独身で一人暮らしをするマンションを購入したい、と考えたときに、不安に思うのはお金のこと。自分だけの収入で買えるマンションの価格相場はいくらくらいなのでしょうか。また、女性やシニアが一人で購入する場合、資金計画には注意点があるのでしょうか。ファイナンシャルプランナーの竹下さくらさんに話を聞きました。
マンションの住戸の価格は、同じマンションでも専有面積や階数、方角などの要素によって異なります。専有面積の広い住戸よりもコンパクトな住戸、間取りも3LDKや4LDKの部屋数が多く広い住戸より、2LDKや1LDK、ワンルーム(スタジオタイプ)などの方が、手ごろな価格で手に入るといえます。コンパクトな住戸の方が冷暖房費を抑えられる、掃除の手間がかからない、などのメリットもあります。
「シングルの方はLDKのほかにもう1部屋あれば十分と考えられて、コンパクトな間取りのマンションを選ぶケースが多く見られます。ただし、床面積によっては住宅ローン控除などが適用されないため、将来、売却をする際に不利になるという注意点があります」(竹下さん、以下同)
住宅ローン控除のほかにも、節税につながる制度には床面積の条件が設けられているものがあります。節税にならなくても購入価格が安いからいい、売却もしない、という考え方もありますが、人生は何があるかわかりません。もしも売却することになった場合、床面積がネックになる可能性があることを覚えておきましょう。
マンション購入にかかわる税金や節税制度 | 床面積にかかわる要件 |
---|---|
住宅ローン控除 | 50m2以上/2024年末までに建築確認を受けた新築住宅で、住宅ローンを利用した人の合計所得金額1000万円以下の場合は40m2以上 (床面積は登記簿謄本に記載されている面積) |
住宅取得等資金に係る贈与税の非課税特例 | 50m2以上240m2以下/贈与を受けた人が合計所得金額1000万円以下の場合は40m2以上240m2以下 (床面積は登記簿謄本に記載されている面積) |
不動産取得税の軽減措置 | 課税床面積※50m2以上240m2以下 |
固定資産税の軽減措置(新築住宅の場合) | 課税床面積※50m2以上280m2以下(軽減措置の期間は新築5年・認定長期優良住宅の場合は7年間) |
なお、住宅ローン控除や住宅取得等資金に係る贈与税の非課税特例の床面積は登記簿謄本に記載されている面積が基準となりますが、不動産取得税や固定資産税の軽減は共用部分の面積を按分した面積を含む課税床面積が基準になります。そのため、物件によっては、住戸の専有面積が50m2に満たなくても軽減措置の対象となる場合があります。
マンションの購入でかかる費用はマンションの価格だけではありません。購入後、マンションを所有している限り、賃貸住宅時代にかかっていた駐車場代や火災保険料などのほかに、持ち家ならではの出費もあります。どのような出費があるのかを知っておきましょう。
住宅や土地などの不動産の1月1日時点での所有者に課税される地方税。マンションを所有している限り毎年納税することになります。
マンションの共用部分の維持・修繕のために定期的に行われる大規模修繕工事のために積み立てられるお金。新築時当初は安く抑えられ、築年数がたつにつれて、段階的に値上げされるのが一般的。
賃貸住宅では管理費が家賃に含まれているケースもありますが、分譲マンションの場合は、修繕積立金とセットで毎月支払うことになります。建物の共用施設や設備などの維持管理費用に充てられます。
賃貸住宅の場合は家主が負担していたキッチンなどの水回り設備や給湯器、冷暖房設備などの交換や故障時の修理費など、専有部分の修繕やメンテナンスにかかる費用はマンション購入後は所有者の負担になります。
マンションの管理組合とは、マンションの建物と敷地、付属する施設の管理を行う組合で、区分所有者全員で構成されるものです。設立義務はありませんが、多くのマンションが管理組合を結成しています。また、建物の維持管理のことを考えると、管理組合がないマンションの購入はリスクが大きいといえます。
