建築物省エネ法とは?これから住宅を建てる人は、届け出は必要なの?わかりやすく解説

最終更新日 2025年11月10日

建築物省エネ法とは?これから住宅建てる人は、届け出は必要なの?わかりやすく解説

2015年7月に制定され、2016年4月から段階的に施行された「建築物省エネ法(建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律)」。その後、2021年、2022年に改正され、2025年4月以降に建てられる全ての新築住宅に適用されることになりました。さらに、今後も法改正が予定され、2030年にはより省エネ性能の高いZEH水準が義務付けられる予定です。では、建築物省エネ法とはどんな法律なのか、改正によってどう変わってきたかを解説しましょう。

建築物省エネ法とはどんな法律?対象になる建物は?

エネルギー消費を減らすことが日本の急務

日本のエネルギー需給は、東日本大震災以降ひっ迫しています。地球温暖化対策としても、2020年10月に政府が発表した「2050年カーボンニュートラル宣言」のもと、国が先頭に立ってエネルギー消費量の削減に取り組んでいます。

日本のエネルギー消費量は、2000年代前半まで増加傾向にありました。しかし、2008年に発生したリーマンショックの影響で「産業部門」や「運輸部門」の消費量が減少。さらに2011年の東日本大震災を契機に省エネ機運が一気に高まりました。資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」を基に作成した下図からも、2000年から2013年で両部門のエネルギー消費量が目に見えて減っていることが分かります。

その後、より省エネ効果が見込める分野として注目されたのが、住宅やオフィスビルなど「家庭・業務部門」の住宅や建築物です。2015年に開催されたパリ協定で、日本は2030年度までに住宅・建築物分野の温室効果ガス排出量を約40%削減(2013年度比)することを約束しました。

こうした背景から、建築物の省エネ性能を向上させるための法律として、2015年に「建築物省エネ法」が指定されました。同法成立後の「家庭部門」「業務(第三次産業)部門」のエネルギー消費量の変化を下の図で見てみましょう。2013年から2023年の間に両者合わせて2100万kl(原油換算)、約19%減少しており、同法の効果も大きな要因の一つだと考えられます。

日本のエネルギー消費量と消費シェアの推移
出典:資源エネルギー庁「総合エネルギー統計(令和7年4月25日公表)」の時系列表(最終消費/部門別)より。該当年度の最終消費エネルギー(原油換算値)をグラフ化(図版作成/SUUMO編集部)

建築物の省エネ基準は時代と共に改正されてきた

建築物省エネ法は、住宅やビルなどの建築物の性能に関する基準を定めたものです。1979年に「省エネルギー法(エネルギーの使用の合理化等に関する法律)」が制定され、その後、数度にわたって基準の強化などが行われ、2015年7月に、従来の省エネルギー法から建築物に関する内容を切り離した「建築物省エネ法(建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律)」が制定されました。

建築物省エネ法は、従来の省エネ法の平成25年(2013年)基準を引き継いだため、断熱性能やエネルギー消費に関する数値目標はほぼ同じですが、建築物の省エネ化を推進するための新たな対策が盛り込まれています。

まずは、2016年にスタートした「誘導措置」、そして2017年にスタートした「規制措置」です。

<誘導措置(任意)>2016年にスタート
■容積率特例

建築物の新築または増改築等、建築物への空気調和設備等の設置・改修を対象として、一定の省エネ性能が認定された建築物は、容積率の特例などのメリットを受けることができます。ただし、容積率特例に関しては、一戸建てで利用できるケースは極めて少ないといえるでしょう。容積対象外となるのは、通常の建築物の延床面積を超える部分(例 導入されている省エネシステムの機械スペース)。省エネシステムは(1)太陽熱利用、太陽光発電、(2)燃料電池、(3)コージェネレーション、(4)地域熱供給、(5)蓄熱※1、(6)蓄電池※2、(7)全熱交換器で、このうち、(1)(2)(3)(5)(6)(7)は一戸建てでも設置できますが、(5)以外は一般住宅用は基本的に屋外設置(7の全熱交換器は天井内設置)となるため、容積対象外になる機械スペースを設ける必要がないためです。

