漆喰(しっくい)の外壁は、塗り方でさまざまなニュアンスが生まれるため、新築・リフォーム時に検討リストに挙がることもある素材です。この記事では漆喰の外壁の特徴や、メリット・デメリット、外壁に取り入れる場合の失敗しない業者の選び方について、 (有)原田左官工業所(東京都文京区)の原田 宗亮さんにうかがいました。
「漆喰の外壁」とは、専門の職人である左官が素材を塗り込む「左官仕上げ」の中で、漆喰という素材を用いた外壁のことを言います。漆喰とは、どんな素材で、どのようにつくられているのでしょうか?
「漆喰は石灰を主成分としていますが、日本の一般的な漆喰と、西洋の一般的な漆喰では成分内容が違います。日本の一般的な漆喰は「消石灰・スサ(ワラや紙などによるつなぎ材)・ノリ(ツノマタノリなど海藻の糊が主)」を混ぜたものです。特殊な例として、ノリを入れない土佐漆喰、ムーチーと呼ばれる沖縄の漆喰(琉球漆喰)なども見られます。
一方、西洋の漆喰は石灰に砂が入っているもの、ノリが入っていないものが一般的です(原田左官工業所 原田さん。以下同)
「その昔、伝統的な日本建築、中でもお寺やお城などでは、“外壁の仕上げ”といえば漆喰が当たり前だったのです。しかし、他の素材や工法など選択肢が多くある現代では、漆喰を用いた施工は、ほかと比較して工期も費用もかかりますし、メンテナンス方法(後述)がよくわからないといった理由から、一般的な住宅で本来の漆喰の外壁を使うことは少なくなってきていると思います。現在、左官仕上げの壁では、アクリル樹脂系の左官塗り材がよく見受けられますが、その中で“漆喰調”に仕上げられる材料はあるかもしれません。
また漆喰仕上げのひとつとして、スイス漆喰やスペイン漆喰など、西洋の漆喰が外壁に塗られることもあります。輸入住宅などで採用されるケースもありますが、外壁で用いる際には、漆喰の特徴である自然素材の温かみなどが求められているようです」
伝統的な日本建築で今もなお用いられる漆喰には、どんなメリットがあるのでしょうか? 漆喰を外壁に用いるメリットは、その成分や施工方法に由来するそうです。具体的には以下の3つのメリットが挙げられます。
漆喰の主な材料である石灰は強アルカリ性のため、外壁もカビが生えにくくなります。ただし、常に水がかかって乾くことがないような場所では、カビが生えることもあります。
漆喰の外壁は、左官職人が鏝(こて)を使って手作業で仕上げるため、手仕事ならではの風合い・温かみのある仕上がりになります。鏝模様(漆喰の塗り方で模様を描く手法)をつけることで、オリジナリティのあるデザインに仕上げることもできます。漆喰は主張しすぎない素材ですから、上品な模様付け仕上げにすることで、現代の洋風な戸建て・マンションにもしっくりと調和します。
漆喰の主成分である石灰は、2億5千万年前のサンゴなどが化石化したもの。つまり、太古の海からの贈り物なのです。使っていくうちに古くなることはありますが、同時に味わいが出てくるというのもまた、漆喰の魅力です。
また、室内の壁を漆喰にした場合には、「調湿効果」もメリットにあげられます。石灰は微細な穴がたくさん空いた「多孔質」の素材です。多孔質の素材は水分などを吸着・発散する性質を持つため、湿度などを適切に保つ効果があります。
漆喰を外壁に使うデメリットも知っておきたいです。ここでも3つほどあげていただきました。
左官職人による鏝仕上げは、刷毛やローラー、スプレーで仕上げる塗装仕上げと比べると手間が多く、したがって工期がかかりやすくなります。
工期がかかる、つまり職人さんが働く期間が長くなるということは、費用もその分かかってきます。例えば、外壁の下地処理を別とした、漆喰塗り(漆喰下塗り+漆喰上塗り)だけでも、費用の目安は100m2あたり60万円前後になります(※)。
