築古の中古マンションに住んでいたり、購入を検討したりしている人にとって、「建て替え」は気になる問題です。実際にどれくらいのマンションが、築何年ぐらいで建て替えられているのでしょうか? この記事では、中古マンションの建て替えの現状や、所有者が負担する費用、購入に際しての建て替えリスクの考え方などを、さくら事務所の土屋輝之さんに伺い解説します。
マンションの建て替えを考えるときにまず知っておきたい「マンションの寿命」について、土屋さんに教えていただきました。
RC造(鉄筋コンクリート造)のマンションは、法定耐用年数が47年とされているため、寿命もそれくらいと考える人が多いようです。実際、マンションの寿命はどれくらいなのでしょうか?
「『マンションの寿命=コンクリートの寿命』 で考えるのであれば、海辺に建っているなど特別に問題がある場合を除き、適切にメンテナンスがされているなら、80年や100年、もしくはそれ以上、利用可能なものです。コンクリートの品質は年々向上しているため、これから建てられるマンションなら、もっと長持ちする可能性もあるでしょう。
ただしマンションは単なる『コンクリートの箱』ではありません。マンションの寿命は、設備もあわせて考えるべきです」(土屋さん/以下同)
鉄骨コンクリート造の耐用年数についてもっと詳しく
→重量鉄骨造、鉄筋コンクリート造(RC造)の耐用年数ってどれくらい? 法定耐用年数と実際の寿命はどう違う?メリットデメリットも解説
「住居としてマンションの寿命を考えるのであれば、エレベーターや給排水管、ガス、電気などライフライン設備の寿命もあわせて考える必要があります。
それらはコンクリートの建物本体ほど耐久性は高くなく、30年~40年程度で交換が必要になるのが一般的です。もし給排水管がスラブに埋められていて交換できなかったり、電気の容量を今よりも上げられなかったりする場合は、建物がまだまだ使えても人が快適に住める環境ではなくなってしまうでしょう。
つまりマンションの寿命は、建物と設備の両方について、少なくとも築年数に応じたメンテナンスが可能なのか、実際にされているかによって大きく違ってくるのです」
鉄骨コンクリート造の耐用年数についてもっと詳しく
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建て替えられたマンションは少ないといわれていますが、実際どのくらいの数なのでしょうか?
国土交通省の「マンション建て替え等の実施状況」によると、建て替えられたマンションの実績は累計で282件、約2.3万戸です(2023年3月時点)。
国交省の資料では、築40年以上(1983年以前)のマンションストック数は2022年末時点で125.7万戸、建て替え決議時の平均築年数は単棟型で37.7年、団地型で43.5年とのデータもあります。
そう考えると築40年前後のマンションで、実際に建て替えられたのは約1.8%で、かなり少ないといえるでしょう。
・マンション建替え等の実施状況(国土交通省)
・築40年以上のマンションストック数の推移(国土交通省)
・マンションを取り巻く環境について
実際のマンション建て替え事例は、282件であることがわかりました(2023年3月末時点)。マンションの建て替えが少ないのには、どのような理由があるのでしょうか?
マンションの建て替えが進まないのは、区分所有者の費用負担が重いことが、もっとも大きな理由です。
「建て替えにより高層化することができれば、増えた住戸を販売することによる利益で、ある程度の建て替え費用をまかなえます。しかしそれでもプラスマイナスゼロになることはほとんどありません。取り壊しにも数億円が必要で、どうしても区分所有者の費用負担は免れません」
区分所有者の建て替え費用の負担額について詳しくは、次章で紹介します。
実際に建て替えられたマンションにはある共通点がある、と土屋さんはいいます。
「先ほど『これまでに建て替えられたマンションは1.8%ほど』とのデータがありました。別の見方をすれば、建て替えに値すると判断されるようなマンションは、それほど数が少ないともいえます。
立地がよくない、もしくは立地がよくても既存不適格※で、減室や高層化して住戸を増やすことができない可能性がある。そのような、デベロッパーにとって利益が少なく関心を持たれない物件は、建て替えはほぼ不可能となるでしょう。マンションの建て替えには高額な費用がかかり、自助による建て替えは相当に困難であるためです」
※既存不適格とは:マンション建設当時から建築基準法が変わったことにより、現在の建築基準法の基準を満たせないこと。マンションの場合、容積率(延床面積の敷地面積に対する割合)が建築当時より低くなり既存不適格となっていると、同じ室数を確保できない可能性が高くなる
「実際に建て替えを検討することになっても、今度は合意形成の問題が出てきます。費用負担がある以上、マンションの住人全員が建て替えに賛成することはほとんどないためです」
現在マンションを建て替えるには、住人の5分の4以上の賛成が必要とされています。しかしマンションの建て替えが進まないため、今後、合意形成に必要な区分所有者の数を4分の3、もしくは3分の2への引き下げを検討しています。
「数千万円にも及ぶ高額な費用を負担できる人は多くありません。今後さらに建て替え費用が高くなっていくことを考えると、割合を引き下げたからといって、合意形成に必要なだけの数の賛成を得るのが難しいという点は変わらないでしょう」
マンションの建て替えの足かせとなるのは、区分所有者の費用負担だとわかりました。それではマンションの建て替えには、実際どれくらいの費用がかかるのでしょうか?
