自然素材を使った壁材というと、珪藻土(けいそうど)や漆喰(しっくい)が思い浮かびます。それぞれ、どのような特徴やメリット・デメリットがあるのか、壁材として用いる場合にどのような違いがあるのかを詳しく解説します。
また、普段の掃除・メンテナンスの方法、自宅の壁を珪藻土や漆喰の塗り壁にする方法についても併せて紹介します。
珪藻土や漆喰を取り入れたおしゃれな家を建てたい、リフォームしたいという方に役立つ情報をまとめたので、ぜひ家づくりの参考にしてください。
珪藻土とは、海や湖、河川などに多く分布する「珪藻」という藻類の遺骸が、化石となって海底や湖底に堆積した粘土質の土のことです。長い年月をかけて新たな遺骸が積み重なっていくため、しま模様になります。
珪藻土は耐火性が高い素材として知られ、古くから耐火レンガや七輪の原料として、身近なところで使われてきました。
珪藻土単体では固まらないため、壁材として使用するには、石灰や合成樹脂などと混ぜた形で使われるのが一般的です。
一方、漆喰とは、「消石灰(水酸化カルシウム)」に海藻のりなどを加えたものです。消石灰は、サンゴ礁などから生成される石灰石に水を加えたもので、過去に校庭に白線を引くために使われていた白い物質のことです。
漆喰は経年劣化しにくく、塗ってから数年間でさらに硬くなる気硬性という特徴があります。
どちらも自然素材で、塗り壁に使われるという点で共通しています。しかし、漆喰には気硬性がある一方、珪藻土には気硬性がなく、固める材料(固化材)を混ぜる必要がある点が大きな違いです。
珪藻土と漆喰の違いを簡単にまとめると、次のとおりです。
珪藻土 | 漆喰 | |
---|---|---|
主原料 | 珪藻が化石になって海底などに堆積したもの | 消石灰 |
気硬性 | なし | あり |
耐火性 | ◎ | ◎ |
耐久性 | ◯ | ◎ |
調湿効果 | ◎ | △ |
消臭効果 | ◎ | ◯ |
手触り | ザラザラ | ツルツル |
色の種類 | 豊富にある | 白が基本 |
珪藻土のメリット・デメリットはどういうものか詳しく見ていきましょう。
珪藻土の特徴は、表面や内部にごく小さな無数の穴が空いた多孔質である点です。この特徴がメリット・デメリット、それぞれに大きく影響しています。
湿度が高いときは、表面に空いた無数の穴で空気中の水分を吸収します。反対に、湿度が低いときは穴から水分を空気中に放出します。
調湿効果を保つには、穴を塞いでしまう合成樹脂などが固化材に使われていない珪藻土を選びましょう。
珪藻土は、水分とともに水溶性の匂い成分を吸収するため、一定の消臭効果が期待できます。
こちらも、穴を塞ぐ合成樹脂などが固化材に用いられていると、消臭効果が弱まってしまう可能性があるので注意が必要です。
珪藻土は、昔から七輪の材料に使われているほど耐火性の高い素材です。珪藻土そのものは自然素材のため、燃えても有害な物質は発生しません。
ただし、固化材に化学物質が使用されていると、有害なガスが発生するリスクがあります。
珪藻土には抗菌作用がないため、吸湿しすぎた状態で放置すると、表面にカビが生えるリスクが高まります。珪藻土の表面を清潔に保ち、こまめに換気を行なうなど、水分が含まれたままの状態にならないよう、定期的にメンテナンスする必要があるでしょう。
珪藻土の壁は、こすれると白い粉がつくことがあります。また、劣化するとボロボロと剥がれ落ちることもあり、掃除に手間がかかるのもデメリットです。
ボロボロと剥がれる前に、古い珪藻土を剥がして新たなものに塗り替えるのがよいでしょう。
