北側斜線制限とは?適用される用途地域や計算方法、緩和措置まで解説

最終更新日 2025年09月09日

北側斜線制限とは?適用される用途地域や計算方法、緩和措置まで解説

注文住宅を建てる際、北側斜線制限の影響を受けることがあります。この規制は、北側隣地の日当たりを確保するための居住環境保護を目的に設けられており、設計に大きく関わります。

この記事では、北側斜線制限が適用される用途地域や計算方法、緩和措置などについて、kao一級建築士事務所の越野かおるさんに伺い解説します。北側斜線制限のある土地購入を検討するときに押さえておきたいポイントも解説するので、ぜひ参考にしてください。

北側斜線制限とは

「北側斜線制限とは、北側の隣地にある建築物のために、高さの上限を決めたルールです。南側に建てる建物の高さや形状を制限することで、北側隣地の日当たりを確保し、良好な生活環境を維持することが目的です」(越野さん/以下同)

北側斜線制限
北側斜線制限があることで、北側の家は日当たりを確保できる(イラスト/杉崎アチャ)

北側斜線制限が適用される地域・されない地域は?

北側斜線制限がかかるかどうかは、その土地の「用途地域」によって決まります。用途地域とは、都市計画法に基づいて、市街地を「住宅系」「商業系」「工業系」などの用途別に分類したもので、建てられる建物の種類や大きさに影響を与えます。

用途地域のうち、北側斜線制限が適用されるのは、主に住宅系のなかでもとくに『住環境の保護』が重視される以下のエリアです。

  • 第一種低層住居専用地域
  • 第二種低層住居専用地域
  • 第一種中高層住居専用地域※
  • 第二種中高層住居専用地域※
  • 田園住居地域

※後述する日影規制にかかる場合は、北側斜線制限はかからない

これらの地域では、周辺の住戸にも十分な採光・日照が確保されるよう、建物の高さや形状に対して厳しい制限が設けられています。とくに敷地が比較的コンパクトで建物同士の距離が近くなりがちな低層住宅専用地域では、北側斜線制限は日照トラブルを防ぐための制度として重要な役割を果たします。

これら以外の、商業系、工業系、および住宅系のなかでも第一種・第二種住居地域、準住居地域に対しては、北側斜線制限は適用されません。

北側斜線制限の計算式は?

北側斜線制限の基本計算式は用途地域により、以下のように異なります。

第一種低層住居専用地域・第二種低層住居専用地域・田園住居地域
建てられる建物の高さ ≦ 水平距離 × 1.25 + 5m

第一種中高層住居専用地域・第二種中高層住居専用地域
建てられる建物の高さ ≦ 水平距離 × 1.25 + 10m

「水平距離は、原則として敷地の真北(しんぼく)側境界線から建物までの水平距離のことです。実際の計算では、まず敷地の北側境界線から用途地域に応じて『5mまたは10m』の高さを垂直に取り、そこから『1.25:1』の傾きで斜線を引きます。この斜線の内側に、建物全体が収まるように設計する必要があります。

なお、この計算式で出されるのは、北側斜線制限により建てられる最大の高さです。道路斜線制限、隣地斜線制限などにもかかる場合は、一番小さい値が採用されるため、必ずしもこの高さまで認められるわけではありません」

北側斜線制限
北側斜線制限にかかる場合、この範囲に収まるような設計にする必要がある(イラスト/杉崎アチャ)

「なお、隣地との境界は必ずしも真北に対して平行とは限りません。真北に対する敷地の向きによって水平距離は変化します。具体的には、斜めになっていると隣地境界線は2方向になり、さらに水平距離が長くなります。その結果、建てられる範囲が広がるケースもあります」

隣地境界と水平距離との関係
水平距離が長いほど、より高い建物を建てられる(イラスト/杉崎アチャ)

このように、北側斜線の計算は一見シンプルに見えますが、土地の形状や向きなどによって設計の自由度が左右されるため、事前に把握しておくことが重要です。

北側斜線制限の緩和措置って?

