賃貸の退去費用の相場は? 入居者負担で妥当? 高額にならないためには?

最終更新日 2025年08月05日
賃貸の退去費用の相場は? 入居者負担で妥当? 高額にならないためには?

住んでいた賃貸住宅を出るとき、心配になるのが費用のこと。テレビの裏の壁が黒くなっちゃったけど、原状回復の費用って入居者と大家さんのどちらが負担するの? なんとか高額にならないようにするには?……気になる退去費用のあれこれについて、賃貸物件の管理業務に詳しいハウスメイトマネジメントの伊部尚子さん、SIREの木津雄二さんに聞きました。

退去費用とは? どうやって決まる?

賃貸住宅を出るときにかかる「退去費用」とは、その部屋を次の入居者が住める状態にするための原状回復やクリーニングなどの費用のこと。

これを誰がいくら支払うかについては、「基本的には、国土交通省の『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』によって細かく決められています。それぞれの物件の賃貸借契約書にも、これに基づいた具体的なルールが明記されていることがほとんどです」とハウスメイトマネジメントの伊部さん。

ところが、明確なルールはあるものの、実際に退去する際は「え? これは入居者の負担になるの?」などといったトラブルも少なからずあるよう。

ちなみに入居者へのアンケート調査で、退去時のトラブルの経験について聞いたところ、半数近くが「ある」と回答しており、その内容を見ると、金銭的な負担に関するものが多く挙げられています(画像1)。

こうしたトラブルを防ぐためには、知っておきたい基本的なルールが。どんなケースが入居者の負担になると決められているのか、次の章で見ていきましょう。

●賃貸住宅を退去する際、どんなトラブルが?
「ひとり暮らしの賃貸住宅から引っ越すとき、失敗したと感じた経験や、トラブルになった(なりそうだった)経験」が「ある」と答えた31%の人に聞いた、その具体的な内容(出典/ハウスメイトパートナーズ「『引っ越し時のトラブル経験』に関する実態調査」より)
【画像1】「ひとり暮らしの賃貸住宅から引越すとき、失敗したと感じた経験や、トラブルになった(なりそうだった)経験」が「ある」と答えた31%の人に聞いた、その具体的な内容(出典/ハウスメイトパートナーズ「『引っ越し時のトラブル経験』に関する実態調査」より)

広さ・間取り別の退去費用の相場は?

実際、退去する際にかかる費用はどれくらいになるのでしょう。「賃貸借契約書の特約に、退去時費用について明記がなされ、概ね1,000円/m2~1,200円/m2程度に設定されることが多いです。特に故意過失により別途入居者が負担するべきものがなければ、その費用だけで済みます」とSIREの木津さん。具体的な費用の目安を以下にまとめました。

退去費用の相場
20m2のワンルーム 2万円くらい
40m2の1LDK 4万円くらい
70m2の3LDK 7万円くらい
※物価高騰で上昇基調ではある

ただし上記の費用は、「あくまで故意過失がなかった場合の目安です。たとえばペットがクロスを汚した、子どもが落書きをした、家具を移動するときに床に傷をつけてしまったなどがあった場合、その分は請求されます」と木津さん。

「壁クロスの張り替えは基本1面単位で1,000円~1,200円/m2程度、床はクッションフロアの場合3,000円/m2程度、木製フローリングの場合15,000円/m2程度の金額になるでしょう。なお、請求されるとしても、入居月数×1.25%は減価償却相当として請求額から差し引かれます」。

原状回復費用、負担するのは入居者? 貸主? その判断基準は?

壁紙、床のフローリング、システムキッチンやユニットバスなどの設備機器・・・どの部分がどうなったら、入居者の負担になるのでしょうか。

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では基本的に
●経年劣化・自然損傷:大家さんの負担
●入居者の故意・過失:入居者の負担
と決まっています。

「具体的な例を挙げると、入居者の不注意による壁の損傷は入居者の負担ですが、テレビの裏の壁が黒く電気やけしてしまうのは、経年劣化で大家さんが暮らしていても自然に起こりうることなので、大家さんの負担となります」

また、壁紙などには「減価償却」の考え方が適用されることも覚えておきたいもの。「例えば壁紙は6年で償却するという考え方。仮に3年住んだ部屋を出るとして、壁紙の張り替えの材料や工事に10万円かかったとすると、壁紙の張り替えとなった理由に入居者の故意・過失があった場合には、残存価値の5万円を入居者が弁償することになります」

一人暮らし
画像/PIXTA

ガイドラインにはない「特約」が付く場合も?