珪藻土は吸湿しやすい性質を持っているため、飲み物など水分のあるものが付着すると、すぐシミになってしまうのもデメリットです。同様の理由で水拭きもできないため、シミができても対処しづらいという問題もあります。
普段は乾いた布やホウキでお手入れをし、表面のシミや傷が気になるときは細かな紙やすりで削ると汚れを落とせるでしょう。
続いて、漆喰のメリット・デメリットについても見ていきましょう。
珪藻土ほどではないものの、漆喰にも調湿効果があります。室内の湿度が高いときには水分を吸収し、室内が乾燥しているときには、漆喰内部の水分を空気中に放出することで、室内の湿気を一定に保ちます。
漆喰の主原料である消石灰が強いアルカリ性であることから、漆喰も強アルカリ性を示します。
強アルカリ性の環境下では、細菌やカビの増殖が抑制されるため、漆喰には抗菌性が期待できます。ただし、4~5年が経過すると、抗菌性や防カビ性が失われていく点に注意が必要です。
漆喰も珪藻土と同様に耐火性がある素材なので、火事が発生しても燃えにくく安全です。燃えたとしても、有害な物質が発生しにくいのもメリットといえます。
漆喰は表面にひび割れが起きる場合があります。これは、乾燥収縮やドライアウト、建物の躯体の動きなどによってもたらされるものです。
乾燥収縮とは、素材内部に含まれる水分が空気中に放出されることで、表面が収縮してしまう現象をいいます。
施工面積が広い場合や人手が足りない場合などに、先に作業した部分の乾燥を防ぐために厚塗りをした結果、内部に水分が多く取り残されてしまい、乾燥収縮を引き起こすのです。
また、夏場の作業や高吸水性の下地に漆喰を塗る作業では、漆喰の水分が急激に失われるドライアウトが発生し、ひび割れの原因になることがあります。
さらに、漆喰には弾性がないため、建物の躯体が地震などの揺れで動くと、ひび割れが生じるケースもあります。
漆喰は扱いが難しい素材であり、下塗りの必要があるなど、珪藻土に比べて施工の手間がかかります。施工そのものも難しいため、左官職人に依頼する費用も珪藻土より割高になるでしょう。
珪藻土も漆喰も、塗り方によって仕上がりの風合いが異なります。
一般的に、珪藻土はゴツゴツと無骨な風合いが出やすく、漆喰はつるりとした仕上げにしやすい、というイメージがあるかもしれません。
しかし、珪藻土をフラットな表面に仕上げることもできますし、漆喰もコテ跡をうまく使えばゴツゴツした仕上げにすることもできます。
また、珪藻土にワラを入れれば、和室に合う風合いに仕上げることも可能です。漆喰も、貝殻を焼成して使った貝灰漆喰なら、使用する貝によって異なる風合いを出せます。
例えば、ホタテの貝殻を使用したホタテ漆喰は、白を基調としたきめ細かい上品な質感になるのが特徴です。
珪藻土も漆喰も、塗り方や選び方によって、さまざまな風合いに仕上げられます。
珪藻土と漆喰を比較した場合、耐久性は漆喰に軍配が上がります。
先述のとおり、漆喰には気硬性と呼ばれる性質があり、空気中にある二酸化炭素と反応して炭酸カルシウムに変化することで、硬い石灰石へと戻っていきます。
そのため、時間が経過しても、珪藻土のようにボロボロと表面が剥がれることにはなりにくいでしょう。
対する珪藻土には気硬性がなく、合成樹脂などをつなぎにすることで固めています。そのため、表面がボロボロと剥がれることがあり、耐久性はそれほど高くありません。
素材自体のコストで比較した場合、珪藻土と漆喰でそれほど差はありません。かつては珪藻土が割安なこともありましたが、今では同じくらいの価格水準になっています。
コストに差が出るのは、下地処理や施工の費用です。
珪藻土は既存の壁にそのまま塗りつけられる場合が多く、下地が必要な場合でもローラーで仕上げる下地材が割安なため、下地処理の費用が安く抑えられます。