マンションを購入して区分所有者になると、自動的に管理組合の組合員になり、住戸の所有者でいる間は、管理組合から脱退することはできないのが一般的です。
→コンパクトマンションについてもっと詳しく
コンパクトマンションとは?あえて狭いマンションを選ぶ理由は?コンパクトマンションの人気の理由や魅力と注意点を解説
床面積が小さい分、価格が安いというメリットがある一人暮らしサイズのマンション。実際、いくらくらいで購入できるのでしょうか。なお、一人暮らしサイズといっても、選ぶ広さは人それぞれ。ここでは、40m2程度のマンションを一人暮らしのマンションのサイズとしています。
40m2以下の中古マンションはいくらくらいで買えるのか、SUUMOに掲載された物件価格を集計した情報(2024年8月14日現在)から、東京都内での価格の相場を見てみましょう。
例えば、世田谷区の場合。各駅から徒歩15分以内の40m2以下のマンションの価格の中央値で最も高いのは九品仏駅の3280万円、最も低いのは千歳烏山駅の1080万円(集計期間:2023年7月1日~2024年6月30日)。物件数は、2000万円台が最も多くなっています。
そのほか、東京都内の中古マンションの価格相場や、全国の価格相場は下記のリンクから見ることができます。
新築マンションの価格相場は、これから販売予定の新築分譲マンション購入情報で見てみましょう。
下記のSUUMOのページを開き、マップから購入したいエリアを選択。専有面積、間取りなどをしぼりこんで検索すると、そのエリアで自分が購入したい広さや間取りのマンションの価格相場が見えてきます。
東京都内でも2000万円台から購入できるマンション。住宅ローンを利用する場合、そもそもシングルでも住宅ローンは借りられるのでしょうか。
住宅ローンの融資審査は、金融機関ごとに独自に決められており、その内容は明らかにはされていません。しかし、重視されるのは融資を受ける人の返済能力。シングルなのか、既婚者なのかといった家族構成よりも、安定した収入があり、それが今後も見込めるのかが重視される傾向にあります。
つまり、シングルでも条件さえ満たしていれば住宅ローンは借りられるということ。
ただし、シニアの場合、年齢によっては返済期間が短くなることで借りられる金額が少なくなる場合があります。
住宅ローンをいくら借りられるかは、年収が大きく影響します。下の表は、返済期間35年で住宅ローンを借りる場合の年収別の借入可能額、頭金を1割とした場合の物件価格の上限、毎月返済額です。
この試算では、年収400万円以上は借入可能額2000万円台を上回っています。年収300万円は借入可能額が2000万円を切っていますが、自己資金次第では2000万円台のマンションの購入が可能でしょう。
年収 | 借入可能額 | 物件価格の上限 | 毎月返済額 |
---|---|---|---|
300万円 | 1946万円 | 2162万円 | 6万2500円 |
400万円 | 2594万円 | 2882万円 | 8万3300円 |
500万円 | 3245万円 | 3605万円 | 10万4200円 |
600万円 | 3892万円 | 4324万円 | 12万5000円 |
700万円 | 4540万円 | 5044万円 | 14万5800円 |
800万円 | 5191万円 | 5767万円 | 16万6700円 |
「シングルの場合、収入を得るためのエンジンは一つ。退職までの完済を目指すことが大切です。とはいえ、購入の決断をするのが30代後半から40代の方が多いため、退職時までの完済では返済期間を長く取れません。短期間での返済は毎月返済額が高くなりますが、負担が大きくならないよう注意が必要です」
毎月返済額が年収に対して多すぎると、管理費や修繕積立金の支払いやローン返済に影響します。
