木造住宅を新築する際、気になるポイントの一つに「防音性」があります。「屋外からの騒音がうるさかったらどうしよう」や「楽器演奏の音が家の外に伝わって苦情が来ないか心配」などと悩んでいる人はいるのではないでしょうか。
大和ハウス工業総合技術研究所の渡辺将平さんにお話を伺い、木造住宅の防音性について解説します。新築の木造一戸建てを検討している方はぜひ参考にしてください。
ほかの構造と比較すると「防音性が低い」というイメージがある木造住宅。果たして本当に防音性が低いのでしょうか。木造住宅の音事情について聞いてみました。
「コンクリート・鉄筋を用いた重量のある構造のRC造(鉄筋コンクリート造)と比較すると、木造は躯体(くたい)が軽く、骨組みにも大きな違いがあります。RC造では壁や床に使用されているコンクリートが重いため音の伝搬を遮ります。一方、木造の場合は軽量のため音を伝えやすい性質があります。こういったそもそもの構造の違いを前提にお伝えすると、ほかの構造と比べて木造は音が伝わりやすいといえます。しかし、さまざまな工夫によって防音性を高めることは可能です」(渡辺さん、以下同)
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「日本の一般住宅の建築において木造は広く普及している工法のひとつです。そのため、一口に木造住宅といっても、その防音性能には住宅によって差があるのが実情です。木造住宅で防音性能を高くしたい場合は、基本のスペックに加えてプラスアルファの工夫が必要になります」
「木造の中でも特に2×4(ツーバイフォー)工法を採用している建物は音が伝わりやすくなります。2×4は床や壁などを面で支える構造のため、太鼓の皮のような状態なのです。太鼓を叩くと音が響くように、2×4工法の建物も床や壁を介して音が伝搬していく特性があります」
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ここからは、一戸建て木造住宅でよくある音のトラブルを、家の中で発生するもの、家の外で発生するものの2種類に分けて紹介します。
上階の足音は床や壁を伝って階下の部屋に聞こえてきます。上階に子ども部屋を設ける人は多いと思いますが、子どもの足音が予想よりも大きく、遮音性の高い防音マットなどで対策を講じる場合もあります。
浴室やトイレなど、水まわりの音をうるさく感じる場合も。特に、寝室や書斎など、静かに過ごしたい部屋と水まわり設備が隣接している場合に起こりやすいトラブルです。
「個室でオンライン会議をしているときに、リビングにいる家族の話し声が入ってしまう」「電話の内容が隣室にいる家族に聞こえてしまう」といった、プライバシーに関わる音問題もあります。
家の中で発生した音が外に響き、苦情等を招くこともあります。集合住宅と比較すると一戸建て住宅ではそれほど問題にならないかもしれませんが、隣家との距離が近い狭小地では注意が必要です。
戸外の騒音は主に窓を介して室内に入ってきます。道路に面した場所に大きな窓があると、車の音や人の話し声などが聞こえる可能性があります。
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防音性能の高い注文住宅をつくるためには設計上の工夫が必要です。後悔しない家づくりのために、まずは防音の仕組みについて知りましょう。
「防音というと、音が小さくなる、または音が消えるといったイメージがあるかと思いますが、厳密には吸音と遮音によって防音が実現します。
発生した音が壁にぶつかると、反射する音、壁の中に吸収される音、透過される音に分かれます。遮音は、発生した音が石膏ボードなどの硬質な壁(遮音材)にぶつかって反射し、透過しないことを意味します。吸音は、断熱材やカーテンなどの柔らかい素材(吸音材)が音を吸収すると同時に向こう側へ逃すこと(透過)を意味します」
「お風呂の音の響きをイメージすると、遮音と吸音の仕組みがわかりやすいと思います。お風呂で音を出したときに響くのは、壁の表面に吸音材がないためです。吸音材がないと壁にぶつかった音は反射し続けるため、私たちは『音が響く』と感じます」
