大家さんや管理会社、都市開発などの都合で立ち退きを求められてしまった。このような場合、「立ち退き料」は発生するのでしょうか?また、実際に急に立ち退きを求められることはあるのかなど、不動産会社SIREの木津雄二さんと弁護士の佐山洸二郎さんに教えてもらいました。
「立ち退き料」という言葉は、法律上の用語ではありません。立ち退き料の意味を理解するためには、まず、貸主(大家さんや管理会社)が借主(物件を借りている人)に契約解約を求めるときの条件について知りましょう。
「前提として、借主が賃貸物件に住む権利は、借地借家法という法律で強く守られています。大家さんや管理会社から、そう簡単に退去を求めることはできません。
では、どのような場合なら借主から賃貸借契約の解除を求めることができるのか。借地借家法第28条に定められています。」(木津さん)
(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
第二十八条 建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
貸主が借主に賃貸借契約の解約を申し入れるには、太字で示した部分を考慮して、正当な理由があると認められなければなりません。
「建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合」という文言がありますが、こちらの「財産上の給付」がいわゆる「立ち退き料」にあたります。
つまり、立ち退き料とは、賃貸人の要請に応じて賃借人が賃借物件を明け渡す場合に、 その代償として支払われる費用のことです。
そもそも、住んでいる賃貸物件からの退去を求められたら、多くの人が焦ってしまうでしょう。賃貸物件を退去しなければいけないのはどのような場合か、急な立ち退きを求められることはあるのか、解説します。
賃貸物件の契約には、「普通借家契約」と「定期借家契約」の2種類があり、契約期間が切れたときに更新ができるかどうかが違います。トラブルにならないよう、違いを知っておきましょう。
契約期間は2年間のものが多い。借主が希望すれば、基本的には契約の更新が可能。更新を繰り返して住み続けられる。
契約期間は1年未満から3年などさまざま。契約の更新はない。住み続けたい場合は、貸主に交渉して合意してもらい、再契約をする必要がある。
賃貸物件の多くが普通借家契約で貸し出されています。普通借家契約を結んでいれば、基本的には契約期間満了の前に契約更新の案内が届きます。更新手続きをすれば、物件に住み続けることができます。契約更新そのものが自動化されていることもあります。
しかし、定期借家契約の場合は、契約満了時に退去しなければなりません。もちろん、貸主に対して住み続けたいと交渉することは自由ですが、断られることもあります。
賃貸の契約期間についてもっと詳しく
→賃貸の契約期間とは? 2年が多い理由、更新料や途中解約の違約金のルール 定期借家契約はどう違う?
普通借家契約で契約した物件でも、途中で定期借家契約への切り替えを求められることがあります。
「大家さんや管理会社としても、住んでいる人たちの負担を減らすため、なるべく急な立ち退き要求はしないように考えています。
よくあるパターンとして、4年後に建て替えをしようと決め、現在住んでいる人たちに対し、普通借家契約から定期借家契約に切り替えてくれませんか?と交渉します。定期借家契約になると期限が来たら退去しなければいけませんから、住んでいる人たちは期限までの間に次の物件を探すことができます」(木津さん。以下「」内同じ)
普通借家契約から定期借家契約に切り替えたら、今住んでいる物件は期限付きになったということです。期限が来るまでに、次に住む場所を見つけて引越す必要があります。
契約期間の間に立ち退きを求められる可能性も、無いわけではありません。例えば、災害の影響や、住んでいる物件の耐震強化で建て替えが必要になることもあります。
契約期間の途中なのに立ち退きを求められたら、予定外の引越しをしなければなりません。スムーズに対応できる人もいれば、引越しがとても難しい人もいるでしょう。
立ち退きが難しい場合、大家さんや管理会社と借主で交渉をすることになります。あくまで例ですが、立ち退きをする代わりに次に住む物件の紹介をお願いしたり、立ち退き料として引越し代の負担を求めるなどが考えられます。
「予定外の引越しは負担が大きい場合もあると思います。ですが、住んでいる方の安全を守るための建て替えなどで大家さんや管理会社としても立ち退きを求める理由があります。
立ち退き料のために立ち退き拒否をするといった方法は、入居者の方のためにもなりません。それよりは、立ち退きが難しい理由を話して、解決策としてお互いにできることを話し合うのがおすすめです」