国土交通省のガイドラインのほかに、物件ごとに特約がつくケースも。
「よくあるのがクリーニング費用。ほとんどの契約書には『故意・過失にかかわらず、クリーニング費用をいただきます』と書かれています」

となると、きれいに掃除をして退去した人も、汚れたまま退去した人も、いずれにしてもクリーニング費用はかかってしまうことに。

それなら掃除をせずに出ても同じなのでは?と考える人もいるようですが、「きれいな状態で出るほうがお得です。退去の際に立ち会いをするのは人間なので、きれいに暮らしていた人の部屋を見ると感謝の念が湧き、他の精算についても少し寛容になったり、反対に全く掃除せず汚したままで退去しようとしている人の部屋を見ると、他の精算が厳しくなることもあると思います。人からの借り物ですから、きれいにして返そうという意識で退去して欲しいですね」

さらに、和室のある物件では「畳と襖に関する特約が付いていないかチェックしてみてください」と伊部さん。

和室のある物件が一般的だった時代の名残で、退去時に畳の表替えや襖の張り替えを入居者が負担するというルールが残っている地域もまだ多くあるよう。

敷金は返ってくる?

敷金は一般的に、原状回復のための補修・クリーニング費や家賃を滞納した場合の補填などのために大家さんに預けておくお金になります。そのため家賃の滞納などがなければ、原状回復の費用を差し引いた残金が返ってくることになっています。

ただし「例外もあり、『敷引き』(しきびき)という形で契約していた場合は返ってきません。敷引きとは、賃貸物件の賃貸借契約時に敷金や、同じ意味合いの保証金から差し引かれるお金のことで、家賃の滞納分や退去時の原状回復費用として差し引かれます。西日本の賃貸借契約に昔からある商慣習で、今は少なくなっています」

敷金なしの物件は?敷金とクリーニング代の違い

最近は敷金なしの物件も増えていますが、その場合もクリーニング代は発生します。

「敷金なしの物件は、入居時の敷金のかわりに『退去時のクリーニング代』としてお金を預けておき、退去時にそのお金がそのまま引かれるケースが一般的です。預けていたクリーニング代を超えるような補修が必要になり、それが入居者負担だった場合、補修の費用が別途請求されます」

和室賃貸
画像/PIXTA

「地域差もありますが、畳も襖も1枚数千円かかるので、例えば和室が2間ある部屋では、畳・襖の枚数が多くなり、もしそれが『入居者負担』という特約が付いていた場合、結構な金額になり、敷金を超えるケースも出てきます。現在はその特約がない契約や、半額入居者負担などの契約も増えてきていますが、和室のある物件を借りるときは、契約の段階でチェックしてください」

居住年数別退去費用の相場はある?

原状回復やクリーニングなどにかかる退去費用は、2年、3年、4年、5年、6年、10年、20年などと居住年数のみによって相場が変わるわけではないようです。「居住年数の長さだけでなく、故意・過失による汚損破損かどうか、退去する時点でその内装部材の耐用年数がどのくらい残っているかによって変わります」

たとえば家具をぶつけて壁紙を破ってしまったとすると「これは過失による破損にあたりますが、ガイドラインによると壁紙の耐用年数は6年となっているので、張り替え時から6年以上たって退去する場合は費用を請求されずにすむケースが多いでしょう。しかし、張り替えしてから2年しか経過していなければ、残存価値があと4年残っているので、その分を請求される可能性が高くなります」

原状回復の補修に必要な作業と費用の目安

原状回復の補修をする場合、次のような作業が発生し、その程度や範囲によって費用がアップします。

水まわりのカビ 隙間をふさぐコーキングに、通常のクリーニングで落ちないようなカビを発生させてしまった場合、コーキングの打ち替えが必要に。数十センチなら数千円、数メートルなら数万円になることも
フローリングの傷 小さな穴埋めで済む場合は数千円、家具を引きずったなど広範囲にわたる傷で部分張り替えが必要になる場合は数万円かかることも
壁の傷や汚れ 小さな傷でも、継ぎ目ができないように面ごと張り替える場合があり、1m2あたり1000円~1500円程度(材料・工事費込み)が目安

ペット可の物件は?

ペット可の物件でペットを飼う場合は、もともと賃貸借契約書に特約事項が記載されているケースがほとんど。その特約とは「ペットが建物を汚損破損した場合には、入居者が原状回復費用を負担する、というものです。特約事項があればそれにのっとり、なければ一般のガイドラインどおり、入居者の過失として扱われます」

ペットの性格などにもよりますが、「たとえば猫が壁紙を引っ掻く、犬が建具をかじるなど、ペットによる汚損破損は原状回復費用が高額になるケースもあるため、ペット可の物件は一般の物件よりも敷金が多めに設定されていることもあります。特に建具など、交換が高額になるものは傷つけないよう注意しましょう。また、ペットの臭いが強く残って取れない場合には専門業者による消臭作業代等がかかることがありますので、ペットトイレの掃除や粗相の後始末などもきちんと行ってください」

知らずにうっかりやってしまう「過失」にはどんなケースがある?

