女性一人で家計を支える母子家庭にとって、住居費の負担は大きいもの。このまま賃貸に住み続けていいものか、悩んでいる人もいるでしょう。今回は、もう一つの選択肢である住宅購入について、シングルマザーが家を買うメリットや住宅ローンの審査基準などを解説。自身もシングルマザーであるファイナンシャルプランナーの井上美鈴さんに聞きました。
今後の住まいを考えるとき、賃貸と持ち家、2つの選択肢があります。しかし、「母子家庭が家を買うのは無理」と、最初からあきらめているシングルマザーもいるようです。まず、シングルマザーが家を買った場合にどんなメリットがあるのか、賃貸との違いを整理してみましょう。
家を買うときに多くの人が利用する住宅ローン。ほとんどの金融機関では、住宅ローンを組む際に「団体信用生命保険」への加入が条件となっています。これは、住宅ローンの契約者が死亡、または高度障害になってしまったときに、残りの住宅ローンの支払いを肩代わりしてくれる保険です。
「万が一、契約者である母親に何かあったときは、住宅ローンの返済が免除され、子どもに持ち家を残すことができます。もしもの備えができるのは、賃貸にはないメリット。また、団体信用生命保険に加入する分、従来の生命保険は死亡保障の部分を減らし、保険料を下げることができます」(井上さん、以下同)
退職までに住宅ローンを完済すれば、その後は住居費の負担が減ります。物件や資金計画によっては、住宅ローンの毎月返済額を今の家賃より低くすることも可能。賃貸に住み続けた場合は、退職後も家賃の支払いは続き、賃料が上がる可能性もあります。
「住居費の負担が減るとはいえ、例えばマンションの場合は、住宅ローン完済後も管理費や修繕積立金などがかかります。そうした費用を、自分一人の年金で払っていけるかどうかシミュレーションをしておくといいでしょう」
住宅ローン完済後もかかる費用
マンション:管理費、修繕積立金、駐車場代、固定資産税・都市計画税
一戸建て:メンテナンス費用、固定資産税・都市計画税
例えば分譲マンションは、同程度の広さの賃貸物件に比べて、一般的に設備や内装のグレードが高め。水まわりの設備が充実していると家事が効率よくこなせ、インターネット環境が整っていれば、リモートワークや子どもの学習環境も快適になります。
また、分譲マンションには、オートロックやダブルロック、管理人が常駐するなどセキュリティが充実している物件も多くあります。母親の不在時も子どもが安全に過ごせる家を探しやすいといえるでしょう。
賃貸物件では室内のリフォームが制限されているケースが多く、壁に釘を打つのもためらわれるもの。その点、持ち家は、ちょっとしたDIYはもちろん、子どもの成長やライフスタイルの変化に合わせて、将来のリフォームも自由です。
家を購入してローンを完済すると、買った家は自分の資産になります。賃貸に住み続けた場合、家賃をいくら払っても何も残りません。資産を持つことは、将来の安心にもつながります。
住宅購入を検討しようと思ったとき、気になるのが住宅ローンの審査です。「シングルマザーでも住宅ローンを借りられるの?」と不安の声も聞きます。
「住宅ローンの審査で金融機関が考慮するのは、年収や勤続年数、健康状態、借入時と完済時の年齢、物件の担保評価など。基本的に母子家庭であることが不利になることはなく、金融機関の審査で返済能力があると認められれば、住宅ローンを組むことができます」
重視されるのは、借りたお金をちゃんと返していける返済能力。となると、年収はいくらぐらい必要なのでしょう。派遣社員や契約社員でも住宅ローンを組むことはできるのでしょうか。
「近年増えている女性向け住宅ローンは、年収や勤続年数に関する条件が緩めです。なかには年収100万円以上から利用でき、派遣社員や契約社員にも対応するものも。金利優遇など特典も多く、病気やけがで働けなくなった場合に備えた保険や、がんと診断されたら住宅ローンの返済が免除されるがん団信がついたものもあります」
女性向け住宅ローンの例
りそな女性向け住宅ローン「凛next」
【利用者の条件】
前年の税込年収100万円以上、勤続年数1年以上等。派遣社員・契約社員も相談可
【特徴】
就業不能時あんしん保険付き(けがや病気で就業できなくなった場合に、住宅ローンの月々の返済をカバー)、3大疾病保証特約が選択可能、金利優遇、保証料・繰り上げ返済手数料無料
