心も体も健やかに過ごすためには、お部屋を満たす自然光は欠かせません。カギとなるのは、採光に考慮した窓づくり。同じ間取りでも窓に工夫を凝らすだけで、快適さに大きな差が出ます。そんな窓づくりのポイントを一級建築士の中川由紀子さんに教えてもらいました。
家を建てるときや賃貸物件を探すとき、よく耳にする「採光(さいこう)」という言葉。まずは、法律で定められた「有効採光面積」の意味や計算方法などから見ていきましょう。
人が暮らす部屋には、一定以上の自然光を取り入れることが建築基準法で義務付けられています。ただ、必要となる窓の大きさは「どんな土地に建っているか」「隣家との間隔がどれくらいあるか」といった立地条件によって変わります。最低限求められる明るさが確保できているか、家を建てる前にしっかりチェックしておきましょう。
建築基準法では、居室には「採光のための窓」が必要と定められていますが、その窓は一定の基準を満たした大きさでなければなりません。それが「有効採光面積」です。
住宅の場合、有効採光面積は居室の床面積の7分の1以上必要です。例えば、7畳の部屋なら有効採光面積は1畳分必要、ということ。なお、有効採光面積は、実際の窓の面積と違うことを理解しておきましょう。
有効採光面積を出すためには、まずは窓の設置条件による「採光補正係数」(光の入りやすさを表す数値)を算出しなければなりません。採光補正係数は光の入りやすさを表す数値のことで、隣地境界線からの距離など、窓をつける位置によって決定されます。
採光補正係数(A)=d/h×α-β
=d/h×6-1.4(住居系地域はα=6、β=1.4)
d:窓の直上にある建築物の各部分から隣地境界線などの対向部までの水平距離
h:窓の中心から直上の建築物の各部分までの垂直距離
その他に、以下のような特別な算出条件がいくつかあります。
採光補正係数が算出できれば、有効採光面積も計算できます。以下の式で、計算してみましょう。
窓の面積(W)×採光補正係数(A)=有効採光面積
「私は設計するときには、まずその空間の快適さのために必要な窓をつくって、それから有効採光面積を確認します。あくまでも最低限の『住環境を守るための法律』なので、それ以上に快適さが大事だと考えているからです」(中川さん)
前述したように、採光補正係数は「どんな地域の建物か」と「窓をつける位置」によって決まります。
都市計画区域内の用途地域「住居系地域・工業系地域・商業系地域、無指定地域」の3つのどれに当たるかで判断します。
用途地域ごとに、採光補正係数を算出するための数式が決められています。
住居系地域の方が、工業系・商業系地域よりも日当たりが求められるため、採光補正係数は小さくなり、大きな窓が必要になります。
用途地域について詳しくはこちら
→用途地域とは? 用途地域の調べ方や13種類の特徴、建築制限の詳細を一覧で解説!
隣地境界線から建物の軒先までの距離(d)と、建物の軒先から窓の中心までの高低差(h)の2つで判断します。
隣地境界線に近い(=dが小さくなる)ほど、また、軒先から離れる(=hが大きくなる)ほど光が入りにくくなるため、採光補正係数は小さくなり、大きな窓が必要になります。
採光補正係数が0になる場合もあり、そうなるとどんなに大きな窓をつくっても居室として認められなくなります。隣地境界線から離れ、建物の上部にあると、採光補正係数が大きくなるので、比較的小さめの窓でも有効採光面積を満たしやすくなります。
試算条件:
床面積は1畳を1.65m2とする
採光補正係数は最大値の3とする
※上記イラスト内の数字は、以下のように算出(住居系地域の場合)
有効採光面積=窓面積(W)×採光補正係数(A)≧1/7×床面積(S)
※1/7は住宅の居室の場合の係数
例えば、6畳、採光補正係数が最大値3の場合
W×3≧1/7×9.9(m2)
W≧0.47(m2)
日差しが入るということは、ただ部屋が明るくなるだけではありません。採光の役割や重視される理由について解説します。
日差しがたっぷり入る採光性の高い部屋に住むと、湿気が減って室内環境が良くなります。特に、キッチンやトイレ、洗面所、バスルームなど、湿気が多い箇所はカビが発生しやすいもの。日差しを取り入れてカラッとした空間にすれば、衛生的で心地よい住環境を整えられるうえ、掃除やメンテナンスにかかる手間&コストも削減できるでしょう。
実は、自然光はメンタルヘルスにも大きく関係しています。これは、人間が自然光によって体内時計をリセットし、体と生活のリズムを整えているため。また、自然光を浴びることで生成される脳内神経伝達物質・セロトニンには、不安や怒りなどのネガティブな感情を解消し、心を健やかに保つ効果があります。精神状態を整えたり、規則正しい生活を送るきっかけになったりと、健康面へのメリットも大きいのです。
採光性の高い家に住むと、夕方薄暗くなるころまでは電気をつけずに生活ができます。さらに日光によって部屋全体が暖かくなるため、暖房器具の使用頻度も減るでしょう。照明代や暖房代を節約できるだけでなく、省エネにも貢献できるのです。
採光を考慮して設計し、有効採光面積を十二分に満たしていても、なぜか部屋が暗くなってしまう場合があります。有効採光面積は方角とは関係ないので、北向きにつくる場合と南向きにつくる場合では、明るさはかなり違ってきます。新築後やリフォーム後に後悔しないように、部屋が暗くなる可能性についてあらかじめ考えておきましょう。