※1 ヒートポンプ式熱源装置や冷凍機等により発生した熱を蓄え、暖冷房や給湯等に活用する設備
※2 据置型または定置型の蓄電池。再生可能エネルギー発電設備と連系するもの

■基準適合認定・表示制度
省エネ基準に適合した建築物は、それを示すマークを表示することができます。省エネに関する表示制度は行政庁による認定を受けることで、省エネ基準に適合していることを示す「eマーク」のほか、「BELS※」があり、現状ではこちらの方が普及しています。「eマーク」「BELS」とも広告などに表示することができます。将来、売却することになった際、客観的な省エネ性能をアピールできるのがメリットといえるでしょう。

また、延床面積300m2以上の住宅で、住宅性能評価やBELS等の取得をすることで、省エネ計画の届け出期限が着工の21日前から、着工の3日前までに短縮される特例が2019年11月に施行されました。適合確認を民間審査機関の活用で合理化することで、適合しない新築等の計画に対する指示や命令等の体制が強化されています。

※BELS(ベルス)とは、建築物の省エネルギー性能について第三者機関に評価してもらい、5段階の星マークなどで表示するものです。建築物省エネ法の省エネに関する表示制度の基準適合はBELSでは星1つに該当します。ZEH等の補助金申請を行う場合、省エネ性能を評価するために提出が求められる資料の1つです

<規制措置(義務)>2017年にスタート
■省エネ基準適合義務・適合性判定義務

延床面積2000m2以上の非住宅建築物を新築・増改築時に省エネ基準への適合義務・適合性判定義務が、2017年4月1日に新設されました。

■省エネ計画の届け出
延床面積300m2以上の住宅を含めた建築物の新築・増改築では省エネ計画の届け出が必要なことのほかに、建築物省エネ法の基準に適合しない場合は、所管行政庁が計画の変更や指示、命令等をできるようになりました。

■住宅トップランナー制度
省エネ性能を高めた住宅を供給するよう推進する制度。建築物省エネ法の2017年施行の規制措置では、新築戸建を年間150戸以上供給する事業主が対象となりました。

なお、2019年11月からは注文住宅を年間300戸以上を供給する事業者、賃貸アパートを年間1000戸以上供給する事業者も対象となりました。住宅トップランナー基準は、省エネ基準よりも高い水準が求められるもの。大手事業者での適合状況が不十分な場合は、省エネ性能の向上について国土交通大臣の勧告・命令の対象となります。これによって、より省エネ性能の高い住宅の普及が期待されました。

対象となる建築物:一定規模以上の建築物の新築・増改築
対象となる建築物:一定規模以上の建築物の新築・増改築

建築物省エネ法の改正で何が変わった?注文住宅にかかわることは?

延床面積300m2以上なら省エネ計画の届け出が義務

従来は、延床面積300m2以上2000m2未満の建築物の場合、新築・増改築にかかる計画を所管行政庁へ届け出る義務がありました。オフィスビルやテナントビル、アパートなどの集合住宅のほか、一戸建ても対象です。

2021年4月からは延床面積300m2以上2000m2未満の中規模建築物で非住宅の場合は、省エネ基準への適合義務になりました。

300m2以上の一戸建ての場合は適合義務化は見送られました。
300m2以上というとずいぶん大きな家という印象ですが、延床面積が大きいケースが多い二世帯住宅や、建坪が45坪程度を超える総2階の一戸建てなどは該当する可能性があります。該当する場合、省エネ計画を所管行政庁へ届け出る必要があります。

