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火山が噴火すると、溶岩や火山砕屑物(かざんさいせつぶつ)が噴出します。火山砕屑物とは、サイズの大きな火山弾や火山礫(れき)、小さい火山灰、さらに火砕流や火砕サージなどのことです。また有毒気体を含む火山ガスも噴出します。
これらのなかでも広範囲に大きな影響を及ぼすのは火山灰です。上空まで吹き上げられた大量の火山灰は、太陽の光を遮ることで気候にも影響を及ぼし、農作物の生産に大きな打撃を与え、飢饉(きが)の原因になることも。そこまで大規模でなくとも、火山の周辺に広く火山灰が降ることで、火山灰災害が発生する危険があります。
しかし火山噴火は台風や地震と比較すると頻度が少なく、身近なものではないことから、火山灰災害に対してどう備えればよいのかわからない人が多いのではないでしょうか。
そこで今回は、火山灰災害とはどのようなものなのか、家を建てるときにはどう備えればよいのかを、東京大学教授で大学院情報学環総合防災情報研究センター長の目黒公郎さんに伺いました。
「火山灰災害」は、火山の噴火により大量の火山灰が噴出されることによって引き起こされる災害全般を指します。「火山灰」は、火山から噴出される直径2mm以下の細かい粒を指し、火山灰が降ることは、「降灰(こうはい)」とも呼ばれます。
火山灰災害は、「健康」「交通」「インフラ」「住宅」など、多岐にわたりさまざまな影響を及ぼします。
「一般に火山灰自体には毒性はありませんが、これを大量に吸引すると、咳が出たり、喉や鼻に不快感を覚えたりします。特に呼吸器系疾患がある人は症状が悪化する恐れがあります。
火山灰は非常に小さなガラス質の粒で、しかも表面はガスや水蒸気が発泡した穴で覆われて尖っているのが特徴です(下の写真参照)。そのため目に入ると角膜が傷つく可能性があり、コンタクトレンズと角膜の間に入ると不快感は相当なものになります。皮膚が弱い方であれば、炎症を起こすこともあるでしょう」(目黒さん/以下同)
「降灰が発生すると、それほど大量でなくても、視界不良によって自動車や列車の走行が困難になります。その結果、運行ダイヤの乱れや車道の渋滞などが発生します。
また火山灰が車のエンジンの吸気口に目詰まりを起こしたり、吸い込まれた極細粒の火山灰が内部の熱で融解して付着すると、故障の原因となることもあります。
さらに火山灰は水を含むと粘土のようにドロドロになり、車のタイヤの溝を埋め、タイヤと路面や列車の車輪と線路の間に入ってスリップを引き起こします。雪のように溶けたり、摩擦で取れたりすることがほとんどなく、付着したままになるため、結果的に車も列車も前に進みにくくなり、道路の渋滞や列車の遅延が起こるのです」
「電力施設の絶縁体に火山灰が降り積もったり、こびりついたりした状態で雨が降ると、絶縁できずにショートし、各所で停電が発生します。停電により通信施設に電力が供給されなくなると、通信障害も起こります。
また浄水場の沈殿池に火山灰が大量に降れば、浄水処理能力が低下します。さらに清掃時に火山灰を排水溝(下水)に流すと、ドロドロの火山灰はうまく流れずに下水管の中に沈殿して付着します。その結果、排水機能に大きな障害を与えるなど、社会インフラ全体に大きな被害が生じる恐れもあるのです」
「火山灰の密度は乾燥した状態で、1立方センチメートルあたり0.9~1.8g、濡れた灰は1.8~2.8gなので、降灰の堆積厚さが大きくなると、重みにより家屋などが倒壊するリスクが出てきます。降雨があるとさらにその危険性は高まります。
10cm積もった火山灰の重さは、乾燥していても1m2(平方メートル)あたり90~180kg。降雨があって火山灰の隙間を水が満たすと、少なめに見積もって200kgです。建坪30坪の屋根の面積が40坪、およそ132m2とした場合、屋根にかかる火山灰の重さは26tになります。屋根に乗用車が26台載っていると思うと、その負荷がどれほどのものなのかわかるでしょう」

火山に近く、噴火による影響が考えられるエリアに住む場合には、火山の活動情報を常に注視し、万一の際には噴火予報や警報レベルに応じた適切な行動を取ることが求められます。

火山灰災害から家や暮らしを守るためにできる対策を、「前もってできる対策」「降灰に備えてできる対策」「降灰が止んだあとにできる対策」に分けて紹介します。
日本には世界で4番目に多い111もの活火山があり、気象庁ではこのうち直近で噴火が予想される火山について、「噴火予報」や「噴火警報」、「噴火速報」などを発信しています。降灰予報についても、18時間先までの降灰の範囲と量について、「多量(1mm以上)」「やや多量(0.1~1mm)」「少量(0.1mm未満)」で発表しているので、最新情報を常に把握しておきましょう。
参考:気象庁「噴火警報・噴火速報」「降灰予報」
多量の降灰が続くときには、長期間外出できなくなることも考えられます。そのような場合に備え、保存食や飲料水を備蓄しておきましょう。
「災害への備えとしては、3~7日分の食料品や飲料水の備蓄が推奨されています。しかしどの家庭でも、お米や乾麺、レトルト食品、缶詰などの食料は普段から用意されており、1週間程度の食事に困ることはないケースがほとんどです。
そのため備蓄用の特別な保存食を用意するよりも、普段使いの食料品を万一に備えて少し多めに用意し、賞味期限が近いものから順番に消費していく『循環型備蓄』がおすすめです。
さらにインフラに影響があった場合に備えてカセットコンロや懐中電灯、さらに火山灰対策グッズとして、防じんマスクやゴーグル状の保護メガネなどを用意しておくと安心です。屋根から火山灰を落とすときに使うほうきのようなものも備えておくとよいでしょう」

