不動産を購入するときにチェックしておきたい用途地域には、建てられる建築物の種類や大きさなどが定められています。この記事では、13区分ある用途地域のうち、第一種住居地域の特徴や法規制などについて、一級建築士の佐川旭さんに教えていただきます。
土地や建売住宅など不動産の購入時には、物件の概要や取引条件について記載された重要事項説明書の説明を受ける決まりで、ここに用途地域に関する記載があります。
用途地域とは、国が定めた都市計画法をベースに、都道府県知事が立てた都市計画のこと。各地域の特性や街づくりの目的に合わせ、13の区分のうちいずれかが指定されています。その一つが第一種住居地域です。
「第一種住居地域は住環境を保護するための地域ですが、大規模ではない店舗や事務所も建てられます。住宅が6割~7割、店舗や事務所が3割~4割と混在している地域が多いため、利便性が高く生活しやすいと思います」(佐川旭さん 以下同)
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用途地域とは? 用途地域の一覧で土地や家を探すときやライフスタイルにあった地域の選び方を知ろう
第一種住居地域と名称が似ている、第二種住居地域との違いは何でしょうか。
「第二種住居地域は“主に”住環境を守るための地域とされているため、住宅と店舗や事務所の割合が5:5程度と、第一種住居地域よりも店舗や事務所の割合が高いことが多いようです。
店舗や事務所の割合が高くなると利便性はさらに良くなり、人や車が多く集まるようになります。商業地域ほどではありませんが、第一種住居地域よりは騒音が気になるかもしれません。
騒音が気になりそうなエリアに家を建てるなら、外壁に遮音シートを入れる、石膏ボードを2重にする、防音性の優れたサッシを選ぶなどの方法で、建物の遮音性能を高めておきましょう。建築費が多少アップしますが、音はどこから家の中に入るのか読みにくいので、十分に対策を取りたいものです」
第一種住居地域と名称が似ている、第一種低層住居専用地域との違いは何でしょうか。
「第一種低層住居専用地域は低層住宅のための地域で、建物の大きさや高さを決める法規制も厳しいため、他の用途地域と比べると家のサイズは小さめになります。その分、建物の密集度が低く、庭などの緑地帯が多くなるので住環境が良いエリアが多いです。
しかし、近くのコンビニや病院まで徒歩十数分もかかるなど不便な面もあるため、若いときは良いけれど、年齢を重ねると日常生活が辛くなるかもしれません」
不動産の取得後に気になる固定資産税は、所有している土地と建物、それぞれに課せられる税金です。
固定資産税は評価額(課税標準額)をベースに算出されますが、評価額は自治体ごとの基準に基づいて決められます。
「土地の評価額が高くなるのは、商売をすることで利益が上げられる商業地域や近隣商業地域など商業系地域で、第一種住居地域などの住居系地域の評価額は、商業系地域より抑えられるケースがほとんどです。ただ、同じ第一種住居地域内でも、駅や幹線道路沿いなど利便性が高いエリアの方は、評価額は若干高くなる可能性があります」
用途地域では、地域別に建築物の用途や広さに制限が定められています。そこで、第一種住居地域の用途制限の概要を紹介しましょう。
住宅/共同住宅(マンション等)/寄宿舎/下宿/兼用住宅/3000m2以下の店舗や事務所/3000m2以下のボーリングや水泳場などの運動施設/3000m2以下のホテルや旅館/学校/図書館/病院/神社・寺院・教会/50m2以下の危険性や環境を悪化させるおそれが非常に少ない工場/作業場床面積が50m2以下の自動車修理工場/3000m2以下の畜舎/3000m2以下で火薬や石油等の危険物の貯蔵・処理の量が非常に少ない施設など
3000m2を超える店舗や事務所/マージャン・パチンコ屋/カラオケボックス/劇場・映画館/馬券・車券発売所/キャバレー・ナイトクラブ/倉庫業倉庫/3000m2を超えるの自家用倉庫など
用途地域では、各地域別に建蔽率(建ぺい率)と容積率が定められています。建蔽率(建ぺい率)・容積率とは、土地の広さに対して建てられる建築物の大きさの上限を示す数値のこと。第一種住居地域は以下のとおりです。
敷地面積に対する建築面積の割合のこと。第一種住居地域は50%、60%、80%と定められています。
敷地面積に対する延床面積(各階床面積の合計)の割合のこと。第一種住居地域は100%、150%、200%、300%、400%、500%と定められています。
建蔽率と容積について詳しくはこちら
「建蔽率(建ぺい率)」「容積率」ってなに? 知っておきたい、建物の規制とは
建蔽率(建ぺい率)や容積率は、各自治体などが定める規定により軽減・緩和措置が設定されていることがあります。例えば、建蔽率(建ぺい率)は、角地や防火地域内に政令で定められた耐火建築物を建築する場合には緩和措置が受けられます。容積率は、前面道路の道路幅により軽減されることがあります。
「注文住宅を建てるために土地を購入するなら、土地を販売する不動産会社に、何かしらの措置が設定されていないかを確認しましょう。できれば家を設計する住宅メーカーや建築家などに建蔽率(建ぺい率)と容積率の数値と、措置の有無を伝え、希望するサイズの家が建てられそうか相談するとよいと思います」
用途地域では、いくつかの規制により建てられる建築物の高さが制限されています。次から、第一種住居地域に定められている規制・制限を解説します。
道路の採光や通風が確保されるように、道路に面した建物の高さを一定部分制限すること。第一種住居地域の場合、適用距離は道路20m、25m、30m、35m以内で、勾配は敷地と接する道路の反対側の境界線から1.25か1.5と定められています。
道路斜線制限を詳しく
道路斜線制限って建物の高さや形にどう影響するの?緩和されるのはどんな場合?
