離婚や死別などでシングルマザーになったとき、新たに家を探す必要のある方も多いでしょう。シングルマザーに向いた物件探しのコツや注意点、「シングルマザーは賃貸を借りられる?」「入居審査で落とされるのでは」などの疑問、入居審査には何があるのか、利用できる制度や補助金などお金のこと、困ったときに役立つ情報など、NPO法人全国ひとり親居住支援機構代表理事の秋山怜史さんに教えていただきました。
まず賃貸を契約するには、気に入った物件を申し込んだ後、入居審査に通る必要があります。賃貸契約に必要な入居審査とは、不動産会社や大家さんが物件を安心して貸せる人物かどうかを判断するために行われます。
賃貸契約をする場合の基本的な流れを表にまとめました。希望の物件を申し込んだあと入居審査が行われ、一週間前後で結果が希望者に通知されます。
それでは、賃貸の申込時に行われる入居審査の項目にはどのようなものがあるのでしょうか。
「シングルマザーだからといって、特別な審査項目があるわけではありません。審査のうち、最重要でチェックされるのは、入居者と連帯保証人の支払い能力です。シングルマザーの場合、収入がなかったり、連帯保証人がいなくて、困るケースが多いのです」(NPO法人全国ひとり親居住支援機構代表の秋山怜史さん。以下同)
連帯保証人とは、借主が家賃の支払いを行わなかった場合、本人に代わって滞納した家賃を支払う人のことです。ウィークリーマンションやUR賃貸物件など、連帯保証人が不要のケースもありますが、基本的には何らかの保証が必要になります。
入居するためには必ず通らなければいけない入居審査ですが、収入がなかったり、連帯保証人がいない場合は、どうしたらよいでしょう。シングルマザーの置かれた状況別に対処法を紹介します。
収入があっても、連帯保証人が必要です。連帯保証人は、親や親族に依頼する人が多いようです。
・連帯保証人がいる場合
審査に通れば家を借りることができます。ただし、最近では、連帯保証人がいても、賃貸保証会社(家賃保証会社)の加入が必須な物件が多くなってきています。賃貸保証会社の審査に落ちてしまった場合は、UR賃貸住宅や母子ハウスなど保証人不要の住宅を検討してみましょう。
・連帯保証人がいない場合
親や親族に頼みづらい、親が高齢、無職で支払い能力がないなど、連帯保証人がたてられない場合は、保証料を支払って賃貸保証会社(家賃保証会社)を利用する方法があります。家賃が支払えなくなった場合、保証会社が一時的に滞納分の家賃を立て替え払いしてくれます。賃貸保証料は、初年度で家賃の0.5カ月~1カ月分が目安で、定期的に更新料も必要となります。
預貯金がなく、親や親戚を代理の契約者とする場合、注意が必要です。例えば、児童扶養手当については、住所変更時に賃貸契約書を提示する必要があり、代理の契約者になっていると、補助金の対象外になる場合があります。住んでいる役所の子育て支援課などに事前に問い合わせると安心です。
生活保護を申請した場合、住宅扶助を使って賃貸契約ができますが、生活保護は、特別児童扶養手当などの公的制度を活用しても、最低限の生活に必要な収入が得られない場合に適用されます。手当を含めた収入が最低生活費を上回る場合は、生活保護が受けられないので注意しましょう。
2021年4月、セーフティネット登録住宅の基準に新たにひとり親世帯向けシェアハウスの基準が設けられました。元々単身者向けのシェアハウスは対象になっていましたが、ひとり親世帯向けのシェアハウスも対象に。
オーナーは、自治体が制度を設けている地域の物件をセーフティネット専用住宅として登録することで、家賃低廉化や改修のための補助を得られます。つまり、オーナーに家賃補助にあたるもの(国と自治体の負担分をあわせると最大で月4万円)が支給されるため、その分、賃料を下げることができるのです。