×周りに新しい家がたくさん建って、当初予定していた日差しが入らなくなった
×道路側に掃き出し窓をつけたら、防犯と目隠しのために日中はシャッターが必要になった
×細長い部屋だったので、奥の方が暗くなってしまった
「家を建てた後に周辺環境や生活スタイルが変化して、部屋の中が暗くなってしまうことはよくあること。住宅密集地なら近隣がどうなっても採光できるように、また、入居後にどう暮らすかまで考えて設計しておくことが大切ですね」(中川さん)
家を建てるときやリフォーム時には、どのような考え方に基づいて窓を配置すべきか、中川さんに教えてもらいましょう。
「明るさと快適さのために、日差しを採り入れる窓は必要です。ただ、大きな窓をたくさんつくればいい、というものではありません。私は、『その空間に必要な明かりを用意する』ことを採光計画の基本にしています。その部屋の用途や方角に合わせて、必要なだけの窓をつくります。例えば、夜しか使わない勉強部屋だと北向きでも良いですし、外から騒音や冷気が入り過ぎないようにあえて小さめにすることもあります」
また、最近は暗さよりも“光が入り過ぎること”が問題になることも多いのだそう。
「私がインテリア相談を受けたお客様からは、『西日が入って暑い』『南側の天窓の日差しがきつい』『東側から入る夏の朝日がまぶし過ぎる』といった悩みも多く伺います。窓をつくり過ぎて『家具が置けなくなった』『冬場が寒過ぎる』『外から見え過ぎる』といったケースもあります。西側の壁にはあえて窓をつくらない、または、小さな窓にすることも多いです。その部屋に、どんな自然光を、どれだけ採り入れたいのか、しっかり考えておきましょう」(中川さん)
明るい家にしたいなら、窓を大きくするだけが方法ではありません。同じ大きさでも、窓の位置や形を工夫するだけで、明るさが格段にアップする場合もあります。採光性を高めるためにオススメのテクニックを中川さんに教えてもらいました。
窓の配置を決める際は、どの方角を向いているかを重視しましょう。
「例えば、天窓の場合。採光効率が高いので明るくはなりますが、南側や東側、西側では、夏は暑過ぎるうえ、光量の調節も難しくなります。その点北側なら穏やかな光が差し込むのでオススメです」(中川さん)
天窓についてもっと詳しく
→天窓(トップライト)とは?雨漏りの心配はない?
その部屋をどんな風に使いたいのかを考え、シーンに合わせた採光設計を取り入れましょう。例えば、キッチンの場合には直射日光で食材を傷めないようにする配慮が必要になります。
「キッチンには手元灯が必須なこともあり、キッチンの明るさは照明と合わせて計画したほうがいいと思います。壁面に収納が必要なことも多いので、キッチンはあえて窓を小さくすることもあります」
窓をむやみに大きくすると、部屋のサイズによっては暑くなり過ぎることも。
「間口の小さい部屋で奥まで光を入れたいときは、窓の位置を高くするといいですよ。ただ、吹抜けを西側につくる場合は、暑くなり過ぎる可能性もあるので気をつけて。南向きの高窓なら、夏は日差しを抑え、冬は光が部屋の奥まで入るので快適です」
住宅密集地や道路に面した家の場合は、どうしても周囲の視線が気になるもの。そんなときは、高い位置と低い位置に窓をつけると良いそうです。
「道路や隣家に面した窓の場合は、大きくしても結局はカーテンを閉め切りにする可能性が大きいです。天窓や高窓などをつけると視線を気にせずに済み、光も入ります。ただ、高窓だけにすると換気が大変なので、換気のために地窓をつくっておくと安心です」
また、道路や隣家に面した壁は、出入りの必要がなければ腰高窓がオススメ。
「腰高窓なら、防犯が気になるときは格子をつけることができるので安心です。出入りや搬入のために必要な場合以外は、掃き出し窓にする必要があるか確認することが多いですね。腰高窓なら、窓の下にソファーを置いたり家具を置いたり、インテリアも楽しめます」
窓をつくると、開閉できないフィックス窓以外は風も入ります。窓の位置を決めるときは、採光と同時に風の通り方についても考えておきましょう。
「自然の風を採り入れるためには、風の入口と出口の両方が必要です。ただ、自然の風を入れるための窓は、防犯性にも留意しておきましょう。腰窓なら格子やシャッターをつけるなど対策を取っておきたいもの。また、窓よりも壁の方が間違いなく断熱効果は高いので、窓をつくるとそれだけ断熱効果が下がる点は理解しておきましょう」
窓は、明るさを採り入れる機能性だけでなく、インテリアのアクセントとしても活躍します。機能とデザインの両方を兼ね備えた窓の実例をご紹介します。
※写真はすべてみゆう設計室撮影
住んでからの快適さを大きく左右するもののひとつが「日当たり」です。設計士さんもしっかり見てくれていますが、任せきりは禁物。建てる前やリフォーム前には、各部屋の目的とそれをかなえられる配置・サイズの窓かどうか、ぜひ自分でも確認を。自然光たっぷりの部屋で、健やかで快適な毎日を送りましょう。
有効採光面積を満たしたうえで、快適な採光を考えよう
採光補正係数は、家の地域や窓の位置によっても変化する
窓をつくるときは、大きさ以上に方角や部屋の用途、季節の変化などに配慮しよう
天窓、高窓、地窓も使って、採光と換気を効率よく行おう