信託シリーズ第3回 遺言代用信託とは? 家族を守る優れたツール

公開日 2017年03月08日
信託シリーズ第3回 遺言代用信託とは? 家族を守る優れたツール

みなさん、こんにちは。ファイナンシャル・プランナーの高橋成壽です。このシリーズでは、相続対策として最近認知されてきた「信託」を中心に、相続のどんな現場で活用できるのか解説します。前回は遺言信託についてお伝えしました。第3回の今回は、名前が似ているのですが、「遺言代用信託」についてお伝えいたします。

人が亡くなると口座からの入出金ができなくなる

銀行口座が凍結されるということを聞いたことがあるだろうか。残高さえあれば自由にお金の出し入れができるのが銀行口座だが、口座の名義人が亡くなると口座が動かなくなる。これを一般的に、口座の凍結と呼ぶ。

口座が凍結されて困るのは残された家族、すなわち遺族である。遺族は亡くなった人(被相続人)の医療費、介護費用、葬儀代などの支払いが発生する。しかし、被相続人の亡くなった事実が銀行に伝わると、被相続人名義の口座からは引き出しができなくなる。
このため故人の預金を引き出すには、いくつかの方法と手続きを経る必要がある。

預金を引き出す方法には、「公正証書遺言」「自筆証書遺言」「遺産分割協議書」などを使った相続手続きが必要である。

「公正証書遺言」であれば、遺言自体の法的効力も確実であることから、遺族(この場合は法定相続人)は比較的スムーズに預金を引き出すことができる。

「自筆証書遺言」の場合は、遺言自体の効力を法定相続人の面前で確認する検認という作業が必要となる。被相続人の死亡後、一定期間を経過したタイミングで法定相続人が集まり、遺言の検認作業が行われる。検認までは1カ月程度かかるのが一般的である。よって、それまでの期間は預金の払い出しができないこととなる。

「遺産分割協議書」に関しては、遺言がない場合や遺言以外の遺産分割をする場合に必要となる。遺産分割協議書の作成までどのくらいの期間が必要か一律に表すことは難しい。すぐに作成できる場合もあれば、家族構成や家族間の利害関係が複雑に絡み、1年以上かかることもある。

いずれにしても、人が亡くなると口座が凍結されるということには変わりない。口座が凍結される場合、被相続人の預貯金で生活していた相続人には、日常生活に必要な資金も引き出せないこととなる。

預金を引き出す方法

公正証書遺言
遺言自体の法的効力も確実。遺族(法定相続人)は比較的スムーズに預金の引き出しが可能。

自筆証書遺言
遺言自体の効力を法定相続人の面前で確認する検認という作業が必要。被相続人の死亡後、一定期間を経過したタイミングで法定相続人が集まり、遺言の検認作業を行う。検認までは1カ月程度。それまでの期間は預金の払い出し不可。

遺産分割協議書
作成までどのくらいの期間が必要か一律に表せない。家族構成や家族間の利害関係に左右され、すぐに作成できる場合から1年以上かかる場合がある。亡くなると口座が凍結され、口座凍結の場合、被相続人の預貯金で生活していた相続人は、日常生活に必要な資金も引き出し困難になる。

なお、遺言があるにもかかわらず遺産分割協議書による遺産分けを行う場合は、相続人全員の同意が必要である。そのため、一人でも反対すると遺言通りの遺産分割となる。

故人の預金が凍結されない遺言代用信託とは?

このような故人の口座凍結を避けることができる、遺言代用信託というものがある。具体的には、被相続人が生きている間に、預貯金の一部を信託契約に基づき受託者(信託を受ける者)に預ける。信託した財産は被相続人が亡くなった場合も、信託財産であり続ける。

よって、相続人が信託財産の受益者(信託財産から利益を受ける者)であれば、被相続人が亡くなった後、信託した資金から定められた資金を受け取ることができるようになる。そのため、残された遺族が生活資金に困窮するような事態を免れることができるのである。

これは、信託法90条により、受益者の死亡時以降に受益者を変更することができると定められているからできる方法である。

遺言信託とは何が違うの?