漆喰の主な成分である石灰には防カビ性がありますが、他の成分であるスサやノリはカビの養分になります。そこで水がかかっていて、乾燥することがないような箇所には、漆喰であってもカビが生える場合があるのです。
※…漆喰以外によく用いられる素材の価格は、窯業系サイディング(セメントに無機物や繊維を混ぜて、タイルや石積み風に加工したもの)は、約30万円~、金属サイディングのうちガルバリウム鋼鈑は約40万円~、軽量気泡コンクリート(ALC)は約55万円~、タイルは最低100万円~(いずれも100m2あたり)が目安です。
外壁の素材を選ぶ際には、最初にかけられる費用だけでなく、耐久年数やメンテナンス費用などのランニングコストも考慮して選ぶとよいでしょう。種類別の価格や特性は、以下の記事が参考になります。
→漆喰以外の外壁材について
外壁材の失敗しない選び方~サイディングやタイルなど、種類別に価格・特性を徹底比較~
職人さんの手仕事による漆喰の外壁。美しい状態を維持したいですよね。汚れたときのメンテナンスは自分でできるのでしょうか。
「メリットと言えるか、デメリットと言えるかは場合によりますが、漆喰ならではの特徴のひとつが汚れの落とし方です。壁の場合、表面についた汚れは消しゴムなどで取れますし、しみ込んだ汚れはサンドペーパーなどで軽くこすることで落とせます。しかし、どのメーカーの漆喰製品かによっても違ってきますが、基本的には水をバシャバシャかけて洗う、強くこするといったお手入れ方法はNGです」
汚れの度合い | メンテナンス方法 |
---|---|
表面についた汚れ | 消しゴムでこする |
しみ込んだ汚れ | サンドペーパーなどで軽くこする |
左官職人以外の人が漆喰を塗る、いわゆるDIY用の漆喰製品も見られますが、だからといってDIYで簡単に漆喰が塗れるということではないようです。
「材料をちょうどいい固さで練る、フラットに仕上げる、鏝模様をそろえるといった工程は専門の職人以外には難しい面があります。鏝厚(力を入れて壁にくっつける)をしっかり掛けて塗らないと、浮いたり剥がれたりといったトラブルの元です。
また、日が当たる環境での作業になると、漆喰の乾きが早まりますから、塗り継ぎによる塗りムラも出やすくなります。特に外壁の場合は、仕上げた後も雨や風、太陽光にさらされるなど環境が過酷なので、DIY施工だと剥がれや故障のリスクがより高くなると言えます」
伝統的な施工である漆喰を外壁に選ぶなら、間違いのない業者さんへお願いしたいところ。漆喰にする際に考慮しておくべきポイントをうかがいました。
「漆喰に限らず、左官施工の仕上がりの良し悪しは、職人の腕が大きく左右します。現在、左官職人は少なくなってきていますが、少ない中でもしっかりと施工できる会社を選ぶことが大事です。
また、漆喰の色を美しく保つためには、壁の場所や設計も考えたいところです。日本の一般的な漆喰は自然素材ですから、環境によっては汚れを吸い込むこともあります。そこで汚れにくくする対策、例えば庇(ひさし)を付けるなど、雨が直接かからないような設計が好ましいのです」
職人さんの手仕事によって、自然の素材を混ぜ合わせた漆喰が、味わいのある壁に仕立てられる。今では便利で手軽な素材や工法もたくさんありますが、漆喰には漆喰でしか実現できない良さや趣があります。あらかじめそのメリット・デメリットを理解して、自然素材の良いところを活かした漆喰の外壁を手に入れてくださいね。
漆喰は石灰が主成分の天然素材。昔の日本建築では定番だったが、今は希少になりつつある
メリットは防カビ性・調湿性・手仕事の味わい。デメリットは工期や費用がかさむ・環境を選ぶこと
DIYでの漆喰仕上げは難しい。左官職人でも仕上がりは腕次第なので、施工会社選びを慎重に