アメリカで一大ブームを巻き起こした「タイニーハウス」が、ここ数年日本でも大きな注目を集めています。タイニーハウスといえば狭さにばかり目がいきがちですが、小さな家だからこそ実現できるお金やモノに縛られない“シンプルな暮らし”に真価があるようです。そこで、タイニーハウスの種類や間取り、価格などを調査。実際にタイニーハウスに暮らすスペシャリストに、小さな家ならではのメリットとデメリット、オススメの人、お金や手続きにまつわる疑問について教えてもらいました。
タイニーハウスとは、直訳すると“とても小さな家”を意味します。いったいどのぐらい小さいのでしょうか?
「明確な定義はありませんが、日本ではおおむね10m2~25m2程度の広さのものが多いです」と相馬由季さん。相馬さんは、2年かけて自作したタイニーハウスでミニマルな暮らしを実践中。まず、タイニーハウスの歴史から教えてもらいました。
「発祥はアメリカになります。1999年、キャンピングトレーラーで暮らしていた男性が、移動できる車輪付きの小さな家を自作しました。その家が住宅雑誌の賞を受賞し、人々に衝撃を与えました。その後、2000年代後半に起こったリーマンショックをきっかけに、“人生の本当の豊かさとは何か”と見つめ直す人が増加します。家賃やローンに縛られず、スモールハウスでシンプルな生き方を目指そうという“タイニーハウスムーブメント”が起こり、世界に広がっていったのです」(相馬さん、以下同)
日本でタイニーハウスが注目されるようになったのは、ここ10年ほどのことだといいます。
「最初のターニングポイントは2011年に起きた東日本大震災です。あの衝撃的な災害をきっかけに、多くの人が自分の生き方や暮らし方を見つめ直し、新しい住まいの選択肢としてシンプルな暮らしや、タイニーハウスが少しずつ知られるようになりました。そして今度はコロナ禍を背景に、再びタイニーハウスが脚光を浴びつつあります」
コロナ禍で人々のワークスタイルが変化し、暮らしの多様化が加速。移住や2拠点居住、持続可能な暮らしを目指す人たち、さらに仕事や趣味の部屋を確保したい人たちなど、幅広いニーズでタイニーハウスが注目を集めています。
タイニーハウスは形も工法もさまざま。ただ、タイプは大きく2つに分類できます。基礎付きのタイプと、車でけん引して移動できるタイプです。
一般の住宅と同じように土地に定着するもの。小屋など。
シャーシ(車台)の上に建てられたもの。トレーラーハウスなど。
「どちらのタイプも趣味のスペース、リモートワークのオフィス、ちょっとしたお店、仲間とシェアして遊ぶ小屋など、いろいろな用途があります。移動式のタイニーハウスは、期間限定のホテルや店舗として使われるケースも多いです」
ちなみに、発祥の地・アメリカでは移動できるタイプがスタンダード。相馬さんのタイニーハウスも移動できるタイプだそうです。
「私がタイニーハウスと出会ったのは7年ほど前のこと。自分でつくれる、場所にとらわれずに暮らせる、というところに刺激を受けました。タイニーハウスを自作しながら土地を探し、完成後に車で牽引して今の場所に移動。基本的には同じ場所にいますが、移動しようと思えばいつでもできる状態です。例えば将来、ほかの土地に住みたいと思ったら、家ごと引越しができる。そんな身軽さと自由度があります」
目指すはお金やモノに縛られない暮らし。となると、やはり気になるのは費用。最近はタイニーハウスを手がける企業が増加中です。
「基礎付きの小屋タイプは、広さ10m2前後の水まわり設備のないものが多く、価格は100万~300万円程度。水まわり設備や断熱性能のあるものや、移動できるものはもう少し高く、500万円を切るものは稀です。
費用を抑えるなら、内装や外装、設備が最低限のシンプルなものがオススメ。シンプルだからこそ、内装などを自分でいじってカスタマイズするおもしろさがあります」
価格はもちろん、間取りも気になるところ。市販されているタイニーハウス3例を見てみましょう。
IMAGO-R コンプリートキット一式 165万円(税込)※配送費は別途(2024年3月末までの価格)
ログハウスをはじめとする個性的な木の家を取り扱うBESSの小屋は、厚さ7cmのログ材を組み上げた、シンプルで頑丈なつくりが特徴。マニュアル付きキット(基礎材料、釘類、補助材、養生材などは含まない)の販売で、セルフビルドも可能。
mobile casa (モバイルカーサ) 770万円(税込)~
トレーラー上に約8畳の居住空間を据えた動かせるタイニーハウス。上下2層に分かれ、コンパクトながらもゆとりのある住空間が特徴。標準設備としてキッチン、シャワー、トイレを備え、インフラと接続すればすぐに生活を始められる。
THE SKELETON HUT Lタイプ 1000万円(税込)~
大人2人+子ども1人の家族でも生活できる現実的なモデル。仕上がりの状態は、シンプルな躯体のAタイプ、最低限の住居設備を施工したBタイプ、設備から仕上げまでフル施工のCタイプの中から選べる。
ここでタイニーハウスのメリットとデメリットを整理してみましょう。
・比較的安価で手に入る
・光熱費などランニングコストを節約できる
・住み手が手を加えやすい
・種類によっては移動が可能
小さなタイニーハウスは一般的な住宅に比べて購入費用が安く、初期費用を貯めて一度つくってしまえば、ローンや家賃から解放されます。コンパクトゆえに照明やエアコンの数が限られ、光熱費等の支出も抑えられます。
