北欧家具やインテリアが好みだったり、キッチンや床材にこだわって輸入品にしたいと考えたことがあるなら、一度は輸入住宅を買おうと思ったことがあるのではないでしょうか。でも、日本の気候に合うのか?コストやアフターサービスは?など気になることも。そこで輸入住宅の普及に努める輸入住宅産業協会の事務局長、森田順さんに輸入住宅について教えてもらいました。
輸入住宅の明確な定義はありませんが、輸入住宅産業協会では「海外の設計思想による住宅を、資材別またはパッケージで輸入し、国内に建築する住宅」を輸入住宅と呼んでいます。ここでいう「海外」とは主にヨーロッパならドイツより北方や北米のこと。このエリアの木造住宅が「海外の設計思想による住宅」というわけです。ちなみにドイツより南は主に石造りの住宅文化となるため、インテリアなど部分的な素材が輸入の中心となっています。
「海外の住文化には優れたところがたくさんあります」と森田さん。「例えば同じ木造住宅でも、日本で主流の木造軸組工法は主に柱や梁といった「軸」で構造を支えます。これはこれで夏の蒸し暑い気候に対応できる、日本の素晴らしい工法です。一方で2×4(ツー・バイ・フォー)工法に代表されるように、輸入住宅の多くは床や壁などの「面」で建物を支えます」
「2×4工法」とはアメリカで生まれた工法で、使用する木材の、断面の元の寸法が2インチ×4インチであったことから2×4工法と呼ばれています。角材と合板を接合して「面」を作り、これを屋根や床、壁に使って6面体(箱状)に組みあわせる工法です。
また北欧で主流の工法は「パネル工法」です。あらかじめ床や壁などのパネルをつくり、それを組み合わせて住宅を建てる工法で、6面体をつくる2×4工法と同様の考え方です。
2×4工法やパネル工法でつくられる6面体(箱状)は、モノコック構造(一体構造)として力学的にも強固な構造です。また気密性や断熱性にも優れています。
現在では日本のいくつもの住宅メーカーが2×4工法やパネル工法を採用されていますが、こうした海外の設計思想を反映して高気密化・高断熱化を謳う住宅が多くなったのは戦後以降。多くの住宅に取り入れられているということは、それだけ「優れた設計思想である」という証の一例と言えるでしょう。
輸入住宅にはログハウスもありますが、こちらはログ(丸太)を水平方向に、交互に重ねて積み上げる工法で、東大寺の正倉院などでもおなじみの校倉(あぜくら)造りと同じとなります。地震に強く断熱性に優れているのが特徴です。
建築費用は、一般的には国内大手の木造住宅メーカーと同等と考えてよいでしょう。特に外観やインテリアの高級感にこだわりたい場合、海外でデザインされた部材や海外の素材を輸入して国内住宅メーカー等の住宅に取り入れるより、輸入住宅のほうが割安になることも多いため人気があります。
輸入住宅は主にヨーロッパの北欧スタイルと北米スタイルの2種類に分けることができます。いずれもむくの床材や木の風合いを活かしたモールディングなど、素材の質感を大切にしているデザインです。
北欧スタイルは主にスウェーデンやフィンランドで主流の住宅です。素朴で重厚感があり、自然との調和やあたたかみが大切にされています。一方の北米スタイルは、19世紀に新天地アメリカに渡って来たヨーロッパの移民たちが好んだ住宅が主流。その一つのアーリー・アメリカン・スタイルは華麗で堅牢なデザインで今でも人気です。
さらに日本では多彩なデザインの輸入住宅もあります。例えばヨーロッパスタイルには、白を基調とした「フレンチスタイル」、南仏の住宅をイメージした「プロヴァンス&スパニッシュ」、イタリアのヴィラ(壮園邸宅)風の「イタリアネート」などがあります。北米スタイルにはシンメトリーなフォルムが特徴的な「ジョージアン」、イギリスが発祥でアメリカでも人気となった、急勾配の屋根が特徴的な「チューダー」、八角形の塔を備える「クイーンアン」などがあります。
輸入住宅の特徴の一つにゆったりとした間取りがあります。その理由は、日本の設計モジュール(基本寸法)が910mmなのに対し、ヨーロッパスタイルが1200mm、北米スタイルが1220mmと大きいことにあります。
