アトラス三田 （取材レポート）

重水氏：当社は長年、戸建住宅メーカーとしての実績を積み、都市開発へと事業を展開してきた経緯があります。「用地を仕入れてマンションを建てる」という一般的なデベロッパーの事業の枠組みとは異なり、マンション開発の手法として建替え事業は特殊かもしれませんが、戸建住宅の建替え等で知見のあった当社にとって、「権利者様と協同して街をつくっていく」という建替え事業の進め方は取り組みやすい領域でした。

例えば、当社最初のマンション建替え事業となる「同潤会江戸川アパートメント」の建替え事業は、区分所有者が200名超にのぼり、合意形成は難航していました。当社は戸建の「二世帯住宅」でそれぞれの立場の方の意見を調整する経験を豊富に積んでおり、「二世帯住宅が百世帯住宅になってもベースとなる考え方は同じ」という想いで、権利者様一人ひとりと丁寧にお話しさせていただき、実現したプロジェクトでした。

千野氏：建替え後に戻ってこられる権利者様も、新しく購入される方も同じように愛着を感じてもらえるようなものを作りたいという想いで、商品設計に取り組んでいます。何十年もその土地に住まれている方の想いを丁寧に聞くことは、新しい購入者様にとっても大きなメリットです。マーケット調査で出てこないような地域の情報は、そこに暮らしてきた権利者様が一番詳しいので、設計者自身が直接お話を伺い、多角的な目線で商品設計に活かしています。

花房氏：当社は古くから住み継がれてきた歴史あるマンションの建替えも数多く手掛けてきました。日本初（※3）の民間分譲マンションとして知る人ぞ知る「四谷コーポラス」は、昔から住む権利者の方々に愛されたのと同時に、「四谷コーポラスの建替え物件だからこそ住みたい」と言って購入された方もいらしたのが印象に残っています。

権利者様と寄り添い、新たに住まわれる方にとっても心地よい住まいとなるよう設計し、生まれ変わったマンション。竣工後は、もともと住んでいて戻られた権利者の方と、新しく購入して移り住んだ方と、新旧の住民が集って交流パーティーを催しました。この先またここに住まう皆さまが、新たに時を重ねていくんだなと感じて、この仕事の喜びを感じましたね。

富永氏：もともと空き地だった場所ではなく、古くから人が好んで住んできた経緯がある場所であることが、「好立地」たるポイントだと思っています。例えば「アトラス調布」は大規模な団地の建替えプロジェクトで、昔から人が住んでいたからこそ安心感のある立地にマンションを供給することができました。また、基本的に立地が第一条件となる不動産ですが、「デザインが良いから買いました」と言っていただける地縁のないお客様が多かったのも印象的でした。アトラスならではのデザインを評価していただきましたね。

重水氏：「アトラス調布」は、従前の団地敷地内にあった車道が住民の生活動線と交差していたり、敷地西側にあった交差点は不整形で見通しがよくない等の課題がありました。調布市とも協議し、単なる建替えだけでなく公道の付け替えも行い、課題を解決しました。近接する公道や公園へのアプローチが良くなり、住民だけでなく周辺住民にとっても快適な動線となっています。今ではCM等の撮影などにも使われるほど、美しい街並みに生まれ変わりました。

花房氏：「アトラス調布」は竣工から約10年経った今も、マンション内で季節のイベントや防災活動など住民同士の交流も盛んです。竣工後は、一部、建替組合の役員が引き続き管理組合の役員として管理組合運営にも参加し、新しい住民の方と協同してコミュニティが作られているのも建替えならではの良さだと思います。

千野氏：当社の建替え事業は、建物の老朽化というマンション単体の課題はもちろん、木造家屋が密集し、道路整備が不十分で緊急車両が通れないといった街全体の「困りごと」から始まることも多々あります。地域の防災性に課題があるプロジェクトは、強靭化という観点で特に注力し、結果としてジャパン･レジリエンス･アワード（強靭化大賞）などの賞を数々受賞してきました。

重水氏：「アトラス品川中延」「アトラス倉敷ル・サンク」も防災性の向上という課題に対し、自治体とも協同しながら取り組んだプロジェクトです。また、「アトラス上熊本」は熊本地震による被災マンションで初めての建替えでした。もう一度同じ場所に戻って住みたいと言ってくれた権利者様が、知人の方にご紹介していただき購入されたことも印象に残っています。街全体として生まれ変わった後、地域のランドマーク化しているプロジェクトも多く、地元の方にとっても誇りを持てるマンションとなっていれば嬉しく思います。