ちなみに、前回解説した信託銀行による遺言信託は、遺言の作成サポート、遺言保管、遺言執行が一体のサービスとなった商品である。一方、遺言代用信託は、生前指定した契約内容に沿って、任せた人(委託者)の死亡(相続)をきっかけに、利益を受ける人(受益者)に財産を分配する仕組みである。
信託銀行の遺言代用信託の場合、財産の分配は一括払いタイプと、分割払いタイプ、一括払いと分割払いの併用タイプの大きく3種類ある。

なお、信託銀行や銀行の提供する遺言代用信託は、金銭の信託に限られることが多いが、信託会社による遺言代用信託では、自宅などの不動産も信託の対象とすることができる。

遺言代用信託の使用例

例えば、退職金で得た3000万円を遺言代用信託で信託し、毎年100万円を受け取って老後生活の足しとするような契約を結ぶ。当初は委託者である自分が毎年100万円ずつ受け取るが、委託者の死亡後は妻が残りの資金を毎年100万円ずつ受け取るような仕組みを構築することができる。通常の預金は夫の死後は夫の口座が凍結され、かつ夫の老齢年金が遺族年金に切り替わることで受給額が減少する。そのため、妻の生活に支障をきたすことが考えられる。

また、妻の口座には資金がなく、財産のほとんどが夫名義であった場合には、銀行口座から生活資金を引き出せなくなり、日常の買い物すらできなくなってしまうことが考えられる。このような事態に備えることができるのが、遺言代用信託である。

遺言代用信託によって、毎年100万円を受け取る権利を、相続手続きなく引き継ぐことができるため非常に利便性が高い仕組みといえる。遺言代用信託の設定によっては、委託者の死後から資金を取り崩すような契約にすることもできるため、配偶者の老後生活費の確保には適した仕組みといえる。

また、3000万円の預金を信託し、委託者の死亡時までは信託財産を取り崩さず、死亡後に障がいのある長男が毎年100万円ずつ受け取れるような仕組みにすることもできる。いつまでも親から見守られているような契約内容にすることもできるし、まとまった資金を長男が受け取れるようにすることも可能である。親の子どもへの気持ちを形にできるところが、遺言代用信託の優れた点であるといえる。

契約時の注意点と費用

財産を信託するにあたり、受益者以外の法定相続人の遺留分(相続に際し最低限保障されている相続する権利)を侵害するような金額にすることは、金融機関自体が受け付けないため、事前に遺留分の計算が必要となる。つまり、事前に金融機関や専門家に相談して、相続財産の額や、遺留分の額を把握しておく必要があるということだ。

遺言代用信託を利用したい場合、三菱UFJ信託銀行の「ずっと安心信託」、三井住友信託銀行の「家族おもいやり信託」、みずほ信託銀行の「安心の贈りもの」などの商品を利用すると、無料で信託の仕組みをつくることができる。これらの信託銀行では、金銭信託という金融商品を購入し、購入者の死亡後に指定した法定相続人に資産を引き継ぐことが可能となる。無料以外の特徴は、元本保証であることと、預金保険(ペイオフ)の対象である点だ。

ただし、受取人が法定相続人に限定されたり、複雑な仕組みには対応できないなどの点も注意が必要である。信託銀行が近くにない場合は、オリックス銀行が通販型の「かんたん相続信託」を取り扱っているので、店舗に行かずに信託を設定することも可能である。

不動産を信託したり、死亡後の財産の受益者を複数定めるなど、複雑な内容の場合は、信託会社を利用することとなる。信託会社を利用した複雑な信託の場合は、金融機関ごとに定める報酬を支払う必要がある。

遺言代用信託は2016年9月末の時点ですでに14万件以上の契約があり、手軽に活用できる信託としてこれからも注目を集めるだろう。

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