弁護士に直撃「もめる相続の対処法2」何度も書き換えた遺言が無効に?

最終更新日 2023年03月29日
弁護士に直撃「相続でもめる時の対処法2」何度も書き換えた遺言が無効に?

弁護士に直撃シリーズ、今回も弁護士の五十嵐丈博先生に話を伺いながら紹介していきたい。今回は「遺言が無効」だ。生前、何度も遺言を書き直した。現代に合ったやり方だったのだが、大きな落とし穴があったのだ。いったい何が起きたのだろうか?

遺言が無効になる?

今回の主人公は80歳代の男性Bさん。新しいもの好きで最先端のものもどんどん取り入れ、最新のパソコンもインターネットも使いこなせる人だ。
そんなBさんは高齢になったという自覚もあり、遺言を残すことにした。 なんと、遺言はパソコンを使い、押印もスキャンして作成して、それをPDFファイルで保存して管理していたのだ。Bさんには子どもが何人かいたが、同居はしておらず、時々遊びに来ることを楽しみにしていた。

そんなあるとき、Bさんが作成した遺言がある、と知った長男が突然やさしく接するようになったのだ。 そこでBさんは、うれしさからなのか、長男に財産を多く分け与える旨の遺言に書き換えた。そして、子たち全員にその遺言をPDFファイルに保存し、メールで送信したのだ。すると今度は、次男がBさんの元へ頻繁に来るようになった。
今度は、次男に財産を多く分け与える旨の遺言に書き換えた。すると長男もまた、頻繁に訪れるようになり、再度遺言を書き換えたのだ。

このように何度もBさんは遺言を書き換え、子たち全員にPDFファイルで送信していた。遺言は、被相続人が最後に書かれたものが有効である。これをBさんは知っていて、自分が面倒みてもらえるようにと、この手法を使って遺言を書き換え、子たち全員にメールしていたのである。

子たちもBさんに気に入ってもらえるように、頻繁に実家へ来るようになっていった。
そしてBさんは亡くなって、子たちに相続する日が来たのである。
しかし子どもたちの思いと、Bさんの思いとは裏腹に、遺言通りに財産は分配されなかったのだ。 なぜこんなことになったのだろうか。そこには遺言の法的効力の存在があった。

遺言作成方法は3種類ある?

実は、この遺言が無効だったのだ。遺言には一定の方式が必要であり、今回はそれがなかったのだ。

遺言には「普通遺言」と「特別遺言」がある。
このうち、一般的なのは普通遺言で、それを有効にするには「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類のいずれかの方式で書かなければならない。
「特別遺言」とは、亡くなる直前にある者、伝染病隔離者、船舶遭難者などがする遺言だが、今回のケースはこのどれにも当てはまらない。

「自筆証書遺言」は、文字通り自筆で書かなければならず、パソコン(ワープロ)による作成は認められない。
「公正証書遺言」は、公証人に作成してもらい、原本を公証役場で保管してもらう方式だ。
「秘密証書遺言」は、パソコン(ワープロ)による作成でもいいが、封筒に入れ封印し、公証役場で証明してもらう必要がある。内容を誰にも知られたくないときに使う方式だ。下記にそれぞれの特徴をまとめてみたので、参考にしていただきたい。

自筆証書遺言 公正証書遺言 秘密証書遺言
作成者 本人
(自筆、パソコン不可)
公証人
(口述筆記)
本人
(パソコンや代筆も可)
公証人 不要 必要 必要
証人 不要 2人以上 2人以上
署名・押印 本人のみ 本人・証人・公証人 本人・証人・公証人
封入・封印 望ましい 必要ない 必要
作成費用 かからない 必要 必要
遺言有無 秘密にできる 秘密にできない可能性がある 秘密にできない
遺言内容 秘密にできる 秘密にできない 秘密にできる
保管 遺言者本人 原本は公証役場
正本・謄本は遺言者本人
(第三者に預けること可)
遺言者本人
(第三者に預けること可)
滅失の危険性 ある ない ある
改ざんの危険性 ある ない ない
家庭裁判所の検認(※) 必要 不要 必要
遺言書が無効になる危険性 ある ない ある
※検認とは、遺言書の存在を確認することです

最も多く使われている遺言は?

