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2024年に発生した能登半島地震や南海トラフ巨大地震の発生確率引き上げなどの影響を受け、これまで以上に地震への備えが重視されています。マンションの購入や注文住宅の建築に際して、耐震性が気になる人も多いのではないでしょうか。耐震基準は1981年に大きな改正があり、同年6月1日以降の基準は「新耐震基準」、同年5月31日以前の基準は「旧耐震基準」と呼ばれます。本記事ではkao一級建築士事務所の越野かおるさんに、新耐震基準と旧耐震基準の違いや耐震性を高める工夫などをうかがいます。
そもそも耐震基準とはどのような基準なのでしょうか。まずは、耐震基準の正確な意味や近年よく聞く耐震等級との違いから解説します。
耐震基準とは、一定の強さの地震に耐えられるよう、建築基準法が定めた最低限クリアすべき基準を指します。耐震基準は年々厳格化されてきており、これから家を建てるときには、最新の建築基準法が定める耐震基準に沿わなければなりません。
「耐震基準を定める建築基準法は『国民の生命、健康および財産の保護を図ることを目的とした、最低限の基準』とされています。ここで大切なのは、建築基準法が守ろうとしているのはあくまでも『命や健康、持っている財産』であり、家自体はそれらを守る単なる箱である、ということです。
同様に耐震基準も、大地震が発生したときに即座に家が崩落・倒壊し、命が奪われることがないようにするための基準です。つまり、地震に遭っても壊れずに、そのまま住み続けられることを保証するものではありません。その点をまずは理解しておきましょう」(越野さん、以下同)

耐震基準とは別に、「耐震等級」という言葉も耳にします。言葉の響きは似ていますが、どのような違いがあるのでしょうか。
「耐震等級とは、『品確法(住宅品質確保促進法)』が定める『住宅性能表示制度』に基づき、地震に対する建物の強度(耐震性)を示す指標のひとつです。等級1から等級3までの3段階で表され、現行の耐震基準(2000年基準)で建てられた家は耐震等級1とみなされます。なお耐震等級は第三者機関の審査を受けることで認定されます」
法律で定められる耐震基準と違い、耐震等級はあくまで任意の制度。必ずしも認定を受ける必要はありません。
耐震等級についてもっと詳しく
耐震等級3は必要? 後悔しない家づくりで知っておきたい耐震の基準とは
新耐震基準が施行されたのは、1981年(昭和56年)6月1日です。
耐震基準は1950年の建築基準法施行のタイミングで制定されたもので、その後大地震が発生するたびに見直され、これまで1981年と2000年に大きな改正がおこなわれました。
なかでも1978年の宮城県沖地震の甚大な被害を受けて1981年におこなわれた改正は、耐震基準の節目とされています。それに伴い、1981年5月31日までの基準は「旧耐震基準」、同年6月1日以降の耐震基準は「新耐震基準」と呼ばれるようになりました。具体的には、建築確認が完了した日にちが同年5月31日以前であれば旧耐震基準、6月1日以降であれば新耐震基準の家となります。
さらに2000年には、主に木造住宅の耐震性向上を目的に、新耐震基準をさらに強化した現行の耐震基準(2000年基準)が設けられています。
「大きな震災が発生すると、住宅にどのような被害があったのか、何が原因だったのかについての調査がおこなわれます。その結果を精査し、どうすればより耐震性が高まるのかを考えることで、改正が繰り返されているのです」

阪神・淡路大震災の発生以前に定められた新耐震基準。「実際、どのくらいの地震に耐えられるんだろう」と不安に思う方もいるかもしれません。新耐震基準が耐えられる地震の強さや旧耐震基準との違いを見ていきましょう。
まず大きな違いとなるのが、耐えられる地震の強さです。旧耐震基準では中地震しか考慮されていませんでしたが、新耐震基準では中地震に加えて大地震にも耐え得る基準へと引き上げられました。
一方、1981年に施行された新耐震基準では、震度5程度の中地震では軽微なひび割れ程度にとどまり損壊せず、数百年に一度の震度6強程度の大地震であっても倒壊・崩落して人が押しつぶされることなく、命を守れるだけの耐震性が備えられるようになりました」
新耐震基準では、中地震に加えて大地震にも耐えられるよう、一次設計・二次設計の二段階で耐震チェックがおこなわれるようになりました。
「具体的には、まず一次設計において中地震対策として、家の機能を損なわないよう柱や梁(はり)、壁などを強化し、変形を抑えます。さらに二次設計では大地震対策として、柱や梁などが変形しても、倒壊・崩落しない粘り強さを持たせ、人命を保護できる構造にすることが求められるようになりました。
ただし新耐震基準では、耐震性は強化されたものの法的な拘束力がない部分も多くありました。そこからさらに内容を強化し、法的拘束力を持たせたのが現行の耐震基準(2000年基準)です」

