信託シリーズ第2回 遺言信託は2種類ある? 遺言信託を知る

最終更新日 2023年03月29日
信託シリーズ第2回 遺言信託は2種類ある? 遺言信託を知る

みなさん、こんにちは。ファイナンシャル・プランナーの高橋成壽です。このシリーズでは、相続対策として最近認知されてきた「信託」を中心に、相続のどんな現場で活用できるのか解説します。第1回目では『相続で信託を使うって?仕組みを知って「争族」を回避』という内容をお届けしましたが、第2回は遺言信託について解説します。

「遺言信託」とは信託銀行の提供する商品

信託銀行と銀行の違い

「遺言信託」という商品は信託銀行でしか取り扱えない。では、そもそも、信託銀行って何?という方のために解説をすると、信託業務(委託者が契約によって信頼できる人に財産を移転し、その目的に従って委託者のために財産の管理・処分する業務)を行うことができる銀行といえる。じゃあ、銀行って何?という質問もあると思うので説明すると、銀行の業務は

1.預金
2.貸出
3.為替(送金)

とされており、この3つの業務を行う金融機関となる。
よって、信託銀行とは、預金、貸出、為替に加えて、信託業務を行う事を認められた金融機関となる。最近は、銀行でも投資信託の販売や、保険の販売を行っているが、本来の業務ではなく、1996年から2001年度に大規模な金融制度改革、いわゆる金融ビッグバンの結果として業務の幅が広がっていることになる。

信託銀行はいくつあるの?

金融庁が免許を与えている信託銀行は15行(2018年6月1日現在)ある。よく耳にする信託銀行の名前を挙げると、三井住友信託銀行、みずほ信託銀行、三菱UFJ信託銀行などがある。
また、名前が信託銀行でなくとも、信託業務を行える銀行もある。信託業務を行う事のできる銀行は、先の信託銀行も含み43行(2018年6月26日現在)ある。先ほどの3つの信託銀行の他には、三井住友銀行、りそな銀行、オリックス銀行のほか、東北、関東、東海、近畿、中国、九州、沖縄など、各地方に概ね1行以上の銀行が信託業務を行えることになっている。

信託銀行の定番商品「遺言信託」とは何か?

例えば、三井住友信託銀行、みずほ信託銀行、三菱UFJ信託銀行のそれぞれのホームページ上では、遺言信託という商品があることをうたっている。この商品は、遺言書の作成アドバイス、遺言書の保管、遺言書の執行の3つがパッケージされたもので、仕組みと流れは以下のとおりとなる。

信託銀行の「遺言信託」利用の流れ

1.遺言書作成のための相談
契約者が遺言書を作成するにあたってのアドバイス
※税理士や弁護士のサポートあり
 ▼
2.公正証書遺言の作成のサポート
公正役場での公正証書遺言作成を手伝う
※必要があれば証人になることも
 ▼
3.公正証書遺言の信託銀行による保管
公正証書遺言を信託銀行で保管
※自宅で保管する場合、遺言を紛失する恐れがあり
 ▼
4.遺言者が亡くなった後の遺言書の開示と遺言執行
遺族から契約者が亡くなったことの連絡を受け、遺言内容を相続人や贈与を受ける人に開示。遺言どおりの遺産分割を実施するため、遺言執行者に就任し遺産の分割を執り行う
 ▼
5.遺産調査と遺産目録の作成
遺産を調べ、遺産の一覧を作成する
 ▼
6.公正証書遺言に沿った遺産の分割
公正証書遺言の内容に基づき、預貯金の解約、株式・社債・投資信託などの名義変更、不動産の所有者変更など、遺産分割の手続きを行う

費用はいくらかかるか?

遺言信託契約時  約30万円
遺言執行時    約100万円~(財産の額による)

※金融機関によって異なる
※その他、公正証書遺言作成に当たっては、公正証書の作成費用が発生する

もう一つの遺言信託とは?

信託法で定められた遺言信託

信託銀行の行うサービス名称としての遺言信託とは異なり、遺言で信託を設定することも遺言信託という。ただ、日本では信託銀行のサービスとしての「遺言信託」のイメージが強いため、「遺言信託」というと信託銀行が遺言作成と遺言執行を手伝うものと解釈されることが多い。
実際には、遺言で財産を信託で管理・処分することができる。なぜ死後に信託を設定するかというと、遺言だけでは遺言者の意向をかなえることができない場合が考えられるからである。遺言による信託の設定は、信託を受ける者(受託者)が、信託銀行ではなく、家族か信託会社となる。また家族が行う場合には、手数料などはかからない。

遺言だけではだめなの? では、どうする

遺言でできること、遺言だけではできないこと

一般に遺言書を作成することでできることは、遺言者の意図した遺産分割を行うことにとどまる。だが、遺言書には実はさまざまな問題点が存在する。例えば、遺言書が紛失した場合は遺言書に記載された内容が公にならないため、遺言書を作成した意味がなくなることもある。
※公正証書遺言の場合は、公証役場に原本が保管されているため、相続開始後に内容を確認することができる。ほかにも、遺言書を書き換えられてしまうことが考えられる。

遺言でできること、信託でできること

遺言でできること、信託でできること

また、相続人全員が合意した場合には、遺言書と異なる遺産分割が実施できるため、遺言書を作成した意味がなくなることもある。遺言執行者が遺産分割をしっかりと行わないこともありえ、家族によって遺産分割を妨害されることもあるかもしれない。遺言書では、相続発生後の遺産の管理方法を指定することはできても、死後の管理・処分・利益分配に関しては相続人に委ねられることとなる。

信託で遺言を補完するという考え方をもつ

一方、信託銀行の提供する遺言信託であれば、信託銀行が遺言書を保管するため、紛失や改ざんの恐れはない。また、遺言書作成を公正証書で行うため、遺産分割に当たり障害となるものがない。さらに、遺言執行を信託銀行が行うため、相続人の個人的な感情などに左右されず、遺言内容に沿って粛々と遺産の分割が可能となる。

ただ、信託銀行の遺言信託は手数料がかかるので、相応の費用をかけてでも契約すべきかということを検討する必要がある。個人で信託を設定する場合は、任せる側も任される側も仕組みを理解する必要があり、任される側にとっては負担になることも考えられる。

遺言書だけでは絵に描いた餅になる可能性があるが、信託銀行の提供する遺言信託を活用することで遺言どおりの遺産分割を実現することができる。また、遺産分割後も財産の管理について生前に指示しておきたい場合には、遺言による信託設定によって、遺言を単なる意思表示にとどまらせず、実際に機能させ、長期にわたり効果を発生させることが可能となるのである。

遺産をきちんと遺族で分けてほしいときには、信託銀行の遺言信託を活用すればよい。加えて、遺産分割以降も、遺言者の意思を確実に反映したい場合は、遺言で信託を設定することで、資金や不動産の管理・運用・利益の分配を生前に思い描いたとおりに実現することができる。

遺言は、相続のときだけ有効で、遺言による信託設定は信託期間が終了するまで効果を発揮することができるのである。

いかがでしょうか?遺言をつくるだけでは完ぺきではないため、信託銀行の遺言信託を活用すると、遺言書の保管と遺産分割までお任せすることができます。そして、遺言による信託の設定を行うと、遺産分割だけでなく、長期にわたり遺言者の意思を反映させることができるのです。

次回は、遺言代用信託についてお伝えいたします。お楽しみに!

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