「小さいからこそDIYも比較的簡単で、不具合が出たときにも自分でメンテナンス可能です。また、必然的に所有するものが取捨選択され、自分の好きなものだけに囲まれて暮らせるのもメリットだと思います」
・モノが増やせない
・プライベートな空間を確保しづらい
「スペースが限られるので、暮らし方に工夫が必要です。私の場合は必要なものを厳選して所有するようにしています。2人以上で暮らす場合、プライベートな時間を持ちたいときは、庭やカフェなど外の空間を活用するのも一つの方法です」
しかし、家族が増えた場合は、タイニーハウスに住み続けるのは困難かもしれません。今は2人で快適に暮らせたとしても、3人になればその分モノも増えて、たちまち窮屈になる可能性も。家族が増えたらどうするのか、事前に話し合っておいたほうがよさそうです。
「タイニーハウスは向き不向きがあるので、まずは話を聞いてみる、体験してみることです。住宅メーカーの展示場のほか、タイニーハウスを使ったホテルで宿泊体験をするのもオススメです」
コンパクトな設計かつ、シンプルな間取りのタイニーハウスは、一人暮らしの方にオススメです。マンションやアパートの部屋と比べると狭くはなりますが、自分にとって必要なものを厳選して暮らすことで、シンプルで快適な暮らしを送ることができます。プライベートスペースを確保できないため、ファミリーやカップル用の住居としては向きませんが、別荘のような一時的な住まいとして利用するのは問題ないでしょう。
近年は、所有する一戸建て住宅の庭や駐車場にセカンドハウスとしてタイニーハウスを設置する方も増えているようです。あるときは自分だけの時間に没頭できる隠れ家として使ったり、またあるときは自宅にいながらアウトドア気分を味わったりと、思い思いに過ごせます。セルフビルドやDIYもできるため、こだわり派の方にもオススメです。
タイニーハウスで暮らそうとしたら、本体のほかにどんな費用や手続きが必要なのでしょう。資金や税金、法律に関する疑問を、ファイナンシャルプランナーの竹下さくらさんに聞きました。
「住宅ローンの対象となる住宅については、各金融機関で何m2以上という規定があります。例えば、【フラット35】の場合、対象となる住宅の床面積は、共同住宅が30m2以上、一戸建ては70m2以上。金融機関によりますが、通常は40m2~50m2以上が一般的です。
住宅ローンを利用して家を買った場合に税金が戻ってくる住宅ローン控除も、対象となる住宅の床面積が決まっています。原則として床面積50m2以上が対象で、2020年~2021年の一定期間については経済対策として適用対象が拡大し床面積40m2以上に。それでもタイニーハウスは適用対象外ではないでしょうか」(竹下さん、以下同)
住宅ローンを利用するには、金融機関等が住宅とみなす広さが必要。床面積10m2~25m2程度のタイニーハウスは、住宅ローンは利用できないと考えたほうがいいでしょう。
「基本的に、床面積が10m2を超える建築物を建てる場合は建築確認申請が必要です。防火地域・準防火地域以外の地域で、すでに住宅が建っている土地に10m2以内の建築物を増築する場合であれば、建築確認は不要。新築の場合は10m2以内でも必要です」
建築確認とは、その建物が建築基準法などの法令に適合しているか事前に確認するもの。ちなみに東京23区では防火地域・準防火地域が多く、10m2以内でも建築確認が必要なケースが少なくありません。また、もともと容積率・建ぺい率いっぱいで家を建てていることが多い都心では、小屋を増築するのが難しいことも。
「建築確認の有無や法令違反を犯さないかの判断は、事前に自治体に確認したり、施工会社に相談することが大切です」
「住宅を保有している場合に必要となるのが固定資産税です。車輪のあるタイプは一般的に車両扱いとなり、固定資産税はかかりません。基礎付きのタイプは固定資産税がかかる可能性が高いです」
固定資産税と建築確認申請は連動していない点に注意を。固定資産税は税務署の管轄。建築確認申請は自治体の管轄です。
「固定資産税は土地への定着性があるかどうかで判断され、基礎をつくって建てると家屋となって固定資産税がかかります。ブロックなど簡易なものの上に置かれているだけなら構築物となり、固定資産税の対象となりませんが、自然災害への安全性に欠ける恐れがあります」
「基礎付きの小屋は、建築確認申請の費用が20万~40万円程度。建築確認申請が必要な用途地域で小屋を建てる場合は基礎工事がマストで、費用が50万円ぐらい必要です。また、電気、ガス、水道を使えるようにするには配線や配管の引き込み工事の費用がかかり、内装の仕上げなども基本的に自前になります」
ここまで見てきたタイニーハウスは、自分らしく暮らすためのひとつの選択肢。小さな家でシンプルに暮らしたいなら、コンパクトな注文住宅を建てるという方法もあります。視野を広く持って、自分のライフスタイルに合う家を選びましょう。
タイニーハウスは大きく分けて2種類。基礎付きのタイプと動かせるタイプがある
タイニーハウスのメリットは、比較的安価で入手できる、ランニングコストを節約できる、住み手が手を加えやすい、種類によっては移動が可能
タイニーハウスのデメリットは、モノが増やせない、プライベートな空間を確保しづらい
まずはタイニ―ハウスが設置できるかどうか、事前に自治体や施工会社に確認・相談することが大事