あまり考えたくないが、住宅ローンを返済中に死亡したらどうなるのか。団体信用生命保険(団信)に入るときに、夫婦で収入合算や共有名義、連帯保証人とした場合の注意すべき点はなにか。遺された家族に負担をかけないようにするためにも、万が一のことも考えておきたい。
住宅ローンを返済中に借りている人が死亡した場合、遺された家族がローンを返済しなければならなくなると大きな負担となり、最悪の場合は家を手放すことになるかもしれない。そうした事態を防ぐために、住宅ローンを借りるときには団体信用生命保険(団信)に加入するのが一般的だ。
団信とは、住宅ローンの借主が返済中に死亡した場合に、保険金でローンが完済されて返済が免除されるというもの。保険料は原則として金利に含まれており、借りた人が別途支払う必要はない。団信に加入していれば万が一の死亡時でも遺族にローンが残らないので、返済を続ける必要はなくなり、安心して住み続けることができる。
団信に加入していない場合、借りた人が死亡しても保険金でローンが完済されることはない。ローンを完済して遺族が住み続けようとする場合は、借りた本人が別途加入していた生命保険の保険金などで一括返済する必要がある。ただ、ローンを一括返済できたとしても、本来は遺族の手元に残るはずだった生命保険金などがなくなってしまうなど、その後の生活に支障をきたすケースも考えられるだろう。
団信やほかの生命保険で住宅ローンを完済できない場合でも、遺族が住宅ローンを引き継いで返済しながらその家に住み続ける方法もある。ただし、住宅ローンを返済するには当然のことながら安定した収入が求められ、銀行による審査も受けなければならない。返済を続けられるかどうか、銀行ともよく話し合って決める必要がある。
住宅ローンを借りるとき、団信への加入は必須としているケースがほとんどだ。逆にいえば団信に加入できなければ、住宅ローンを借りることはできないことになる。ちなみに団信に加入できるのは80歳までとしている銀行が多いので、住宅ローンを返済し終わるのも最長で80歳までが一般的だ。
ただし、例外的に住宅金融支援機構が民間金融機関と提携して扱っている【フラット35】については、健康上の理由などで団信に加入できなくても借りることができる。
団信に加入せずに【フラット35】を借りると、加入した場合より金利が0.2%低くなる。本来は金利に含まれるはずの団信保険料を払わなくてよいからだ。
例えば【フラット35】を利用して4000万円を35年返済で借りたケースで比較すると、団信加入ありで金利1.84%の場合は毎月返済額が12万9244円。これに対し、団信なしで金利1.64%の場合は12万5235円となり、団信なしのほうが4000円ほど安くなる。35年間の総返済額では170万円近くの差だ。
団信加入 | 金利 | 毎月返済額 | 総返済額 |
---|---|---|---|
あり | 1.84% | 12万9244円 | 約5429万円 |
なし | 1.64% | 12万5235円 | 約5260万円 |
このように【フラット35】を団信なしで借りると金利が低くなるので、返済額も軽くなる。とはいえ、団信に加入しないと借りた人が万が一死亡したときに保険でローンが完済されず、遺族が家を手放すなどの事態になりかねない。【フラット35】を団信なしで借りる場合は、他の生命保険などでローンを完済できるようにしておくなど、慎重な対応が求められるだろう。
団信に加入する場合は、住宅ローンの借り方や団信のタイプによって万が一の場合の結果が異なる。まず世帯主が単独で住宅ローンを契約して借りるケースでは、世帯主が死亡した場合は団信の保険金でローンが完済され、遺族にローンは残らない。ただし、配偶者が死亡しても保険金は支払われないため、住宅ローンの返済は続くことになる。
共働き夫婦が二人で住宅ローンを借りる場合、夫婦それぞれが住宅ローンを契約して借りる「夫婦ペアローン」では、それぞれが団信に加入することになる。そのため、夫婦の一方が死亡した場合は死亡した人が借りたローンは団信で完済されるが、もう一方が借りたローンはそのままなのが一般的だ。ただし、最近になって夫婦ペアローン向けの連生型団信を扱うケースが出てきており、連生型団信に加入すれば夫婦のどちらかが死亡した場合に住宅ローンの全額が保険金で完済され、遺族に返済が残ることはない。
夫婦で住宅ローンを借りる方法には、一つのローンを夫婦で借りる「連帯債務」という方法もある。【フラット35】を夫婦合算(収入合算)で借りるケースはこの連帯債務のタイプだ。
連帯債務の場合、一般的には夫婦のどちらか一方が団信に加入することになる。世帯主が加入した場合、世帯主が死亡すれば団信でローンが完済されるが、配偶者が死亡した場合は保険金が支払われず、返済が続くので注意が必要だ。