なお、仮に「正当な理由」が認められて法律上立ち退かなければならない場合でも、最初に立ち退きを求められたときから6カ月は期間の猶予(借地借家法26条1項、27条1項など)があります。その意味でも、焦らず話し合いをすることが重要です。
立ち退き料の金額は、法律などで定められているものではありません。
「立ち退き料の金額は、話し合いや裁判で、お互いが折り合うところを見つけていくものです。家賃がいくらだから立ち退き料はいくら、というような計算式はありません。
例えばですが、引越しにかかる費用や、借主の方が立ち退くことで被る損失が、立ち退き料に影響することがあります。借主がその物件でお店や事務所を構えていて、近所にお得意さんがたくさん居たら、立ち退きによって大きな損失がありますよね。その一方で、それまでに家賃の滞納があったことがあるかどうかもやはり一つの判断材料になります。こういったものを総合的に考慮して、最終的に『家賃の何カ月分を立ち退き料として支払います』と提示することは多いです」
現在立ち退き料の交渉をしている方は、立ち退きがなぜ難しいのか、立ち退くことでどのような損失があるのか、金額にするといくらくらいなのかを整理してください。そして、立ち退き料として負担して欲しい金額とその根拠を大家さんや管理会社に伝え、話し合いの材料にしましょう。
ただし、交渉ごとなので、希望の金額がそのまま支払われるわけではありません。話し合いで解決しなかった場合は、裁判になることもあります。
立ち退き料交渉の流れにあわせて、おさえておきたいポイントを紹介します。立ち退き料は必ず支払われるものではなく、支払われるとしても、金額についての決まりはありません。
支払って欲しい理由と金額の根拠を整理して伝え、建設的に交渉をすることが大切です。
立ち退きや、定期借家契約(契約期限が来たら退去しなければいけない契約)への切り替えを打診されたら、その理由や条件を確認しましょう。
繰り返しになりますが、立ち退きを打診されるのにはそれなりの理由があります。
例えば、老朽化のために行われる建て替えなどです。立ち退きたくないからといって、老朽化した建物に住み続けるのは危険ですよね。
予定外の引越しが発生するわけですから、「自分は立ち退きたくない!」という人もいるでしょう。しかし、立ち退きを打診されている理由をきちんと確認しておかないと、自分に不利益な状況になる可能性もあります。
また、立ち退きの条件もあわせて確認しましょう。「定期借家契約に切り替えるなら更新料は不要です」といった条件が提示されることがあります。
・立ち退きは、拒否すれば得できるものではありません
・理由と条件を確認して、難しくなければ立ち退き準備を進めましょう
立ち退きがどうしても難しい場合もあるでしょう。立ち退きの条件交渉をしたいのなら、なぜ立ち退きが難しいかの理由を整理しましょう。
理由がはっきりすれば、大家さんや管理会社と一緒に前向きに問題解決を進めることができます。
・なぜ立ち退きが難しいのかの理由を、人に伝わるかたちに整理します
・大家さんや管理会社と対立するのではなく、一緒に問題を解決してもらいましょう
大家さんや管理会社に、立ち退きが難しい理由と、どうして立ち退き料で解決したいのか、なぜ立ち退き料がその金額なのかを伝えましょう。
例えば、以下のような伝え方が考えられます。
今の物件を立ち退くと、近隣に似た物件がなく、遠方への引越しになってしまう。家族4人の引越しなので費用が高く捻出が難しい。そのため、引越し費用の○%にあたる〇〇円を立ち退き料として負担して欲しい。
必ずしも相談が通るとは限りませんが、頑なに立ち退き拒否をするより、建設的に交渉を進めることができるでしょう。
大家さんや管理会社と入居者の間で交渉がまとまらなければ、裁判になることもあります。
・立ち退き料を求める場合は、立ち退きが難しい理由、立ち退き料で解決できる理由、金額の根拠を伝えましょう
・立ち退きの期限などを交渉したい場合も同じで、期限内の立ち退きが難しい理由、いつまで期限を延ばして欲しいかの根拠を伝えて交渉します
「立ち退き」と聞くと、突然住む場所を失うことをイメージする人も多いでしょう。ですが、正当な事由がないにもかかわらず、突然一方的に賃貸契約を解除されることはありません。
立ち退きを求められ、立ち退き料を請求したい場合は、請求したい理由や金額の根拠を伝え、建設的に話し合いを進めましょう。
賃貸借の解約の申し入れは正当な事由があると認められないとすることができない
立ち退き料とは、賃貸人の要請に応じて賃借人が賃借物件を明け渡す場合に、 その代償として支払われる費用
立ち退き料がもらえるか、金額はいくらになるかは交渉で決まる