1995年の阪神・淡路大震災の被害を受け、建築基準法は2000年にさらに大きな改正がおこなわれました。それ以降の耐震基準は、「現行の耐震基準」あるいは「2000年基準」と呼ばれています。では、前述の新耐震基準と比べてどのような違いがあるのでしょうか。
「現行の耐震基準(2000年基準)では、新耐震基準からさらに規制が強化されています。例えば一次設計では、中程度の地震で柱や梁(はり)など主要構造部に使われる材料の『許容応力度(耐えられる力)』を超えないよう、計算しなければなりません。
さらに二次設計では、大地震に対して倒壊・崩落しないよう、建物の構造種別や規模別に3つのルートに分けて計算するなど、かなり細かな構造計算が求められるようになりました。そのため現行の耐震基準(2000年基準)で建てられた家は、それまでの新耐震基準で建てられた家よりも、さらに高い耐震性を有しています」
2025年現在、新たに家を建てるときには、この現行の耐震基準(2000年基準)が適用されます。では、具体的にどのように耐震性が強化されたのかを見ていきましょう。
新耐震基準では、耐力壁(たいりょくへき=建物に横からかかる力に対抗するための壁)の強化がなされ、床面積あたりに必要な壁量や壁の長さが規定されました。その一方、どのようにバランスを取るのかまで細かく決められてはいませんでした。
「耐力壁の配置バランスが悪いと、弱い部分に負荷がかかってしまいます。そのため現行の耐震基準(2000年基準)では、家の平面を4分割したうえで耐力壁をバランスよく配置する『四分割法によるバランス規定』などが定められ、計算を求められるようになりました」

柱や梁、壁などの構造上主要な部分の継ぎ目に使用する接合金物についても、どこにどのような金物を使用するかが指定され、厳格化されました。
「これは阪神・淡路大震災の縦揺れで、柱の突起部分であるホゾが土台の穴から飛び抜けてしまう『ホゾ抜け』による倒壊が多発したことが教訓になっています」
現行の耐震基準(2000年基準)では、床の剛性(硬さ)も求められるようになりました。
「新耐震基準までは、壁を強くすることが重視されてきました。しかし壁の耐力をいくら上げても、壁を支える床が変形に耐えられなければ壁が倒れてしまいます。そのため現在は床の剛性も、耐震性を上げる重要な要素と考えられています」

より詳細な地盤の調査やその結果にあわせた基礎構造の適用についても、新たに規定されました。
「地盤の強さは耐震性と大きく関係します。地盤力が弱ければ、地震の揺れに比例して地盤の揺れも大きくなり、それが建物に伝わります。そのため現行の耐震基準(2000年基準)では、地盤にどの程度の力があるのかをきちんと地盤調査で測定したうえで、それに見合った基礎構造にすることが義務化されました」
今後購入を検討している物件の耐震性は、非常に気になるポイントです。では、すでに立っている建物の耐震基準はどのように確認すればいいのでしょうか。
物件の耐震基準は、建物の築年数からおおよそ判断できます。前述したように、新耐震基準の適合は1981年6月1日以降になるため、2025年時点で約40年以内の物件であれば基本的には新耐震基準が適用されていると考えられます。同じように、2000年代に入って建てられた建物であれば、現行の耐震基準である可能性が高いでしょう。
ただしここで注意したいのが、耐震基準は“建築確認日がいつか”によって決まること。建築確認日とは各自治体の役所で建築確認申請が認められた日のことで、仮に1981年5月に同申請が受理されていた場合は建物の完成日が1981年6月以降であっても旧耐震基準で建てられています。特に完成までに時間がかかる大規模なマンションなどの場合は、建築確認日と完成日に大きなズレが生じていることもあるので詳しく確認したほうが安心です。
耐震基準を正確に確認したい場合は、建築確認日が記された「建築計画概要書」「建築確認台帳記載事項証明書」を各自治体の役所で取得しましょう。
現行の耐震基準(2000年基準)で家を建てると高い耐震性を有することがわかりましたが、耐震性をさらに高めるためにほかにできることはあるのでしょうか。地震に強い家づくりのヒントを聞きました。
耐震基準にばかり目を向けがちですが、地震に強い家づくりにおいては、できるだけ地盤が強い土地を選ぶことが最も重要だそう。
「土地を購入するときには、自治体が提供しているハザードマップを必ず確認しましょう。さらに市役所や図書館で古い地図を見て、その土地が昔どのような場所だったのかを調べるのもオススメです。例えば土地のある場所が昔は川や谷だった場合、地盤が弱い可能性があります。
しかしいくら調べても、それはあくまで推察であり、実際の地盤の強さは土地を購入して調査するまでわかりません。購入した土地や、すでに所有している土地の地盤が弱かった場合でも、現在は杭を打つなどして補強できるので、過度に心配しすぎないようにしましょう」
地盤の強い土地を選びたいときには、すでに地盤調査が済んでいる土地を購入するのも方法のひとつです。

