借金は相続しなきゃダメ?できれば放棄したいけれど、どうしたらいい?

公開日 2016年10月26日
借金は相続しなきゃダメ?できれば放棄したいけれど、どうしたらいい?

できることなら避けたい借金の相続。残念ながら借金だけを避けるという方法はないが、極端に不利にはならない相続の方法はある。その方法とメリットとデメリットを紹介したい。 借金を相続したくない!という人は、まず、借金の額が、残されている預貯金や株などの金融資産や不動産の合計額を超えているのか否か、正確に計算しておく必要がある。

相続には3つの方法がある

遺産を引き継ぐ方法は、下記3種がある。

[1]プラスの資産も負債も全部引き受ける「単純承認」

[2]金融資産や不動産などのプラスの財産の範囲内で、負債は責任(連帯債務など)を引き受ける「限定承認」

[3]負債を含むすべての資産を放棄する「相続放棄」

相続の「限定承認」や「放棄」は3カ月以内に

相続人は、相続が発生してから3カ月以内にどのような相続の引き受け方をするのか、決めなければならない。決めたうえで必要な手続きを踏むことで「承認した」ものとされ、その後、基本的には撤回ができないようになっている。

遺産の範囲内で負債を相殺する限定承認

限定承認とは、「引き受ける資産の範囲内でのみ負債を支払い、それ以上の責任は負わない」という相続。メリットは、相続財産を超える負債を抱えなくてすむ(任意の返済は可)という点。

デメリットは相続放棄と違い、資産を一定の範囲で残すことはできるが、法律上、譲渡とみなされ譲渡税を納めなければならない。相続放棄は相続人ごとに判断ができるのに対して、限定承認は相続人全員で行わなければならないなど、手続きが面倒なため、実際には相続放棄を選択する人が多い。ただし相続放棄の場合は、住んでいた自宅などを放棄することになるため、相続財産に不動産を含む場合には限定承認を選択したほうがよいケースもある。

また、プラスの財産よりも負債が多い可能性の場合、借金は負いたくない、自宅を手放せない、会社を経営していて自社株があるなどの理由で、相続放棄か相続するかどうしてもその判断ができないときの選択肢が限定承認と考えられる。限定承認を選んだ場合には、相続放棄した人以外の相続人全員が、相続が発生したことを知ってから3カ月以内に、限定承認をする旨の申述書を、家庭裁判所に提出しなければならない。

申述書の記入例

申述書の記入例

記入例引用先:裁判所サイト

「相続放棄」は負債だけ放棄することはできない

読んで字のごとく、相続すること自体を放棄する、財産を引き受ける権利を放棄するということだ。金銭や不動産などのプラスの財産も諦めることになるが、借金や連帯保証などの債務も引き受ける必要がなくなる。最も気が楽な方法だといえる。こちらも限定承認と同様に、家庭裁判所に対して申述書の提出が必須ではあるが、限定承認と違い、単独での手続きが可能だ。

参考までだが平成27年度の相続放棄の申立件数は18万9381件、限定承認の申立件数 759件(司法統計年報参照)となっており、手続きの煩雑さからか、トラブルを避けたい心情からか、いずれにせよ相続放棄を選択するケースが多いことが分かる。

3カ月を超えると自動的に全て引き受けることになる

限定承認や相続放棄の手続きを行わなかった場合は、自動的に単純承認という相続方法になる。被相続人の財産を、プラスの財産、負債ともにすべて引き受けるという方法で、申述書などを通した意思表示の必要はない。

気をつけなければならないのは、限定承認や相続放棄の手続きを行う前に、相続財産の処分(勝手に持ち帰る、使う、売るなど)をした場合には、自動的に単純承認になるということ。限定承認や相続放棄の手続きを行っていても、相続財産を隠した場合や、消費した場合は、単純承認とみなされる。これを法定単純承認という。

限定相続は相続人全員で、相続放棄は自分だけでできる

借金を背負いたくない!といっても、遺産を丸ごと全部手放すか、支払える範囲で支払うという選択肢しかないのだが、極端に不利な相続もないということが理解いただけたかと思う。プラスの財産だけ欲しいというのも人情、かもしれないが、法律面ではそこまで甘くない。

借金などのマイナスの財産に対して、一番リスクの低いのが相続放棄、次に限定承認ということになるが、ただ、いずれの方法をとるにもまずは、相続財産を正確に把握することが必要だ。相続人が複数人の場合は、事前の打ち合わせを行い皆が納得することが大変重要だ。また、相続放棄は自分だけでもできるが、限定相続は相続人全員での申し立てが必要なので注意したい。

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構成・文/ハスカ 香坂 正彦
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