北側斜線制限は、建物の高さや形状を大きく左右しますが、土地条件によっては制限を緩和できる特例もあります。ここでは主な4つの緩和措置について紹介します。

道路緩和

北側が道路に面している敷地では、通常の「北側境界線」ではなく、道路の向こう側の境界線を起点にして斜線を引くことができます。これにより、敷地内でより高い建物を計画できるケースがあります。

「ただし、敷地が道路に面している場合には『道路斜線』の規制も受けます。
北側斜線では、道路の反対側の境界線からまず+5mもしくは+10mの高さを垂直に取ってから斜線を引きますが、道路斜線では基点からすぐに斜線を引きます。
その結果、北側斜線よりも制限が厳しくなるケースでは、道路斜線制限が優先されます」

北側斜線制限の道路緩和と道路斜線制限
北側斜線制限の道路緩和と道路斜線制限ではより条件が厳しいほうが優先される(イラスト/杉崎アチャ)

「なお、道路斜線制限には建物を後退(セットバック)した場合や、川や公園に面している場合などでさまざまな緩和措置があり、必ずしも北側斜線制限よりも厳しくなるとは限りません。どのように対応するかは敷地面積や建てたい家の高さ・形状などによるので、建築会社と相談が必要です」

高低差緩和

敷地と北側隣地との間に1m以上の高低差がある場合は、基準となる高さを補正できます。
具体的には、(高低差 − 1m)÷2 の値を加算し、「仮想地盤面」として扱います。

北側斜線制限の高低差緩和
高低差が大きいほど、緩和される範囲は大きくなる(イラスト/杉崎アチャ)

「この緩和は、北側の隣地が計画地よりも1m以上高い場合に低地側の敷地の建物の日影の影響が少なくなるため低地側の敷地の北側斜線制限が緩和されるという措置です。そのため、逆に敷地が高い場合には、基本的に緩和はありません」

水面緩和

敷地の北側に川がある場合は、川の幅員の2分の1の場所に隣地境界があるとみなし、北側斜線を設定します。例えば、北側に幅8mの川がある場合、その川の端から4m(=川の幅の半分)を「隣地境界」として斜線を引くことができます。

なお、北側にあるのが川ではなく、公園や広場であっても「水面緩和」として同じように緩和されます。

水面緩和
水面緩和は川に限らず、公園や広場に対しても適用される(イラスト/杉崎アチャ)

天空率制度による緩和

天空率※制度とは、建物によって空がどれだけ遮られるかを数値化し、その割合が一定以下であれば、高さ制限を緩和できる制度です。北側斜線制限のほか隣地斜線制限、道路斜線など各種高さ制限と同等以上の採光・通風を確保できる建築物が、緩和の対象になります。

天空率制度では、従来のように斜線を引いて高さを制限するのではなく、「空が見える割合」で判断するため、設計の自由度が広がります。ただし、活用には専門的な検証が必要なので、建築会社に確認が必要です。また、後述する高度地区では、北側斜線制限の天空率制度での緩和は受けられません。

※任意の地点から魚眼レンズで空を見上げたときの視界(天空図)に対し、建物に遮られずに空が見えている範囲の割合のこと

天空率による緩和
北側斜線制限に沿って建てるより天空率が高ければ緩和を受けられる(イラスト/杉崎アチャ)

北側斜線制限が適用されない場合もある?

北側斜線制限は多くの住宅地で採用されていますが、すべての敷地に適用されるわけではありません。特定の条件下では、別の規制が適用されたり、例外があったりするため、注意が必要です。

日影規制がある地域

「第一種中高層住居専用地域と第二種中高層住居専用地域の日影規制がかかっているエリアでは、北側斜線制限は適用されません。日影規制とは、冬至の日を基準とし、建物がつくる影の長さや時間によって、周辺敷地に与える日照への影響を制限するルールです。『影の範囲』を直接制限するものなので、高さや角度で間接的に制限する北側斜線とは併用されません。

なお日影規制は、エリア外であっても、日影規制エリア内の建物に影を落とす場合にも適用されることがあります。そのため隣接する場所に家を建てるときには、とくに注意が必要です」

高度地区にある場合

都市計画の一環として、自治体が独自に定める「高度地区」においても、斜線制限の扱いが変わる場合があります。高度地区とは、建築基準法第58条に基づき、用途地域内にさらに高さや形状の制限を加える区域のことです。この地区については、都市景観の保護や周囲の日照・通風を守ることを目的に、自治体が独自に高さや斜線制限の基準を設定できます。

「高度地区では、通常よりも厳しい斜線角度が指定されたり、天空率による北側斜線の緩和が認められなかったりするケースがあります。その場合、高度地区の制限を優先しなければなりません」