国土交通省の調査では、マンション建て替え事業の区分所有者の負担額の平均は年々増加しており、
2017年~2021年で1941万円となっています。
「約2000万円だとすると、『築古で安く買って、2000万円プラスすれば新築マンションに住める』『かえってお得なのでは?』と考える人もいるようですが、そのように考えるのは間違いです。そもそもこの費用は、比較的大きな規模のマンションを建て替えにより高層化し、もともとの区分所有者の負担を抑えたうえでの費用であると考える必要があります。区分所有者の人数が多ければ、それだけ個々の負担額は小さくなります。
もし建て替えるマンションが50戸程度の小規模マンションで、さらに建て替え後に個数を増やせないとしたら、区分所有者の負担金が2000万円でおさまることはありません。おそらく一住戸あたり最低でも5000万円以上かかる可能性が高いでしょう。
またこの5000万円には、仮住まい中の家賃や引越しにかかる費用などは含まれていません。マンションの建て替えには3年ほどかかり、その間の家賃などを考えると、例えば3LDKの家賃が20万円だとすると、少なくとも別に720万円が必要になる計算です。2回分の引越し費用もかかります。
築古のマンションに住んでいるのは高齢者が多いことも特徴です。そういった人たちのうち、6000万円にも及ぶ費用を払える資産がある人がどれだけいるかを考えると、建て替えがいかに難しいかがわかります」
・マンションを取り巻く現状について(1)(国土交通省)5ページ
国や自治体では、マンションの建て替えに対し、補助金や助成金制度を設けています。ただし国の優良建築物等整備事業(共同化タイプ)は、敷地内に公共の通路を設けなければならないなど条件は厳しめです。また補助対象となるのも解体費や共用通路部分など一部に限られます。
自治体の補助金は、例えば東京都の「東京都都市居住再生促進事業」だと補助金額は一戸あたり150万円です。
加えて事業計画作成費や、既存マンションの除去費、土地の整地費用も補助されます。
「制度を使えば多少の費用負担は軽減されますが、それでも区分所有者が数千万円の負担を免れることはありません。そう考えると、補助金があるからといって今後マンションの建て替えがどんどん進む
とは考えにくいでしょう」
賃貸マンションの建て替えであれば、立ち退き料をもらえるのが一般的です。マンションの建て替えに反対した場合にも、同様の費用を受け取れるのでしょうか?
「分譲マンションの建て替えに反対してマンションを出る場合、立ち退き料はもらえません。代わりに『売渡請求権』を実行し、時価で持分を売り渡せます。売却先は、建て替えに賛成した区分所有者で構成される組合です。
なお、それまでに積み立てていた修繕積立金が返還されることはありません。修繕積立金は、支払った時点で管理組合の資産となっているためです」
築古のマンションを購入するときに、建て替えリスクについてどう考えればいいのかを土屋さんに教えてもらいました。
「お伝えしたように、建て替えられる可能性があるマンションは、『立地がよく高層化できる』など一定の条件があるごく一部の物件に限られます。それを見抜ける目利きができて、さらに建て替えの費用負担ができるだけの予算があるなら、結果的に相場よりも安く新築物件を手に入れられるかもしれません。
しかしそのような物件はまれですし、不動産投資的な要素が強くなります。そう考えると、築古であっても『建て替えはできない』という前提で、できるだけ長く住み続けられる物件を見極めたうえで購入を検討するのが現実的です」
マンションの建て替えはほぼないとするのであれば、築古の中古マンションを購入するときには、マンションの寿命がどの程度なのか、つまりあと何年ぐらい住み続けられるのかを慎重に考える必要があります。そのためには、今後数十年の長期修繕計画がどうなっているのかを確認することが重要です。これまで紹介したように、マンションの寿命はメンテナンス状況が大きく影響するためです。
「なお、もしマンションに建て替えの話が上がっているようであれば、売買契約を締結するときに重要事項説明書に必ず記載があるので確認しましょう」
まずは、そもそも適切にメンテナンスできる物件なのかの見極めも重要です。築古のマンションの場合、給排水管が床スラブに埋め込まれて交換できないものがあります。その場合、建物自体は問題なくても、給排水管の劣化で住めなくなってしまうかもしれません。
「さらに古いマンションだと、建物の電気総量を上げられない物件もあります。住戸の電気量を増やせなければ、たくさんの電気を使う家電をあきらめることになり、将来的に快適に暮らせないかもしれません。
マンションの状況を把握するには、建築士やインスペクター、中古マンションのリフォーム業者など、中古マンションに知見がある専門家に見てもらうとよいでしょう」
建て替えの心配をするような築40年以上の築古物件は、旧耐震基準で建てられています。旧耐震基準は、震度6を超えるような大地震が想定されていません。そのため今後起こりうる震災で、大きな被害を受ける可能性があります。
「震災リスクはマンションがある地域によっても違い、またリスクをどれだけ許容できるかは人によります。ハザードマップを確認し、リスクについてよく考えたうえで購入を検討しましょう。
なお築古マンションであっても、耐震補強され新耐震基準に適合している物件もあります。耐震性が気になる場合は、そういった物件を探すとよいでしょう」
最後にあらためて土屋さんに、マンションの建て替えについての考え方を伺いました。
「お伝えしてきたように、中古マンションの建て替えが発生する可能性は極めて低いのが現実です。だからこそ、長く安心して住める物件の見極めが重要になります。マンションの寿命が気になる場合は、これまでどのようにメンテナンスされてきたのか、また今後どのような修繕計画が立てられているのかをよく調べるようにしましょう。
またマンションの寿命が気になるのであれば、管理組合の活動に自ら積極的に関わることも大切なのではないでしょうか。自分たちの資産となったマンションを、自分たちでしっかり守っていく。そんな気持ちで住んでほしいと思います」
マンションの寿命は建物本体と設備の両方で考える必要がある
マンションの建て替えは高額な費用がかかり、建て替えの可能性は極めて低い
建て替えられることはないという前提で、寿命を永らえることが可能な物件の目利きが重要
積極的にマンション管理に携わり、維持・管理していくことも大切