土地の区画整理を受けることになったり、区画整理される土地を購入する際によく耳にする「換地処分」。換地処分とは一体どんなものなのでしょう? 区画整理の予定がある土地に住む、あるいは購入する場合に注意すべきことは? 区画整理に詳しい東京土地家屋調査士会の木下副会長と石野広報事業部長に教えてもらいました。
「換地処分」とは土地の区画整理事業を行う際に実施されるものです。区画整理事業によって、従来その区画に土地を所有していた人に新しく割り当てられる土地を「換地」といい、土地所有者に換地を割り当てることを「換地処分」といいます。基本的に換地は、「現地照応の原則」に則り、従来所有していた土地に近い場所に割り当てられます。
現地照応の原則とは、換地処分が行われる前の土地と比較した場合に位置や地積、土質、水利、利用状況、環境などがだいたい同じになるように計画するということです。
さらに換地処分を理解するためには、まず区画整理とは?を理解することから始めましょう。
そもそも区画整理はなぜ行われるのでしょうか? 古くからある市街地などでは、人が通りやすい部分が次第に道路になったり、土地の境界もあいまいなまま人々が暮らしている区域がいくつもあります。こういった区域では往々にして道が狭くて消防車が入りにくいなど防災上の観点から問題がある場合もあります。
そこで区域内を整備することで、土地の利用価値を高め、住みやすい住宅地にするために土地区画整理事業が行われます。「土地区画整理事業は良好な住宅地をつくることが目的です。道路の整備や上下水道の付け替えも行われるなど、インフラ整備の側面もあります」。例えば下図のように土地を区画整理することで、まっすぐな広い道路にしたり、公園などもつくって住環境を整えたりします。
土地区画整理事業が行われる以前の土地を「従前地」と言います。対して施工後の土地を「換地」と言います。「換地処分」とは従前の土地の権利者に換地を割り当てることを指します。
では誰が「割り当てる」のでしょうか。それは土地の区画整理事業を行う施行者です。土地区画整理事業の施行者は都道府県や市町村、国土交通大臣、土地区画整理組合などさまざまな団体や、稀に個人施行者の場合もあります。いずれも都道府県知事から施行の認可または組合設立の認可(都道府県が施行する場合は国土交通大臣の認可)を受けて事業を進めます。
土地区画整理事業が行われる以前の「従前地」に対して施工後の「換地」の面積は、基本的に減ります。「区画全体の土地面積は変わらないわけですから、区域内の土地の権利者が従前地から『公共の用に供する土地』を提供してもらわないと道を広くしたり、公園などをつくることができません。ですから100坪の土地が100坪の土地に換地されることはまずありません」
この「公共の用に供する土地」を提供することで土地の面積が減ることを「減歩」と言います。「一般的には3割程度減歩されます」
区画内の土地の権利者がそれぞれ減歩される、言い換えれば公共の用に土地を提供することで、道が広くなり、公園などが生まれるほか、区画整理事業の資金の一部を捻出するための「保留地」をつくり出すこともできます。保留地は売却して、区画整理事業の費用の一部に充てます。
「単純に面積だけを考えれば、今まで所有していた土地が減るわけですから、反対される方も少なからずいらっしゃいます。しかし区画整理をすることで、住民の利便性が高まり、公園ができてにぎわうようになり、保留地の分譲で新しい住民も加わって活気づいたり、土地の評価が上がり、結果的に土地の価格も上がることになります」
100坪が70坪に減ったとしても、区画整理をして土地の利便性が上がれば、1坪当たりの評価が上がり、結果として100坪のころより土地の価格も上がるというわけです。
土地区画整理事業では、先述のように土地の利用価値が上がります。一方で、区域内の「全員すべてが平等」に利便性を享受できるように区画整理することは大変難しい作業です。
「例えば従来、狭くて曲がりくねっていたとしても、2本の道に面していたのに、区画整理によって広い道一本にしか接しなくなる人もいれば、新たに2本の道に接することになる人が出る場合もあります。そうなると「アイツだけいい思いをする」というような不公平感が生まれます。こうした不公平感を解消するために交付される(あるいは徴収される)のが『清算金』です」
また、かなり稀な例ですが、土地区画整理事業に起因して施工後の土地の価値が減少した場合は、その差額に相当する金額が『減価補償金』として交付されることもあります。「例えば他は30%の減歩だったのに、ある特定の人だけ50%減歩になった、という場合に、そのような方法が採られるのかも知れませんが、あまり聞いたことがありません」
いずれにせよ、「清算金」も「減価補償金」も、換地処分によって減った分(約30%)の土地の対価として支払われるのではない、という点に注意しましょう。
「換地処分」はいつどのように行われるのでしょうか。土地区画整理事業の流れの中で見ていきましょう。
■土地区画整理事業の大まかな流れ
ちなみに事業全体としては「たいていは10年以上かかります。特に(3)換地計画は地権者全員に同意を得なければならないため、最も時間がかかる作業です」
「換地処分」が行われた後の土地の売買はもちろん、換地処分される前でも土地の売買は可能です。「換地する前提で従前地を売買できます。ローンを組んで家を建てる場合は、従前地を担保にして借り入れることになりますが、換地処分後に区画整理事業の施行者が登記変更を行ってくれるので、自動的に担保が換地に切り替わります」
ただし、土地を購入する場合は換地処分が行われるまで時間がかかることに注意が必要です。先述の通り一般的には10年程度かかると言われていますが、地権者全員の合意がなかなか得られずにもっと時間がかかることもあります。まだ「区画整理事業が行われる予定」という段階で土地を購入しても、家が建つのは何年先か予測が付きにくいのです。一方で換地計画が決まった後なら、あとは工事だけですから割とスムーズです。
また従前地から換地に移り住む人も、従前地を担保に金融機関から費用を借り入れて家を建てられるのは同様です。「その場合仮住まいが必要になりますが、仮住まい先はたいてい施行者が用意してくれたり、候補を提案してくれます。またなるべく仮住まいが短くて済むように配慮してくれるはずです」
なお建築確認申請は仮換地指定の図面を使って申請します。
このように区画整理後の土地に家を建てる場合、換地処分までは「従前地」で手続きを進める、という点以外は他の土地に家を建てる手順と変わりはありません。また換地処分後の登記変更等は、建てる側からすればいわば「自動」で行ってもらえます。
区画整理事業によってその区域はたいてい暮らしやすくなります。家を建てる土地を探している人はぜひ注目してみましょう。