「年収に対する年間返済額の割合は25%までにとどめることを考えて資金計画を立てましょう。マンションを購入すると、管理費や修繕積立金、固定資産税・都市計画税などの支払いもあります。これらも含めても住居費が年収の30%未満になるラインを目指したいですね」
退職後も返済を続ける場合は、退職金をいくらまで住宅ローン返済に充てられるか、年金で返済ができるかなど、退職後の資金計画を明確にすることが必要です。
「ご自分の年金額を把握されていない方も多いので、まずは、『ねんきん定期便』を確認しましょう」
『ねんきん定期便』は国民年金、厚生年金保険の加入者宛てに毎年誕生月に届きます。50歳未満の人はこれまでの加入実績に応じた年金額が、50歳以上の人には老齢年金の種類と見込み額が記載されています。
長い人生の間には病気やケガで一時的に働けなくなることもあるかもしれません。
「住宅ローンの返済が滞らないよう、就業不能保険や所得補償保険、就業不能保障付き団体信用保険の活用も考えておくと安心です」
自分で得た収入を、自分一人の裁量で自由に使えてきたシングルの場合、毎月何にいくら使っているのか、貯蓄はどれくらいあるのか、把握していない人は意外に多いもの。しかし今後、住宅購入のための自己資金を増やしたい、住宅ローン返済が無理なくできるよう無駄な支出を減らしたいなどの目的が生まれた場合は、続けられる方法で家計をチェックするのがおすすめ。
「家計簿をつけることを目的にするのではなく、貯蓄を増やす、家計を引き締めるなどの目的を達成するための簡単な記録で良いと思います。最近は便利なアプリもありますし、ノートに自分が気になる項目だけを集計するのでも効果はあります。貯蓄を増やすことが目的なら貯蓄額を記録する『貯蓄簿』を、家計を引き締めるなら化粧品や洋服など自分がお金をかけすぎていると自覚がある項目だけ記録するのもいいでしょう」
自分の貯蓄のペースやお金の使い方の傾向がわかるだけでも、マンションの頭金にはいくらまで充てられるか、ローン返済がスタートしてからの生活費にはゆとりがあるかなどを把握しやすくなります。
マンションを購入しようと決めたら、まずはモデルルームや中古マンションの見学をスタート。
特に注意したいのは初めての見学が新築マンションのモデルルームの場合です。センスのいい家具が置かれた部屋や最新の水回り設備などが気に入って、すぐに購入を決めてしまう人も多いのですが、その物件が本当に自分のライフスタイルに合うのかを一度冷静になって考えてみることも大切。
新築も中古もさまざまなマンションがありますから、多くの物件を見学することで、自分に合う住まいを判断できる目を養うことが大切です。
「バブル時代を経験した50代以降のシングルは、豪華なマンションを選ぶ傾向があります。しかし、シニアは退職の年齢がすぐにやってきます。長く働く覚悟をするか、価格の安い中古マンションにも目を向けることが必要です」
「都心での便利で華やかな暮らし方を享受してきたシングルの場合、やはり都心の利便性の高いマンションを選ぶ傾向にあります」
一方で、ローン返済を低く抑え、入居後のランニングコストも考えて郊外の中古マンションを選ぶ人もいます。
マンションは物件によって特徴も経済的負担もさまざま。管理費や修繕積立金が高くてもグレードや利便性が高い都心のマンションで暮らすのが合っている人もいれば、コストをかけずに郊外でのんびり暮らしたいという人もいます。
物件選びで大切なのは、自分のライフスタイルと経済的な余裕を客観的に見極めて、それに合うマンションを選ぶことです。理想のマンションに出合うためには、複数のマンションを見学するところから始めましょう。
独身一人暮らしにちょうどいいコンパクトなマンションは価格や光熱費が安いメリットがある
コンパクトなマンションは、床面積によっては節税につながる制度が使えないことがある
40m2以下の中古マンションは、東京都世田谷区では2000万円台が多い
住宅ローンは退職までの完済を目指したいが、退職後も返済が続く場合は早めに年金額などを把握
多くの物件を見学し中古にも目を向けて、自分のライフスタイルに合うマンションに出合おう