300m2未満の住宅は、建築士から省エネについての説明が義務化

2019年5月の法改正によって、建築士は延床面積が300m2未満の住宅を設計する際、建築主(施主)に対して省エネ基準への適否、適合していない場合は省エネ性能確保のための措置について、書面を交付して説明することが義務化することが決まり、2021年4月に施行されました。
この場合の省エネ基準とは、屋根や外壁、窓などの断熱性能に関する基準(外皮性能基準)と、暖冷房や換気、給湯などのエネルギー消費量に関する基準(一次エネルギー消費量基準)。
省エネ住宅を建てることは環境や家計にやさしいだけでなく、健康に暮らすためにも大切です。建築士からの説明をしっかり聞いて、省エネな家づくりを目指すといいでしょう。

イラスト

2022年の改正では、省エネ基準の適合義務化でエネルギー消費を削減

2022年6月に、建築物の省エネ対策をさらに推進する「改正建築物省エネ法」が公布されました。住宅に関わる大きなポイントは、省エネ基準への適合義務。

これまでは、一戸建て住宅の場合、延床面積300m2以上2000m2未満なら省エネ基準に関する届出義務が、300m2未満なら説明義務が定められていました。これが、2022年の改正によって、2025年までにすべての新築一戸建てに省エネ基準への適合が求められることになりました。

建築物の規模・用途別の省エネ基準に関する義務をまとめた表
出所:国土交通省ホームページ(図表作成/SUUMO編集部)

また、エネルギー消費性能の基準も見直されています。改正前は断熱等性能等級4かつ一次エネルギー消費量等級4を満たす住宅が建築物省エネ法に適合する省エネ基準とされてきました。改正後もこの基準に変更はありませんが、法改正に伴って、新たな等級が新設。
2022年4月に断熱等性能等級5と一次エネルギー消費量等級6が、2022年10月に断熱等性能等級6と7が新設されています。

住宅性能表示制度の省エネ上位等級の創設を解説する図表
出所:国土交通省ホームページ(図表作成/SUUMO編集部)

届け出や認定の申し込みなどは、自分でするの?

省エネ基準の適合審査の申請は施主が自分で行うものなのでしょうか?

建築確認申請もそうですが、図面や書類の作成には専門的な知識が必要なものが多く、建築士資格を持たない人が自分で申請を行うのは難しいというのが正直なところ。申請は建築主(施主)が行うものではありますが、設計者が手続きを代行するのが一般的です。

2030年からZEH水準義務化!? これからの住宅はどう変わる?

改正建築物省エネ法によって、2025年4月から省エネ基準への適合が義務化され、住宅の省エネ義務化の第一歩が踏み出されました。国では、2030年度以降に新築される住宅について、「ZEH(ゼッチ)水準」の省エネ性能を確保することを目指す方針を打ち出しています。

このような国の目標を受け、既に大手ハウスメーカーではZEHが標準化しつつあります。先述した建築物省エネ法の「トップランナー制度」では、制度対象の大手注文住宅事業者が建設する住宅について、2027年度以降はZEH水準を義務付けることを目標として掲げられています。

さらに、住宅の省エネ化において、これから注目を集めそうなのが「太陽光発電設備」です。政府は、新築戸建住宅・分譲住宅における太陽光発電システムの設置を強力に推進しており、2030年には新築住宅の60%に太陽光発電が設置されることを目指しています。トップランナー基準でも対象事業者に対し、2027年度には注文住宅の87.5%以上、分譲住宅の37.5%以上に太陽光発電を設置するよう目標が定められています(気候や立地の関係で太陽光発電の効果が見込めない地域等は除く)。

2050年までに温室効果ガスの排出を国全体としてゼロにするという「2050年カーボンニュートラル社会」の実現に向け、住宅の省エネ化はもはや避けて通れないテーマです。これからの住宅建設は、「どれだけ高い省エネ性能を取り入れるか」も大きな選択肢になることでしょう。

まとめ

建築物の省エネ基準は時代と共に改正されてきた

建築物省エネ法は日本のエネルギー消費量削減のために重要

延床面積300m2未満の一戸建ては、新築の際、設計者から施主への省エネ性能に関する説明が義務化されている

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取材・文/田方みき 
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