なお、夫婦の連帯債務とする場合は、住宅の登記も夫婦の共有名義(共同名義)とする必要がある。もし夫の名義だけにすると、妻名義で借りたローンの分を夫に贈与した形となり、贈与税の課税対象となってしまうからだ。
夫婦が連帯債務で借りる場合、「連生型団信」に加入できるケースもある。連生型団信とは、ローン返済中に夫婦のどちらかが死亡した場合に、保険金でローンが完済するというタイプの団信だ。【フラット35】では「デュエット」(ペア連生型団信)という名称で扱っており、金利に0.18%上乗せすることで利用することができる。また、民間の住宅ローンでも、同様の連生型団信を扱っている銀行がある。
借り方 | 世帯主の死亡時 | 配偶者の死亡時 | |
---|---|---|---|
世帯主が単独で借り入れ | 団信で完済 | 返済が続く | |
夫婦ペアローン | 一般の団信(夫婦別々に加入) | 世帯主の借り入れ分のみ完済 | 配偶者の借り入れ分のみ完済 |
連生型団信 | 団信で完済 | ||
夫婦連帯債務 | 一般の団信(世帯主のみ加入) | 団信で完済 | 返済が続く |
連生型団信 | 団信で完済 |
なお、連帯債務と似た言葉に「連帯保証」があるが、連帯保証は配偶者が世帯主の住宅ローンの連帯保証人になる形なので、ローンを借りるのは世帯主一人だけだ。つまり世帯主が単独で住宅ローンを借りるのと変わらないので、連帯保証人である配偶者が死亡しても団信でローンが完済されることはない。
連生団信についてもっと詳しく
→連生団信って?住宅購入でペアローンを組んだときに使える団信が最近充実!?申し込むときの注意点は?
団信に加入するには、住宅ローンの借り入れ時に病歴や手術歴などを保険会社に告知する必要がある。告知内容によっては団信の審査に通らないケースもあるが、虚偽の告知をすると死亡時に保険金が支払われないリスクもあるので、正しく告知することが大切だ。
持病があって一般の団信に加入できない人向けに、引受範囲を拡大した「ワイド団信」を扱っている銀行もある。保険の内容は一般の団信と同じで、金利に0.3%程度上乗せすることで加入できる場合がある。
このほか、近年では死亡や高度障害だけでなく、ガンと診断された場合や心筋梗塞で働けなくなった場合などに保険金が支払われる特約を付けた団信も選択肢が増えている。こうした特約付き団信は保障の内容に応じて金利が上乗せされるケースが多いが、なかには上乗せ金利なしで特約が付けられるものもある。
団信は住宅ローンを借り入れた日から適用されるのが一般的だ。ただし、保障開始から1年以内に借りた人が自殺した場合は保険金が支払われないという免責期間が設けられているケースがほとんど。また医療特約を付ける場合はほかにも「保障開始から90日以内にガンと診断された場合は保険金が支払われない」といった免責期間が設けられている場合が多いので、団信に加入するときの契約内容を確認しておきたい。
親が住宅ローンを返済中に死亡し、その家を相続することになったらどうなるのか。まず死亡した親が団信に加入していれば保険金で住宅ローンが完済されるので、ローンが残っていない状態の家を相続することができる。したがって相続後にローンを返済する必要はないので安心だ。
もし親が団信に加入しておらず、死亡しても住宅ローンが完済されない場合は、住宅ローンが残った状態で家を相続する方法もある。その場合は相続した子が残りの住宅ローンの返済を続けなければならない。
ただし住宅ローンを引き継ぐには、相続した子に返済能力があることが前提となるので、銀行による審査を受ける必要がある。もし銀行の審査に通らなかったら住宅ローンの一括返済が求められ、返済できなければ家が差し押さえられて競売にかけられることもあるのだ。
住宅ローンが残ったままの家を相続したくなければ、相続放棄を選択する方法もある。相続放棄とは、はじめから相続人ではなかったことにするもので、家庭裁判所での手続きが必要だ。
相続放棄をすれば住宅ローンという「負の遺産」を相続しなくて済むが、その他の現金や預貯金、不動産などの「正の遺産」も放棄しなければならなくなる。相続を放棄すべきかどうかは慎重に検討する必要があるだろう。
住宅ローンを返済中に万が一死亡しても、基本的に団信に入っていれば遺族に負担は残らない
【フラット35】を団信なしで借りる場合は、死亡時にローンを一括返済できるようなんらかの備えが必要だろう
共働き夫婦が2人で住宅ローンを借りる場合は、団信の入り方にも注意しよう
住宅ローン返済中の家を相続した場合、ローンを引き継いだり、相続放棄という選択肢もある