『セーフティネット住宅情報提供システム』には、762173戸(2022年10月24日現在)のセーフティネット住宅が登録されていますが、居住するエリアや家賃などの条件を入れて検索すると該当する物件が限られ、ひとり親向けのシェアハウスは、全国でわずか10戸(2022年10月24日現在)。今後、オーナーの新基準に対する認知度が上がれば、ひとり親向けシェアハウスを含むセーフティネット専用住宅の登録が増えていくと期待されています。
シングルマザーの方に、おすすめの賃貸物件には、どのようなタイプがあるでしょうか。
「UR賃貸住宅、県営や市営住宅、母子ハウス(母子家庭やシングルマザー向けのシェアハウス)などの選択肢があります。UR賃貸住宅は、礼金・手数料・更新料・保証人なしですが、エリアが限られています。県営や市営の住宅は、年収に応じて家賃がきめられ、民間の賃貸より安く借りられますが、キッチンやお風呂などの設備機器が古いところが多くあります。母子ハウスは、礼金がない所がほとんどで、更新料はいりません(ただし、水道光熱費やネット代を含む共益費が必要)。玄関、キッチンなどをシェアするため、共同生活がいやな人には向きません。ぞれぞれのメリット・デメリットをよく考えて選んでくださいね」
それぞれの特徴を詳しく紹介します。
UR賃貸住宅は、UR都市機構が管理・提供する賃貸住宅です。敷金はありますが、礼金や更新料、仲介手数料は必要ありません。Webサイトの「お申込み資格について」で五つの条件を満たす人ならだれでも応募できます。
敷金 | 月額家賃の2カ月分 |
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礼金 | なし |
更新料 | なし |
保証人 | 不要 |
住宅に困窮し、比較的収入の少ない方が安い家賃で住めるように、国と県や市が協力して建設し、県や市が所有する住宅です。控除を引いたあとの月収によって、使用料(家賃)の額が決定します。礼金や更新料は必要ありません。応募資格には、収入の有無についての記載はないため、現時点で収入がなくても応募できます。「県営・市営住宅 居住している県・市の名前」で検索してください。
敷金 | 月額家賃の3カ月分 |
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礼金 | なし |
更新料 | なし |
保証人 | 必要※不要な物件もある |
シングルマザー(母子家庭)専用のシェアハウスが、母子ハウスです。シェアハウスとは、1つの住居に複数人が共同で暮らす賃貸物件のこと。キッチン・リビング・バスルームが共同で、個室が設けられているのが一般的です。「母子ハウス」で検索すると物件を探すことができます。
敷金 | 敷金に値するデポジットがある所が多い |
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礼金 | ほとんどの母子ハウスでなし |
更新料 | なし |
保証人 | 不要 |
「当社では、母子家庭に特化した専門の不動産情報検索サイト(マザーポート)の運営をしています。全国から、シングルマザー向け住宅や母子ハウスを探すことができます。登録件数44件(2022年10月現在)のうち、県営住宅、シェアハウス、アパートタイプがあります」
「シングルマザーに適した賃貸住宅の立地や間取りは、一般的な子育て世代に向く条件と変わりはありません。治安がよく、通勤・通学に便利なところがよいでしょう。就学児なら子どもの数の個室があったり、乳幼児なら、オープンキッチンなど、家事をしながら子どもを見守れる間取りがおすすめです」
「シングルマザー(母子家庭)の支援をする窓口は、自治体(都道府県や市区町村)や民間の支援団体・NPOにあります。市区町村によって名称が異なるので、わかりにくいかもしれません。行政の公式サイトは、スマホ対応していないところも多く見にくい場合もあるので、市区町村の健康福祉や子育て支援に関する窓口に電話をしてみてください。インターネットで『母子支援団体』と検索すれば、全国の支援団体やNPOが探せます。対応は担当者で差があるのが実情です。行政窓口で不利な対応をされた場合、弁護士や団体スタッフが同行するサービスを行う母子支援団体もあります」
