「全館空調って、良さそうだけど、電気代がかかりそう…」と、家を建てる際に導入を迷う人は少なくありません。全館空調とはどんなものか、メリットやデメリットについて、積水化学工業の相良峰雄さんに教えてもらいました。
住まいの空調というと、家の各所にエアコンを設置して行うというのが一般的ですが、最近では各部屋だけでなく、家の中の空気を丸ごと調整するシステムである“全館空調”を導入するケースも増えてきています。全館空調システムの仕組みは、メーカー各社で異なりますが、一般的に全館空調というと室温調整だけでなく、換気も行うものが多いようです。
「一般の全館空調というのは家中をうまく空調するシステムのことを指します。例えば、ホテルなどはいつでもちょうどいい温度で、部屋の中でも廊下でも、どこに行っても大体同じ温度が保たれていると思いますが、全館空調のある住まいとはホテルのような空間をイメージしてもらうといいかもしれません。
また、全館空調という言葉からは、部屋以外の廊下やトイレ、お風呂など、すべての場所が同じ温度に保たれるというイメージを持つ人が多いかもしれませんし、そのような仕組みの全館空調もあると思いますが、空調システムの仕組みはさまざまです。
セキスイハイムの場合は、部屋はより快適に、部屋以外の部分は部屋と全く同じ快適性ではないものの、家中を動いても不快にならない状態を目指す省エネ性も重視したシステムになっているため、全室空調という表現をしています」(相良さん、以下同)
全館空調には従来のエアコンなどによる空調とは異なる、さまざまなメリットがあります。
全館空調は部屋ごとの空調ではなく、家の中全体の空気を調整するため、家の中の大きな温度差が解消されます。部屋の中と外で温度差が大きいと家の中の移動が億劫になるものですが、全館空調であれば、家の中の温度差を気にせず快適に活動することができます。
「一般の全館空調の場合、脱衣室とリビング、寝室と廊下やトイレなど、家の中の温度差が小さくなります」
例えば、洗面室やキッチンなどが寒いと、暖かい部屋との温度差から冷え込んだ朝の洗濯や朝食の支度などがつらいものですが、家の中の温度差が小さくなることで、冬の朝の家事もはかどります。
「セキスイハイムの快適エアリーを導入しているお客様からは、温度差が小さく床も冷たくないので、寒い季節も家の中を裸足でどこでも歩き回れるという声をよく頂きます」
全館空調は暖冷房システムだけのことを指す場合もありますが、換気システムも合わせたシステムになっていることが少なくありません。家の中の汚れた空気を排出するだけでなく、花粉やPM2.5などの有害物質などを除去できるタイプもあります。一般的なエアコンには換気システムはついていないため、全館空調は暖冷房と換気がセットになった、エアコンとは異なる空気をきれいにするシステムであると言えます。
「通常住まいには24時間換気システムが備えられていますが、一般の全館空調の場合はさらに高性能な換気システムを目指したものが多くなります。
セキスイハイムの場合は3層構成の高性能トリプルフィルターを搭載しており、高性能フィルターを通して、花粉やPM2.5などの有害物質(0.3㎛以上)や、排気ガスの主成分であるNO2の大半を除去した空気を取り入れることが可能です」
家中を空調するとなると、気になるのはランニングコストがどれほどかかるのかということですが、電気代は従来の空調とそれほど変わらず、むしろ抑えられることもあるようです。
「エアコンなどの場合、つけたり消したりするときに電気を多く使うと言われますが、一般の全館空調の場合は頻繁にオンオフをして使用するのではなく、常時運転させておくような使い方をします。ですので、その分従来の空調よりも電気代を抑えられるということがあるようです」
また、導入費については一般的な全館空調の場合約100万円~300万円程度が相場だそうですが、エアコン複数台を導入する場合と比較してコストメリットがあるかどうかというのは、エアコンの価格や設置台数にもより、ケースバイケースと言えそうです。
「一般の全館空調と同じレベルの暖冷房をしようと思うと、エアコンを廊下や階段にもつけるようなイメージになります。また、通常、全館空調にはエアコンにはない換気システムも含まれることが多いので、一概にエアコンを各室に設置する従来の空調と導入コストを比較するのは難しいかもしれません」
大きなエアコンが部屋の中にあると、常に視界に入り、圧迫感を感じることがありますが、全館空調であれば、室内はスッキリし、インテリアの自由度も広がります。また、エアコンの場合は、部屋ごとに設置するため、エアコンと同じ台数の室外機が必要になりますが、全館空調の場合はエアコンほど室外機を何台も設置する必要はないため、室内だけでなく、外観もすっきりします。
「各部屋にエアコンの張り出しがなく、室内はすっきりとしますが、どのメーカーの全館空調でも、エアコンよりも大きな空調システムの機械を格納するスペースは必要になります。
また、一般的な全館空調の場合もエアコンと同様、室外機は必要です。室外機の台数は1台の室外機で対応するシステムを用いるメーカーが多いようです。
セキスイハイムの全室空調のように、1階のシステムと2階のシステムを分けている場合は室外機が2つ必要になります。ただし、やはりエアコンを各部屋につける場合に比べれば、格段に室外機の数は少なく済むと思います」
魅力的な点が多い全館空調ですが、やはり導入を検討する際は、デメリットについても知っておきたいものです。
全館空調を導入したい場合、住まいが高気密・高断熱であることが大前提となります。