本人は普通に暮らしているつもりでも、知らずにうっかり「過失」による損傷を起こしていて、退去のときに発覚するといったケースもあるようです。

知らずに「過失」による損傷が発生する例

・ユニットバスにジェルのシールを貼り、剥がしたら色が移っていた
・洗面台にヘアピンを放置し、錆びが移ってしまった
・車のタイヤを床に直接置いていて、どかしたら黒い跡が残っていた
・観葉植物、冷蔵庫、エアコン、ウォーターサーバーなどから水が漏れ、床が傷んでいた
・タバコ、ペット、線香、アロマオイルのにおいが強く残っていた
・ユニットバスや洗面台にヘアカラー材をこぼし、色素が沈着した など

「例えば、使っているうちにエアコンが水漏れするようになったというケースは、エアコンの修理は大家さんの負担ですが、それを放置して傷んだ床の修理は、入居者の負担となります」。ほかにも、扉がギシギシときしんできたのを放置していたら扉にひびが入ったり歪んだりして閉まりにくくなってしまったというケースもあります。

発覚した時点で連絡していれば簡単な修繕で済んだものを、大家さんに部屋に入られたくない、生活にさほど困らないなどの理由で放置していると、後々大きな損失につながることも。「異変があったら報告するのが入居者の義務で、契約書にも書いてあります。報告を怠ったことで拡大した被害は、故意・過失にあたってしまうので、注意しましょう」

また、自分の過失があった場合、火災保険に付帯している借家人賠償責任保険が使えるケースも。「火災保険は入居者が自分のお金で契約しているものなので、どんなときに使えるかチェックしましょう。◯万円を超えた分のみ使える、ということもあるので、少額の場合は使えないこともあるけれど、高額の場合は頼りになることも多いと思います」

イラスト
居室の壁紙は簡単に張り替えられるが、ユニットバスやシステムキッチン、洗面台など住宅設備の落ちない汚れは高額になることも(イラスト/もり谷ゆみ)

退去費用の金額に納得できないときは? 無視したらどうなる?

これって本当に自分の負担? 金額が高すぎない? と疑問に思ったときは、「不動産会社に聞いてみましょう」と伊部さん。

「ガイドラインや契約書の特約などを理解せずに『高い』と主張するだけでは通用しませんが、例えば年数的に減価償却されているはずなのに満額請求されているなど、おかしいと感じることがあった場合は、『ガイドラインではこうではないですか?』と担当者に尋ねてみてください」

退去費用をできるだけ抑えるためだけでなく、快適に暮らすためにも、部屋をきれいに掃除し、設備機器や建具なども丁寧に扱うことが基本。また、退去時に「こんなはずでは!」とならないよう、契約時にはガイドラインと特約の内容をしっかりチェックしましょう。

退去費用を抑えるために気をつけたいポイント

退去時の原状回復費用をできるだけ抑えるには、もちろん部屋をきれいに掃除し、設備などを丁寧に扱うことが基本ですが、とくに注意したいのが「簡単に交換できないもの、高額なものを汚損破損しないようにすること。壁紙の張り替えなどは比較的簡単ですが、たとえばドアなど、きれいにしていたら何年も使えるようなものを交換することになると、費用も高額になります。このような点にも気をつけて暮らしていきましょう」

まとめ

退去時にかかる原状回復費用は、自然損耗は大家さん、故意・過失は入居者が負担

知らないうちに「過失」による損傷を引き起こさないよう注意

きれいに掃除をし、設備機器や建具などは丁寧に扱って暮らすことが基本

賃貸物件を探す
引越し見積もりをする
中古マンションを探す
新築マンションを探す
新築一戸建てを探す
中古一戸建てを探す
土地を探す
注文住宅の会社を探す
売却査定する
リフォーム会社を探す
カウンターで相談する
ハウスメーカーを探す
工務店を探す
取材・文/前川ミチコ イラスト/もり谷ゆみ
関連する最新記事を見る
住みたいエリアや購入価格からマンション・一戸建てを探そう!
住まいの種類
住みたいエリア
  • エリア
  • 都道府県
  • 市区郡
購入価格

お役立ち講座・個別相談のご案内無料

住まい選びで「気になること」は、人それぞれ。スーモカウンターのアドバイザーは、新築マンション選びと会社選びをサポートします。講座や個別相談を通じて、よかった!と思える安心の住まい選びをお手伝いします。
カウンターアドバイザー

住み替えサポートサービス

ページトップへ戻る