全国の母子ハウスの運営事業者が集まって創立されました。母子のための住まい探しをサポートしながら、母子家庭が自立して暮らせるように、居住支援を実施。活動のひとつが、母子ハウスポータルサイト「マザーポート」です。希望するエリアに賃貸物件がなくても、問い合わせすれば、現地のサポート機関につないでくれます。
都道府県、市町村で自主的に設置され、地域によって名称が異なります。ひとり親家庭高等職業訓練促進資金貸付事業のなかの「住宅支援資金」では、原則、児童扶養手当を受給し、母子・父子自立支援プログラムの策定を受けているひとり親家庭に対し、原則12カ月間、入居している住宅の家賃の実費(上限4万円)の貸し付けを行っています。問い合わせ先は、住んでいる場所の都道府県(指定都市の場合は市役所)です。
妊娠初期から子育て期にわたり、個別に支援プランを作成し、地域の関係機関による支援を行うための施設です。まだ少ないですが、全国展開を目指し、市区町村に設置が進められています。
子育て世代包括支援センター事例集(厚生労働省)
問い合わせた窓口で対応できない内容でも、関係機関につないでくれることもあります。まずは問い合わせてみましょう。
「政府では、生活補助のためさまざまな手当を支給しています。なかには、母子家庭を含むひとり親世帯のための支援もあります。申請が面倒くさい、生活保護は恥ずかしいなどと思わずに、『頼れるものはすべて頼ろう』という気持ちで、ためらいなく使ってほしいです」
母子家庭が受け取れる可能性のある手当のうち、住宅費としても活用できるものをまとめました。
中学校卒業前の児童を養育している人へ支給されます。支給された手当は、児童の生活費のためにも使えます。
児童手当制度のご案内(内閣府)
児童扶養手当とは、ひとり親家庭に支給される手当です。この中には、水道料金の減免もあります。減免内容は自治体により異なります。
児童扶養手当について(厚生労働省)
各自治体によって、住宅手当や家賃補助、住宅費助成制度など名称が異なります。例えば、東京都新宿区では、民間賃貸住宅家賃助成という名称で、区内の民間賃貸住宅に住む世帯の家賃を助成しています。新宿区の場合、月額3万円、最長5年間助成が受けられます。補助の対象や所得制限などの条件は、居住の役所に問い合わせください。
コロナウイルス感染症の影響で、生計を維持している主たる人が、離職・廃業後2年以内の場合、または、個人の責任・都合ではなく、給与等を得る機会が、離職・廃業と同程度まで減少している場合に利用できる給付金です。一定の要件を満たせば、市区町村ごとに定める額を上限に実際の家賃額が、原則3カ月間(延長は2回まで最大9カ月間)支給されます。
健康で文化的な最低限度の生活を保障する生活保護の住宅扶助は、敷金、礼金、契約更新料、住居維持費が補助の対象になっています。生活保護の相談・申請窓口は、住んでいる地域を所管する福祉事務所の生活保護担当です。
生活保護を申請したい人へ(厚生労働省)
それぞれ受給のためには、所得制限など条件があり、各自治体によっても対応に違いがあります。役所などで配布している「ひとり親家庭のしおり」は、母子家庭に関連する福祉制度をまとめたパンフレットです。ぜひ手に入れて活用しましょう。
最後に、賃貸契約の流れと、申し込み、本契約、契約後に必要な書類と費用をまとめました。住まい探しの参考にしてください。更新料のための貯蓄がなかなかできないときは、母子支援団体などで、家計管理のサポートを行っているところもあるので問い合わせてみてください。
仕事探しや安定した暮らしの土台となる住まい。補助金や母子家庭を支援する窓口を最大限活用して、安心して生活できる環境を手に入れましょう。
シングルマザーで住宅購入についてはこちら
→シングルマザーの家の買い方。賃貸との違いと家を買うメリット
UR賃貸、県営・市営住宅、母子ハウスなど、敷金、礼金、更新料が必要ない賃貸もある
児童扶養手当や住居手当など住まいに関する補助金を活用する
母子支援団体や行政の窓口に問い合わせて、支援してもらおう