さらに、建物の軽量化も耐震性を左右するポイント。これは、建物の重量が重くなるほど耐震性が低くなり、構造計算が厳しくなるためです。
「建物の軽量化のためには、例えば屋根は瓦ではなくスレートにする、外壁もモルタルやタイルではなくサイディングやガルバリウム鋼板(※)にするなど、なるべく軽い素材選びを心掛けましょう。
また建物そのものだけでなく、蔵書が多い、グランドピアノを所有しているなど、重量があるものを家に置きたい場合も積載荷重として構造計算に組み込む必要があります。想定せずに家を建てると、重量がかかる場所に過剰な負荷がかかり、床が傾いてしまうかもしれません。そうなると耐震性にも影響するので、重いものを部屋に置く予定のある方は、あらかじめ設計者に伝えるようにしていただきたいです」
※ガルバリウム鋼板は日鉄鋼板の登録商標です
「単純に耐力壁を増やしたり、主要部材の接合部に金物を設置して強化したりすれば、それだけ耐震性は高くなります。
一方『全面ガラス張りにしたい』『くれ縁(室内側にある縁側)を設けたい』といった場合は、外壁部分の耐力壁が減るため、基準を満たすように設計するのが難しくなります。ただし構造計算のやり方は家の構造種別によって異なるので、木造では難しくても鉄骨造ではかなうことも。設計者に相談してみましょう」
近年人気を集める「2階リビング間取り」も耐震性アップに効果的だそう。
「リビングを2階に置き、1階に個室を配して壁量を増やすのも、耐震性を高めるには有効です。
2階は屋根だけを支えればよいのに対し、1階は屋根と2階の両方の重量を支える必要があり、より高い強度を求められます。そのため広々とした空間を要して壁の数が少なくなるリビングを2階に置くのは理にかなっているのです」

耐震性が気になるときには、家を建てる際に第三者の調査機関に入ってもらい、検査を受ける回数を増やすのも一案。プロの目線で、細かな部分まで確認してもらえます。
「耐力壁の数やバランスについては設計段階でもチェックできますが、接合部については設計どおりに設置されたかどうかは壁を張られてしまうと見た目ではわかりません。そのため建築会社とは別の、検査だけを請け負うような専門業者に依頼して、工事中の様子を確認してもらうと安心できます。
なおその際は、信頼関係を崩さないためにも、建築会社には事前に許可を取るようにしてください」
最後に改めて越野さんに、耐震性を意識した家づくりのポイントをうかがいました。
「これから家を建てるときには、高い耐震性を求める現行の耐震基準(2000年基準)がもれなくカバーされます。また家を建てたあとであっても、耐震改修により耐震性を高めることも可能です。耐震性も重要な項目ですが、そればかりに重きを置きすぎる必要はないと思います。
家はあくまで箱であり、その中でどんな暮らしをするのかのほうがはるかに重要です。家族や建築会社などと相談しながら、家づくりを楽しんでくださいね」
新耐震基準で建てられた家は震災時に最低限命を守れるよう設計されているが、被災後に住み続けられるとは限らない
現行の耐震基準(2000年基準)の家は、耐震性を高めるために、新耐震基準よりもさらに厳しい基準が設けられている
耐震基準を知りたいときは、「建築計画概要書」や「建築確認台帳記載事項証明書」で建築確認日を確認しよう
耐震性の高い家を建てるためには、地震に強い土地選びが何よりも重要