火山が噴火したときに家にいる場合には、火山灰が家の中に入り込んでこないよう、まずはドアや窓をしっかり閉めましょう。屋外にいるケースでは、降灰を避けられる施設を探して屋内に避難します。
「降灰が始まったら、火山灰が降り止むまでは、なるべく外に出ないようにしましょう。屋外にいる場合は、マスクやハンカチ、衣服などで鼻と口を覆って、急いで屋内に避難しましょう。コンタクトレンズをしている人は、メガネを持ち歩いているならコンタクトレンズを外してメガネに掛け替えます。ゴーグル状の保護メガネがあるとより安心です。
また、降灰中に車を運転すると、舞い上がった火山灰を車が吸い込み故障の原因になります。さらに雨が降った場合はスリップして危険です。降灰中などは緊急車両を優先する必要もあるため、車の運転は避けるようにしてください」
降灰が止んだあとには、火山灰で汚れた家や敷地を掃除します。火山灰を掃除するときには、舞い上がった火山灰が目や気管に入らないよう、防じんマスクやゴーグルを着用します。
屋根に積もった火山灰は、雨が降って重くなったり、乾燥してカチカチになったりする前に取り除いておきましょう。なお、火山灰が濡れると滑りやすく危険なので、屋根を掃除する際は命綱を取り付け、転倒や転落に十分な注意が必要です。
「先にお伝えしたように、火山灰を水で排水溝(下水)に流してしまうと、下水管が詰まる恐れがあるので避けなければなりません。屋根や車に積もった火山灰を水で流す場合は、敷地の外に流れ出ないよう留意が必要です。そのうえで、集めた火山灰はゴミ袋に入れ不燃ゴミとして出すなど、自治体の処理方法に従うようにしてください」

桜島を有し、火山灰の影響を受けることが多い鹿児島県では、火山灰災害に強い「克灰(こくはい)住宅」の普及が促進されています。ここでは具体的にどのような工夫が施されているのかを紹介します。
窓は二重サッシや気密性を高めたサッシを選び、火山灰が室内に入り込むのを防ぎます。
網戸は窓の内側に設置し、降灰の影響がないときだけ窓を開けて通風するようにすれば、火山灰で網目が詰まるリスクを減らせます。
屋根は谷をつくらないなど単純な形状にする、4寸(約22度)以上の急勾配にするなどし、火山灰が積もりにくくなる工夫を施します。さらに軒を60cm以上出すと、外壁などに火山灰がかかりにくくなります。
雨どいは、火山灰が流れやすいように半丸型を選んで縦どい(雨水を地面に流すために縦に設置される雨どい)を増やし、さらに灰の重さでたわみにくいよう支持金物の数を多くします。
サンルームや浴室乾燥機を設置すると、降灰がある日でも洗濯物の干し場がなくて困ることがありません。

火山灰災害が予想されるエリアに家を建てる場合には、地震保険への加入を検討しましょう。住宅ローンを借り入れる際には、火災保険への加入が必須とされていますが、火災保険では火山灰被害は補償されません。しかし地震保険を付加すると、噴火にともなう溶岩流、噴石、火山灰や爆風によって生じた倒壊、埋没や、噴火の結果生じた土砂災害による流出や埋没などについて、損壊の割合に応じた補償を受けられるようになります。
なお地震保険は単独での加入はできず、火災保険に付帯しての申込が必要です。近年は住宅ローン申込時に、火災保険とあわせてはじめから地震保険もセットとされるケースが多くなっています。任意であるため外すこともできますが、近年、地震被害が相次いでいることに加え、さらに火山灰被害の懸念もあるのなら、慎重に検討しましょう。
参考:被災後の生活再建を助けるために。もしものときの備え「地震保険」を|政府広報オンライン
最後に改めて目黒さんに、火山灰災害に備えた家づくりへの心構えを伺いました。
「火山灰被害が高頻度で想定される地域に家を建てる場合には、一定の備えが必要です。しかし火山灰の影響がさほど大きくないと考えられるのであれば、例えば屋根を急勾配にするなどの特別な対応は必要ないかもしれません。
災害への備えは、平時の延長線上にあるのが理想です。『災害に備えて特別に設える』のではなく、それが普段の生活の質をどのように向上させるのかまで考えて、要不要を判断することをおすすめします。住宅についても、どの程度の対策を施すのかは、家を建てる地域で予見される火山灰災害の程度を鑑みて検討するようにしてください」
火山灰災害が予見されるエリアで家を建てるときには、火山灰が家に入らない・掃除しやすい仕様にする
火山灰を水と一緒に排水溝(下水)に流すと下水管が詰まる恐れがあるので、下水には流さない
家にどれだけの対策を施すかは、予見される火山灰災害の程度を考えて検討する