間の目安 | |
|---|---|---|---|---|
| 内窓 (プラマードU) |
約10万~13万円 | 約5万~9万円 | 約4万~8万円 | 60分 |
| 断熱窓に交換 (樹脂フレーム) |
約24万~31万円 | 約16万~22万円 | 約14万~19万円 | 半日 |
| 断熱窓に交換 (アルミ樹脂複合フレーム) |
約19万~27万円 | 約13万~19万円 | 約11万~17万円 | 半日 |
現在、環境省の事業で、断熱窓のリフォームに対して補助金を支給する「先進的窓リノベ事業」が実施されています。補助額は1戸あたり最大200万円で、工事内容によりそれぞれ補助額の上限が決められています。あらかじめ本事業の対象製品として登録されている製品を設置するリフォーム工事であれば、対象になる可能性があります。
本事業の対象となる断熱改修工事とは以下の表のとおりです。
| ガラス交換 | 既存窓のガラスのみを取り外し、既存サッシをそのまま利用して、複層ガラス等に交換する工事 | |
|---|---|---|
| 内窓設置 | 既存窓の内側に新たに窓を新設するもの、または既存の内窓を取り除き新たな内窓に交換する工事 | |
| 外窓交換 | カバー工法 | 既存窓のガラスを取り外し、既存窓枠の上から新たな窓枠を覆い被せて取り付け、複層ガラス等に交換する工事 |
| はつり工法 | 既存窓のガラスおよび窓枠を取り外し、新たな窓枠を取り付け、複層ガラス等に交換する工事 | |
補助金申請はリフォーム工事を行う工事施工者が行うので詳細は工務店に確認しましょう。
「住んでいる都道府県や市区町村などの自治体でも独自に補助制度を設けていることがあります。ぜひ事前に確認されてみることをオススメします」
例えば東京都が実施する「災害にも強く健康にも資する断熱・太陽光住宅普及拡大事業」では、高断熱窓や高断熱ドアの交換なら経費の3分の1(一戸あたり、窓は最大100万円、玄関ドアは最大16万円まで。ただし所定の要件あり)まで助成してくれます(事前申告の受付期間は2025年3月31日まで)。さらに市区町村の助成制度を利用できる場合もあります。
今まで「夏は暑く、冬は寒いのが当たり前」と多くの人が思っていたと思います。しかし、かつて小学校になかったエアコンが最近は必須になってきたように、地球温暖化は着実に進んでいます。それなのにふと世界を見渡せば、いつの間にか日本は断熱後進国。快適な暮らしを、まずは窓を変えることからはじめてみませんか。
最も熱の出入りが激しい窓を変えると、家の断熱性能を一気に高められる
Low-E皮膜処理が施されたガラス+樹脂フレームが断熱には効果的
マンションでも簡単に交換できる窓が増えている