一般的に、遮音材は重量が増えるほど遮音性能が高くなり、吸音材は厚みが増えると吸音性能が高くなるといわれていますが、それぞれの材質によっても性能は異なります。独自の遮音・吸音方法を開発し、防音性能に優れた注文住宅を手掛けている建築会社もあります。
防音性の高い木造の注文住宅をつくるには、どのような方法があるでしょうか。
「屋外で発生した音の多くは窓から侵入します。音の侵入を最小限にするために窓を小さくしたり、二重サッシにしたりすると有効です。また、アルミサッシよりも複合樹脂サッシや樹脂サッシのほうが音が伝わりにくい特徴があります」
意匠性や採光のために大きな窓を設置したい場合は、部屋の配置を工夫することで音のトラブルを軽減することができます。
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「寝室や書斎など、静かに過ごしたい部屋を音源から離して計画することがポイントです。例えば、道路から離れた場所に寝室を計画したり、真上や隣にトイレやお風呂などを計画しないことで水を流す音の影響を受けにくくなります。また、ドアからも音が入ってきやすいため、静かにしたい場所とドアの距離を離すとよいでしょう。こういった要望を丁寧に汲み取って一緒に間取りを計画してくれる建築会社(担当者)と出会うことも大切です」
楽器の演奏部屋やシアタールームがほしい場合は、防音室にすることで音が部屋の外に漏れにくく、快適な音環境をつくることができます。
「防音室は室外への音漏れを防ぐことだけではなく、音の響きを心地よくする効果もあるのです。ちょうどよい音の響きを保つには、吸音材を壁の表面に配置する必要があります。遮音材だけでは、お風呂の中のように、音が響きすぎてしまいます。楽器を演奏する場合、音の響き方は重要かと思います。楽器ごとに適切な吸音量も異なるため、防音室の施工実績が豊富な会社に相談することをおすすめします」
「間仕切りの中にグラスウールなどの吸音材を入れることで、部屋同士の音が伝わりにくくなります。通常、間仕切りの中には空気の層が50mmくらいあり、音は空気を媒介に伝搬します。この部分を充填する50~55mm程度のグラスウールを入れると、間仕切り壁の遮音性能は向上します」
「ガルバリウム鋼板など金属製の素材はサイディングやスレート材よりも軽い素材であるため音を伝えやすい性質ですが、遮音材などを併用することで、遮音性能の高い構成とすることは可能です。屋根・外壁からの遮音性能を気にされる場合には設計の前段階で建築会社の担当者によく確認してみてください」
「防音性の高い木造の一戸建て住宅を建てるために、建築会社選びはとても大切なポイントです。遮音性能の高い床や壁を採用したり、防音室を施工したりするには、高い技術力が必要です。ホームページなどで住まいの音環境にこだわっている建築会社を探し、比較検討することをおすすめします。また、防音性能の高い家にすることでコスト面や意匠性に関するデメリットが発生する可能性もあります。依頼者の要望を丁寧に聞き取った上で真実を伝え、納得できる提案をしてくれる担当者と出会うことで、理想の家づくりができるかと思います」
最後に、防音効果が高い新築木造住宅をつくるためのポイントについて渡辺さんに伺いました。
「お伝えしたように、木造住宅の防音性を高めるためのポイントはいくつかあります。しかし、すべてのポイントをクリアした家を建てることは現実的ではありません。防音性にどこまでこだわりたいかは人それぞれ異なります。少しくらい音が漏れてもいいと思う人もいれば、本格的に楽器を練習したいから高い防音性能を求める人もいます。音の感じ方も人それぞれ違うので、どこまでなら許容できるかを考えた上で、防音や静音に知見のある建築会社に相談するとよいと思います」
「木造住宅は防音性が低い」というイメージがあるかもしれませんが、工夫をすることで防音性の高い木造一戸建て住宅を建てることは可能です。
デザインや間取りとは違い、防音は見えない部分。だからこそ、家族の生活や価値観と照らし合わせながら、どの程度の防音性能が必要であるか、今一度考えて家づくりに臨みたいですね。
木造住宅は躯体の軽さや構造の特性上、RC造よりも音が伝わりやすい
開口部や間取り、間仕切り等の設計を工夫すれば防音性は高まる
静音や防音に特化した家づくりが得意な建築会社に依頼するとよい