「モジュールが違うと、例えば廊下の広さが変わります。一般的な日本の木造住宅と比べて、輸入住宅の廊下はゆったりとしているのですれ違いやすく、将来車いすを使うことになっても有利です」
鉄骨住宅ほどではないものの、広いリビングや大開口の窓を備えることは可能です。
とはいえ面から設計を考えるのが輸入住宅。物理的な限界もあります。「日本では南向き信仰が根強いため、南側に大開口を設けがちですが、本来建造物としてはバランスが悪くなります。例えばスウェーデンでは、とても寒い地域であるにも関わらず南向きの大開口の窓にこだわっていません。むしろ北に湖があるのならそちらに湖をながめられる窓を設けます」
海外の優れた設計思想を取り入れるのが輸入住宅。建て主もその思想を大切にしてみてもいいかもしれませんね。
先ほど「6面体のモノコック構造は強固」だと述べたように、台風が来ても雪がたくさん積もっても、大きな地震にも十分耐えられます。当然「日本の耐震基準はクリアしています」。それどころか、森田さんは以前あるメーカーの輸入住宅を実大振動台試験で阪神淡路大震災の2倍となる1600ガル以上(※)で揺らしてみたところ、窓ガラスすら割れなかったそうです。
※ガルとは地震の揺れの強さを表す際に用いる加速度の単位
また北欧は冬になると氷点下30度を下回り、夏は30度近くになるほど、日本よりも厳しい気候です。そのため住宅の断熱性が高いのは当然といえるでしょう。例えば断熱性能に優れた3層ガラス窓は、今でこそ日本の窓メーカーも本格的に手がけていますが、輸入住宅では既に30年以上も前から日本に導入しています。「もちろん海外の3層ガラス窓もガラスの間にLow-E金属膜(断熱性能を高める役割を果たす)を入れたり、ガラスとガラスの間にアルゴンガス(空気よりも断熱性能が高い)を入れるなど、進化し続けています」。むしろ輸入住宅のほうが一日の長があるというわけです。
今後一般住宅への義務化が論じられている改正省エネ法も、すでにクリアしています。また日本が国策で普及を進めているZEHにも対応しています。
防火性能については、日本の木造住宅を扱う住宅メーカーでも謳っていますが、そもそも木は一定以上の太さになると炭化層により燃焼速度が遅れます。輸入住宅でも日本の防火基準は守られたうえで、壁・床・天井ともに分厚い木材が使用されているものが多いので安心です。海外の木製窓を使いたい場合でも、防火認定をクリアしているものも選べます。
設計モジュールが住宅メーカーごとに違うことも多い日本と違い、ヨーロッパや北米では統一されているため、本国では部材がホームセンターで買えるほどで、日曜大工で自宅を直す人もいます。
ただし、日本のホームセンターでは残念ながらあまり扱われていないため、もし巾木や窓などを交換する場合はその家を建てた建築会社にまずは問い合わせたほうがいいでしょう。
また、設計モジュールが統一されているメリットとして代替のしやすさがあります。例えば使っていた窓のメーカーであるA社が倒産しても、B社の窓に最小限の工事で交換できます。日本の住宅の場合だと、新しい窓にサイズを合わせるために外壁の解体や構造の改修工事が必要になることもありますから、部品の取り寄せに多少時間はかかるものの、交換の観点ではメリットのひとつといえるでしょう。
アフターサービスは輸入住宅メーカーにより異なりますが、瑕疵保証制度など、いずれも日本の法律に沿った対応が行われています。輸入住宅メーカーによっては独自の手厚い点検制度を設けているなど、各社それぞれの特色があります。
堅牢ゆえ地震や台風に強く、高気密・高断熱のため結露が少ないため木材が腐りにくい輸入住宅。資産としてはもちろん、中古で買うのもオススメです。
「そもそも海外では、子どもが生まれたなどライフスタイルが変わる度に住み替える人がたくさんいます。そのためリセールバリューを考えて住宅を建てる、つまり資産価値の高い家を建てるのが当たり前なのです」
購入後にリフォームしたい場合は、面構造のため外せない壁があるなど、間取り変更がある程度制限されます。この辺も日本の2×4工法やパネル工法の住宅と同様です。むしろ間取りを変えたいと思ったら、ゆったり広々とした空間を家具で仕切るなど工夫するほうが、外観のすてきな輸入住宅らしい暮らし方ではないでしょうか。