もともとは町工場だった物件。1階部分は全面が土床で、金属加工の機械が置かれていたという。その3分の2程のスペースを使い、手造りのステージを設けた。
「自宅にいつでも自由に使えるステージがある。贅沢ですよね」とKさんはうれしそうに笑う。クリエイターである夫のワークスペースや、妻のヨガ教室、地域の住人を招いてのアートイベントや展示会、ライブの開催など、夫婦にとって大事な空間だ。
さまざまなライブなどの演出にも対応できるよう、契約アンペア数を引き上げ、調光装置も設置。さらに、ステージ脇の和室は開放感を出すため壁をぶち抜き、畳の小上がりに。ステージの床板に柿渋を塗ってシックな風合いを出すなど、細部までこだわっている。大がかりな改造にみえるが、プロの手を借りたのはステージ下の基礎づくりのみ。基本は手造りだ。

老朽化し、不潔な印象だったキッチン。管理会社との取り決めで入居前に全て解体してもらい、自らの手でイチからつくりなおしたという。シンクや蛇口、棚、調理台などの設備を新しく取り付けたほか、ガス台の壁にあったダクト穴を利用してお手製の換気扇までつくってしまった。もともと換気扇があった場所を小窓として利用するアイデアも見事だ。
「ここまでやるのは大変そうに思われるかもしれませんが、僕だって特別な技術や知識があったわけじゃないんです。ネットでやり方を調べながら、コツコツ時間をかけて改造していっただけ。実際このキッチンだって、完成までに数カ月かかってますからね。手間を惜しまず地道に手造りしたおかげで、当初の目標通りコストも安く抑えられました。家全体で、工具や材料費も含め20万円程度しかかかっていません」

「古い物件は設備も老朽化していて、ストレスを感じることもあります。でもほとんどは工夫とアイデアで解決できる」とKさん。不便な点があればまず調べ、自分にできることならすぐに改善するという。
例えば入居当初は備え付けの古い瞬間湯沸かし器ひとつで家全体の給湯を賄っていたが、調子が悪くお風呂が沸かせないこともしばしば。そこで、オークションで落とした9000円の給湯機に取り換えたところ給湯力が大幅に改善した。
「この箱型のお風呂も入口の向きが不便だったので、夫婦2人がかりで箱ごとひっくり返し、バスタブも付け替えました」

2階の住居スペースは最初に取り掛かった。夫婦の仕事部屋、寝室などがある。もともとの和の雰囲気を活かしつつ、壁を全面塗り直した。ただ白く塗り直すのではなく、床の間だけ色を変えるなど、さりげないところにこだわりが見える。仕事や生活をしながらのリフォームだったため、家全体のリフォームが終了し、落ち着いて暮らせるようになるまで1年半ほどの時間を費やした。
「最初は数カ月で終わらせるつもりだったんですが、結局1年半もかかっちゃいました。せっかくここまでつくりましたし、しばらくはここに住みたいですね。アートイベントや展示の企画も多いんですが、本当はステージに寝そべって日がな一日ぼーっとするのが一番楽しかったりします」