一方、漆喰は下塗りの工程が必要なうえに、下塗りの材料費も割高です。漆喰自体も扱いが難しい素材のため、施工難易度が高く、施工費用が割高になります。
初期費用だけで考えると、漆喰よりも珪藻土のほうがリーズナブルでしょう。
ただし、珪藻土は漆喰に比べて耐久性が低く、メンテナンス費用が余分にかかる点は注意が必要です。
住み始めてからのメンテナンスも含めたトータルコストでは、耐久性の高い漆喰のほうが安くなる可能性があります。
ここまで珪藻土と漆喰の特徴を比較してきましたが、結局どちらを選ぶのが良いのでしょうか。珪藻土と漆喰のどちらが良いか悩んでいる方へ、着目すべきポイントを紹介します。
漆喰は珪藻土に比べて耐久性や堅牢性が高く、触ってもボロボロと剥がれることがありません。
全国のお城に使われているほど、長期間使える素材であり、時間が経っても見た目がほとんど変化しない点も魅力です。
珪藻土が漆喰に比べて優れているのは、調湿効果です。無数に空いた穴で空気中の水分を吸収、乾燥時には放出することで、空間を一定の湿度に保ってくれる効果が期待できます。
そのため、水回りや玄関など、湿度の高くなりやすい場所の壁には、漆喰よりも珪藻土が向いているでしょう。
しかし、珪藻土に水分が直接かかると、吸収してカビの原因になるため、洗面台に接している壁など、水が直接かかる部分にはあまり向きません。
漆喰はその材質上、乳白色がベースとなります。一方、珪藻土はさまざまなカラーバリエーションがあります。
カラーバリエーションの観点から部屋のインテリアに合わせやすいのは珪藻土ですが、珪藻土は外壁には使えないので注意が必要です。
表面にざらつきのある珪藻土の壁は、小さな子どもが肌をこすりつけてケガをしてしまうリスクがあります。また、子どもが強く表面をこするとボロボロ剥がれ、劣化も進みやすくなるため注意が必要です。
小さな子どもがいる家庭では、表面がつるりとしている漆喰のほうが適しているでしょう。
珪藻土と漆喰は異なる特徴を持っており、それぞれ適している場所が異なります。
家づくりにおいて、どのような場所でどちらがおすすめなのか、具体例と理由を紹介します。
珪藻土は漆喰よりも調湿効果が高いのがポイントです。
水溶性の匂いを吸着し、高い消臭効果も発揮します。そのため、靴の匂いなどの生活臭がこもりやすく、雨の日に湿度が上がりやすい玄関の壁には、珪藻土がおすすめです。
水回りの壁も珪藻土が適しています。脱衣所の壁を珪藻土にすれば、浴室から漏れる水分を効果的に吸湿できるほか、トイレの壁に珪藻土を採用して、匂いを吸着させるのもよいでしょう。
漆喰がおすすめなのは、消臭効果や抗菌性・防カビ性が求められる場所です。
例えば、家族が集まるため生活臭が出やすいリビング、就寝時に長い時間を過ごす寝室などが挙げられます。
リビングの壁に漆喰を用いると、クロスにはない高級感を出せるでしょう。
また、滑らかな表面を持つ漆喰は音をよく響かせられるので、音の反響が求められるシアタールームに採用するのもおすすめです。
家の壁を珪藻土や漆喰の塗り壁にすると、クロスにはない質感を出すことができます。
珪藻土や漆喰の塗り壁を実現するにはどのような方法があるのか、詳しく紹介します。
珪藻土や漆喰で塗り壁を施工するのは、左官職人です。職人の技術で美しい仕上がりや、好みの模様にしてもらえます。
注文住宅を建てるときやリフォームをする際には、腕の良い職人さんがいる施工会社やリフォーム会社に依頼したいものです。
塗り壁の施工事例が豊富な会社を見つけて、モデルハウスなどで実物を見るとよいでしょう。