北側斜線制限のある土地を検討するときに押さえておくべきポイント

北側斜線以外の制限も把握しておく

北側斜線制限がかかる用途地域では、ほかにも以下のような規制がかかる可能性があります。

第一種低層住居専用地域
第二種低層住居専用地域
田園住居地域
第一種中高層住居専用地域
第二種中高層住居専用地域
北側斜線制限
道路斜線制限
隣地斜線制限 ×
日影規制※ ○(軒高>7mまたは階数≧3) ○(高さ>10m)
高度地区※
・記号の見方:○…規制を受ける ×…規制を受けない
※地方自治体の条例や都市計画により定められている。日影規制では、対象建築物に該当した場合に適用される

「このうち隣地斜線制限は、高さ20mまたは31mを超える部分についての規制なので、高さが10mまたは12mに制限されている第一種・第二種低層住宅地域や田園住居地域にはかかりません。

それ以外で複数の制限にかかる場合、すべてにおいて『より厳しいほう』が優先されて適用されます。規制が重なり合うことで、設計の自由度が狭まることもあるので、土地を選ぶ段階から、適用されるルールを確認しておくことが重要です」

傾斜をつける以外に境界線から離す方法もある

「北側斜線規制がある土地でも、敷地に余裕がある場合は、建物を北側の境界線からの水平距離を長く取ることで、建物に傾斜をつけることなく希望の高さを確保できる可能性があります。どのくらい離すかは、希望の高さ・階数や屋根の形状により変わるので、建築会社に相談が必要です」

北側斜線制限で傾斜をつけない方法
敷地に余裕がある場合は、隣地境界から距離を取ると傾斜をつけず希望の高さを確保できる(イラスト/杉崎アチャ)

「この場合、北側に余裕ができるので、隣家との距離が保てたり、駐車場や物置として使えるスペースが生まれたりするといったメリットもあります。ただしその分、南側の敷地の余裕が減る点は理解しておく必要があるでしょう」

北側斜線制限がある地域は自分の家にも日射を確保できる

北側斜線は、自分が建てる建物の制限であると同時に、周囲の建物にも同じルールが課されているという意味で、将来的に自分たちの快適な住環境を守る制度でもあります。

「例えば南側の隣家が将来建て替えられたとしても、北側斜線制限があれば、高さや配置に一定の制約がかかり、極端に日当たりが悪くなるようなことは起きにくくなります。こうした規制があることで、将来の住環境の予測をつけやすくなるのです」

間取りを工夫する

北側斜線制限の影響で屋根や上階が制限される場合でも、間取りの工夫次第で快適な住空間を実現できます。例えば、北側斜線の影響で傾斜ができ高さが取れない場所には、収納や水まわりを配置するのもひとつの手です。

「北側斜線制限がある地域は敷地面積が比較的狭い傾向があり、住宅が隣接しがちです。そのため2階リビングの間取りにし、屋根形状を活かした吹き抜けの勾配天井で開放感を出したり、吹き抜けで明るさを確保したりしてもよいでしょう。最近は省エネ住宅で窓が小さくなる傾向があるので、南リビングに必ずしもこだわる必要はありません」

制限を「制約」と考えるのではなく、むしろ設計のアイデアを引き出すきっかけとして活かし、暮らしやすさもデザイン性も両立する方法を設計者と一緒に考えましょう。

北側斜線制限があるときの間取りの工夫
北側斜線制限で建物に傾斜がつくときには、それを活かした設計を考えよう(イラスト/杉崎アチャ)

北側斜線制限を理解し、将来も見据えた快適な住まいをつくろう

最後にあらためて越野さんに、北側斜線制限がある土地を検討している人に向けてアドバイスを伺いました。

「北側斜線は『北側に住む誰かのため』であるのと同時に、『自分自身の住環境を守るための防衛ライン』でもあります。例えば、これから建てるマイホームの南側の建物が、10年後にどう変わるかは誰にもわかりません。今は平屋でも、将来は3階建てになることもあるでしょう。

だからこそ、最悪のケースを想定して、自分の家に必要な日照や空間をどう確保するかを考えることも大切です。北側斜線制限などの制度をきちんと理解して設計し、自分たちの北側に住む人も、そして未来の自分たちも、長く快適に暮らせる住まいを考えてみてください」

まとめ

北側斜線制限は、北側隣地の日照を守るための建築物の高さ制限のこと

敷地条件によっては「道路緩和」「高低差緩和」などの緩和措置が適用される

北側斜線制限があることで将来の住環境の見通しが立てやすくなる

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