遺言の方法は「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」がよく利用される。

■自筆証書遺言
・遺言者が遺言の内容、氏名、作成日時を自署し押印する遺言
・いつでもどこでも作成できるメリットがあり、気軽に遺言が残せる
・何度も新しく書き直すことも気軽にできる

今回のケースでは、自筆でなかったことが問題だったが、書式も重要で、「遺言の全文」と「氏名」そして「日付」を自筆で書き、押印する必要がある。「日付」で「○年○月吉日」などと書くことは正確に書かれていないので無効になる可能性がある。厳格な要式行為が要求されるので正確に書くことが重要になる。また手が震えて書けないなどの理由で、誰かの「そい手」をして書いた場合も原則、無効になるので注意が必要だ。

■公正証書遺言
・遺言者が公証人に遺言の趣旨を口述してつくってもらう遺言
 「自筆証書遺言」は紛失や改ざんの危険性があるので、「公正証書遺言」を選択する方法が多い

こちらは公証役場に行って公証人に遺言の内容を口頭で述べて遺言書を作成してもらい、原本は公証役場が保管する。これにより、遺言の有効性が確実で、紛失や改ざんの危険性もなくなる。
また、入院などしていて公証役場に足を運べない場合などには、費用はかかるが、公証人に病院などに来てもらうことも可能だ。口頭で述べて作成することができるメリットだ。司法統計によれば「自筆証書遺言」よりも多い方法だ。

自筆遺言の検認の新受付件数・遺言公正証書の作成件数

(以下の表は2018年7月19日時点の情報です)

自筆遺言の検認の新受付件数 遺言公正証書の作成件数
平成17年 69831
平成18年 72235
平成19年 13309 74160
平成20年 13632 76436
平成21年 13963 77878
平成22年 14996 81984
平成23年 15113 78754
平成24年 16014 88156
平成25年 16708 96020
平成26年 16843 104490
平成27年 16888 110778
平成28年 17205 105350
平成29年 110191

・遺言公正証書の作成件数については、以下を参照
平成20年まで:裁判所「遺言公正証書作成件数の推移」(136ページより)
平成21年以降:日本公証人連合会「平成29年の遺言公正証書作成件数について」
・自筆遺言の検認の新受付件数はこちらを参照:司法統計年報「遺言書の検認」

■秘密証書遺言
・内容を秘密にしたまま存在のみを証明してもらう遺言

例えば愛人や隠し子に遺産を相続させたい場合など、他の人に絶対に知られたくない遺言を書きたい場合に使われる。公証役場で保管はせず、遺言を作成したという記録が残るだけなので保管方法や書式など注意する必要がある。

遺言は正しい書式で

Bさんのケースは遺言が無効のため、遺産は法定相続分どおりに相続された。

遺言書の内容によっては、相続人同士で争いが起きる場合がある。今回の場合、子どもたちは遺言の原本がほかにあるものだと勘違いしていたので、父Bさんが亡くなる直前に実家に足繁く通っていた。結果的にBさんが亡くなるまで、親子で多くの時間を共にすることができたと言えるだろう。

子どもたちには、思い通りの財産分配にはならなかったが、結果として良かったと思っているようだ。
その理由は亡くなる前に自分の親に多く会えたこと。さらに等分に配分されたおかげで兄弟間の確執もなくなった。今思えば、Bさんらしいと相続人全員で笑っているそうだ。 ただ、少しくらい手数料がかかっても、公正証書遺言をオススメしたい。そしてできれば弁護士などの専門家に依頼してきちんとしたものを作成、保管することが望ましい。

また公正証書遺言が難しくて自筆証書遺言にする場合には、しっかりと方式を守ることが必要である。最終的には将来を考え、生前に被相続人が相続人を交えてしっかりとコミュニケーションを取っておくことが「争続」を避けるために最も重要なことである。

記事内の「自筆遺言の検認の新受付件数・遺言公正証書の作成件数」については、2018年7月19日時点の情報です

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取材・文/大田和孝純(ライター・ライフプランアドバイザー)
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