部屋のすべてをDIYで塗り壁にするのは大変ですが、新築やリフォームの際に、一部分を自分で塗ってみるのは家への愛着が増し、家族の思い出にもなります。
壁の下地にコテで珪藻土や漆喰を塗っていくのは、多少の失敗も含めて楽しいものです。
壁紙の上からローラーで塗れる珪藻土や漆喰もあるので、挑戦してみるとよいでしょう。
珪藻土や漆喰の塗り壁は、標準的な壁紙を施工した場合に比べて費用が高くなります。材料費のほか、施工や乾燥期間に日数がかかるためです。もっと手軽に珪藻土や漆喰の風合いを楽しみたい場合には、珪藻土壁紙や漆喰調の壁紙を選ぶのもよいでしょう。
珪藻土壁紙は複数の会社が販売しています。
例えば、サンゲツの珪藻土壁紙は、木材パルプや再生パルプ、石材などの素材をベースに、珪藻土コートを施したものです。
同社の担当者によると、
「珪藻土壁紙は、それぞれの素材による美しさや質感のバリエーションと、調湿効果を併せもっているのが特徴です。
壁紙への珪藻土コート量は少量のため、珪藻土の塗り壁に比べると調湿効果や消臭効果は劣りますが、施工がしやすく、塗り壁に比べて工期が短縮できるメリットがあります」
珪藻土や漆喰、珪藻土壁紙や漆喰調の壁紙など、それぞれの良さを知って適したものを利用すれば、家づくりの満足度が高まるでしょう。
調湿効果のある珪藻土や漆喰は、水拭きができません。汚れを落とし、長く大切に使い続けるには、どのような方法で掃除やメンテナンスを行なえば良いのでしょうか。適切な掃除・メンテナンスの方法を解説します。
珪藻土も漆喰も、年月とともに色が変わったり、汚れや傷がついたりします。それが味わいになるのが、自然素材で仕上げた塗り壁の良さです。とはいえ、気になる方は普段のメンテナンスをこまめに行ないましょう。
壁の表面には、気付かないうちに少しずつホコリがつきます。
ビニールクロスなら、水に濡らして固くしぼった雑巾で拭くことができますが、特に水分を吸収しやすい珪藻土の場合は、水分と一緒に汚れを吸い込んでしまいます。
普段の掃除ではやわらかいハタキやホウキで表面をなぞって、ホコリを落とすようにしましょう。
汚れや小さなひび、穴などの補修は、目の細かな紙やすりでこすったり、珪藻土や漆喰を新たに上から塗って埋めたりする方法があります。
ただし、補修した部分だけが新しい素材になるため、古い部分との色の違いでかえって目立つこともあるので要注意です。
自分では補修できないほど大きなひび割れ・傷がある場合や、きれいな仕上がりを希望する場合は、リフォーム会社や左官職人などのプロに依頼するとよいでしょう。
珪藻土も漆喰も、自然のものを主原料とした素材です。壁材として使われるとき、そのままでは固まらない珪藻土には固化材が、漆喰には海藻のりなどのつなぎ材が混ぜられます。
固化材やつなぎ材に天然素材のものが使われているか、化学合成されたものが使われているかで、珪藻土・漆喰の性質への影響が異なります。
例えば、珪藻土は細かな無数の穴が調湿や消臭の効果をもたらしますが、合成樹脂で固められている場合、穴が塞がれて調湿や消臭効果が低下するといわれています。
そのため、珪藻土も漆喰も、メーカーや商品によって、先述のメリットやデメリットの出方が異なることを覚えておきましょう。
それぞれのデメリットを抑える工夫が施された、珪藻土や漆喰の壁材もあるので、これから家を建てたりリフォームをしたりする場合は、施工会社に相談し、適した壁材を選んでもらうのもよいでしょう。
珪藻土は「珪藻」という藻の一種、漆喰は石灰石からできる消石灰が主原料
どちらにも調湿効果や消臭効果があるが、調湿効果は珪藻土のほうが高い
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