隣地側に面した建物の高さが20mまたは31mを超える部分について、高さを制限すること。第一種住居地域の場合、立ち上がりが20mが基準の高さとなり、勾配は1.25と定められています。
日影規制とは、日照時間が1年で最も短い冬至頃を基準に、一定時間以上に日影が生じないように建物の高さを制限すること。第一種住居地域の場合、高さが10mを超える建物の場合、敷地境界線からの距離により、地面から4mまたは6.5mの高さ(測定水平面)が日影となる上限時間が、自治体により定められています。
日陰規制を詳しく
日影規制とは? 北側斜線制限とは? 土地を探す前に知っておきたい基礎知識
第一種住居地域には、敷地の北側の建物の日差しを確保する北側斜線制限や、建物の外壁や柱面を敷地境界線から後退させなければいけない外壁後退、建物の高さの上限を定めた絶対高さ制限の規制はありません。
「これらの規制がない第一種住居地域は、規制が厳しい第一種低層住居専用地域や第二種低層住居専用地域と比べると、建物の設計時に近隣へ日当たりの配慮をしなくて済むことになります。
ただし、購入する土地の南側も第一種住居地域で、現在は駐車場や空き地の場合、そこに建物が建ったら自分の家の日当たりが悪くなる可能性があります。この場合は先々を考え、LDKのような家族が集まるスペースは2階に設けておくと日当たりを確保しやすでしょう」
前述したように、第一種住居地域には絶対高さ制限がないので、3階建を建てることは可能です。
しかし、道路幅が狭いと道路斜線制限に、隣地が近いと日影規制に抵触したりするため、場所によっては建てられないかもしれません。
土地購入後によく調べたら斜線制限がありダメだった…ということを防ぐために、3階建てを検討している人は建築士などのプロに法規制を確認してもらうことをおすすめします。
3階建てを建てる場合、道路についても注意しましょう。
「前面道路に4トントラックが入れないと、大きな資材を小分けして搬入するため、運搬費が高くなります。さらに、クレーン車が入れないと工法が限られる可能性もあります。
前面道路の幅は6mあるのが理想です。しかし、道路幅が7~8mあると、時間や曜日によっては路上駐車が多くなりトラックが通りにくいことも考えられます。
また、前面道路の幅は十分でも、幹線道路から現地までの道が細い、道が曲がりくねっている、電柱が道側に飛び出ているなどがあると、4トントラックやクレーン車が現地に行けないこともあります。
設計士や住宅メーカーには、建てるときにどのようなことが起きそうかという視点で、道路について確認してもらうとよいですね」
第一種住居地域は、住宅と店舗や事務所などが混在する地域で、利便性と居住性のバランスがよいエリアといえます。しかし、低層の戸建住宅やマンションばかりの落ち着いた環境だったり、コンビニや飲食店が多く賑わっていたりと、場所によって街の雰囲気は大きく変わります。
建蔽率(建ぺい率)や容積率、斜線制限などの法規制は、役所に聞いたりWebで調べたりすれば確認できますが、どのような建物が多く建っているのかはわかりません。土地購入前には必ず現地に行き、街の雰囲気をチェックしましょう。
第一種住居地域は住環境を保護するための地域。住宅の他は、大規模ではない店舗や事務所、学校や病院などが建てられる
用途制限により、3000m2を超える店舗や事務所、マージャン・パチンコ屋、カラオケボックス、劇場・映画館、キャバレー・ナイトクラブなどは建てられない
道路斜線や隣地斜線など高さに関する制限はあるが、クリアすれば3階建ての建築は可能