「空調にかかる電気代は、空調システムの機械によるだけでなく、その空調システムが入る家の気密・断熱性が大きく関係します。ですので、気密性や断熱性の低い家に全館空調を採用してしまうと、どうしても電気代は高くなってしまいます。気密・断熱性が低い住まいには、全館空調はオススメできません」
新築ではなく、リフォームで全館空調を導入したいと考える場合は、家自体の気密性や断熱性についてもセットで考える必要があるようです。
各部屋をエアコンで空調している場合は、その部屋を使う人が使いたいときに、温度や風量を調整して使用することができますが、一般的な全館空調の場合は、部屋ごとの温度調整が難しいシステムが少なくありません。
「セキスイハイムの全室空調の場合は各部屋で自由に温度の設定ができたり、不要な部屋は停止したりできます。
一方で、一般の全館空調システムの多くは、家の中がどこでも同じ温度になるようにしているため、一部屋だけ少し涼しくしたいなどということができないことが多いです。場所によってメリハリをつけるというのが、一般的な全館空調が不得手とするポイントです」
暑がりの人と寒がりの人では快適な温度は異なるもの。家族間でちょうどいいと感じる室温に大きく差がある場合は注意が必要かもしれません。
全館空調は、エアコンのようにすぐに部屋を涼しくしたり、暖かくしたりということが難しく、常時運転させておく必要があります。しかし、最近では、起床時間と帰宅時間、夜間などに温度変更が設定できるものもあります。
「一般の全館空調は家全体をゆっくり冷房したり暖房したりというのが得意な一方、急に室温を上げたり下げたりということが苦手です。
セキスイハイムの場合は例えば起床時間や帰宅時間の1~2時間前に少し強めの設定にするなど、タイマー運転をオススメしています」
ただし、急に室温を変えられないという弱みはあるものの、一般的に全館空調は常に運転させておくという使い方をするものなので、起床時や帰宅時にスイッチを入れて、快適な室温になるまで待つというような状況は起こりにくいものでもあります。
「例えば、冷房・除湿であれば、梅雨時など過ごしづらい時期に空調システムを運転させ、冷房がいらなくなる季節まで作動させたままという使い方をします。季節の変わり目に起動させるだけで、後はその時々の快適性に応じて、少し設定温度や風量を変えたり、除湿運転に切り替えたりという程度の操作で済みます。
また、セキスイハイムの場合は一部機種を除いて人感センサーもついているので、活動時には少し強めに、人の動きがなくなったら少し弱めにするなど、自動的に省エネの運転をしてくれます」
スピーディーに室温を調整することは苦手でも、あまり操作をせずに快適性を享受できるというのは、全館空調の強みでもあります。
家にエアコンが複数台設置されている場合は、その内の1台が万が一故障しても、修理や交換のタイミングでは、ほかの部屋で過ごすなどの対策をとることができます。しかし、1台で家の中を丸ごと空調している全館空調の場合は、空調機械が故障してしまうと、家全体の暖冷房が機能しなくなってしまいます。
「エアコンに比べて、一般の全館空調のほうが故障しやすかったり、メンテナンスの必要があったりするわけではないので、過度に故障を不安に思う必要はありませんが、万が一故障をした場合、不便を感じるということはあると思います」
尚、気になる日常的なお手入れやメンテナンスについても、エアコンなどとそれほど変わりません。
「セキスイハイムの場合、機械の交換については、10年ごとに機械や部品の交換をオススメしています。日常的なお手入れについては、まず暖冷房システムについては床にある吹き出し口についているフィルターを、部屋を掃除する際に掃除機で吸うというのが日常的に必要なお手入れになります。使い方によってフィルターの状態も変わりますが、頻度の目安としては1週間に1度程度です。また、換気システムの方は床にある点検口を開けて、3カ月に1度フィルター部分に掃除機をかけ、5年に1度を目安に自分でフィルターを交換するということになります」
家の中の空調を1台の機器で行っている場合、代わりになるものがないという故障時の不安は拭えないものではありますが、全館空調だからといって、機械を定期的に業者などに依頼して特別なメンテナンスが必要になるというようなことはないそうです。
さらに、故障よりも可能性が高く不安を感じるのは、停電時についてですが、住まいに蓄電池などを導入して災害時に備えておくという方法を取る人もいるそうです。
「空調システムとは別のものになりますが、電気を貯めて、家中のどこでも電気が使える(※1)ような蓄電システムをセキスイハイムでは導入しています。蓄電池に貯めた電気を空調にも使用(※2)することができるので、停電時なども日常に近い生活を送れるようになっています」
※1 蓄電池「家まるごと仕様」採用の場合。●生命にかかわる機器(医療機器等)は別途電源の確保が必要です。●分電盤の容量が60Aを超える場合、エレベーター採用の場合には、別途分電盤が追加で必要となり、当該追加分は「家まるごと仕様」の対象外となります
※2 停電時に使えるのは快適エアリー1台に限ります
高気密・高断熱の家であれば、電気代も抑えながら、家中いつでも快適に過ごせる全館空調。特徴をよく知った上で、ハウスメーカーなどとよく相談して導入を検討するのもいいですね。
全館空調とは家全体の空気を調整するシステム
家中いつでも快適な室温に保たれ、空気もキレイで見た目もすっきり
導入には住まいの気密性・断熱性とセットで考える必要がある