では、自分の収入でいくらぐらいの家が買えるのでしょう。下の表は、年収別に住宅ローンの借入額の目安を示したもの。用意できる頭金があれば、それをプラスした金額が、自分に買える家の目安になります。借りられる額と返せる額は違うので、教育費などを払いながら返していけるのかシミュレーションしてみましょう。
税込年収 | 借入額(目安) | 毎月返済額(目安) |
---|---|---|
100万円 | 680万円 | 2万820円 |
150万円 | 1020万円 | 3万1230円 |
200万円 | 1360万円 | 4万1641円 |
250万円 | 1701万円 | 5万2081円 |
300万円 | 2041万円 | 6万2492円 |
350万円 | 2381万円 | 7万2902円 |
400万円 | 2721万円 | 8万3312円 |
450万円 | 3061万円 | 9万3723円 |
500万円 | 3402万円 | 10万4163円 |
550万円 | 3742万円 | 11万4574円 |
600万円 | 4082万円 | 12万4984円 |
650万円 | 4422万円 | 13万5394円 |
700万円 | 4762万円 | 14万5805円 |
頭金がなくても家の購入は可能ですが、頭金があったほうが毎月の返済額がラクになります。また、頭金を入れないと、家を売ることになったときに売却資金でローンを完済できないリスクがあります。
「超低金利の今は、頭金を入れるより、全額を借り入れて住宅ローン控除を利用したほうが有利なケースも。シングルマザーは何かあったときのために手元資金をできるだけ残しておきたいので、無理に頭金を入れる必要はないでしょう。
また、上の表はあくまでも年収ベースの目安です。年収が同じでも、家族構成や生活費の使い方、教育費のかけ方などは家庭によって違い、安心な借入額も変わってきます。資金計画を立てるときは、あらゆる可能性を考慮して慎重にシミュレーションすることが大切です」
シングルマザーが家を買う場合は、公的なサポートも利用できます。
「一人親家庭が利用できる国の資金貸付制度があります。東京都では『母子福祉資金・父子福祉資金』と呼ばれているもので、住宅を購入する場合には150万円まで無利子で資金を借りることができます。転居費用の貸し付けもあり、限度額は26万円。ただし、貸し付けの決定には審査があります」
自治体によっては、マイホームの取得を応援する助成金や補助金を設けているところもあります。利用できる制度がないかどうかチェックしてみましょう。
最後に物件選びについて、シングルマザーが家を買うときの注意点を紹介します。
●住環境は整っているか
「シングルマザーの生活は時間との闘いです。私自身も通勤の利便性を考えて転居した経験がありますが、通勤時間はなるべく短くしたいもの。保育園などのお迎えがある人は、職場と保育園の動線の良さもポイントです」
さらに、小・中学校が近くにあるか、病院やスーパーはそろっているかなど。できるだけ時間のロスなく、親子がゆとりを持って暮らせる環境を選びたいものです。
「子どもが通うことになる学校の評判を気にするシングルマザーも多いです。もし子どもが学校になじめなかった場合に、賃貸とは違い簡単に引越しができないことを踏まえて、学校に関する情報収集を十分にしておくことをオススメします」
●将来のライフスタイルの変化に対応できるか
「子どもの成長は親が思っているより早いもので、あっという間に巣立っていきます。広い家を買っても、子どもが独立すると部屋を持て余すことになるかもしれません。また、シングルマザーの中には、子どもの進路選択に合わせて親子で地方に転居するケースも。そうした変化を視野に入れた家選びが大切です」
子どもの成長や独立だけでなく、母親自身の再婚もあるかもしれません。ライフスタイルが変化して住み替えることになったときに、売りやすい、貸しやすい家を選ぶことです。
「駅に近いなど立地条件が良ければ、将来も売ったり買ったりしやすいでしょう。広さや間取りなどの希望条件に、売りやすさという視点も加えて、家族が幸せになれるマイホームを選んでください」
シングルマザーが家を買う一番のメリットは、万が一のときに子どもに家を残せること
母子家庭であることは関係なく、返済能力ありと認められれば住宅ローンを組める
簡単には引越せないから、学校の評判を含め、住環境はしっかりチェックしたい
将来まで視野に入れて、ライフスタイルの変化に対応できる家を選ぶことが大切